震電
R293陸軍航空隊 山岳航空防衛の最前線、エネミー対象はナジリス共和国が送り込んでくる空中空母ともいえる高高度偵察機から射出される無人攻撃機、さらにいまだに残る魔の黒鳥ディアボロスの驚異に対処するのがチームコード(ラプトルの爪)、陸軍航空隊教練隊のアグレッサー部隊(仮想敵部隊)も併任する、隊長はリオ・アイゼン少佐、女性にして185センチの長身に燃える赤髪、コードネームはクィーン・ラプトル。
この日の基地司令室に参集していたのは、第105補給基地カカポ隊隊長リリィ・チラン少佐、ラプトルチームのリオ少佐。
そして内閣調査室、ニシ室長。
「三人で顔を会わせるのは何年振りだ?」
「三年になるかしら、リリィ姉がカカポ隊を組織した時以来ね」
「月日が立つのは早いものです」
「しかし二人は変わらんな」
「ニシは貫禄がついたようだ」
「デスクワークばかりで嫌になる、現場に戻りたいぜ」
「行動中の(エス)は相当な数になるのだろう」
「国内だけじゃないからな、活動中のチーム数は百じゃきかない」
「私もニシも管理職には向いていないわよね」
「いつまでも武闘派ではいられませんよ、お嬢様」
「リリィ姉こそ、今回は最前線に出るつもりなのでしょう」
「当然です、大切な部下を二人も殺されました」
「そういうお嬢もやる気なのだろう?」
「あの山は私の聖地、汚すことは許さない」
「俺たちのだろう」
「そうね」
リオとニシが拳を合わせる。
「ローズとジェイと共に」
リリィも合わせる。
猛禽たちが再びその爪を研ぐ。
「あとな、ニシよ、お嬢ではない、お嬢様と呼べ、殺すぞ」
リオ少佐のハンガーに駐機されているのは機体番号J7W1、震電。
前衛的な前翼形式(主翼が後ろにある)に星形複列18気筒2130馬力、最高速度は750kmを超える。
「ヘンテコな形だな、プロペラが後ろにあるぞ」
ニシが高いコクピットを見上げる。
「本来は高高度戦闘用だ、最近の山脈を超えてくるナジリスの偵察機は高度一万以上で無人の自爆戦闘機を使用してくる、真っ直ぐ逃げられると最高速度で遅れを取る、絶対的な速度が必要だ」
「更にこいつの武装、30mm機関砲4門は強力だ」
「ええ、低空での戦闘に不向きと言わざるを得ませんが20mmやまして15.7mmでは対空戦車相手に火力不足と言わざるをえません」
「強力な爪を持った新たな猛禽たちの翼です」
「空飛ぶ戦車だな」
「一撃必殺、高速侵入、高速離脱、究極のクセツヨ戦闘機」
「ねじ伏せがいがある」
「お嬢・・・リオお嬢様らしいな」
横にはリリィの垂直離着陸乗用ドローンが駐機されている。
「私には操ることは出来ないわ」
「両手両足で四つのローターを可変させて向きを制御します、揚力を使用出来ないため速度は出ませんが低速でより複雑な動きが可能です」
「リリィはいつからこの機体の構想を思いついていたんだ?」
「この片目を失ったときからだ、自分の役目を作りたかった」
「凄いわ、水平対向ワンストロークエンジンに二重反転式プロペラ、二世紀は先をいっている」
「山岳への補給は歩荷にとって危険で負担でした、活用する道が開けて良かった」
「勲章物だ」
「私の勲章はここにある」
前髪を分けると額に裂傷の跡が残っている。
「私が囮なって戦車を誘き出す」
「内閣情報室、チヒロ、ジェイの弟がお嬢に位置を知らせる」
「そして私のチームが30mmの猛禽の爪を喰らわせてやる」
「もう一つ情報がある、ナジリス帝国は迷宮の地図を入手しているようだ」
「そんなものが本当に存在していたなんて」
「チヒロの情報だ、角度は高い、内閣情報室は地図の出所を探る」
「迷路の全容を捕まれているとすれば、山岳戦線における我が国の敗北は決定的になる」
「蟻の巣を叩く必要があるわね」
「内閣情報室の力の見せ所だな」
「チビリそうだ」
「とりあえずレゾリューを救う」
「ああ、やろう」
三人は頷き、遠く霞むサガル神山の頂きを見上げた。
「リリィ少佐!105補給基地ローレル大尉より入電、レゾリュー弾薬消耗激しく緊急補給を要する、明後日夕刻にカカポ隊3機による支援を試みる、指揮はローレル大尉」
チーム・ラプトルの副長ローター大尉が読み上げる。
「予想より侵攻が早いな」
「見捨てる訳には行かない、ローレル大尉の選択を指示する、しかし・・・損失を覚悟しなければならないな」
「ニシ、チヒロに誘導を頼めるか」
「昨日までは提示連絡があった、出現ポイントは予想でしかない、神出鬼没のやつらは高射砲をトラックに積んで移動しているようだ」
「トラックか、戦車よりは余程軽量小型だが迷宮の坂を昇降出来るのだろうか」
「ナジリスにはユニモグという特殊車両があるようだ」
「カカポ隊も自衛の手段を講じる必要がありそうです」
「武装化するの?」
「ああ、試作機を今日持って帰る」
「お嬢様、ローター少尉をお借りします」
「私が行くと言いたいのだけれど、私の体格じゃ無理だって」
「体重じゃないからね、体格よ、身長の問題!」
「自分は何も言っていませんよ、隊長!」
「新型カカポはオウムではなくフクロウだ、簡易的だが有効な武装を搭載している、その分機体重量が性能いっぱいとなってしまった」
「やっぱり体重なんじゃ・・・」
「ローター少尉、何か言ったかしら・・・」
「いいえ、伝達終わり、失礼します」
「私の帰着はローレルの出撃に間に合わない、掃討作戦はその2日後か」
「チヒロの情報が肝だな」