ダーラニー
ゴルジュ帯(切り立った狭い渓谷)の狭い渓谷を抜けるとガンガラシバナが目の前だ、岩に手を掛けて急な崖を登る。
「おっさん、大丈夫か!?」
「考古学者とは探検家でもありますから、この程度は朝飯前です」
「言うねぇ、心配はいらなさそうだ」
フェイリーが数秒で飛んだガンガラシバナの崖を数時間かけて登る、静かな風が若草の香りを運ぶ、硝煙の匂いもここまでは届かない。
上部から幾筋もの沢が滝となって流れ落ちている、迂回しながらルートを探しながら慎重に登る。
(何かに見られている気がする・・・)
ジャックも山の異変に気付いているようだ、頻繁に首を巡らせている。
生き物の気配がないのに殺気が蔓延している、明るい外にいるのに洞窟の中にいるような感覚。
「チヒロさん!なにかおかしい、急ぎましょう!」
「あんたもそう思うか!」
「はい!銃口を額に当てられているような・・・狙撃手!?」
「あり得なくはない!急ごう」
ザアアアッ バサッバサッ
黒い影が二人の頭上を通り過ぎる。
「なんだ!?」
大きな翼が高空へ駆け上がっていく、戦闘機並みの上昇力だ。
「まさか、ディアボロス!魔の黒鳥か!?」
「まずいです、ディアボロスに狙われたら生還不可能です」
「とりあえず身を隠そう!」
岩の裂け目がある、内部に通じていそうだ、迷路に入れるかもしれない。
土だらけになるのも構わず狭い穴に身体を捻り込む。
ボコッ 洞窟の天井に穴が空いて二人は転がり落ちた。
「痛たた!」
「大丈夫か!?どうやら迷宮の端っこに転がり込んだようだな」
ハンドライトを点灯すると暗闇に急坂となっている洞窟が伸びている、方向的には神殿跡の方角だ。
「行ってみるしかないだろうな」
「迷宮の魔物がいつ出てきてもおかしくありません、ご注意を!」
ジャックが腰のジャングルナイフを抜く、チヒロは45ACP弾M1911ハンドキャノンをホルスターから抜くとスライドを引いて初弾を送る。
「ジャックさん、迷宮の魔物ってのはなんなんだ?」
「私も数度出会っただけですが複数の種類がいるようです、共通しているのはどいつも凶暴で攻撃的だってことです」
「やっぱりね、そうだろうと思ったよ」
「深度の浅い所には小さい蟻みたいなのが多いです、あいつらは外郭が鏡のようで見えません、音に気をつけてください」
冥界の神殿を数世紀に渡り支えてきた巨大な竜の化石は、風化によりその天井を半分落としていた、その胴体から長く伸びた首は土砂に埋まり頭の部分となる神殿は伺うことが出来ない、古文書によればブレスガンは竜の息吹を人が扱えるようにした物だという。
ドラゴンブレスがいかなる物なのか現世代の人間たちは知らない、それは使い方によっては核兵器を越える威力を持つことになる。
しかし本来は神獣ケツァルを産み出したように命を育む物、生命の源。
ブレスの化石、それはサガル神山から出土される青と赤の琥珀石、この山は遥か古代、ドラゴンたちの墓所、幾世代にも渡り繁栄を極めた種族の屍が葬られた聖なる山。
それがサガル神山。
キィシャシャシャッ ギイイイッ ガッ キィキキキキッ
バシャアッ ザザザザッ バシューッ
神殿跡の砂地で何かが戦っている気配が伝わってくる、命を掛けた激しい闘争。
「何がいる!?何が争っているんだ?」
チヒロが洞窟の影から覗くと、そこにはのたうつ複数の赤い鱗の巨大ミミズ、その周りにはギラギラと光りを反射する小型犬くらいの羽根蟻が飛び回っている。
「飛んでいる?蟻に羽根がある!」
ジャックが驚きのあまり声が大きくなった。
「おい!声がでかいよ、静かに!」
「す、すいません、つい・・・でも蟻の魔物が飛んでいるなんて初めて見ました」
戦いは巨大ミミズが劣勢だ、数百匹の蟻にたかられて内容物を溶かされ吸われていく、砂地には吸われ尽くされ皮だけとなった抜け殻がその重さを失っている。
限りなく湧き出ると思っていた巨大ミミズが次第にその姿を消していく。
同時に食欲を満たしきれない蟻たちの意識がチヒロたちを捉え始める。
「まずい!こっちに気付きやがった!」
チヒロは躊躇せずにハンドキャノンをショットガンに持ち替え銃撃する。
ガオンッ ジャコッ ガオンッ 速射!連射 数匹が吹き飛ぶ!
「くそっ!これが相手ならバードショット弾にしとくんだった!」
バードショットは内包する弾数が多い分威力は低いが広範囲を殲滅出来る。
発射音に蟻たちの殺気が一気に集まる。
「くっ!!」
一斉に来られたら対処できない、もう一度通路を戻ろうとした時!
「耳を塞いだ方がいいね」
虫の金切り声と銃声が響く中でもはっきりと通る声が外から聞こえた。
「!!」
振り向いた先、神殿の外に大きな鳥が翼を広げている、青く美しい羽根に金の冠。
「今のは!?」
鳥の喉が一瞬で大きく膨らむ。
反射的に二人は耳を両手で隠した。
コアッオオオオオオオッー 巨大な音の津波、見えざる波動が音速の早さで蟻を撃った。 バシュッ バババシュッ
蟻たちが頭から血を吹き出して潰れていく。
一瞬の出来事、青く巨大な鳥が羽根蟻を全滅させた。
最初の声を信用して耳をカバーしていなければ確実にダメージを負っていたかもしれない。
「ソニックウェポン!!あれはまさか!?」
「ダーラニー様ではありませんか!」
「平気だったかな?私の声攻撃は方向を指定出来るけど周囲にいれば多少の影響は避けられないからね」
ケツァルの王、神獣の王、ケツァル信仰の生神、人語を自在に操る。
「大丈夫、出てきていいよ、蟻はいないね」
「俺たちに言っているのか?」
「他には誰もいないね、だから人族の共通語で話しているね」
神殿跡に繋がる洞窟から空の下へ出る、ダーラニーの前に銃を持っては立てない、安全装置を掛けてホルスターに仕舞う、ジャックもナイフを鞘に収めた。
サガル神山の遥か高く、天空に住まうという神獣は滅多に人の前に姿を表わさない。
「おや、貴方は・・・ジェイに似ているね、もしかして近親者?」
「兄を知っているのか?」
「直接は知らない、でも写真は見たね、私の恩人の一人だね」
「自分はチヒロ・ハマダ、ジェイ・ハマダの弟です」
「なんと、暫く振りに下界こ降りてみれば、この出会いは運命でしょうか」
「なぜダーラニー様はこの場所に?」
「忠告だね」
「!?」
ダーラニーの声が女神官から真実の声に変わる。
「ナジリス兵たちが探し回っていたのはブレスガンと呼ばれた古代文明の遺物、貴方たちも同じかな」
「そうだ、それが何で何処にあるのか知っているのですか?」
「おやめなさい、あれは世界を破滅に導く呪具、知るべきではない」




