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魂返り

 ライトを激しく揺らしながら林道を爆走していくトラックが見えた。

 合流出来るかと思ったが、ライトの光りは当初の目的施設とは違う方向に向きを変えた。

 「何処へ行く?」

 その方向は谷を越えて再び街へ戻ってしまう、ターゲットの襲撃を放棄したのか、いやトラック自体、自軍であるとは限らない、生き残った者は全て徒歩で移動を開始したはずだった。

 「このまま帰るわけにはいかん!」

 ラーテルはその薄い唇を咬んだ。

 失敗だ、最大限の装備でも足りなかった、対空戦闘など犯罪者集団では逆立ちしても敵わない。

 華々しく傭兵業界に名を売るはずが大誤算だ、ようやく鍛えた部下を失い、スポンサーであったマフィアの存続もあやしい。

 再建する自己資金はそこそこある、少数団から始めれば良いがこの失敗の代償は小さくない、裏業界での評価は爆下がりだ。

 せめて何か爪痕を残さなければならない。

 竜子かブレスガンかどちらかは持ち帰る、たとえ死体であってもだ。

 林道に出ると発電施設が見える、その奥の建物の窓からほんの少しだけ灯りが漏れている。

 「そこか!」ラーテルは兵士の顔に戻ると巨体には似合わない素早さで影から影へ建物に迫っていった。


 意識を失ったフェイリーをベッドに横たえて額に浮いていた汗をハンカチで押さえた。 彼女にとって覚醒は更なる足枷になるかも知れない、自分の覚醒時を思い出す、苦い思いが胃を重くした、

 覚醒時に意識を失うことは良くある、膨大な情報量が一瞬で流れ込む、脳が処理仕切れずにシャットダウンしてしまう。

 覚醒は一回であることも数回に渡ることも様々だ、同様なのは繰り返すうちにより詳細で鮮明なものとなっていく。

 技術革新に至る記憶ばかりではない、大多数が過去の記憶、役に立つ物は少ないのが現実だ、同世界の過去の記憶から学べることは少ない。

 生かすことが出来るのは異世界の技術の記憶、覚醒者は少ない、有意義な覚醒は更に減る、本人のためには例えその記憶が幸せなものであっても知らないで済むものなら知らない方がよい。

 人は今を生きている、思い出は鮮明になりすぎれば美しさを失う。

 

 ステラは覚醒したことを悔やんではいない、やり残した無念を晴らす機会を得た、それは自分のエゴだと知っている、リーナの無念でありイーヴァンの想いとは違う。

 自分勝手にフェイリーの人生を巻き込んだ。

 申し訳ないと思う反面、フェイリーが呪いを理由に魂の海に還ろうとするのは許せない。 「過去は変えられない・・・うじうじしても始まらない」

 

 ブオオオオッ ガウンッガウンッ ブオオッ

 「!?」

 ヘッドライトの灯りが部屋を横切っていった、グレイたちの乗ったトラックだ。

 「どこのトラック?味方じゃない!?」

 いよいよ襲撃者かと緊張する間もなくトラックはアクセルを緩めず林道を走り去っていった。

 「ステラ!今のは!?」

 リンダが寝室を飛び出していく、拳銃を抜いてステラも後を追う。

 カーテンを薄く開けて外を確認すると、走り去ったトラックが巻き上げた埃が舞っている。

 「逃亡したのかしら?」

 「どうかしら、でも遊軍のトラックじゃないわ」

 「追いかける?」

 「いいえ、長官の指示どおり連絡があるまで待機よ」

 「冷静ね、今はステラ?それともリーナという魔族の従者?」

 「・・・自分でも分かんない」

 「魂返り、覚醒者も大変なんだね」

 「私などは・・・私が見る過去は一人だけ、リリィ少佐は複数の過去が見えていて、しかも異世界の男性でもあるそうです」

明らかにいつものステラではない。

 「なるほど、リリィ少佐なら納得だわ」

 「でしょう、しかも武人で相当強かったらしわ」

 「余計に普通の男性との恋愛は成立しそうにないわね」

 「私は同性の記憶だから違和感ないけど想像つかないよ」

 「やっぱり私は覚醒しなくていいや、お姉ちゃんもそういってたな」

 「そう思う、見てしまったら割り切る事なんてできなくなる」

 「過去に悔いがあるの」

 「やり直すことができないなら、せめて知りたいの、私がいなくなったあとのこと」

 「後?」

 「リーナにはマリッサという妹がいたの、大事な妹、気弱で臆病な優しい子だった、一人残してしまった・・・」

 「覚醒したフェイリルが見たかも知れないのね」

 「どうかな、結局魔族は滅んだのだし、辛い話なら聞きたくはないけれど」

 「でも竜子って魔族との混血でしょう、なら生き残ってた者がいた証拠よね」

 「フェイレルと接触したとき、イーヴァン様の記憶が見えたわ、私の後直ぐに命を落とされた、マリッサの落胆は想像出来るわ、自害したかもしれないと思うと・・・」

 「じゃあ、フェイリーもその後の事は知らないのね」

 「たぶん・・・」

 「・・・でも、きっと大丈夫、大丈夫、大丈夫だって!」

 リンダはウィンクをして笑った、その笑顔は人を安堵させる。

 「ふふっ、なんかよく分かんないけどリンダがいうなら間違いないね」

 「そう、リンダ様のいうとおり!!」

 「なに、それ、緊張感ないなー、リリィ少佐にどやされるよ」

 「殺すぞ!」「殺すぞ!」ハモッた。

 「アハハハッ、フフッ」

 「そう、カカポ隊は明るくなくちゃ、兵隊さんたちのアイドルなんだから!」

 「そうね、今生きているのは私たちだもの、この人生を精一杯生きよう」

 「悟ったわね、ステラ」 

 「成長できたかな、それじゃフェイリーにもこの境地を教えてあげなくちゃ」

 「ステラ大僧正のありがたい説法を聞かせてあげよう」


 二人で笑いながら寝室に戻った。


 「フェイリー、そろそろ起きたかなー」

 「ステラ大僧正の・・・」

 「!?」

 フェイリーが横たわっていたベッドは畳まれている、部屋には誰もいない。

 「えっ?なんで!?」


 トイレに行くにも二人がいたホールを通らなければならない、抜け道はない。

 天井から外気が吹き込む、見上げた天窓が空いている、ベッドからジャンプすれば梁に手が届くのか?普通なら届かない。

 しかし、梁には手と足を掛けた跡が残されている、トラックを追っていったのかもしれない。


 「ステラ!これ」

 リンダが見つけたメモはフェイリーの筆跡。

 (トラックを追跡します、必ず戻ります、ごめんなさい)


拳を握り締めて唇を噛んだ二人の頭上高く、ケツァルが舞っていた。

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