タンデム
トラックは西へ向かった、林道に土煙が漂っている。
走って追いつくことは出来ない、このままでは見失う、ニシ長官たちに撃退されたマフィアは本部に退却しようとするに違いない。
街に降りるのであればカカポ機なら追いつける、フェイリーはトラックとは逆方向に森の中を走り出す、暗い中でも五色覚の目で昼間に近い視野があるお陰だ。
蝙蝠の耳を持つリリィ、エンパスで世界を見るローレル、そしてフェイリーは梟の目で世界を見る。
覚醒を得たフェイリーの意識はイーヴァンの経験が混じり合う。
悲運の魔王は、末裔たる竜子たちの悲劇を許すことは出来ない。
遠い日、一人だけで冬のガンガラシバナを登り、魔神に導かれるように冥界の神殿でムトゥスを守護した騎士、転移者ホシジロ・シンと出会い自分の責任を知り、ムトゥスと共に魔城に帰るまで、その青春は奔放で自由な冒険者だった。
楽天家で眩しい笑顔、日焼けすることなどお構いなしの少女だった。
無表情だったコールスネークにはっきりと表情がある、生きるために戦う騎士の顔がある。
痩せすぎた梟は息を切らすことなく闇を駈けた。
ダンッ ジャンプして最後の藪を飛び越えるとアスファルトに着地する、カカポ機を隠した倉庫の前に出る。
そのまま倉庫まで走りシートをめくる。
「・・・」
愛機のオウルゼロワンにまたがりかけて考え直す、出力を上げるためマフラーの消音装置を外した機体はかなり五月蠅い、尾行するなら通常のカカポ機の方がいい、体格的に近いステラ機に乗機する。
エンジンをスタートさせたところでシャッターの前に人影が走り込んできた。
「誰っ?」
腰のホルスターに手を伸ばすが拳銃は置いてきていた。
「くっ!」
「フェイリー!」
その声、その姿は懐かしくも愛おしい影が重なる、チヒロだ。
「シン!!・・・チヒロ」
「やはりこっちに来たか、シンてなんのことだ?」
チヒロの覚醒はない。
「なんでもない、なぜここに?」
「お前の無茶は全員知ってるよ、指示はセーフハウス集合だったが俺はこっちに賭けたのさ」
「話は後です、逃亡したトラックを追います!」
「こいつは二人乗りか?」
「はっ!?」
「俺も行くぜ」
言うが早くシートのないリヤ部分に飛び乗る。
「チヒロさん、体重は?」
「ないしょ!」
「あははっ、失礼しました、行きます!」
「おう、頼むぜ、相棒!」
ああ、やはりシンの魂、遣り取りに懐かしい夏の景色が蘇る、この夜に輝く星はあの頃と変わらない。
ブウオォォォッ パアァッアアアアッ フワリと浮いた機体のバランスを取りながら二人を乗せたカカポ機は夜空に舞い上がる。
シュオオオオッ 回転数が安定するとエンジン音が静かになる。
「みんな心配している、無線で報告するぞ」
「はい、叱られるのには慣れています」
「叱られているうちは見放されてはいない」
(ザザザ・・・フォクスワンより各員、コールスネーク確保、無事だ!逃亡した敵トラックを索敵中)
(ザザッ・・・フェイリー!!何処にいるの!!)
(!!)
イヤフォンが壊れるかと思うほどの声が鼓膜を直撃した、しかしフェイリーの耳にイヤフォンはない。
(ステラ!俺たちの鼓膜を壊す気か!フェイリーは聞いてないよ、落ち着け)
(あっ、すいません)
(無事なんだな!?この風の音は上空にいるのか)
(カカポ機に乗機中です)
(了解した、こちらは地上から追う!誘導を頼む」
(ステラ、あまりフェイリーを叱らないでやってくれ、昔からこういう奴なのさ」
(えっ、昔から?)
(通信終わり)
バキャアッ 封鎖されたバリケードを破壊して突っ走る。
「グレイ!大丈夫なの!?」
シートが赤く染まっている、エレナが放った357マグナム弾の弾頭は貫通力重視のFMLに換装してあった、トラックの外装と人間ひとり貫通した上で更にフロントシートを抜けてグレイの体内で止まった。
「あ・・・ああ、平気・・・だ」
その言葉とは逆に出血多量で意識がはっきりしない。
「止めて!運転代わるわ!」
ルチルが言い終わる前にトラックは止まった、ハンドルに突っ伏したグレイに意識はない。
「しっかりして、死んじゃだめ!死なないでグレイ!」
ベンチシートの助手席に押しやるとルチルはハンドルを握ってギアを入れる。
シートが血で生暖かく滑る。
「ちくしょう!やられてたまるかっ!」
再びトラックは唸りを上げて林道を駈け降りる。
「ボス・フッジャはなんと?」
「コード・レッド!!出国は二時間後、以上です!」
「あらあら、マルスちゃんたち失敗しちゃったのねぇ、それにしても国外逃亡とかコテンパンにやられたわね」
「リーベンの内調は危険だと忠告したのに・・・馬鹿な人達ね」
「ポッター様、いかがなされますか?」
「施設は放棄するしかないわ、データは全部もってでるわよ、急いで!」
「ボス・フッジャと合流を?」
「冗談!ボスはもう内調に目を付けられてる、デッドエンドよ」
「じゃあ、どこへ!?」
「まだ秘密!さあ、死にたくなければ急いでね」
白衣を翻してポッターは養殖施設を出て行く。
「まあまあ稼がせてもらったわ、それじゃ皆さん、お元気で」
「さようなら」
意外にもあっさりと病院を後にする。
せめてもの医者の名残りなのか実験体やサンプル品の命を奪うことはしない。
ポッターは以前から別組織からのヘッドハンティングを受けていた、その返事をするのに良い機会となった。
マフィア・デッド・カドゥーナが壊滅すれば裏切り者として追われることもない。
安心してリクルート出来る、願ったり叶ったりである。
「プラチナの君だけが気がかりだわ、また会うまで元気でいてね」
深夜、病院の駐車場から深紅のツードアクーペが太い排気音を残して何処かへ走り去った。




