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月蝕の春蘭

ノスフェラトゥ教団の街、海岸から十キロの沖合、暗い海を月明かりだけが照らしている。


 「メインタンクブロー、浮上!浮上次第、春蘭水上戦闘機を降ろすぞ」

 艦長の命令が下った。

 「先任、地上連絡員との無線を繋げ、攻撃目標の位置を知らせ!」

 「はっ」

 「副長、対地攻撃用意、前部105mm砲発射準備」

 「全乗組員、第一級戦闘配備、対艦対潜警戒を厳となせ!」

 

 ジリリリッ ジリリリッ 艦内に赤色灯が灯り、短いベルが二回だけ鳴動する。


 ザババババッ ゴシュー バシュー 圧縮空気に追い出された海水が空気と共に放出され、水飛沫とともに巨大な潜水艦が姿を現す。


 ガコンッ 水密されたリヤハッチが開くと水上フロートを羽根下に装備した海を滑走路として飛び立つことの出来る水上戦闘機、春蘭が姿を現す。

 横から見るとスピードボートに羽根を付けたような機体、胴体もフロートとして活用する、三枚フロートを装備する他国の機体に比較してスマートな機体は最高速度六百五十キロの高速で飛行する。

 春蘭三機を搭載するリーベン国伊号潜水艦は対艦攻撃のみならず、敵国深く潜入し対地攻撃も行うことが出来る。

 

 ドッグから搬出された機体は専用クレーンで海に降ろされる、複座の春蘭に後方用機銃と全部に二十ミリ機関砲、翼下に二百五十キロ爆弾を二発搭載している。

 畳まれていた翼を広げるとエンジンを始動、星形十四気筒千八百馬力が咆哮する。


 「今日は海が穏やかだ、尻の座布団はいらんかもしれんな副長」

 「機長、二番機、三番機、滑走準備完了、行けます」

 「よし、いくぞ!」

 スロットルオープン、逆デルタの広い翼面積が低速から風を掴む、二度三度、波でバウンドするとジャンプするように離水していく。


 「艦長、春蘭発艦完了しました」

 「よし、我が艦も攻撃目標八千メートルまで近づく、高速潜水艦の真価をみせろ!」

 「機関全速、さいだーいせんそーく!」

 

 二軸推進のプロペラが全長二百メートルを加速させる、水上戦闘艦なみの速さで暗い海を切り裂いていく。


 ノスフェラトゥの街は月蝕の儀式の準備に忙しく動いていた。

 各国から列席する信者は、誰ひとり貧乏人はいない、高額なお布施を納めることの出来るブルジョアな人間たちばかりだ。

 望みは永久の命と若さ、不変の渇望。

 魔族の血を身体に取り込み魔神の寵愛を受ける、事実、病気が治ったり体調が良くなったりする場合があるという。

 オカルト的な宗教に大金をつぎ込んでしまうには理由がある。

 

 寿命の二極化、特にサガル神山周辺の国々は身体的にも強壮で若く寿命が長い、比較して海を渡った大陸のには極端に寿命の短い民族が存在するからだ、豊かな土地と資源を有しながらも出産率低下と短命が人口減少に拍車をかけている。

 文化が進み、民度の高い地域なら食べたところで細胞が変身することなどあり得ないと分かる、しかし今だに夜に灯りが灯ることの無い場所では魔法や呪物が尊ばれ珍重される。

 そして彼らの土地には石油や麻薬の原料となる琥珀石が眠っていたりする。

 文化圏の金の流通は彼らを巻き込み肥大化し、資源と一緒に愛も、正義も、法も、秩序も食い尽くしていく。

 

 儀式を行う魔神殿は中央に漆黒の岩をくり抜いたテーブルが置かれ、四方を魔神像が取り囲む。

 贄となった竜子はテーブルで血を抜かれ、解体され骨まで食われてしまう、狂気の祭壇。

 神殿に近い場所に置かれたテーブルより高額なお布施が必要だ、最も新鮮な血肉を授かることができる。


 魔神信仰は遥か昔から存在したが、現在の教団とは全く違うものだった、魔神とは魔族の神であり、人族が崇める神と同様な天上を指していた、竜子は文化圏からもたらされた都合のよい金貨だ、資源確保のためのほら話が、いつしか文化圏に逆輸入され真実味を帯びた神話に昇華されたのが現在だ。

 魔神信仰の魔神は悪魔ではない、善魔、良魔、その起源は人型の哺乳類が地を支配する前の支配者、竜族を指している。

 今まだ残る痕跡、青、赤、黄の琥珀石、ドラゴンの命の源、ブレスの琥珀石。

 その末裔が魔族、そして人族との間に産まれたのが竜子、ドラゴンの血を宿す者たち。

 

 フェイレル・レーゼ・バーデミリオン その祖先はユーリエ・フォン・バーデミリオンと魔族の男マップメーカー・スタッグに始まる、破滅の時を越えて逃げ延びた二人以外にも出来ないと言われていた混血の子を宿した者たちがいた。

 生命は絶滅の危機に生き延びるために抗う。

 

 魂は自我を持たない、覚醒者が見る記憶の海は自我を自分と呼ぶなら別人だ、死は自我の終わりを意味する。

 自我は復活しない、記憶だけが魂と共に海にある、不滅の記憶としてあり続ける。


 ノスフェラトゥの街は小さくも明るい、独自の火力発電を持つ町は照明が眩い、教団と無関係な者はいないが女子供も暮らしている、爆撃目標は神殿と麻薬工場、潜入していた諜報員は建物近くにビーコン派による誘導装置を設置すると街から早々に退避していた。

 超短波無線式ラジオビーコンが春蘭を誘導する。

 

 ゴオオォォォオッ ノスフェラトゥの街に低いエンジン音が迫る。


 「ビーコン派キャツチ、二番機目標は神殿、三番機目標は麻薬工場、一番機は上空待機して敵機に備える!」

 「落とされるなよ、宣戦布告なしの攻撃だ、死して屍拾う者なしと知れ」

 伊号潜水艦、春蘭ともに国旗、期待番号も削られている、真っ黒な国籍不明機だ。

 「陸軍での訓練を思い出せ、狂風と狭い峡谷の爆撃に比べたら容易いものだ」

 「これで外したらリオ大佐にどんな顔をされるか」

 「ああ、大佐は怒ったり怒鳴ったりはしない、俺達を信じて付き合ってくれた、あの人をがっかりさせるな」

 「機長もしかして惚れてますか!?」

 「もちろんだ、男が男に惚れることだってある」

 コクピットから高々と親指を上げる、機長のドヤ顔がキャノピーに映っていた。


 「機長、リオ大佐は女性ですけど・・・」

 

 春蘭は夜空に排気煙の赤を曳きながら爆撃コースに入っていった。

  


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