窓越しの再会
アアアアアッーッ 遠くに鳴き声が聞こえた、ケツァルの声か?通常の声ではない圧力がある。
「今の声はなに!?」
「ケツァルの鳴き声のように感じました!」
「まさかダーラニー様に何かあったのでは?」
すっかり日が落ちて暗闇に包まれた部屋の中でフェイレルたち三人は周囲の音に耳を凝らしていた。
ゴオオオオオオッ バンバンバンッ ガーンッ
「こんどはなに?」
「このエンジン音は震電だわ」
「もう外真っ暗だよ、私たちだって飛ばない時間なのに!」
「リオ大佐のチーム・ラプトルなら夜間攻撃も行うそうです」
「襲撃者に対する攻撃なのね」
「恐らく対地攻撃の銃撃音、連射の間隔が長かった、30mm機関砲だわ」
「時速何キロくらい出ているのでしょうか」
「震電の最高速度は七百キロ以上だと言われていますね」
「七百キロ!考えられない世界ね」
「私はカカポの百キロでも怖いのに、絶対に乗りたくないわ」
コンコンッ 格子窓が外からノックされた。
「!?」
ステラとリンダに緊張が奔る、思わず胸の22口径に手を伸ばす、その緊張をよそにフェイリーは立ち上がると迷うことなく窓に近寄っていく。
「フェイ!駄目だよ、敵かもしれない」
ステラが引き留めようと手を伸ばす。
「いいえ、大丈夫です」
確信がある。
曇りガラスの外に影が映る、チヒロだ。
「フェイリー、いるか!?」
チヒロの声が酷く懐かしく沁みる、懐かしい黒髪に黒い瞳・・・違うチヒロは黒髪でも黒い瞳でもない、思い浮かぶ顔は・・・誰?
「チヒロさん・・・私です、フェイリーです」
「やっと声だけ聴けたな、無事か、怪我はないか」
「大丈夫です、なんともありません」
「襲撃者が来た、三十人くらいだ、ニシ長官が先手を打ち戦闘機で対地攻撃を実施して半分は殲滅した、あと半数も対処中だ」
「ずっと見ていてくれたのですか」
「分かったのか」
「何故だか視線を感じていました、その先にあなたがいるのが分かります」
「不思議だな、俺にもずっと既視感がある、あとでゆっくり話してみたいな」
「私もです」
「それまで無事でいろよ、いろいろ無茶している話を聞いているぞ」
「・・・みなさんに叱られています」
「君は簡単に死んで良い人じゃない、自分を大事にしてくれ」
「私など・・・」
「いいか、緊急時には脱出を優先しろ、戦おうとは思うな、それは俺たちの仕事だ」
「はい、分かりました、チヒロさんもお気を付けて」
「ああ、また会おう、おっと時計はこのまま預かるぜ、じゃあな」
くもり硝子から音もなく影が消えた。
「あっ・・・」
あの真っ直ぐな視線を、影のない目を見てみたかった。
また知らない感情が湧き上がる、単純で凪いでいたフェイリーの感情が波立つ、チヒロを想う時フェイレルの心はざわめく、埋めたはずの感情が津波を起こす。
あの感覚がやってくる。
魂が呼び合う、私の魂はこの世界、この景色の中に、大切な人達と同じ時を過ごした。
モノクロの景色が徐々に色を取り戻してくる。
「あ、これは・・・」
覚醒の兆候、魂が記憶の海に降りていく。
バシィッ
弾かれた!?いや弾いた!見たくはない悲しい記憶を見ることを拒んでいる。
ズキィッ 頭痛が襲う、堪らず膝を付く。
「フェイリー!?大丈夫?」
「頭痛が・・・」
肩を支えたステラの顔も苦痛に耐えて歪んでいるのをフェイリーが気がつく。
「ステラさんは・・・ひょっとして覚醒しているのですか?」
「あっ、バレた!?」
照れたように笑った。
「先輩から助言、無理に見ようとしない方が良いよ、辛い記憶も見えるから」
「私の魂が見えているのですか」
「ええ、少しだけど私とフェイリーの魂は関わりがあったのは確かよ」
「記憶の海に私の呪いはみえますか!?」
「そんものは今も、記憶の海にも見えません、姫様は呪われてなどおりません!」
「!?」
「姫様?」
ステラの覚醒が一歩進んだ、さらに鮮明となっていく。
「二人の関係って何だったの?ステラだけ見えているのはずるいなー」
リンダがやきもちを焼いているような表情で訪ねたが、ステラの顔は真剣だ。
「フェイリーの魂は呪われても汚れてもいません、自分を責めないでください」
「ステラさん、あなたは・・・」
「姫様、いえフェイリー、出来れば覚醒することなく呪いなどという暗示を打ち払ってください、そんなものに縛られる必要などないのです」
「・・・」
俯き目を閉じていた姫は、そっと目を開くと立ち上がりリンダに向き直る。
「リンダさん、この作戦は何を、いえ誰を保護するための者なのですか?」
「!!」
「誰って・・・これはダーラニーとブレスガンを敵から守るための・・・」
「いいえ、保護対象は私なのではありませんか?私は幼い時、人身売買組織に商品として捕らわれていた過去があります、軍を敵に回すほどの価値が私にあるとは考えても見ませんでしたが現況を見る限り間違いないと考えます」
「うっ・・・」
答えに詰まってしまう、もう隠しきれない。
「なぜ私にだけ事実が知らせれていないのでしょうか?」
「それは・・・」
フェイレルに責める口調はない、リンダに答えることは出来なかった。
「そう、その通りだわ、騙していてご免なさい、狂ったマフィアが貴方を魔呪術の生贄にしようとしているの、でもそれだけじゃない、その組織には貴方と同じ魔族の血を引く子供たちが今も捕らわれている、ニシ長官たちはこの国の人身売買組織を根絶やしにするために動いているわ」
「やはりそうですか・・・」
「効率的な作戦とはいえません、私が敵の組織に潜入します」
「それはわざと掴まるというこですか!?」
「そうです、私が中から崩します、今の私なら可能です」
「あなたは・・・あなたはまだそんな事を!!私たちの気持ちを汲んではくださらないのですか!!」
「ステラ・・・どうしたの?何が見えているの」
ステラの人懐っこい笑顔は哀しみにくれて溜めていた涙が頬を伝う、握りしめた拳が震えていた。




