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ランデブー

ノスフェラトゥの街から激しい炎が上がっていた。

 未明に国籍不明機による電光石火の航空爆撃、僅か二機による爆撃だったが正確無比に神殿へ二発、麻薬工場へ二発、二百五十キロ爆弾が着弾した。

 迎撃機が飛び立つが待機していた一機に撃墜されてしまった。

 漆黒の機体に国籍を示す物はなにもない、夜間の一回だけの攻撃、機体を見た物はいない。

 消化活動を急げと言っている中、今度は艦砲攻撃がきた、暗い海から砲撃音だけが聞こえてくる、音が伝わった時には着弾していた。

 着弾の間隔から一門だけなのは分かったが、その間隔は短い、凄まじい速射だ。

 伊号潜水艦の自動装填は早く、射程が長い、凪いだ今宵の海は着弾の正確さを助けた。

 消化活動を遮られて近づけなくなった神殿と麻薬工場は燃えるに任せることとなり翌朝には柱も残さず燃え落ちた。


 戦線布告はなくとも、こんな装備をもつ軍隊は近辺にはない、航空機を搭載出来る艦船を持つ国は限られている。

 領海内に空母が侵入したとなれば目撃される、そんな情報も無いのは潜水艦だからだ。

 

 「リーベン国海軍の仕業に間違いない!」

 ノスフェラトゥの神官は顔を真っ赤にして激怒したが、証拠がない。

 「テッド・カドゥーナが摘発されたに違いありません」

 リーベン国内閣情報調査室からの強烈な警告、麻薬と人身売買への報復、武力制圧も厭わない、超法規的な鉄槌がよりにもよって月蝕の宴の前に降ってきた。

 「これでは宴どころではありません」

 「竜子の手配が強引過ぎたか、逆鱗に触れてしまったようだ」

 「ここまで強行な・・・甘かったな」

 「神官様、これからどうしますか?」

 「ここはもうだめだ、拠点を変えるしかないな」

 「引っ越しですか・・・」

 「人のいる限り魔神教は不滅だ、今日は影に潜み明日の宴に備える時なのだろう」

 「全班長に通達、明朝オアシスに出立する」


 翌朝、ノスフェラトゥの街から人影が消えた。


 高度を上げると冷たい風が頬を叩いた。

 今は触れてもいない背中が温かい、後ろにチヒロがいるからだと分かっている。

 あれは愛だった、イーヴァンはシンを愛していた、愛されていた。

 魔族と人族の転移者、高い垣根を越えて二人はムトゥスという神の子を守った。

 愛の暮らしと戦いがあった。

 「いたぞ、あそこだ!」

 チヒロが指さした先にヘッドライトの灯りが激しく揺れている。

 カカポを旋回させると上空に付ける、気付かれないように高度をさらに上げる。

 速度が遅いとはいえ地上を走るトラックとでは早すぎる、前に出て敵の視界内に入るのはまずい。

 ザアァァァアッ フェイリーたちの更に上に双翼が近づく。

 「やあ、おてんば姫、おはよう、夜のドライブですか」

 「ダーラニー様!」

 「もう様はいらないね」

 ケツァルの王、ダーラニーの飛翔する姿は優雅で美しい。

 「見張っていたのか、ダーラニー」

 「チヒロ、やっぱりきたね、竜子たちを守ることは僕たちの役目だね」

 「もちろんだ、リーベンの国民を守るのが仕事だ」

 「!!」

 国民を救う、ダーラニーの真意は別にあった、覚醒したフェイリーにはその意味が伝わる。

 「ダーラニー様!?あなたは、もしかして・・・」

 「これ以上は空の上でする話じゃないね、墜落してしまうね」

 「なんだ、また何の話だ?覚醒ってフェイリーか?」

 「じゃあ、つもる話は二人で・・・僕は失礼するよ」

 ザアアアッ 翼を傾けるとさらに高度を上げていく。

 「おっ、おい!ダーラニー!」

 遠ざかっていくダーラニーに手を伸ばしたが青く煌めく羽根を羽ばたかせて遠ざかってていく。

 「おい、フェイリーお前何か知っているのか、ひょっとして覚醒したのかよ」

 「・・・」

 「どうなんだよ!?」

 「それは・・・ないしょです!」

 「はあっ?なんでだよ」

 「チヒロさんが体重教えてくれたら教えます」

 「そんなの幾らでも教えるさ!教えてくれ、何を見たんだ?」

 

 トラックは幹線道路に出ると市街方向にライトを向けた、眠る街に外灯だけが生きている。

 「今の私は・・・呪いの自棄ではなく、責任で無茶をします、また巻き込むかも知れません」

 「また!?またって・・・あれ?あれ!?なんだっけ・・・前にも確か!?」

 「しっかりつかまっていてください、市街地にはいります、見失わないように高度を下げます」

 「おっ、おお!」

   

カカポ機は高度を下げると凹凸の街を見え隠れするヘッドライトを追う、右へ左へ旋回を繰り返す。

 

 後ろからカカポ機を操るフェイリーを見る、その横顔は以前と違う。

 無表情で無感情なコールスネークから脱皮したように見える、その目には意志があった、窓越しに話した時にも感じた既視感が更に強まった。

 横顔にまったく違う顔が重なる、幻の女の頭には角があった。

 「これは・・・」

 同時に見える世界は暗く狭い中で轟音が響いている。

 恐怖と悔恨と無念、酷く悲惨で救いようのない世界が見える中に唯一幸せな時間、強い日差しの中、緑の葉と木漏れ日の下に彼女の笑顔があった。

 自分の記憶ではない、別人のストーリー、まだぼんやりしてはっきりとは分からない。


 ヘッドライトが街はずれの病院に入っていく、追尾されていることを警戒していないのかダミーではなさそうだ。

 「チヒロさん、地上部隊に連絡を!」

 「・・・」

 半覚醒状態にあったチヒロは、ぼんやりとフェイリーを見ているだけだった。

 「チヒロさん!!シン!今は駄目、戻って!」

 今まで一番大きな声で叫ぶ、ビクッとチヒロの目が焦点を結ぶ。

 「はっ、おれは何を!?」

 「良かった!地上部隊に連絡を!あの施設に入りました」

 「どこだ!あれか・・・病院だな、ポッター総合病院、兄貴の読み通りだ」

 「私は着陸できる場所を探します」

 「まて、降りるな!このまま上空旋回を続けろ、さらに移動する可能性がある」

 「無理です、燃料が持ちません」

 

 ニシたちに無線を飛ばす、到着には二十分はかかりそうだ。

 「あそこだ!病院の屋上に降ろせ」

 平屋の屋上はカカポ機の着陸には十分な広さがある、人はいないが待ち伏せがないとは言えない。

 「分かりました、着陸します」

 自動拳銃を手に慎重に周囲を警戒しながらカカポ機をランディングさせるが、屋内にいた者が気が付かないはずはない。

 二人は素早く遮蔽物の影に入って様子を伺った。


 今度はフエイリーがチヒロの背を見る、広い背中が頼もしい。

 左手に母の形見の時計かある、救出しに来た父親だと言っていた男が持っていたものだ、母の記憶はない。

 不思議だ、二十年前の記憶がないのに、数百年前の別人の記憶が見える。

 本当に必要なのはどちらの記憶なのだろう。

 自分の腕にはチヒロの時計が世界の誕生から変わらぬ時を刻んでいた。

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