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時限爆弾

 無線の呼びかけに誰も応答しない、飛び込んだ駐車場から見るポッター病院は人気が消えている。

 キキキキキキッ タイヤを鳴らしながら駐車場に突進する。

 「着いたわ、グレイ!しっかり!」

 「・・・」

 「グレイ!!」

 「聞こえている、ルチル・・・声を落とせ」

 「ああっ、死んだかと!」


 ガシャンッ、乱暴に扉を開け放ち病院の裏口から中に入る、ポタポタとグレイから垂れた血が床に模様を点ける、グレイの息が浅く小さい。

 「だれかっ、誰かいないの!?」

 静まりかえった病院はルチルの叫びを飲み込むばかりで、返事を返す者はいない。

 二十四時間体制の警備員詰め所にも誰もいなかった。


 「何でだれもいないの!?ポッター!出てきなさいよ!」


地下に続く扉を蹴飛ばす、いつもは固く閉じられている扉が開錠されたままだ。

 「!?」

 生産チームの核心はこの地下だ、人工授精による竜子の生産拠点、テッド・カドゥーナの最重要資金源、非人道的な施設がリーベン国内にあることに意味があった。


 看護師が数人残り赤子の世話を続けていた。

 「ルチル様、どうしてここへ?」

 「医者は!?誰か残っていないか」

 「それが・・・ポッター様がここは解散になったと申されて、深夜に出て行かれて残っているのは私たちだけです」

 「グレイが撃たれて弾が残っているの、誰か処置できない?」

 「もう看護師しかいません、摘出手術など無理です!」

 「そんな・・・」青ざめてよろめいた足がもつれる。

 ドチャッ グレイが床に崩れ落ちた、重く血を吸い込んだ服が音を立てる。

 「グレイ!?」

 「ルチル、もういい・・・お前だけでも逃げろ」

 「何言ってるの、私は諦めないから!」

 震える手がルチルの手を握った。

 「俺たちは大罪人だ・・・何百という命を奪った、許されない・・・地獄に行かなきゃならない、でもお前の罪は俺が持って行く・・・お前は・・・逃げろ・・・にげ」

 ガクンッ グレイの首が落ちた。

 「あっ!ああ!あああああっ」

 

 「助けたいか?」

 「!!」

 冷たい男の声が聞こえる、誰だ、聞き覚えがある、確か・・・

 ベータロインの匂いと共に蘇った記憶、扉の前に立つ男に銃口を向けた。

 「貴様!あの時の・・・」


 そこにはニシとエレナがいた。


 「もう一度聞くわ、その男を助けたい?」

 白衣の女が進み出る、その女の腰にあるのは巨大な拳銃、グレイを撃った魔女。

 「おまえーーー!!!!」

 引き金を引こうとする指をグレイの手が押さえた。

 「や・・・め・・・」

 ツカツカとハイヒールを鳴らして憤然と近づくと、バシィッ ルチルの頬を張った。

 「助けたくないのか!私は医師でもある、お前が望むなら助ける!どっちだ、救うか?殺すか?」

 襟首を掴かみ顔を引き寄せる。

 「あっ・・・はっ!?」「たっ助けられるの!?」

 「あなたが殺すと言っても助けるわ」

 「お願いよ!グレイを助けて!!」

 フッと口元が笑ったように見えた。


 「看護師!その台の上にのせて、残った弾丸を摘出する!」


 屋上に人気はない、いや病院自体が呼吸を忘れている。

 「なんだ!?イヤな感じがする」

 チヒロの額に冷や汗が浮かぶ。

 「なにか聞こえるの?」

 「いや、悪意、敵意、そんな感じだ」

 三階建ての病院内部に侵入する、屋上で感じたとおり人気はない、電源は生きている、数カ所伝統が点いたままの部屋がある、急いで何かを持ち出したのか書類や薬棚の中身が散乱している。

 下の階に進んでいくと益々悪意は濃くなっていく。


 薄暗い通路の奥に灯りが漏れている、チヒロはフェイリーに目配せすると壁に沿って灯りに近づいていく、隙間から中を覗くと機械室だ、燃料油の匂いがする。

 

 (イーヴァンの記憶、暗い迷宮でシンと共にムトゥスを魔物たちから守りながら戦った、今再びチヒロの背中を戦場で見ている、最後にシンは自分を犠牲にして私とムトゥスを守った、もう死なせない)


(空の上で見た記憶、あれが覚醒の入り口なのか、見えたのはフェイリーとはまったく似ていない別人、しかし間違いなく彼女だ、強く愛していた、かけがえのない命、守らなければならない)


強い思いと過酷な経験が真っ先に蘇る、覚醒者の誰もが苦しみ葛藤する。

 

病院内の空調と給湯、発電のための機械室、その燃料は重油だ、六千リットルのタンクが開栓されて防油堤になみなみと溜まっている。

 「匂いの元はこれか!」

 「チヒロ!これ!?」

 フェイリーが見つけたそれは時限爆弾だ、アナログ時計の下に起爆装置と高性能爆薬が接続された一体型、解除が困難であることは一目瞭然だった。

 「病院ごと吹っ飛ばすつもりなのか!?」

 「これ、あと二十分も時間がないわ!」

 「兄貴たちに知らせないと!」


 裏口が開いている、止められたトラックとニシたちの車が見える。

 「兄貴たちは到着しているのか!?どこにいるんだ?」

 「下から物音が聞こえるわ」

 「地下室があるのか」


鍵の掛かっていない扉を開くと地下へ階段が伸びている、消毒液の匂いが漂う。

 「・・・!・・・・!」

 誰かの声が聞こえる。


 「兄貴!」

 女が手錠をされて椅子に掛けて項垂れている、傍にはニシは立っていた。

 二人が見つめる先でエレナが台の上に寝かされた男に白衣を赤く染めて向かっている。

 「チヒロ!フェイリー!無事だったか」

 「早いな、エレナ姉さんは誰の治療をしているんだ!?」

 「犯人の一人だ」 

 「大変だ!上の階の機械室に爆弾が仕掛けられている!爆発まで十五分しかない」

 「なんだと!!」

 「退避は可能ですか?」

 「無理よ!今患者は動かせない!」

 エレナが振り向かずに答える。

 「この地下には妊婦や乳幼児が相当数いるようだ、全員の退避は不可能だ!爆弾の方をどうにかするしかない!」


 「私がカカポで安全に投棄出来る場所まで運ぶわ!」

 「!!」


 そこには無感情、無表情なコールスネークはいない。

 鋭く、決意と自信に満ちた猛禽(ラプトル)が翼を広げていた。

 


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