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覚醒の真実

神獣ダーラニーとブレスガンの保護が目的、エネミー対象となるのはナジリス諜報部と国内マフィア・テッド・カドゥーナだ。

 攻撃予想期間は不明だが、国内の潜伏先が判明次第、軍も動員して火力制圧する、追い詰めれば必ず尻尾を出す。

 いわば神獣を的にした囮作戦だ。

 セーフハウスはダミー化した倉庫を入り口にした地下施設だ、3LDKほどの一般居住施設と隔壁で守られた武器庫、通信室が組み込まれたセキュリティールームがある。

 ダーラニーは隔離するより安全に緊急脱出できる事が重要だ、サガル神山の頂きまで飛ぶことのできる神獣を隔離しておく意味は無い。


 「ダーラニー様、私たちはいつまでここにいれば良いのでしょうか?」

 「どうでしょう、僕にも分かりませんね」

 「護衛要員は私たちだけなのですか?」

 「周囲にたくさんいるね、姿を見せないだけだね」

 「みなさん、食事や雨風はどうするのでしょう、外はまだ寒いでしょうに」

 リンダが外の様子を伺い心配する。

 「女の子は優しいね、外にいるのはプロばかりだね、心配はいらないね」

 「このハウス内にも配置した方がいいと思います、最終防衛が私たちでは力不足です」

 無表情なフェイリーから不安や恐れは感じない。

 「僕は本来逃げ回る必要はないね、ニシの頼みだから此処にいるね、こんな狭い場所にむさ苦しい男といるなんてご免だね」

 「僕の傍にいていいのは、君たちのようなかわいい女の子だけだね」

 「まあ、かわいいだなんて!」

 「僕は面食いだからね」

 「じゃあ、私たちの役目は何なのでしょうか?」

 「僕のお喋り相手だね」

 「おかしいです」

 フェイレりーが流石に訝しむ。

 「なっ、なにが?」

 ギクリとステラが振り返った。

 「お喋りなら私は不適当な人選です、リリィ少佐らしくありません」

 「いやぁ、だってブレスガン移送のための護衛もあったわけだし当然だと思うよ」

 「なるほど、では私は歩哨として警戒任務にあたります、ダーラニー様は二人にお願いいたします」

 敬礼すると踵を返してリビングを出て行ってしまった。

 残されたのは二人と神獣。

 「予想どおりだね」

 「仕方ありません、でも・・・きっと取り戻せます」

 「ステラさん・・・貴方は覚醒者ですね」

 「ええ!そうなの!」

 リンダが驚いて見返したステラは少し照れたように頷いた。

 「ダーラニー様に嘘はつけません、その通りです」

 「教練校時代は覚醒していなかったよね!?」

 「うん、その後、フェイリーと出会った時に見えちゃった」

 「フェイリーはソウルメイトだったのね」

 「そう、大切な人だった」

 ステラもダーラニーの既視感はないようだった。

 「恋人か何かだったの?」

 「いいえ、どんな関係だったのかは解らないの、でも私は最後までやり遂げることが出来なかった、強い後悔だけが見えるの」

 「私は何かを失敗して大事な物を失った」

 「辛い記憶を見たね、自然覚醒は危険だね」

 

 自然覚醒で見える記憶の海は美しく優しい記憶だけではない、むしろ辛く悲しい別離や後悔を見せる、その喪失感に精神を病む者も多い。

 過ぎ去った時は取り戻すことは出来ない。

 覚醒教練はそうならないために少しずつ覚醒を進める、有益な記憶だけを見ることが出来るように慎重に行う。

 人の心は身体以上に脆い、無理に覚醒させようとはしない。


 覚醒は心身に降りかかるデメリットは生涯覚醒者を苦しめる、覚醒訓練は覚醒させることを目的としていない、しかし、社会での優位性は間違いなく学生は競争の中で覚醒を目指してしまう。


 リリィやニシ、ステラのようにソウルメイトとの接触により覚醒することは奇跡の確率であり、比較的穏やかな覚醒であることが多い、しかしオックスやローレル、エイラたちに幼少期に限界を超えた悲劇に襲われた時に起こる覚醒は心身に重大な問題を引き起こすことがある、オックスたちにはエゾという育ての親がいた、その父のお陰で今がある。

 

 入り口ホールの灯りを消した部屋にフェイリーは一人立つ、薄く開けたカーテンの隙間から外の様子を伺う。

 チヒロの気配はまだ感じる、何処からか見ていてくれる。

 警戒のための歩哨は半分は嘘だ、この視線を感じていたかった。

 

 この既視感の正体を知りたい、もう一度チヒロに会えば解るだろうか。

 消しさるだけの人生だった、自分を、呪いを消し去りたい、唯一の願いだった。


 今は少し違う。

 寄り添ってくれる仲間たちを傷つけたくない、自分が簡単に命を捨てることは仲間たちを苦しめるだろう、それは理解している。

 自分のために誰かが犠牲になっていく姿を見てきた。

 あの暗い檻の中、次々に売られていく子供は帰ってくることは無かった。

 

 (お前は商品価値が高い、まだ売らない、安い奴から殺されるのさ)

(助けて)と懇願する声、季節のない檻の中で何人の同胞を見送ったのだろう。

 助けに来たという男、父だと言った。

 私たちを助け、代わりに命を落とした。

 捨てておけば、忘れてくれれば死なずに済んだかも知れない。 

 自分の存在自体が負だった。


 でも。

 でも、少しは役に立てただろうか、誰かを手助け出来ただろうか。

 ライダーの娘たち、基地の人たち。 

 (ありがとう)と言ってくれた。

 涙が湧き上がる、忘れていた感情が涙を流させる。

 

 (共に戦え)

チヒロに会ったなら、その意味が分かるかもしれない。

 呪いを道連れにするのはそれからにしようと思う。


 コーンスネークと呼ばれた不気味な少女の匂いの正体は死臭、今微動せずに無表情な視線を外に向ける薄暗い部屋に立つ白磁の像のようなフェイリー。

 白磁から漂う死臭は薄らぎ、足跡のない平原に降り積もる雪の匂いを感じる。


 春はまだ遠い。


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