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第六幕 検証と、冒涜―――

 衝突事件から約二ヶ月が経った。事故当時の捜査は進むが、その一方で『あたご』に対するマスコミの放送は一方的だった。

 事故当時の当直であった海士長の自殺未遂が起こってからも、マスコミの報道は偏向を極めた。

 原因がまだはっきりとわからないうちに、自衛隊側への一方的な批難。

 対して清徳丸側の行方不明となった父子二名に関しては、遺族の涙ながらに弔うシーンを映し、良い人だったと言う言葉を流すだけで、漁船側にも過失の一因があった可能性は一切報道していなかった。

 それは二〇年前のなだしお事件の時と同じだった。

 三〇人が犠牲になった海自の潜水艦『なだしお』と遊漁船『第一富士丸』との横須賀沖での衝突事故。当時のマスコミも、裏付けを取らないまま『第一富士丸』の救助された女性乗組員の「波間に浮いて助けを求めている人を自衛隊は助けてくれず、次々に沈んでいった」との証言をそのまま垂れ流したことがあり、その証言は嘘であることが後日判明したが、マスコミは訂正し、謝罪した様子はない。

 そんな前例があるからか、「自衛隊を一方的に叩く」という風潮が蔓延し、それを実行しても国民から反感を買うこともなかった。

 そしてそれは『あたご』側を大いに苦しめることができたし、実際に彼女自身も壊れるかもしれないほど追いつめられていた。

 

 あたごがいつものように、暗くて陰湿な空間の隅で膝を抱えて丸くなっていた。

 そんなあたごのそばには、いかづちが悲しげな瞳を細めていた。

 あの、あたごの自殺未遂から、いかづちはあたごのそばに離れずにいた。またいつ自分を傷つけるような行為に走るかわからないからだ。

 艦魂は本体の艦に何かが起こらない限り、死ぬことはない。だが、自分自身を傷つけるという行為自体が、艦魂ヒトとして許されない事なのだ。

 「あたごさん……」

 あたごの瞳は遠い目をしていた。じっと隅に膝を抱えて動かない。そんな状態がずっと続いていた。

 時よりぶつぶつと謝罪を繰り返したり、震えたり、泣いたり、いかづちはそんなあたごを抱き締めるたびに、彼女が少しずつ壊れていく事に恐怖を覚えていた。

 「(ここに、私ではなく、みょうこうさんがいたら……)」

 あたごを妹のように愛し、まるで本物の姉妹のように仲が良かったみょうこう。

 彼女の母港はあたごと同じ舞鶴で、今はどこにいるかわからないが、少なくとも横須賀にはいなかった。

 みょうこうと一緒にいた頃の面影は、目の前にいる彼女には微塵も感じられなかった。

 

 「―――失礼するッ!」


 「?!」

 突然、溢れんばかりの光が陰湿な空間に差し込むと、女性の声が光から聞こえた。光はすぐにおさまると、二人の少女が現れた。身体は小柄だが、どちらも海上保安庁の制服を着ており、その表情は無愛想な警察官そのものだった。

 「海上保安庁の者だ。 あたご殿はどっちの者だ?」

 「な、なんですか……あなたたちは」

 「我々は第三管区海上保安部に所属する巡視艇の船魂だ。 第三管区本部の意向により、本日十六日午後から衝突事件に関する現場検証を、事故発生海域である千葉県野島崎沖で行う」

 「検証……?」

 「事故発生船の事故原因を調べるため、実際に現場海域にて航行させ、事故状況を再現する!」

 「な…ッ!?」

 いかづちは愕然となった。そんな話は聞いていない。

 確かに当時の状況を再現し、検証すれば当時の状況も詳しくわかるだろうし、捜査も大分進むだろう。

 だが、今の状態の彼女にそれをやらせるのは、酷な話である。

 本当に壊れるのではないか―――いかづちは戦慄した。

 「そ、そんなの聞いてな―――」

 「これは決定事項だ。 そして、海難審判所において絶対に必要な参考資料になる。 部外者は関係ない」

 「ぶ、部外者…ッ!?」

 「その通りだろう。 それとも、貴様はこの者の保護者か何かか?」

 「私はただ、仲間が心配なだけです…ッ! 仲間を心配して、そばにいては悪いんですか…ッ!?」

 「我々の捜査の邪魔になる範囲に及ぶと悪い」

 「――――ッ!」

 隅に膝を抱えるあたごの前に、立ちふさがるように立ついかづち。睨みを効かせようとするいかづちだったが、海保の船魂二人はまったく動じていなかった。

 「そんなにこの者を行かせたくないのか。 ふん…」

 その時、海保の船魂の口元がニヤリと歪む。

 「何故、貴様が我々の捜査を邪魔するのか。 わかったぞ」

 「わ、私は別にあなたたちの捜査の邪魔なんか―――」


 「民間人を殺した罪が明確にバレるのが嫌なのだろう? 自衛隊あなたたちは」


 「―――――!!」

 真っ向からいかづちに対する一人が口元を歪めて笑い、もう一人はジッと無言・無表情で、表情を変貌させるいかづちを見詰めていた。

 「なんで……すって…?」

 「自衛隊はどうしても自分の過ちをひた隠しにしたいんでしょう。 小汚い奴らだな」

 いかづちの拳が、震える。

 その表情は、普段の彼女が滅多にしないものになっていた。

 「所詮、貴様らは国民を護ってなんかいない」

 敵意をむき出しにした瞳から放たれる視線が、いかづちの瞳を討つ。

 「貴様らが護っているのは、“国家”であり、それも幻想にしかないお伽話の中の“国家”だ。 逆に貴様らは国民を殺している」

 頭が、火のように熱くなっていく。

 「戦争ごっこで人を殺すのは、楽しいか?」

 思考が、止まる。

 「やめて……」

 「何も期待されていない、何も存在価値を見いだせてない、貴様ら自衛隊はこの国で存在することを許されないはずのモノ」

 「やめなさい……」

 「国民を真に護り、海の警備を任されるのが、我らの役目」

 「やめろ……」

 「貴様ら自衛隊は、いらない―――」

 「やめろって……」

 「自国民を殺す兵器など、廃棄すべきだ――――」


 「―――――やめろって言ってるのよッッ!!」


 一気に頭に血がのぼり、まるで雷が落ちたかのように体中がビリビリと熱くなる。普段の彼女には考えられない怒号と迫力がそこに顕現されていた。

 あまりの迫力に圧倒されそうになる海保の船魂だったが、無理をするように口元を歪ませる。

 「ふん、真実を指摘されて逆切れか。 手を出すと、貴様もタダではすまさんぞ」

 許せなかった。

 冒涜されるのが。

 そして何より、あたごの前でそんなことを言うことが、もっと許せなかった。


 そっ……


 「―――ッ!?」

 その時、電流が走ったかのように熱い手に、そっと触れる温もりがあった。

 その温もりに振り返ると、あたごの顔が視界に飛び込んできた。

 熱くなっていた身体が、冷えていった。

 「あたご、さん……」

 いかづちの手に触れるあたごの温もりは、微弱ながらも、優しさがあった。

 ふるふると、首を横に振るあたご。

 「……ッ」

 ぎゅっと拳を握ったいかづちだったが、あたごの手が触れていることに気付いたかのように、拳は解かれた。

 いかづちの身体から、迫力に満ちた怒りのオーラがシュンと消えてしまったみたいだった。

 「……ごめんなさい」

 「え…っ」

 立ち上がり、いかづちのそばを横切る際に、あたごが雫と共にその言葉をいかづちに送っていた。

 いかづちのそばから離れ、あたごは海保の船魂たちのほうに歩み寄った。

 「……ご迷惑おかけしました。 よろしくお願いします…」

 ぺこりと頭を下げるあたご。

 「ふん…」

 一人の海保の船魂は鼻を鳴らすと、「来い」とあたごに投げかけて光の中に消えていった。

 そしてもう一人の海保の船魂が、あたごの肩に手をかけた。

 「……………」

 ジッといかづちの方に目を向けた海保の船魂は、あたごにポツリと呟いた。

 「……いい仲間を持ったね」

 言い終えると、彼女はあたごの肩に手をかけたまま、転移の光を輝かせ始めた。

 光の中に包まれる途中、あたごが呆然と立ついかづちの方に振り返った。

 「ごめんなさい、いかづちさん。 そして―――」

 光の中で、事故が起きて以来、彼女が初めて―――

 「―――ありがとう」

 笑顔を向けた。瞳に、涙を浮かばせて……

 涙を浮かばせて、無理をするように、辛いはずなのに笑顔を向けて言ってくれたものは―――

 自分のために怒ってくれた友人への、今までの彼女の想いに対する謝罪とお礼の言葉だった。

いかづちキレる…(苦笑

そして海上保安庁の船魂がまんま悪役になってしまいました。なんだか自衛隊と対立する方を書くとまんま悪役っぽくなっちゃいますね~(艦魂防衛白書の在日米軍といい)

そして暴言を吐かせてしまう(笑)

彼女たちは悪い娘じゃないのです。むしろ悪いのは私(ry

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