解呪
最終話になります
「爆弾は任せて良いか?」
「ああ、俺とフェイリーで投棄に向かう!」
「まって!私も行く・・・」
止めたのはルチルだった、ニシたち三人が何を言っていると見返した。
「見つけた爆弾の数は?」
「一つだ」
「複数あるの!?」
「爆破計画を知っているわ、爆弾は三カ所あるはず」
「場所は分かるのか?」
「分かるわ」
三人は顔を見合わせた、信用するべきか考えている。
「信用してもいいと思う」
「エレナ!」
「時間がないわ、爆発すれば全員死ぬ、彼女にかけるしかない!急いで!」
「!!」
ルチルの手錠をニシが外す。
「あの男を助けろ!」
「・・・」
ルチルは処置台にいるグレイを見つめて頷いた。
「よし、行動開始だ!急げ!」
チヒロ、フェイリー、ルチルの三人はもう一度機械室に駆け上がった、最初に見つけた爆弾を慎重に取り外す。
取り外した爆弾は十キロを超える、重さもあるが大きさが問題だ、一人で三つは抱えられない。
「あと二つはどこだ!?」
「こっちよ!!」
ルチルの案内で二つ目も直ぐに発見出来た、テープを切り取り外す。
「あと一つ!」
ルチルの目が泳いでいる、MDMAの酔いが記憶を歪めていた。
「あっ、あとひとつは・・・?」
「どうした!?あとひとつはどこだ?」
「・・・!?!?」
「時間がないぞ!急げ!」
「あっ!ああっ!?あと、あと!?・・・」頭を抱えて蹲まってしまう。
ニシは諦めて三つ目を探しに走り出す。
震えて蹲るルチルの手をフェイリーの手が支えた、膝をついて目線を合わせながら静かに語りかける。
「大丈夫、落ち着いて・・・深呼吸して、ゆっくり」
「はっ!?あなたは・・・」開いた首元に竜子の証が見えた。
「思い出せるわ、大丈夫、目を閉じてゆっくり息を吐いて・・・」
握った手から温もりが伝わる、拉致して売り飛ばそうとした竜子、今更ながら自分の罪の重さを思い知る。
「!!」ルチルの目が呪縛から解かれたように見開かれた。
「思い出した!」
弾かれたように立ち上がると三つ目の爆弾に向かって通路を走る、残り時間は七分。
「チヒロ!!こっちよ、彼女が思い出した!」
「!!」
三つめは柱の点検口の中だった、知らなければ見落としていただろう。
「これで三つ、屋上に急げ!!」
ひとりひとつの爆弾を抱えて三階の屋上を目指す、爆薬によっては衝撃だけで爆発する、慎重に階段を登る。
屋上の扉を開けるとカカポ機に向かう、フェイリーは爆弾を置くとリアカウルを無理やり取り外して爆弾を乗せるスペースを作った。
チヒロとルチルが爆弾を積み込む。
バランッ、バラバラバラララララッ ワンサイクルエンジンが目覚める。
燃料がない、既にタンクコックはリザーブに切り替えてあった、爆発まで三分、そこまで持つかギリギリだろう。
「よし、いこう!!」チヒロがカカポに乗り込もうとした瞬間、フェイリーはアクセルを煽りカカポ機を離陸させた。
「おっ、おい待て!俺も一緒に行く、一人でいくな!」
既に目線の高さまで上昇させたカカポ機の上から白金の髪を揺らした梟が叫ぶ。
「燃料がないの!一緒には飛べない、私に任せて!!」
「だめだ!イーヴァン一人でいくな!!」
「!」イーヴァンと呼ばれたフェイリーは優しく微笑んだ、初めて見せた笑顔だった。
「私はフェイレル、必ず帰ります!」
パンッ パアアアアアアッー 甲高い音を空けようとする夜空に曳きながらカカポは川に向かって飛び去っていく。
「あいつ・・・初めて笑ったな・・・」
見送ったチヒロの頬に涙が伝った。
「あの人はあなたの恋人なの?」ルチルが放心したように両膝を床についた。
「いや、今は違う、でも魂はかけがえのない恋人だ」
「覚醒者なのね・・・」
ルチルの目にも涙が溢れていた、拭おうともせず飛び去るフェイリーに向かって両拳を組む。
「どうか・・・彼女の無事を祈らせて!?」
「ああ、許すよ」
爆発まで一分三十秒、間に合うか、スロットルを慎重に捜査する、羽根のないカカポ機は滑空飛行できない、ローターの回転が止まれば墜落しかない。
街中には絶対に堕とすことは出来ない。
(必ず帰ります、そう約束した、けれど難しいかも知れないとフェイリーは思っていた、燃料は川までギリギリ、カカポ機ごど投棄しても今はウィングスーツを装備していない、高度を取れば墜落死、低く落とせば爆発に巻き込まれる、生き残る選択肢がない)
「また叱られちゃうな、チヒロ、みんな、ごめんなさい」
(でもシンのように誰かのために命を使えたのなら本望、最後に笑える事ができた、無駄じゃなかった、呪いは消えた)
残り一分
覚悟を決めて落とすポイントを探す、街中を流れる川は狭い、唯一広くなっている場所に中型のクルーザーが川の真ん中で錨を降ろしている。
フェイリーは歯を食いしばった、川に落とす選択が出来なくなった。
「なぜ、あんなとこに停泊しているのよ!」
空中爆破しかない、出来るだけ高度をとる、燃料が何処までもつか。
ザアアアアッ 高空から紺碧の翼が舞い降りてくる。
「また無茶なことをしているね、フェイリー」
「ダーラニー様!危険です、離れてください!この機には爆弾が積まれています、もう爆発します!!」
焦って叫んだ、ダーラニーを巻き込んでしまう。
「見ていたから知っているね、あと三十秒、あそこにある船、あれは敵の船だね、狙えるかい!?」
「本当ですか!ならば!」
ギュゥウウウウウウッ 旋回して川中央から爆撃コースにアプローチする。
カカポ機の直ぐ後ろをダーラニーが追尾して飛行する。
クルーザーの上で優雅にブランデーを回しながらリゾートチェアにかけていたのはポッターだ。
「最後の花火見物ね、ちゃんと見届けないと」
国外脱出のためポッターはフッジャとは別の船を独自に用意していた、竜子の生産データを持ってタルシュ帝国へ逃亡を図ろうとしていたのだ。
パアアアアアッ エンジン音が迫る。
「んっ?何かしら、なにか飛んでくるわ?」
黒い点が急速に大きくなる。
「まっ、まさか!まさか、まさかぁー!?!?」
カアアアアアアッ 「今だ!飛んで!!」フェイリーがカカポ機を蹴って空中に身を躍らせた、手足を開いて降下速度を少しでも遅らせる。
カカポ機はクルーザーのデッキに吸い込まれた、ガッシャアアアアアアアッ 派手な音ともに突き刺さる。
「ひいいいいっ!!」デッキに逃げ込んだポッターの鼻先でカカポ機は止まる。
「たっ、助かった!?」引き攣った笑いがポッターに張り付く。
残りゼロ秒!! 閃光と共に三つの事件爆弾が爆発、ズッガアアアアアアッ 爆炎と共にクルーザーを木端微塵に吹き飛ばした、未明の街に轟音が轟く。
もうもうと爆炎が立ち上る。
バオッ、紺碧の翼が灰色の爆炎を切り裂いて飛び出してくる、その足にはしっかりとフェイリーを掴んでいた。
「さあ、帰りましょう母上、父上の元へ」ダーラニーは一番目の母の魂に感謝を込めて囁いた。
病院の屋上で一番目の父が仁王立ちで待っている。
「ねぇムトゥス、私の想いは初恋と言えるのかな」
「難しい問題ですね、でも不幸なことでないと思います、違う自我であったとしても深く理解しあった魂と巡り合える人などそうはいません」
「そうだよね、降りたらチヒロに告白しちゃおうかな」
「おや、すっかり人が変わったようですね」
「もう自分がフェイリーなのかイーヴァンなのか分かんなくなってきた」
「今の自分が本当の自分ですね、母上は呪われてなどいないのですから」
「ふふ、そうだね、馬鹿みたい」
「でも、告白する前に相当怒ってますね父上は、ここからでも鬼のような形相が見えます」
「うそ、そんなに怒ってる!?」
「あっ、リオやニシたちもいますね、あの小さいのはリリィ、ステラとリンダもいます、ああ、エイラがローレルに叱られてる・・・きっと母上はみんなに叱られるでしょうねぇ」
「ちょっ、そんな・・・どっか別なところへ降ろして」
「嫌です、僕が叱られます、特にリリィは怖いです、"殺すぞ"ですから」
「アハハハッ、似てる、そっくり・・・しょうがない、諦めて叱られるわ、いつものことだもの」
「そうですね、素直に謝れば殺されはしません」
「帰ろう、みんなのもとへ」
フェイリーの目に大きく手を振るチヒロの姿が映っていた。
サガル神山の麓に朝日が上がり始める。
第105補給部隊の一日が始まる、五班に拡大した部隊は各小隊長が機銃装備のオウルゼロワンに搭乗し輸送専門のカカポ隊を護衛する。
「本日付で配属になりましたニナ・フランカ曹長であります、よろしくお願いします」
「聞いている、配属は・・・」リリィが書類を捲ると該当する班を見つけた。
「ニナ曹長、貴様の配属は三班だ、班長はフェイレル・レーゼ少尉」
ニナは若く透明感のある肌を持っている、ノーメイクだった。
窓のカーテンを開けると指刺した、チャンバーの甲高い音が響く。
「彼女だ」
「!?」
そこには長いプラチナブロンドの髪を風に任せ、白く塗装されたオウルゼロワンに騎乗する妖精のようなライダーがいた。
細かなセッティングのために高度を保ったまま竹とんぼのように軸を崩さずに回転する。
「すごい!ぜんぜんぶれない」
四つのローターを正確に制御できなければ芯を取って回転することは難しい。
「隊全員高い技術をもっているが、各小隊長は凄腕揃いだ、特にフェイリーはエースといっていいだろう」
「そうなのですか!遠目に見てもとても美くしい人だと分かります」
「コードネームはコーンスネーク、覚えておけ!」
「はいっ!」初々しい敬礼が返ってくる。
「それとな、ノーメイクで出撃することは許さん、小隊長に教えて貰いたまえ」
「メイク?ですか」
「生きて帰るために化粧する、化粧をいい加減にすることは命を粗末にするのと同義と知っておけ、今度私の前にノーメイクで現れたら・・・その時は」
「殺すぞ!」
リリィ少佐の変わらない激が飛んだ。
fin
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