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ノスフェラトゥ

 リーベン共和国から遥か西へ海を渡り、幾つもの山を超えた不毛の大地に魔呪術宗教を信仰する土地がある。

 ノスフェラトゥ教団の歴史は古い。


 乾いた砂漠と、僅かに流れる川は切り立つ深い断崖の底を流れ、地上の生き物を拒み近づかせることを拒む。

 人々は数少ないオアシスの周囲に街を作った、砂地で作物は育たず、獲物となる生物も少ない、家屋を作るための資材もない。

 そんな貧しいはずの地に、突然岩を積み上げた城を中心にした街が現れる。

 僅かな水を独占する。

 

 街そのものがノスフェラトゥ教団だ、主な産業は麻薬ビジネス。

 砂漠から算出される鉱石を原料にMDMA(合成麻薬)を精製することを生業にして発展してきた。

 

 「マフィア・デッド・カドゥーナから返事はまだ来ないのか」

 「はい、入荷予定はあるとだけです、出荷予定日の連絡はありません」

 砂漠の夜は寒い、厚い岩を積んだ室内にも冷気が入り込んで来る、円形卓を囲んだ教団幹部は黒いマントに魔族の角を模した兜を被る、その額には角の生えたドクロのマークが刻まれている。

 円卓を六人の魔人が囲む。

 「まもなく次の月蝕、各国の要人信徒が集まる、今回は贄は極上で無ければならない、有色の贄など捧げることは許されない」

 「既に信徒の皆様より多大なお布施が届いております」

 「イブの生産にも支障をきたしております、早急に調達しなければなりません」

 「年々入荷する竜子は品質の低下は言うまでも無く、その数は激減しています」

 「我がノスフェラトゥ教団の他にも竜子を贄とする宗教集団は数多く存在し、竜子の乱獲、資源の枯渇を招いています」

 「MDMAの生産、教団の維持のためにも竜子は絶対に確保しなければならない」

 「近辺の竜子は狩り尽くした、もはや国外にある芽を摘まなければならないとは嘆かわしい限り」

 「とにかくテッド・カドゥーナに急がせろ、金は惜しむな!」

 月の蝕の宴、魔神が地に降り、捧げられた贄を杯に不死の力を満たす儀式。

 その血肉を得た者は、その量に応じて若さと寿命を得る。

 欲深き快楽の奴隷となった亡者どもが集う宴が迫っていた。


 暗い海に一筋の白い航跡を描いて一隻の潜水艦が奔る。

 リーベン国海軍が運用する巨大潜水艦伊888号、主砲に105mm砲一門、魚雷管6門、3式水上戦闘機を3機格納している。

 潜水深度三百メートル、最大洋上速力三十ノット、葉巻型ではなく洋上航行を得意とするキール型。

 純粋な潜水艦というより潜ることも出来る戦艦だ。

 「艦長、本国内閣情報調査室より入電、サガルサクラ03、サガルサクラ03です」

 「ゼロサン、まったく内調の言いなりとは情けない」

 「航海長、目標海域までの到達時間は?」

 「ぶっ通しでギリです」

 「ニシ長官も無理を言いますね」

 「ああ、だが間に合わない時間ではないところが余計に癪に触る」

 「まったくです、全て見通されているようで気味が悪い」

 「今回の作戦、陸軍のリオ・アイゼン大佐も加わっていると聞きます」

 「噂に聞くチーム・ラブトル、猛禽の爪か」

 「海軍のパイロット連中も訓練でアグレッサー(仮想的)部隊として相手をした者も多いです」

 「戦績はどうだ?」

 「はははっ、相手は狭い山岳渓谷で強風の中、デイァボロス相手に格闘戦の経験を積んだ猛者ばかり、遮蔽物のない海の上を飛んでいる者とでは飛行限界が違います」

 「つまり!?」

 「勝負にならないと言うことです」

 「訓練に参加した者が自信を失うから辞めた方がいいんじゃないかていう議論もあるほどです」

 「くっくっ、身の程を知ることはいいことだ、我が艦のパイロットは優秀になった」

 「はい、チーム・ラプトルの訓練の後は顔が変わりました」

 「良し、ニシ長官の予想の上を行ってやろうじゃないか、海軍魂を見せてやれ」

 「メインタンクブロー、最大戦速!」 

 

 全長二百メートル、一万四千馬力が静かな水面を切り裂いて行くのを月明かりが照らしていた。


 ウルヴァ部隊とはマフィア・テッド・カドゥーナ専属の傭兵部隊、その多くは元軍人くずれの戦闘狂、軍の規律になじめず落ちこぼれたならず者の性格が強いが馬鹿ではない、召集がない限り一般人に溶け込み姿を隠している。

 ならず者ではあってもキレやすいチンピラではない、昼間から酒をあおり、女を追いかける、まして薬に溺れている者はいない。

 ほとんど隊員が毎朝スーツを着てダミーとして出勤する、出勤先はウルヴァ部隊専用のトレーニング施設。

 人里離れた山奥には実弾演習場も持っていた、少なくとも週に一回は引金を引いている。


 しかし、能力を有すればそれを使いたいのが人間であり、仕事は荒っぽくやたらと殺したがる。

 兵士としてはいいが犯罪者としては素人だ。

 マルス率いる警備は武力において劣るが証拠の隠蔽や隠密性においてはプロである、同様の業務に相反する業務スタイルがあり衝突を招いていた。

 

 フッジャのトレーラーに警備班リーダー・マルスとウルヴァ部隊・ラーテルが同席し内調セーフテハウス襲撃の計画を話し合っていた。

 「それで、場所の特定は出来たのか?」

 「はい、旧ノルマン自治区にある水力発電所方面とのことです」

 「方面?正確な位置は掴めないのか」

 「はい、奴らが乗っていったVTOL機はバナマ運河の車庫にあり、そこからの行方が不明です」

 「話にならん、なぜ女三人の行方をつかめんのだ、105基地の幹部を拉致して吐かせれば良いだろう」

 「旦那はリーベン国陸軍と全面戦争するつもりなのか?それで勝てると!」

 やはり手段が違いすぎる二班は意見の相違が多きい。

 「まて、両班ともターゲットとは違うが襲撃場所は一緒だと思われる、タイムテーブルは合わせて行動することが必要だ」

 フッジャが重い口を開く。

 「御意」

 「恐らくこれは罠だ、ターゲットを分散させずに集めたのにも意図を感じる」

 「ターゲットが偽物の可能性があると?」

 「基地の犬からBDが出撃したのは確認されている、戻ってもいないようだ、ブレスガンの方は正直怪しい」

 「喋る鳥が隠しているかもしれん」

 「対象となる家屋は複数ある、両班のチームを混合して襲撃チームを組織したまえ、チームリーダーは半々だ」

 「意義ありません」

 「私も賛成です」


 「よろしい、それでは出撃する」

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