最初に発動する魔法で、周りを驚かすのは、なろうあるある
『エクサキュー団長が帰ってきたぞっ!
妖精団の団長がだ! 一年ぶりのご帰還だ!』
『確か調査のために敵国に潜入したって聞いたぞ! なんて勇敢な・・・・・・!』
『ああ、手を振ったら気さくに振り返してきたぞ!? 見知らぬ人にもフレンドリーだな』
『整った顔立ち、高身長でスタイル抜群、はつらつとした声、毅然とした態度に凛とした雰囲気、身体強化の達人で、おまけに剣の腕も一流・・・・・まさしく完璧超人だな!!』
城まで続く城下町の大通りに野次馬の人だかりが出来ている。
どうやら噂の騎士団団長が帰ってきたらしい・・・・・・よほどの美人との持ちきりで俄然興味が出てきた! 城下町の巡回をサボって、先輩と共に続こう!!
・・・・・・何度も周りを押しのけようとしても無理っ!!
人だかりの層が分厚すぎてダメそうだな・・・・・・ハァッ、一目だけでもいいから美しい御尊顔を見たかった・・・・・・。
肩を落としている先輩は、同じくどんよりしている俺に、無気力に呟く。
『エクサキュー団長はな、すごい別嬪さんなんだぞ。 まぁ、騎士である我らは、ワンチャン城内で会えるかもな。 挨拶もしてくれるかも。 だから気を落とすな・・・・・・』
『聞けば聞くほど粗が無い人ですね、よっぽどモテるし・・・・・・エクサキュー団長は、恋人とかいるんすかね?』
顎に手を添える先輩。
『どうだろうね? そんな話、聞いたこともない。
ところで帰ったら馬房に行って馬の世話するんだぞ』
『へ〜いっ』
踵を返す俺達の背後に、野次馬と思しき人の小さな呟きが届いた。
『ああ、これで彼女の種族が、人間やエルフだったら、完璧だったのに・・・・・・なんで首無し騎士なんだよ? 台無しだ!』
※※※回想終わり※※※
俺とエクサキュー団長とティアさんと国王と警備兵士は、修練場に向かうため、長い廊下を進んでいる。
真夜中なので薄暗いが、廊下に等間隔に置かれているスタンドタイプの燭台の灯りのおかげで全く見えないこともない。
豪奢な謁見の間とは、違いここは、赤絨毯の無い無機質な石畳の廊下。 王族の居住区や迎賓用のスペース以外の所は、だいたい華が無い。
心臓がバクバクドキドキいってるな・・・・・・。
隣にエクサキュー団長という美人さんが歩いているからなのか、背後に暴君、じゃなくて国王陛下がついて来てるせいか・・・・・・。
弱々しい口調で照れた素ぶりを見せながら呟くエクサキュー団長。
「さ、先程は、妙なことを口走って済まない・・・・・・首が飛んで壺にハマって錯乱してたんだ。 忘れてくれ」
いやぁ顔赤くなってんの可愛くてしゃあないわ。
「気にしないで下さいよ。 これから一緒に旅に出るんですから、ちょっとのことは、お互い水に流しましょうね?
それに・・・・・・さっき、心地良いって言われて俺、ちょっと嬉しかったすよ」
「もう、茶化さないでくれって!!」
そう言う彼女は、悶絶する様子で抗議を上げる。
「フフフ・・・・・・ずいぶんと楽しそうですね? まだお互い、出会って少ししか経っていませんのに・・・・・・」
そうだ・・・・・・! 今ここにいるのは、俺とエクサキューさんと国王陛下だけじゃなかった!
上品な微笑の元へと振り向く・・・・・・そこには、ティアさんが口元に手を添えてこちらを凝視している・・・・・・目元に影を浮かばせて。
もしかして怒ってる? デートの約束をしたクセに他の女性と仲良くやってるから?
ナイナイどんだけ自惚れてんだ俺。
まぁ、少しは彼女は、落ち着いたかな?
タリウムのおっさんのことについては、残念だけど仕方ない。
目尻は、まだ軽く腫れてるな。
さて、城の東の最上階であるF6から西の庭まで無事たどり着いた。
真夜中が幸いしていて、知り合いと鉢合わせしてない・・・・・・もし出会えは、バレるかもしれないからだ。
門衛棟近くの芝生の場所、そこが普段騎士達が訓練している修練場だ。 というか、さっきまで俺が夜練していたとこだ。
ティアが国王の方に振り向いてぺこりと頭を下げる。
「ご足労下さりありがとうございました。
では、これから新しい勇者様が魔法の腕前を披露致しますので、国王陛下、しばしの間、お付き合い下さいませ」
次に俺の方へと視線を向けてウィンクする。
「勇者様、魔法を行使するのは、初めてかもしれませんが、魔導書を開いてご覧下さった後、肩の力を抜いて手の平から熱を出すことをイメージすれば、大丈夫ですからね!」
俺は、魔導書『虫食い本』を開いた。
その本の特徴の一つとして、緑の表紙には、葉っぱを食い破っている芋虫のイラストが描かれている。
表紙の左下辺りに『p.n スマートクロウ』の文字が記載されている・・・・・・この本の特性からして著名ではなく装丁をした人のペンネームだろう。
異世界人というものは、元来持っている魔力総量が豊富なくせして、彼らの住む世界は、魔法の技術水準が壊滅的らしい。
『あっち側』の魔導士も、いるにはいるが絶滅危惧種だと聞く。
だから総じてここに来た異世界人は、今まで誰も魔法を発動したことないクセに、ちょっとコツを教えてもらうだけでちょちょいのちょいと質の高い魔法を使えるようになる。
いや、いくら才能があろうが、初めての魔法を無事成功させるのおかしくねぇか?
パラパラと再び流し読みしながら長考する。
さて、一体どんな魔法を披露すればいいか迷うな・・・・・・。
火属性だったら下手したら草や建物に引火する恐れがあるし、雷は、よほど魔法操作が上手くないと漏電してしまう、氷の方も威力が高ければ、冷気を撒き散らすし、風も衝撃波が拡散されるかもしれない、光の方は、反動がない代わりに波長の種類によっては、見ただけで失明してしまう恐れもある・・・・・・。
余波で国王にもしものことがあれば、100%処刑か連行だ!! それだけは、どうしても避けねば・・・・・・!!
危険性が少ないと個人的に思われる植物・闇・水・土が候補に残った・・・・・・よし、どんなに高出力でも余波や反作用が存在しないって情報を先輩から聞いた闇属性にしよう。
もしもの事があっても闇属性の魔法は、殺傷能力が他と比べて低いし、丁度良いだろう。
「おい、まだか・・・・・・?」
本とにらめっこしている俺に痺れを切らしたのか、国王が催促する。
ちょっと待ってくださいよ。え〜と、闇・闇・闇の項目、あった!
さて、手の平を水平にではなく上空に向ける・・・・・・初めてだからな。 加減なんかできるかわからん。
もし建物に命中して壊してしまったら、みんなに申し訳がない。
・・・・・・本当に出来るのか、?
俺は、何度も何度も魔法を使えるか試してきたけど無駄だった・・・・・・今でもこの魔導書を使っても魔法が扱えるなんて半信半疑だ・・・・・・。
「おい、いつまで待たせる気だ・・・・・・!」
ああもう、ちょっとくらい待てないのかこの野郎っ!!
「はいっ!! ただいま闇属性魔法『闇柱』!!」
「闇属性だと・・・・・・?
よりにもよって夜中にか? ・・・・・・周囲の暗闇に魔法が同化してしまうから、見えずら・・・・・・はっ?」
・・・・・・はっ?
俺は、ただ魔法名を唱えただけだ。
その手の平から、・・・・・・ 手の平先の虚空から、視界を埋め尽くさんとばかりの超々々ばかでかい、半透明な紫色の魔方陣が浮いて表れ、そこから黒い波動が光線状に、ほとばしったぁっ!?
その闇の塊は、空、いや天を即座に文字通りに貫いた・・・・・・その奔流は、数秒で止まる。
しかしその内に秘めたるエネルギーの総量は、俺達の想像をはるかに超えるモノだった!!
開いた口が塞がらねぇ・・・・・・前に、宴会の余興で宮廷魔導士が放った魔法を遠目で見た事があるんだけどよ、それよりもすごいんじゃねぇのかっ!?
放心している俺を正気に戻したのは、ティアさんの驚愕の声だ・・・・・・何やら彼女は、狼狽した様子で夜空に向けて人差し指を指している。
「月が・・・・・・紫の月が、跡形もなく消えていますっ!?」
「何だとっ!?」
慌てて俺達は、星空を見渡して探した・・・・・・黄色い方や緑の月は、確認できたが、ティアさんの言う通りに紫の月が見当たらない・・・・・・。
いや、俺天文学者じゃねえから詳しいことは、わからねぇけどよ、地上から月までの距離って、途方もなく離れてんじゃねえの?
それをものの数秒で『闇柱』が着弾したって事かっ!?
挙句の果てにこっからじゃ小さく見えるけど、月って本来バカでかいもののはずだよなっ。
それをたった一撃で消し去るなんて・・・・・・いくら何でも滅茶苦茶だっ!!
恐る恐る、そぉ〜と、周囲を盗み見る。
エクサキューさんやティアさん、護衛の兵士が顔を上げたまま呆然としていて、国王の方は、恍惚そうな表情で「・・・・・・素晴らしい」と小声で呟いた。 ・・・・・・なんか彼だけ不穏な感じがする。
ある事を思い出した俺は、持っていた魔導書のページに再び目を落とす。
「やっぱり・・・・・・」
先程まで記載されてあった『闇柱』の魔法名やそれについての詳しい情報の文字列が、脱色するように徐々に薄くなり、最終的には消えてしまった・・・・・・もうその項目は、空欄しか残ってない。
そうなのだ。
他人の魔法を封印する特性を持つ『虫食本』は、一度記載されている魔法を解き放つと消費されてしまい、もう二度と同じ魔法を使えなくなってしまう・・・・・・魔法素人の予想だが、他人の魔導士に同じ種類の魔法を提供してもらえれば、また記載できるかもしれない。
そう長考する俺に、話しかける国王。
「流石だな・・・・・・やはり勇者殿を招いたのは、間違いでは、無かったようだな・・・・・・」
照れたふりをしたほうがいいかも?
「いやぁ、お褒めに預かり光栄ですよ〜」
「・・・・・・ただ・・・・・・」
後頭部を掻いてニヤケ面している俺に、冷たく鋭い瞳で見据える彼・・・・・・し、心臓に悪い・・・・・・。
「その魔導書、いささか見覚えがあるな・・・・・・?
『虫食い本』と似ているが。
その事について何か存じているかな、ソウク殿」
あ、詰んだ・・・・・・。
こいつ気づいてるな・・・・・・。
「い、いやぁ〜俺、日本出身でここに来たばかりだから分かんないですね〜・・・・・・わ、わーむ、何?」
冷や汗ダラダラ、何とかして誤魔化さねぇと・・・・・・っ!!
それでも怪訝な表情を解かない国王。
そんなピンチな状況に助け舟として、ティアさんが割って出るように慌てて異空間から分厚い本を取り出した。
その本は、俺の持っている『虫食い本と瓜二つだ。 もしかしなくてもこれは、ダミー用か?
「いやあ、こ、これはですね王様っ!!
勇者様は、実は魔道具を複製する能力を具えてまして、礼拝堂にいた時に、わたくしの持っていた『虫食い本』を対象に試した所、無事コピーを成功したと、こういう訳なんですよね〜アハハッ。
ほら、これがコピー元の原典ですっ!!
ちゃんとあります、ちゃんとありますっ!!」
汗を飛ばしながら、何とか弁解する彼女。
さて、陛下は、この言い訳で何とか納得してくれるのだろうか・・・・・・!?
「・・・・・・いや、済まない。
てっきり余は、ティア殿が国宝を無許可で勇者殿に渡したと疑ってしまった。
非礼を詫びよう」
国王の表情が綻び、緊迫した空気が解かれる・・・・・・助かったぁ!! バレずに済んだ。 もうダメかと思ったよ。
「む? ソウク殿とティア殿・・・・・・顔色が優れないが大丈夫か?
何なら我が、医務室まで案内してやるが・・・・・・」
エクサキューさんが、胸を撫で下ろしている俺達を心配して声をかける・・・・・・なんてお優しいんだ。
しかし医務室で休む暇など無いっ!
朝方になれば、知り合いの騎士に鉢合わせしてしまうリスクが跳ね上がってしまう・・・・・・!
「だ、大丈夫ですよエクサキューさん・・・・・・それより、俺は、すぐにでも魔王城まで行きたいんです・・・・・・エクサキューさんの準備が整ったら城を出ましょう・・・・・・!」
「え・・・・・・?
そんなに焦る必要も、無いのだぞ?
貴殿は、客人だ。 今は、夜も更けているし、今晩は、客間で休むといい・・・・・・。
それに先程の途方もない出力の魔法を発動した事によって、息を乱しているではないか!
やはり休息が必要不可欠なのでは?」
頭を下げて頼み込む。
「スミマセン、訳あってすぐに出発しなきゃいけないんです・・・・・・無理言ってごめんなさい」
強情に頼んだのが功を奏したのか、ため息一つついたエクサキューさんは、ついに折れた。
「・・・・・・承知した。
ただソウク殿は、やはり無理をしているようだから、城下町の宿屋に泊まらせるがな。
こちらの準備は、前もってしている。
すぐに出発できるぞ!
ティア殿は、どうする・・・・・・?」
「わたくしは、城の客間でお休みを頂きます」
俺は、別れの挨拶を済ませる。
「国王陛下、是非ともこの私めが見事任務を完遂させていただきます」
「うむ、期待して待っているぞ」
「ティアさん、本当に色々お世話になりましたっ・・・・・・!!」
「ええ、絶対無事に帰ってきてくださいね?
ソウク様・・・・・・!!」
「では、行って参りま・・・・・・」
そう、颯爽と彼らに背を向けて旅立とうとした瞬間 待て と誰かが俺達を呼び止めた。
声の方に振り向く。
ん、もう締まらねぇなぁ、何ですか陛下?
「済まない、報酬の話は、まだだったな・・・・・・無事任務をクリアしたら、そうだな・・・・・・要求を一つ飲んでやる。
もちろん我が国で可能な限り、余が許せる範囲での話だが。
前もって言っておくが『元の世界に帰して』の願い事は、わざわざ言わなくても叶えてやる。
それ以外でだ。 何かあるかね・・・・・・?」
おう、マジかよ!? やったぜっ!!
何お願いしようかなぁ〜?
そう長考しながら見渡してみると、そこには寂しそうな表情をしているティアさんの姿が・・・・・・!!
はつらつとした声で、俺は、国王に願いを申し出る。
「そうですね、もし私が無事任務を達成できましたら、・・・・・・タリウムのおっさんの罪を帳消しにして下さいっ!!」
その言葉に、エクサキューさんは「あの神官が何かしでかしたのか!?」と驚き、護衛の兵士達が仰天し、そしてティアさんが鳩が豆鉄砲でも喰らったかのように驚愕しては、すぐに目尻に熱い雫を貯める。
「ほう・・・・・・先程の余の判決に異議を申しつけるか・・・・・・不服と申すか・・・・・・」
あっ、やべえ!?
そんなつもりないのに国王に楯突いてしまった、どうしよう・・・・・・。
ニヤリと口元を曲げる彼。
「面白いっ! 良いだろう、もしソウク殿が無事任務を達成できれば、その通りにしてやるっ!!」
ほっ、良かった〜。
すごい勢いで頭を下げて、絞るような声で述べるティアさん。
「ありがとうございますっ!!
ありがとうございますっ!!」
良いってことよ、気にすんな・・・・・・クールに気取るが、他の願い事も叶えて欲しかったんだよクソっ!!
激辛パスタの山盛りとか、『地球事典』の本とか俺だけのハーレムメイド喫茶とかっ!!
再び踵を返す俺達。
エクサキューさんが言った。
「ソウク殿。
とりあえず馬房に向かおう」
「へ〜いっ」
しばらくして気づいたことだが、『虫食い本』は、新たな項目を追加する際に、対象の魔法を扱える魔導士が自分の魔力を本に封印しなければならない・・・・・・。
つまり。
この荒唐無稽出鱈目な威力を誇る『闇柱』を発動できるヤベェ魔導士がこの世界の何処かに確かに存在するってことかっ!?
※※※ここからは、三人称視点に変え、場所は謁見の間に戻ります※※※
「あの・・・・・・お言葉ですが、これで良かったのですか?」
「何がだ・・・・・・?」
兵士の一人が、レオバルト国王に尋ねる。
「勇者殿の持っていたあの魔導書・・・・・・本物の『虫食い本』なのではっ!?」
ため息をつくレオバルト。
「そんなの一目瞭然じゃないか。
まあ、貴様の言いたいこともわかる。
国宝を勝手に持ち出されたら、大事件どころの騒ぎでは、無いからな」
「でしたら、何故落ち着いていらしているのですかっ!?
すぐにでも奪い返すよう兵を向かわせるべきでは・・・・・・!」
「落ち着け、見苦しい・・・・・・別にあの空白だらけの本などどうでもいい。
大切なのは、彼が膨大な魔力を持っているか、それだけだ。 フフフ・・・・・・」
そう呟くレオバルトは、自分の持っている王笏の持ち手を強く握った。
「それと陛下・・・・・・」
「何だ? しつこいぞ!」
「勇者殿に下賜した軍服・・・・・・サイズが合っているのでしょうか? 試着させてないでしょうに。
合わなかったら意味がないのでは・・・・・・?
それと紫の月が消失しましたから、新たな異世界転移者を人為的にもう呼べませんよ・・・・・・?」
「・・・・・・あっ」
(もう、本当肝心な時に、爪が甘いんだからこの人・・・・・・)
ちなみにソウクが放った『闇柱』は、そのまま大銀河連盟を貫いて、魔法の軌道先にある惑星を28万個、衛星39万個、恒星(ソウク達のいる星に影響無し)7個、彗星21筋、隕石254億個、ブラックホール2個を貫通して消し飛ばしました。
上記の魔法を封印したのは、この世界出身のダークエルフです。