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序盤で主人公が金持ちになるのは、なろうあるある。

 ※1 常にソウクは、左脇に虫食ワームブックを抱えています。

 魔剣『カウント』は、ソウクのベルトに提げてあります。

 ※2 作中では、城下町と王都は、同じモノを指します。

 城関係者は、城下町、王都在住や来客などは、王都と呼んでいます。

 ティアさん達と離れた後、俺は、エクサキュー団長に誘われて西側の城壁の屋上・・・・・・歩廊を歩いている。

 城の外側の景色が一望できた。

 光が届かない草木が茂った丘に、その麓の奥に灯りが点在する淡く照らされる城下町。

 風情のある景観だ。


 「夜風が気持ちいいな・・・・・・!

 絶景だとは、思わないかい? ソウク殿・・・・・・我は、あまり詳しくないのだが、異世界であるチキュウ? の都では、あの町とは、比べ物にならない位に夜中に眩い光が建物の窓やら街灯やらで溢れていると聞く」

 

 いや、俺この世界出身だから、その光景を知らないんすけど。 生まれた時からベノ・レギー国民なんですけど。


 「確かに勇者殿の記憶のものと比べたら見劣りするかもしれない地味な景色かもしれない・・・・・・。

 だけどね、我は、この城下町の慎ましい光が好きなんだ。 夏の夜に踊る蛍みたいに・・・・・・貴殿にとっては、興味がないかもしれない・・・・・・けれどね、それでもこの夜の町を君に自慢したかったのさ。

 ベノ・レギー国へようこそっ!!

 是非この夜景を楽しんでくれ!」  

 

 いや、もう見飽きたんですよこの景色。

 見張り番や見回りの時に散々と!!



 夜景を堪能した俺達は、城の西側にある馬房に向かい、何事もなくたどり着いた。

 その建物は、多数の馬が住んでるためか、まあ広大ではある。

  

 「ここが、騎士団用の馬小屋だ。 王侯貴族と近衛騎士団専用の方は、南側の正門近くにある。

 ソウク殿、馬は、気性が荒く繊細な気質を持つ・・・・・・間違っても馬の背後に立たないよう、気をつけてくれ給え」

 ああ、身をもって知っている・・・・・・馬の世話を任され始めた頃は、何度も蹴り飛ばされたな・・・・・・よく生き残ってこれたな俺。


 ウンコの匂いがする。当初は、我慢ならなかったが、今では逆にこの匂いを嗅ぐと落ち着くようになった。

 この馬小屋は、木造であり床は藁が敷かれている土手。

 出入り口近くには、鞍や蹄鉄を始めとする馬具を収納するための棚が置かれていた。

 左右対称になるよう狭い囲いの一室に一頭ずつ並んで収容されている。

 その個室の出入り口には、上枠がV字に凹んでいる鉄柵の扉が取り付けられている。

 それぞれの個室には、桶や餌入れ皿があった。


 「入り口から見て右側6番目の列にいる子が我の愛馬だ! ニックネームは、 キャニオン だ。

 ・・・・・・もちろんこの子は、一目見て分かるように・・・・・・」

 エクサキューさんの示す指先には、筋肉質で黒の毛並みが特徴的な成馬の姿が。


 ・・・・・・ってか、こいつキャニオンじゃねえかっ!!

 騎士見習いになってから、よく俺がこいつの世話をしてたな。

 こいつがエクサキューさんの相棒とは、何たる奇遇。


 見慣れた馬を紹介されて考え事している俺に、エクサキューさんは、心配するよう話しかける。

 「う〜ん、デュラハンである我の生首の姿を見ても貴殿は、眉を顰めなかったから、大丈夫だと思ったのだが。

 やはり、今まで魔物と縁がない世界に住んでいたからビックリしてしまったのか・・・・・・。

 驚くのも無理は、無い。

 この子の種族は、『コシュタ・バワー』だからな」


 そうだ、彼女の愛馬には、頭部が存在しない。

 首の断面図には、血と肉は見えず塗りつぶされたかのような黒一色の陰しか捉えられない・・・・・・そこから荒い鼻息や馬特有のヒヒ〜ンの鳴き声がしっかり聞こえるのだが、どんな喉や声帯の構造をしているのだろうか?

 「確かにちょっと驚きましたね。 でも大丈夫です」


 魔物や馬が苦手ならすぐにでも言ってくれ と呟くエクサキューさんは、キャニオンの個室の鉄柵扉を開ける。

 「久しぶりだな我が半身よっ! 

 しばらくの間、構ってやれなくて済まなかったっ!

 おや・・・・・・?」

 その囲いから出たそいつは、エクサキューさんに軽く頬(?)ずりした後、落ち着いた足取りで俺に向かって歩いていく。

 そして俺の体に積極的にすり寄ってきたのだ。 

 愛奴め。


 「大丈夫か? ソウク殿」


 「ええ、人懐っこいですね、キャニオン君は」


 軽く驚愕しては、嬉しそうに語る彼女。

 「キャニオンは、人の性根を短時間で見極めることができ、そして心優しい正直者にしか心を許さない子なんだ。

 つまり、ソウク殿は、信頼に足る人物で間違いないってことだなっ・・・・・・!!」

 いや、ただ単に餌の催促をしてるだけです。


 ふと、エクサキューさんは、その馬の腹を見つめて呟く。

 「おや・・・・・・? 何故か、別れた前よりも太ってるような・・・・・・」

 そりゃ、俺がこっそりコイツにおやつをたくさんあげたからです。

 

 「栄養失調は困りものだが、肥満も体に悪いぞ?

 しばしおやつでも抜くか・・・・・・丁度いい、ダイエットがてら遠征に赴くとしようか。 キャニオン!」

 エクサキューさんから名前を呼ばれたキャニオンは、意気揚々とヒヒーンの鳴き声で応えた。


 テキパキとした様子で、キャニオンの体に手綱や(あぶみ)を取り付ける。

 顔面が存在しないコイツは、ハミを噛ませることは、できないけど代わりに手綱と連結している頸環くびわを装着。


 「先にソウク殿から乗ってくれ。

 安心召されい! 我がサポートするからな!

 まずは、キャニオンの腹側部あたりに垂れ下がっている三角形の金属の輪に足を掛けてくれ。

 その時は、深く履くのではなく・・・・・・」

 そうエクサキューさんが説明している間に、俺は、キャニオンに寄り添い、このあぶみにつま先を軽く履き、次に勢いよくこいつの背中に跨った。


 その様子に、彼女は、驚きを隠さないでいる。

 まぁ、伊達に見習い訓練で乗馬の仕方を学んで無いわな。


 「確か、チキュウと言う異世界では、現在油が燃料の鉄の車が主流で、そのせいで、馬を飼っている者は、ごく少数だと聞く・・・・・・」

 しまった!? 調子にのって手慣れた様子で乗ってしまった!!


 「ソウク殿、流暢な所作について、流石と言わざるを得ないっ!!

 まさか、馬に乗る経験は、今日初めてと申されないな? もしそれが本当なら類い稀なる天賦の才だと讃えなければ、なっ!!」

 テンション上がりすぎですよ・・・・・・正直引きます。ここまで嬉しくないヨイショがあるとは。


 「早とちりしないでくださいよ〜、ちょっと前に旅行で牧場に行った時、乗馬体験をしただけなんすから〜」

 嘘ごめんっ!!

 その言葉にエクサキューさんは、 そ、そうか と漏らして軽く赤面し、誤魔化すよう颯爽とキャニオンの背中にて俺の背後まで飛び乗り、そして勢いよくこの馬房から出ようとした。

 

 「さぁっ、出発だ!! 

 ぐはっ!?」

 

 「エクサキューさんっ!?」


 わあっ!! エクサキューさんの頭が、出口の天井、じゃなくて上枠! 上枠にぶつかってその衝撃で転がり落ち・・・・・・キャニオンダメって!!

 ご主人様の頭部を後ろ足で蹴っちゃあダメじゃないっ!!

 ああ〜もうっ。彼女の頭部が放射線を描くよう軽やかに飛んで置かれてあった水桶の中にジャストフィットしてしまった!?


 「ブクブクククブクブクッ!!」


 「わあぁっ今助けますってだから身体の方は、動かないで降りないで慌てないで混乱と視界が塞がっている状態じゃ不慮の事故が起きるだけなんだってばっー!!」


 兎にも角にも、慌ててキャニオンから降りた俺は、すぐに彼女の頭を拾い上げる。

 ああ、もうずぶ濡れ。タオルとか持ってたっけ・・・・・・?

 自分のズボンのポケットをまさぐる。中には、幾何学模様が刺繍されてる清潔なハンカチがあった。

 ティアさんが前もって気を利かせて入れてくれたのかな? ありがたい。


 エクサキュー団長の頭の水気を、このハンカチで拭き取り、あたふた腕を振り回している身体の方に返す。


 「フッー・・・・・・死ぬかと思った。

 ありがとうソウク殿。この短時間で二度も助けられるとは。 今の我は、気合いが弛んでいる証拠かもな」


 「この馬小屋の出入口は、少し低いんですから、馬に乗ったまま出ようとすれば、頭頂部が壁に激突するに決まってますよ」

 かたじけない、またやってしまった・・・・・・ と肩を下ろすエクサキューさんと何食わぬ顔(?)の態度のキャニオンと共に徒歩でやっとこの馬房から出た。


 外出してすぐにこいつの背中に俺達は、再び乗る。

 身につけている鎧のせいなのか、背中越しにエクサキュー団長のオッパ、じゃなくて肌の感触や体温が感じられなくて残念だ。

 その代わり、彼女の息遣いを首筋で感じとれて最高だぜっ!! はあ、変態だな俺って。


 少し進み、城壁の西門前で、彼女が手綱を引く。


 「妖精団団長のエクサキュー サンソンだ!

 これから国王陛下の命で、魔王城に向かう!」


 「は、はい、お待ちしておりましたっ!

 お預かりしていた御荷物は、詰所に保管しております! 少々お待ちをっ!」

 西門の門番であるウォンバット先輩は、活気あふれるエクサキューさんに気押されるも、直ちに城壁の門を開け、その塔内に急いで入ってていき、そう待たせず膨らんでいる麻袋を抱えて戻ってきたのだ。

 「お待たせしました、 預かっていた遠征用御荷物でございます!

 どうか、ご武運をっ!!」


 その袋を預かり、例の軍服をそれに入れ、次に背負う彼女。

 「うむっ! ありがとう。

 貴殿も無理をしない程度で、門番を頑張ってくれ。 城の安全は、任せたぞ!」


 「はっ! この身に代えても護りきります!」


 そう、暑苦しい対話を終えた後、俺達は、この城を後にし・・・・・・。


 「・・・・・・・・・・・・」


 うわぁ〜・・・・・・先輩が俺の顔、凝視しているよ。

 そりゃあ、ヘアチェンジしたとは言え、何か見知った顔が黙って上司と遠出に行く事となったら、誰だって訝しむもん。 もちろん俺も彼の立場になったら疑うだろうし。


 「あのぉ、急いでいる所に水を差すようで申し訳無いのですが、エクサキュー団長の前方にいらっしゃるお方は・・・・・・」


 まずいまずいまずいって!?

 完全にバレてるよっ!!

 しかし、下手に言葉で言いくるめようとしても、声でばれちまうっ!

 

 「ああっ! 彼こそが現在噂に聞く勇者様だっ!!」


 「あ、あ。 そうだったのですね、あはははっ・・・・・・。

 てっきり、自分の知り合いに似て」


 「貴方様がウォンバット様でございましょうか?」

 もうバレちまうどうしよう・・・・・・いっそのことこのまま。ん?


 「え、この白衣・・・・・・もしかして聖女のティア様でございますかっ!?

 はい確かに自分は、ウォンバットです!!」

 先輩が驚く。 そりゃそうだ、会ったことも無い国のアイドルが、名指しでこちらに話しかけてくるんだもん。

 ても、確か彼女は、現在城の客間で休んでいるはずでは?


 「貴方様の後輩、ハスキー様についてお話があるのですがよろしくて?」

 俺の事・・・・・・?

 

 ええ、もちろんでございますよ との答えを聞いたティアさんは、こちらに顔を向けてウィンクする。


 た、よくわかんねぇけど助かったあぁ〜、ナイスアシスト。


 「勇者様。エクサキュー団長。ご武運を祈ってますわ。 お休みない」


 「ありがとう。お休みなさい」


 「疲労時にも関わらず見送りしてくれて感謝する! 過度な夜更かしは控えるようになっ!」


 やっとのことで俺達は、城西門を潜り、王城を後にした。


 南方にある城下町へと、キャニオンと共に暗い坂道へと下る。

 暗いといっても等間隔に置かれてある篝火かがりび、定期的に見回っている人間の騎士達が扱う松明や光魔法を目印にすれば闇で迷うことも無い。


 木々が風で軋み、茂みからいろんな虫の音が重なって鳴っている。


 「ソウク殿よ、この城の夜分の警備では、光が届く所は、人間が担当して、暗所では夜目が効く獣人や聴覚が優れている梟タイプの人鳥ハーピーなどが目を光らせているのだ!」

 知ってる。 なんなら同期にここを担当しているハイエナタイプの獣人がいるんだよ。


 「そうなんですね。

 ただ、お言葉ですが、今真夜中なので大声はちょっと・・・・・・」

 見なくても分かる。 背後にいるエクサキューさんが動揺していることが。 乱れた息遣いで分かりやすっ!?


 (そ、そうだな・・・・・・ソウク殿の言う通りだ。 以後気をつけるので許しては、貰えないだろうか・・・・・・)

 そんなしおらしくならないでくださいよ。

 確かにこの方、噂通りにクソ真面目だな(失礼)


 季節は、春だが真夜中だと寒いな。

 さっさと宿で休みたいよ。

 

 (それにしても、この道は、舗装路とは、思えない程荒れているな。

 普段、王侯貴族が通らないとはいえ、手入れを怠るとは、悲しい話だ。

 ほら、石畳の隙間から雑草が生え、道の両端の木々の枝が伸び切っ・・・・・・キャッ!?」

 ああっ!? エクサキューさんの頭部が、木の枝に引っかかって、またまた転げ落ちたっ!!

 二度あることは、三度あるっていったって、天丼がすぎるだろっ! 笑えないよ!!


 彼女は、絶叫しながら急勾配の坂をボールみたいに高速で転がっていった。

 今の彼女に、誇り高き騎士団長の面影なぞ感じ取れねえ。

 

 エクサキューさんの体部分が握っていた手綱を、俺が引き継ぎ、急いで追いかける。

 さあ、行くぞキャニオン!

 ご主人様を助けるんだっ!!


 俺の気迫に呼応してか、そいつは、切断面から高らかにヒヒ〜ンと鳴いて走るスピードを上げる。

 そして意外にもあっさりと彼女の頭部まで追い付き・・・・・・。


 「痛い、痛い! やめるのだキャニオンっ!!」

 わぁ踏んだら踏んでるっ!! 踏んじゃってるから君のご主人様の顔!!


 俺は、慌ててそいつか背中から降りて、蹄に踏まれているエクサキューさんを救出した。

 もはや気高き戦士とは、感じられない位には、自分に隠さず震えて涙を流す彼女。

 「何故だ、何故キャニオン・・・・・・我が半身ともあろう君が、何故こんなにも態度が険悪になってしまったのだ?

 そんなに我が、前の任務で置き去りにしたのを恨んでいるのか?

 仕方ないじゃ無いか、任務先の隣国では、徹底して魔物を排斥してるから、あからさまに異形の姿をしている君では、連れて行かなかったのだよ」


 あ〜、多分ちょっと前に団長がキャニオンに しばしおやつ抜き なんて口にしたから、コイツの不満が爆発したんじゃ無いのかな?


 水気が残っているティアさんが用意したハンカチで、再びエクサキューさんの汚れや涙を拭った。


 さて、たどり着いたここは、もう王城の丘の麓・・・・・・つまりは、城下町まで目と鼻の先。

 丘と都の境目である城壁の関所を潜れば、とりあえずの目的地だ。


 「妖精団団長のエクサキューだ。

 通してはくれないか?」

 

 「はい、お手数ですが身分証明書をご提示下さい。

 ・・・・・・はい、確かに確認できました。

 どうぞお通り下さいませ。 エクサキュー団長。」


 エクサキューが一旦手綱を引いてキャニオンを止まらせ、ここの門番に金属のカードを見せつける。

  

 つか、団長や近衛騎士団クラスになると証明書も格好いいものになるんだよな。

 見習いであるうちなんて、ただの羊皮紙だぜ?

 

 ・・・・・・ちょっと昔、城下町で俺が証明書を紛失した時は、先輩から滅茶苦茶ドヤされながら再発行の手続きを手伝ってもらった。

 苦い記憶が・・・・・・。


 「・・・・・・? どうしたソウク殿。

 いきなり黙って。

 もう関所を越して城下町だぞ」


 「あっ! すいません。 ちょっと長考していました。 ハハハッ」


 城下町は、すべての地面に石畳が敷かれており、井戸も数多く点在している。


 辺りを見渡すと、高層広大敷地の豪邸が並ぶよう建てられている。 どれも屋敷の庭が広い。 清潔感も溢れていた。

 王城の丘から一番近い区域は、貴族や富裕層などが住む居住区だ。 治安も良い。


 その場所から少し南に行けば、石灰岩造の神殿や礼拝所などの宗教施設区域に入れる。

 噴水広場があるのが特徴。

 ↓

 次に西に向かってかなり移動すれば、煉瓦で建てられた建物が、軒を連ねる製造工場地区に足を踏み入れる。

 ↓

 さらに西に進むと民間人の居住区である石造りや木造の家屋が並んであるとこに行ける。

 ↓

 そして長い距離を進んだ俺達は、王都の西端辺りの商店街までやっとたどり着いた。

 

 「疲れている時に、長距離の馬移動に付き合ってくれて心苦しく思う・・・・・・都の宿屋は、城壁近くにしか無いのだ」

 

 「お互い様ですよねエクサキューさん。

 貴方もキャニオンもお疲れ様」

 そりゃ、宿屋を利用する奴は、基本、都外から来る旅人や冒険者ばかりだから。

 宿屋側もすぐ出迎えれる城壁門近くに陣取りたいよな。


 キャニオンの背から降りたエクサキューさんは、コイツを駐馬場の杭に紐で繋げる。

 ※駐馬場・・・・・・馬を一旦預ける場所。

 地区によっては、有料。


 次に、俺を降ろしやすくするため、彼女は、こちらに向けて、両手を差し伸べた。

 「ゆっくり、慎重に降りるがいい。

 まずは、鎧に爪先を引っ掛けるようにな。

 もし、落馬しそうになっても、我が支えてやるから安心するがいい」


 所作、言葉全てがカッケェなおい。

 まぁ、でも恥ずかしがり屋な俺は、せっかくの申し出に甘えず、普通にすんなり降りる。


 「ああ、そうか。 確かソウク殿は、乗馬体験を済ましていたんだったな・・・・・・」

 軽くしょんぼりする彼女。

 だって、しょうがないじゃ無いか。 親族の女性以外ろくに手も握ったことのないさくらん坊やだもん。 たとえ、手甲越しでも美人さんの握手は、無理!


 駐馬場から深夜の街中を少し歩き、目的の宿屋までたどり着く。

 この店は、三階建ての木骨造で、豪華絢爛って訳でもなくぼろっちぃ安宿でもない、よく言えば、オーソドックスで悪く言えば何の変哲もない宿だ。


 取り敢えず二人で入店。 この夜更けでも開いてるなんてありがたいこった。

 扉と鎖で連結されているベルが鳴る。


 「夜分に済まない。

 空いている部屋は、有るのだろうか?」


 カウンター奥にあるおじさんの店員が答える。

 「いらっしゃい。 一部屋残っているよ。

 一人一部屋ずつは、無理だね。

 シングルベットは、二台あるよ」


 「そうか、なら同室で大丈夫だ。

 確かこの宿は、先払いの方だったな」


 それを聞いた俺は、会話に割り込む。

 「エクサキューさん。 ここは、俺に払わさせてくださいよ。

 ちょうどさっき、王様から路銀を貰ったから」


 王という単語を耳にしたおじさんは、少し驚く。

 まぁ、それはさておき俺は、急いでポケットからパンパンに膨らんでてずっしり重い布の袋を取り出す。


 うぇっへ、へへっ。 俺は、大量の貨幣の心地良い重みについ、笑みが溢れてしまった。

 さ〜て、中身をご開帳・・・・・・。


 「・・・・・・・・・・・・」

 この袋の中身を覗いた俺は、開いた口が塞がらないでいた。

 

 なんと、入れてあった貨幣全てが、金色なのだ・・・・・・それも本物の純金。


 嘘だろ、あの王様・・・・・・。


 「ソウク殿・・・・・・このお金は・・・・・・申しづらいのだが・・・・・・」

 ああ、エクサキューさん。 貴方の言いたいことは、よく分かる。



 あの暗君、よくもこんな端金押し付けやがったなあぁあぁあああっ!!


 「我の勝手な予想だが純金は、ソウク殿のいた世界では、非常に高価なものだと察する。

 だが、こちらの世界では、・・・・・・語弊があったな。昔のここと周辺諸国もチキュウと同じ・・・・・・だったんだ」


 ああ知ってますよ。

 今から十数年前、この国の錬金術師が人為的に金を生み出す研究をしていた。

 そして見事、銅を純金に変える方法を編み出してしまった。

 しかし何者かの手によって、奴の研究データが流失してしまったんだ・・・・・・一国どころか周辺諸国まで!


 一攫千金を夢見た人類は、こぞって銅を金へと換金した。

 おかげで膨大な純金が市場に出回る事態に発展したんだ。


 それで何が起こったと思う・・・・・・?


 ありふれてしまった純金が金貨と共に金銭価値が暴落し、逆に消費されまくった銅貨が最高高額の貴重な貨幣へと早変わり。


 つ・ま・りだっ!!

 あの暗君は、俺に期待させるようなことを口にして結局低額のお金を渡したんだ!!


 あ〜あ、楽しみにしておいたのに・・・・・・。


 今頃あの国王は、俺が残念がってるところを妄想しながら、ほくそ笑んでんだろうな。 

 どうせ『異世界人は、純金のお金の方が喜ぶだろう。 フフフ・・・・・・気前のいい余に感謝すると良い』とか何とか思ってんだろ?

 クソッタレ!


 「・・・・・・宿屋のおっちゃん。 いくら・・・・・・?」


 「一人金貨二十枚だよ。 合わせて金貨四十枚」


 

 前にもらった膨らんでいる路銀の袋が、すぐに萎んでしまった・・・・・・」

 真夜中の城の城壁前の出来事。

 ソウク・・・・・・いや、ハスキーの先輩の騎士に当たるオンバットが、ティアの話を聞いていたのだ。

 

 「成る程、ハスキーは、何者かの手によって、呪いをかけられ、それを解除するために、タロッタータウンのアーミラリー神殿に預ける・・・・・・ということで合っていますよね?」


 「その通りです。 多忙で危険極まる重大な騎士の仕事の人手を減らすのは、こちらとしても心苦しいのですが、このままでは、彼の身が危ないのです!

 国王陛下には、もう伝えてあります」

 ティアは、ウォンバットに嘘をついたことについての罪悪感にかられていた。


 「はい、承知しました。 他の騎士見習いにもそう伝えておきます」


 「そうてすか。 ありがとうございます!

 夜分遅くに業務のお邪魔をして申し訳ありません。

 お話を聞いてもらえて、ありがとうがざいました。

 私は、これで失礼致します。 お休みなさいませ」


 「いえいえとんでもない!

 お休みなさい」

 

 ティアとウォンバットは、別れる。

 彼は、考え事をしている。

 (あの野郎、あんなみんなのアイドルティアちゃんに解呪治療してもらえるなんて・・・・・・うらやまけしからんっ!!

 今に見ておれっ・・・・・・!!)

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