アイドル
国立生物学教室にダーラニーとローレルのカカポ機は同時に飛来した。
山脈を出たところでローレルは高空を飛来してくるダーラニーに気が付いた、一瞬ディアポロスかと緊張したが光を受けて輝く青は間違いようはない、大きく7手を振って合図すると、すぐに降下してきて声をけてくる。
「やあ、ローレル、久しぶりだね、すっかりお姉さんだね」
「ダーラニー様もご健壮でなによりです」
「ひょっとすると目的地は同じかな」
「私はオックス姉さんのところです」
「同じだね、ローレルと一緒はありがたいね、ディアボロスと間違われないか心配だったね」
「リーベンの国民はダーラニー様とディアボロスを間違えたりしませんよ」
「高射砲で撃たれたら、間違いなくバラバラになっちゃうからね、怖いね」
「早く戦争が終われば良いのですが」
「そうだね、早く平和になるといいね」
国立生物学教室は閉鎖され、付近の道路も規制がされている、国賓扱いだ。
ダーラニーが街に降りるとの情報を得て、候補は二か所、ここ国立生物学教室かシャトー・ガイラの城どちらかだろうとニシは言った。
R293陸軍航空隊の哨戒レーダーがダーラニーを捉えた時点でテロや敵成国家諜報員の潜入を阻止する意味で規制線が張られていた。
校内に設置された専用鳥居にダーラニーが降り立つのとニシ長官の到着も同時だった。
意図せずダーラニーの護衛も兼ねたローレルもカカポ機を脇に降ろす。
「ダーラニー、久しぶりだな、足は大丈夫か」
「やあニシ、ありがとう、足はすっかり元通りだね」
「チヒロから概要は聞いている」
「話が早いね」
「ローレルも護衛ご苦労さん、リリィ少佐の発令か」
「ニシ長官、偶然です、私は別件で参りました」
「そうなのか」
「ダーラニー様ぁー!!」
学舎からホットポンツに白衣の女性が走ってくる、オックス・デルナシエ教授だ。
これ以上ない笑顔の全力疾走、よほど嬉しいと見える。
「姉さん!危ない、転ぶよ!」
言ってるそばから躓いてバランスを崩す。
「あっ!だっ、たっ、たっ、たっ!」
ドフンッ
最後はダーラニーのモフモフのお腹に飛び込んで止まる。
「やあ、オックス、元気そうだね」
「わうっ、ごっ御免なさい、ダーラニー様!」
「もう、しっかりしなよ、オックス姉、教授なんだから生徒に笑われるよ」
「あれっ、ローレル何でいるの?」
構外の様子が騒がしい、近所の住民がダーラニーの来訪を目撃したのだろう、国民のアイドルでもある神獣を一目拝もうと集まってきているのだ。
再会の挨拶もそこそこにニシたちは学舎、鳥類研究棟の会議室に場所を移した。
「懐かしい場所だね、嬉しい思い出も悲しい思い出もあるところだね」
ダーラニーがディアボロスに襲われ怪我をした際に一時入院していた部屋だ。
「もう十年になるのだな、早いものだ」
「今日はチヒロはいないのかい?」
「ああ、天空の神殿の件でリオの所へ行ってもらった」
「そうか、また面倒を掛けるかもしれないね」
「面倒だなんて、我々はダーラニー様と共にあります」
ケツァルの神官でもあるオックスはダーラニーを潤んだ目で見つめている。
「我々リーベン国はブレスガンの入手はしない、しかしナジリスに黙って渡すわけにはいかん、天空の神殿防衛のためにリオたちの新型機が敵偵察機を高度一万で迎撃する」
「ブレスガンは究極兵器になりうる危険な武器だね、でも入手は不可能、今はあの山にもないね」
「どこかに隠したのだな」
「そう、神獣仲間に預けたね、今どこにいるかは僕も知らないね」
「神獣仲間?」
「そう、寂しい人、帰らない人たちを待っている」
「安全な場所にあるのだな、信じるよ」
「ニシたちならそう言ってくれると思っていたよ」
ローレルがカカポ機から降ろしてきたアタッシュケースを台の上で開く。
中には羽根蟻の死骸が入っている、鏡の外郭で一瞬何が居るのかは分からなかった。
「ダーラニー様、オックス姉、これがなんだか分かりますか?」
「何だこれは?虫か?」
「先日105基地を襲った魔物です、口にある吸血針で生き物の中身を溶かして吸い取ります、隊に少なからず死傷者がでました」
「羽根蟻ということは飛ぶのか?」
「はい、襲撃が夕方だったため、目視しにくく迎撃が遅れました」
「知っているね、これは魔の吸血蟻イザナギ、迷宮の住人」
「蟻で羽根があるということは分蜂ですね」
「多分そうだね、新たな女王蟻が誕生したんだね、古い女王が部下を連れて新たな土地へ移っていくんだね」
「分蜂?新たな土地に行けばまた地下に戻るのか」
「そうだね、こいつらの主食は赤い琥珀石、でもサガル神山樹海に伸びる魔笹が結実したらそれも食べる、大発生して大災害が起きるね」
「それはどのくらいの頻度で起きるのだ?」
「千年、前回は五百年くらい前だね」
「そうか、五百・・・??」
「ダーラニー、まさかお前そこにいたのか?」
「僕の生まれた年だからね」
「!!!」
全員の視線が神獣に注がれたまま固まった、五百歳、神獣とはやはり神なのだ。
「驚かしたかな、でもまだ魔笹の大開花は起こらないね、ちょっと安心ね」
「それから、蟻を餌にする赤とか青のニョロニョロも迷宮にはたくさんいるよ、振動に寄ってくるから、よほど必要が無ければ人は入らない方がいいね、僕も身体大きすぎて通れないけどね」
「ナジリスの対空戦車が迷宮を通ってやってきている、銃で倒せるのなら全滅させられてるのじゃないか」
「私もそうだけど神獣、魔獣といえど不死身じゃない、銃で殺せない生物はいないと思う、でも数が多すぎる、海の砂を撃つようなものだね、やがて埋もれるね」
「じゃあ、ケーリアンは・・・」
「恐らく食われたね」
「僕からもお願いがあるね」
「聞こう」
「今、この部屋に集いし皆は覚醒者、記憶の海を覗く魂を持つ者、僕も皆と同じ、大切な記憶が見える」
「僕にとって大切な人族の魂が近くにいるね、僕では守り切れない」
「俺たちが知る人物か?」
「そうね、彼等の名前は・・・」




