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魔女の祈り

 「グレイ!!」

 「乗れ!!急げ!」

 ドゴォッ 後ろに居た構成員が吹き飛ぶ、「ひっ」思わず首を竦める。

 皮肉にも部下を吹き飛ばした衝撃がルチルの正気を戻した。

 「生きていたの!!」

 弾かれたようにトラックに飛び乗る、最後の構成員も後ろに飛び込む。

 「出すぞっ!!」

 ガアアアアアッ 一杯に踏まれたアクセル、リアタイヤが空転して地を咬む。

 ギャギャギャッー ノルマン自治区跡に加速する。


 森の中から白衣の女が現れる、手に巨大な拳銃が鈍い光りを放っていた。

 「あの女!」

 部下を殺ったのはあいつだ、兵士じゃない、赤い唇が笑ったように見えた。

 魔女、森の魔女だ、魔女の右手が魔法を放った。

 ドゴオッン ガシャァッ リアガラスが吹き飛び後ろに居た構成員の身体を貫通した弾丸がフロントシートに突き刺さる。

 「ぐはぁ!!」

 「!?」

 「ぐっ!」

 グレイの煤けた顔が苦痛に歪んだ。

 「グレイ!?」

 「大丈夫だ!いくぞ!」

 アクセルを緩めることなく猛然とトラックをダッシュさせる。


 白い魔女がデザートイーグルをホルスターに収める。

 「驚いた、トラックが生きていたなんて思わなかったわ」

 「まったく三発三殺とはたいした腕だ、エイラ、熊殺しの外科医は伊達じゃないな」

 「麻薬・・・相当摂取しているわ、あの女・・・」

 「ああ、正気じゃなかったな・・・」

 「行かせて良かったの?」

 「泳がせれば竜子を拉致している病院まで案内してくれるだろう、手配は出来ている」

 「全ては長官の手の中なのね、ちょっとマフィアに同情しちゃうわ」

 「どんな理由があろうと麻薬に人身売買、酌量の余地はない」

 「長官殿、あんまり隙がないと女に嫌がられますよ」

 「おっ、エイラも言うようになったじゃないか、お兄さんは嬉しいねぇ」

 「当然です、あれから十年、私も二十五、もうすぐアラサーですよ」

 「エゾが見たら喜んだだろうな」

 「父はいつも傍に居ます、私も父のように生きたい、医師として患者を救うことも、兵士として人を殺すことも同じく戦うこと、どちらからも逃げない」

 「強くなったんだな」

 「ええ、医療メスとこの拳銃を持てるくらいには」

 「ははっ、強くなりすぎだ、だから男が寄ってこない」

 「うっ、長官!いや兄貴、誰かいい人紹介してよ、このままじゃ私もローレルもリオ姉さんたちの仲間入りだよ!」

 「おい、滅多なこと言うな、リリィに聞かれたら殺されるぞ」

 「まさかぁ、聞こえるわけ・・・」

 苦い笑いのエイラが見た月明かりをヒラヒラと蝙蝠が舞った。

 

 針葉樹林の樹海は月明かりも届かない墨汁を零したような闇、虫や獣も立ち入ることを遠ざける。

 唯一、音で世界を見る者だけが存在を許される。

 

 カツーンッ カツーンッ カツーンッ

 

 その音は猛獣が牙を打ち鳴らすような何かを咬んだ音。

 「なんの音だ?」

 「真っ暗だ!なんにも見えないぞ!」

ウルヴァ部隊最後の二人は音だけの世界に取り残されていた。

 ライトを点灯させるべきか迷った、もしも敵が居れば位置を教えることになる、しかし敵もこの暗闇の中では動きようがないはずだ。

 

 文字どおり手探りしながら前に進む、遥か向こうに少しだけ木々の輪郭が見える、月明かりがさしている証拠だ。


 カツーンッ カツーンッ 再び音がする、近づいている。

 「なんの音だ?」

 「分からん、聞いた事のない音だ!」

 カツーンッ カツーンッ

 「動物じゃないのか!?」

 「風か?」

 カツーンッ ガサッ ガサッ 笹を踏みしだく音、歩いている。

 「違う!人か!?」

 ガチャッ シャッコッ 聞きなれた音、銃の装填音だ。

 「銃だ!!」

 

 パシュッ バシィッ 伏せた頭の上で幹が弾けた。

 「サイレンサー!!」おそらく9mm弾、消音器付きの拳銃だ、遠くない、近くにいる。


 「伏せろ!見えているのか!?」

 「こんなバカな、この暗闇でどうしてこちらの位置が分かる?」

 敵の位置は?人数は?武装は?何も分からない、こちらの位置だけ知られている、圧倒的不利な状況に二人は恐怖を募らせる。

 

 カツーンッ パシュッ バシィッ

 「ひっ!!」着弾が近づいている、補足されていることは確実だ、死が迫っていた。

 「畜生!殺されてたまるか!」

 一か八かライトを点灯して闇に向ける。

 「!!」

 明かりの端に不気味な影が映り込む、黒装束に長い黒髪が吸い込んだ光りを返している。 白い肌に赤い唇、暗闇に三日月の花が咲いた。

 

 「まっ、魔女!!」

 二人はライトを反対側に振り向けて全速力で走り出した。

 「畜生、化け物だ!俺は逃げる!」

 「俺もだ!!」

 彼等の判断は正しい、自分の技量を超えた敵を相手にしたら戦うべきではない、奇跡などそうそう起きない。

 殺される前に逃げる、戦力比を正確に分析出来ることが生死を分ける。

 二人は今、戦力差を知った・・・遅すぎた、出撃の前に知るべきだった。


 ダダダダッ ダッ ダンッ ガザザザッ

 

 不安定な足下を無視して月明かりの向こうを目指して突っ走る。

 逃げろ!逃げろ!逃げろ! 

暗闇に済む魔女は冥界の支配者、人ならざる魔の住人、その領域に居てはならない。

 走れ!走れ!走れ!


カツーンッ カツーンッ カツーンッ

 魔女の牙噛みの音が追ってくる。


 バッ 月明かりの下に飛び出した!逃げ切った!

「あっ!?」

飛び出した先は中空、崖から身を投げていた、二人は自ら冥界に身を堕とした。


 「・・・」 カツーンッ

 リリィ少佐が二人が落ちた先の暗闇に向けてクリッカーを打つ。

 エコーロケーションの反響がリリィの脳内に画像を結ぶ、谷は深い。

 ヒュウウウウウーッ 吹き上げる風が冷たく頬を打つ。

 冥界の魔女が天に向かって両手を合わせ祈りを捧げる。


 「彼等の魂が記憶の海で洗い清められんことを・・・」

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