オペレーション・コウモリ
ショッピングセンターの駐車場に幌付きのトラックが入ってくるのを遠く離れた反対側に停めた大衆車の中から監視している男がいる。
内調の捜査員のひとりだ、二人一組、三班で二十四時間の張り込み任務を継続していた。
「来たぞ!間違いない、荷台から人が降りている」
「ニシ長官の読みはあたりだな、装備はどうだ?」
後部座席から双眼鏡で覗いていた男が目を凝らしている。
「特に大型の物は見えません・・・あっ、最後に木箱を降ろしています、小銃サイズなら入りそうです」
「バズーカはないか?」
「確認できません!」
「よし、マルヒ(被疑者)と確定する、ラライダム、ニシ長官に連絡」
「了解です」
双眼鏡を無線機に持ち替えて連絡を入れる。
ラライダムの設置された内調作戦本部のニシ長官まで発動が即時伝達される。
「やはり動いたか!各班に連絡!オペレーション・コウモリ発動」
「R293にスクランブル要請、ダム入り口を閉鎖!ダーラニーにも至急通達、鳥の声を聞かせろ」
仮設の作戦基地が一気に熱を帯びる、襲撃を予知していたニシが準備した駒が動き出す。
「じゃあ、私たちも行くよ!」
「ああ、無茶はするなよ、やばくなったらフェイリーの保護を優先してくれ、殲滅は次だ」
「分かっているよ、ここだって標的の範囲、お互い様だろ」
「ここは私に任せて!」
巨大な銃口にキスをする。
「姉さんは非戦闘員なの!何回も言わせないでよ!」
「フッフッフフフフッ」
「なんなのその笑いは!?」
腰のホルスターに収めて、敬礼する。
「行ってきます、出撃!」
バラララララッアッアアアーンッ キックスタッターによる始動のあと、ハイコンプピストンに手曲げチャンバーの破裂音が響く、四輪ローターが風を掴む。
ブウウワアアッッ 暗い森の中へ梟たちが飛び去っていく。
森は彼女たちの領域だ。
クアァーカッ クアァーカッ カッカッカッカカカカッ
高空にケツァルが舞う、十数頭がラライダムの上空を旋回している。
美しい鳴き声が天空に響く、その声はラプトル(猛禽)を誘う。
セーフハウスにいたダーラニーが空を見上げた。
「始まったね」
「えっ、始まったって何がですか?」
リンダとステラはダーラニーのモフモフの中で微睡んでいた。
「奴らが来るね、ニシが作戦を開始したよ」
「本当ですか!大変だわ、準備しなきゃ」
「そうだね、奴らがここまで辿り着くのは難しいけれど用心はしておこうね」
「はい!」
「リンダ!フェイリー呼んできて!」
「あいよ!」
「ステラさん、フェイリーのことよろしくお願いしますね」
「ダーラニー様はフェイリーの事をご存知なのですね」
「僕も覚醒者同様に記憶の海が見えるね、僕に見えているものもステラと同じだと思うね」
「私と同じ?どういうことですか?」
「さあ、フェイリーが来るね、僕は先に行くよ」
天井に開けた脱出口から空へとジャンプする。
バヒュッ 青い弾丸が高空へ飛び出していく。
「ダーラニー様、あなたは・・・」
ステラはオレンジ色の空に溶けた青い弾丸の行方を追った、舞っていたケツァルたちが後を追っていく。
そこへリンダがフェイリーを連れてくる。
「ダーラニー様は!?」
「行っちゃったわ」
「退避なされたのですか」
自分が保護対象であることを知らないフェイレルが部屋を見渡すと不審そうに首をかしげる。
「さあ、私たちも防弾チョキとヘルメット着用、武装するよ!」
「ここまで来るかな!?」
(ザザザ・・えるか・・ザザ・・セーフハウス、聞こえるか?)
本部からの無線が呼び出しだ、ステラがハンドトーキーの応答ボタンを押して答える。
「こちらセーフハウス、聞こえます」
「ステラか、みんないるか?」
「ダーラニー様は先ほど飛び立ちました、数頭のケツァルたちが一緒にいったようです」
「さすがに早いな、ケツァルの監視網にも引っかかっていたか、オペレーション・コウモリを発動した、これより無線管制に入る、いいか、君たちが討って出ることはない、やばくなったら各自の判断でいい、脱出を優先せよ、模造のブレスガンは捨てて行ってかまわんぞ」
「了解です、ニシ長官」
「敵はそこまで辿り着かせない、三人とも頼むぞ!」
「はい、長官!」
「・・・」
セーフハウスを消灯し、シャッターを下ろして鍵を掛ける。
緊急脱出口はキッチンの床下収納庫にある。
作戦は発動されたが三人には特段やることはない、持ちなれない拳銃は装備したけれどステラとリンダは訓練以外で撃ったことはない、戦力になるとは思えない。
暗いリビングで息を潜めるだけだった。
「なんかワクワクしてこない?」
「教練校時代に戻ったみたいね」
消灯すると僅かな西日がカーテンの隙間から射してくるだけで物音も消えたようだ。
「でもワクワクはしないよ、ここって虐殺があったノルマン自治区でしょう・・・気味が悪くない?」
「十年前のベータロイン事件の事ですね」
「私、霊感あるからたまに見えちゃうのよねぇ」
ステラの顔が少し小悪魔顔に笑う。
「ええっ!?なっ、なにが、み、見えるの?」
リンダはホラーが苦手なのをステラは知っている。
「あの事件ではさぁ、首を切られたケツァルたちが麻薬の材料になる卵を産まされていたのよ、その怨念が今でも森の中を歩き回っているの」
「くっ、くっ、首の・・・ないケツァル」
「そうよ、大きな影が揺れながら森の中を彷徨っているの、首ぃどこだぁ、わたしの首かえせって、出会ったら首を取られちゃうんだって」
「そっ、そっ、その首はどうなるの?」
「もちろん首無しケツァルの首の代わりになって、ケツァルと一緒に森を彷徨うことになる・・・」
「そそそ・・・な事あるわけ・・・」
「ちょうど今くらいの時間から彷徨い始めるわ・・・ほら!!」
懐中電灯がフェイリーの無表情な白い顔を照らした、なかなかの破壊力。
「キャーーーーッ」
リンダが卒倒してステラに抱きついた。
「アハハハハハッ、冗談、冗談、怖がりだなぁ、リンダは!」
「フフッ」
フェイリーから薄く笑いが漏れた。
「えっ!?今笑った」
「フェイリー笑ったよね!」
「いえ、笑っていません、フフッ」
「やっぱり笑った!」
既視感、同じ光景を見たことがある、暖かな光の中に自分はいた。
暖かな熾火と煙の匂い、私の腕の中には小さな命、愉快な爺と婆が笑っている。
知らない風景なのに知っている、懐かしくて哀しい、色を失った絵のようにもう取り戻せない、過ぎ去った時間。
もうひとり・・・あれは・・・黒髪に黒い瞳・・・愛しい人。
愛しい?・・・愛?
あなたは誰?




