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密入国の網

 砂漠の中に固く踏みしめられた道が続いている、枯れた草が揺れていた。

 遠くに途轍もない威容を誇るサガル神山が見える、周りの砂しか見えない景色と違い、黒々とした森と中腹から上は白く雪で輝いていた。

 その姿は生命そのものだ、しかし、あまりに巨大なエネルギーの塊は始めて見るものを気負し圧倒する。

 自然は大きく雄大だが外界からの侵入者を易々とは受け入れてくれない、自分の席は勝ち取らなければならない。

 山は座るための切り株を用意してはくれない。


 月明かりだけの砂漠をライトも灯さずに鮨詰めマイクロバスがリーベン共和国へ向かって進む。

 密入国のためのブローカーが手配しているバスだ。

 戦時下だというのにリーベンに密航しようする難民は後を絶たない、人種差別や宗教差別のない先進国は難民にとって優しい国だ。

 

 リーベン共和国には覚醒教練校という独自のシステムがある、十二歳になった子供は重大な病気を除いて全員親元を離れて宿舎生活となる、国が子を供育てる。

 それは難民の子であっても同様だ、衣食住が保証されており巨大な学校は一つの都市として機能している、資金がなくとも就学時間外で働くことも可能であるため子供だけでリーベンを目指してくる難民も多い。

 無事に卒業することが出来ればグリーンカード(居住許可証)を得られ、それから十年の間に犯罪歴が無ければ国民として認められる。

 成績、思想が優秀であれば軍に籍を置くことも可能だ、フェイレル・レーゼ曹長のように。


 難民を誘致しているわけではないので、密航しようとする需要に対して犯罪組織が高額で密入国を請け負うビジネスが存在する、リーベンに隣接する国の中には自国内を通過する難民に対して銃を向ける国も少なからずあった。

 長い旅の中で難民が犯罪者となってしまうためだ、食い詰めた難民が田畑を荒らす、家畜を襲そう、強盗を働く、貧富の差は果てしない闘争を産む。


 バスは国境手前で運転手交代のため一端停車する、乗客たちも鮨詰めの腰を伸ばすため外に出てくる。

 虚ろな目でサガル神山を眺めている少年は十歳を過ぎたくらいだろう。

 「坊主、一人なのか?」

 隣に座った短髪黒髪の男が話しかけた、顔半分をマスクで隠しているが、その目は隙無く周囲を伺っている。

 「うん、ひとり・・・」

 いかにも心細い声で呟いた、難民とはいえ痩せてはいない、身なりも薄汚れてはいるが品は良い物だ。

 「リーベンまで行くのか?誰か向こうに知り合いは?」

 「いない・・・」

 「そうか、かわいそうに・・・腹減っているだろ」

 そう言うと男はバッグから肉を挟んだパンを取り出すと少年に差し出した。

 「いいの?」

 少年は躊躇したが男が優しく頷くのを見て、おずおずと頬張るが一口食べると止まらなくなった。

 「慌てると咽るぞ、ゆっくり食べな」

 水筒から水も次いで差しだす。

 「あっ、ありがとう、おじさん」

 「いいよ、お互い様だ」

 「お互い様?」

 「こっちのことさ」

 食べ終わると少年はこと切れるように寝てしまった。

 少年の意識を男は慎重に確認すると再び周囲を伺い、自分の身体を盾にして少年の服を捲る。

 「!!」

 「あたりだ」

 目がいやらしく笑う。

 「いい鱗持ちだ、少し肌に色はあるがBの上というところか」

 男はテッド・カドゥーナ、竜子ハンターチームの構成員の一人だ、難民バスに搭乗し竜子を探して拉致する。

 

 家柄のよい家系に竜子が産まれると、一族の禁忌として母子ごと公妾扱いに堕とされる地域もある、やがて援助が無くなり困窮すると病気や飢えで死ぬ前に難民としてリーベンを目指すことになる。

 テッド・カドゥーナにとって難民バスは難民からの密航代と高額商品をゲットする二重に利益を得られるシノギだ。

 

 運転手の交代に合わせてMDMAで眠らせた竜子を待機させた別車両でポッターが待つ生産チームの病院に配達する。

 親がいれば途中で殺害し砂漠に埋めておけばいい、難民から被害届が出されることはない。

 

 竜子を運搬する車両の無線に男は手を伸ばす。

 「はい、情報どおりです、いました、私の見立てですがBの上ですね」

 (そうか、男で間違いないか?)

「ええ、十歳くらいのガキです」

 (発育はどうだ?)

「割といい方だと思います、売り頃です」

 (男は成人に近くなるほど買手が付かなくなる、価値が無くなる前に売り抜かんといかんからな)

 

 無線の相手はハンターチーム・リーダーのグレイだ。

 (ポッターまでの運搬は任せる、こちらは特Aの案件があってな、総出になる」

 「特Aですか?それは凄い、確保できたら一度私も拝んで見たいでね」

 (確保できても右から左になるだろう、出荷先は決まっている)

「ああ、月蝕の大祭、北のノスフェラトゥ教団、これは私らにもボーナスが出そうですね」

 (お前は今日の売り上げで一月は遊べるだろ)

「いや、家の娘、病気で働けねえもんですから、将来のために貯蓄しといてやりてえんすよ」

 (くっくっ、人さらいが家族のためか?おもしろい冗談だな)

「ちぇ、何とでも言ってください、自分の娘のためなら難民の命なんて私はいくらでも踏みつけて地獄にいきますよ」

 (この世は弱肉強食、現実は残酷だ、虐げられたくなれば抗うしかない、まあ気張る事だ)


 無線を閉じた男は少年をバンの荷室に繋ぐ、パンの中にはMDMAが仕込んであった、半日は意識は戻らないだろう。

 幼い顔を見て少し不憫に思う、自分の娘と同じくらいの年頃だ。


 「次の転生に期待しな・・・今生は運がなかったな」

 

 バンの扉が閉じられた。


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