覚醒
そこに立つ女はステラではなかった、魂の自我が過去の人物を蘇らせる。
「私は姫様を守る事が出来ませんでした!多くの犠牲の上に託された命を守れなかった、無駄にしてしまった、自分の死の瞬間が見えていました、自分が守るべき相手だった姫様の魂の軌跡、フェイリーあなたとの接触で見えてしまった、私がしくじったがためにあなたは命を落とした、あの衝撃を忘れることは出来ません!」
「それはステラの責任じゃないでしょう、あくまで記憶の海は魂の一部が見る物であって自我は同じものではないはずです」
「大切な人を失う痛みは変わりません、またあんな気持ちを味わうことは絶対に嫌!!今度は絶対に守り切ると妹に誓った!」
「妹?ステラあなたに兄弟はいないはずじゃ・・・」
違う、ステラのことではない、今言葉を紡いでいるのは別人格の魂。
いつもは面倒見の良いお人好しステラが、口振りさえも頑固な堅物に変貌している、憑依現象、魂返りと呼ばれる希に発現する現象。
「それはあくまで魂の話です、今自我を持っている私とは別人格の記憶です、私に義理立てすることは無意味です」
「理屈ではありません、あなたは幸せにならなければならないのです、もう二度と悲しい思いはさせません」
「意味が分かりません、今大事なのは犯罪組織の壊滅と捕らわれた子供たちの救出です」
「だからといってまたイーヴァン様が犠牲になってはいけないのです」
「イーヴァン様?」
「あっ!」
ステラがしまったと目を見開くのとフェイリーに記憶の扉が開かれたのは同時だった。
「私はイーヴァン・・・魔族国・・・シン・・・ムトゥス、ムトゥス様!私の子!」
突然、覚醒の波がフェイリーを飲み込む、記憶の海が一瞬でイーヴァンの生涯を見せる。
分かった、黒い髪、黒い瞳はシン、ホシジロ・シン 異世界からの転移者、私の愛する夫だった人。
チヒロ・・・そうだ、彼は、チヒロの魂はホシジロ・シンの魂。
まだ霧がかかったようにぼんやりと霞んでいる、幸せな山の記憶がある、安寧と笑顔が、あの人の優しく微笑む顔が、夏小屋の爺婆たちとひと夏を過ごした人生最良の時間・・・幸せだった、あのままムトゥスを抱いていたかった。
なにが壊した?・・・怪物がいた、戦争があった、侵略者がやってきた。
シンが自爆して逝った、人族との戦争、多くの魔族が逝った、魔族城の陥落、家臣たちは私の盾となって逝った、そして銃の音、焼けるような痛みが身体を貫いた。
アラタとマリッサがいた、そうだ、逃げ込んだ牧場で私は死んだのだ、ムトゥスを二人に託して。
いったい何万、何十万の命が私のために失われたのか、呪われて当然だ。
無慈悲で理不尽な死の上に私は立っていた、みんなが私のために死んでいった、私とムトゥスを、神の子を生かすために。
それなのに果たせなかった、一発の銃弾の前に命を落としてしまった、みんなの命を無駄にした。
「ああああああああああ!」
全身が震え、歯がガタガタと音を発てた。
「イーヴァン様!」ステラが支えた。
リンダも反対側からフェイリーを抱きかかえた。
「しっかり、フェイリー!負けないで!」
「アアアッーッ」叫び声と共にガクリと意識が途切れた。
「フェイリー!?」
揺さぶるリンダへ返事は返らない。
「・・・」
ステラは黙って支えていた、その表情は悔恨があった。
「私はまた、失敗したかもしれない」
「ステラ、あなたには何が見えているの?フェイリーは何を見たの?」
「私の魂の記憶は・・・魔王イーヴァン様の従者でリーナといいました、遥か昔に滅亡した魔族のひとりです」
「魔族!?五百年前の大戦の事ね、フェイリーって魔王だったの?以外!」
「魔王といっても美しい姫でした、政局で祀り上げられただけで本人は嫌だったと思います、ご存知のとおり魔族は滅びました、人族による虐殺です、数十万いた魔族はほぼ全員殺されたのです、その記憶が現世までフェイリーを苦しませている」
「今の叫びは覚醒してその記憶を見たってことなのね」
「そうです、私には分かります、フェイリーは自分の魂が何者であったかを知りました」
「自分の責任だと思って・・・辛い人生だったのね」
「シンとムトゥスっていうのは?」
「シン様はイーヴァン様の夫で異世界からの転移者でした、ムトゥス様は実子ではありません、神の子と言われていました、詳しい事は分かりません」
「じゃあ、幸せな時もあったんだね」
「たぶん、シン様との事は私にだけ話してくれました、でもシン様もイーヴァン様やこの世界を守るために自爆して逝かれたと」
「私は最後の戦いでイーヴァン様より早く死にました、やり遂げられなかった、今度こそ失敗しないと誓ったのに・・・ダメな人間です」
「そんなことない、ステラが居なければフェイリーはもういなかったと思う」
「ありがとう、リンダ、私諦めない」
少し微笑んだステラは魔族のリーナではなくカカポ隊のステラだ、魂帰りは解けている。
「あっ、いつものステラだね」
「うん、フェイをベッドに寝かせよう」
「分かった、運ぼう」
「大丈夫、一人で運べる、ベッドをお願い」
「了解!」
両手にフェイリーを抱えて立ち上がる。
「軽い・・・軽すぎますイーヴァン様、あなたの命はこんなに軽くはありません」
ステラの暖かな涙の雫が、フェイリーとイーヴァンの掌に落ちて白い肌に弾けた。




