壊滅するウニモグ隊
ナジリス側の穴からウニモグ五台に資材を積んで迷宮に侵入して三日、予定のルートが消えていた。
「またかよ、全然あてになんねぇな」
運転手がぼやいた。
「おかしいな、前回通ったときは通じていたのに塞がっている、崩落したのか?」
崩落でない事は誰が見ても明白だ、きちんと組まれた石積みには意思がある、決して通さないと拒んでいる。
「リーベン側の破壊工作じゃないのか」
「それは考えられるが、しかしこれを見てみろ」
ウニモグのライトが照らした石積みは爆破して出来たものではない、まるで職人が一つ一つ手積みしたように隙間なく積まれている。
こんな石垣を作る時間があるはずがない」
「確かにそうだ、妙だな、自然に出来た物じゃないよな、じゃ誰がやったんだ?」
「誰?誰ではない"何か"かもしれん」
「報告にあったUMA(未確認生物)だというのか、ビビッて逃げ帰ってきた連中の言い訳だと思っていたが」
「案外、間違いじゃないかもしれん」
「報告にあったのは赤鱗の巨大蛇だ、蛇に石は積めないだろ」
きっちりと隙間なく積まれた石積みは通路を数十メートル奥まで塞いでいる。
「どうする、また別なルートを探すか」
「いや、戻ろう、このままでは資材で積んきた燃料を食いつぶすだけだ、意味がない」
「俺も同意見だ」
ウニモグ隊は反転するとナジリス側へ引き返した。
数時間進んだところでまたもや停車する。
先頭にいたウニモグの運転席から驚きの悲鳴が上がった。
通ってきた道が半分ほど埋まり消えている、その証の轍が石垣に埋もれていた。
石を積んでいた何かの正体、ウニモグのライトに反射する赤い目が不気味に蠢いている。
キィキキキキキキキッ
神経を逆撫でする狂女の金切声が狭い通路に響き渡った。
ビタッ 子犬ほどもある虫がフロントガラスにたかる、その腹のジャバラ模様が悪魔の笑顔に見えた。
「ひぃやああああああっ」
先頭の車両が恐怖のあまりバックギアでアクセルを踏み込む。
ガッシャアアッンッ 玉突きで衝突すると後続のフロントガラスが次々に砕け散った。
「あ痛つつつっ、なにやってんだ!!馬鹿野郎!」
むち打ちになる程の衝撃に首を抑えた運転席にいた男の顔が消えた、同時に悲鳴。
「ぎゃああああっ」
「なんだ!!なにかいるのか!?」
顔だけが消えていた運転手の身体の部位が次々に消えていく。
ガサガサッと蠢く気配がはっきりと分かる、室内灯に異様に赤い光が反射していた。
「ばっ、化け物だぁ!!」
運転手が見る間に薄く萎んでいく、既に悲鳴はない。
「ひぃやぁああっ」
慌てて外へ出ると後続車のドアを開け放ち乗り込もうとするが間に合わない、大群で押し寄せる何かに後続車は飲み込まれていく。
暗い洞窟にユラユラとウニモグのライトが揺れる、その揺れが収まった時、そこに生命は存在しなくなっている。
そしてバッテリーが切れるまで暗闇を照らし続けたライトは弱くなり、やがて点滅を繰り返し、その間隔を長くする。
闇が支配を取り戻し、本来の住人たちが仕事を始める。
生と死、進化と淘汰の戦い、他者の関与を廃絶しながら繰り返される。
迷宮の神は人類を招待していない。
ナジリスから迷路に入った兵士の帰還は少なく、ナジリス軍でもその運用に疑問符が付き始めた時だった、迷路進出のための前線基地が謎のUMA(未確認生物)に襲われた。
サガル神山の反対側、リーベン共和国第105補給基地が襲われたと同時刻、その羽根を持った何かは迷宮の洞穴から湧き出すように空中に飛び出した。
見えない蟻は羽音だけを響かせて基地の兵士を襲い、その血と肉、骨までも溶かして吸い尽くし残ったのは穴だらけの服と皮だけとなった人型の紙だけだ。
蜂の巣をつついた時の様に洞穴から羽根蟻が飛び出していく、その数は105基地を襲った蟻軍の数百倍、数千倍の数だ。
ザアアアッ ザアアアアアッ
月明かり夜空を黒く染めた蟻軍は細長く集まり空中に巨大な蛇を描きながらサガル神山に連なるナジリスの山に消えていった。
チーム・ラプトルの精密爆撃は洞窟のことごとくを塞いでいる、チヒロとジャックは五キロ下流のガンガラシバナの中腹にある神殿跡を目指した、ブレスガンの痕跡を探るためだ。
ナジリス軍兵士の遺体が放置されていた状況や掘削の跡から敵はブレスガンの入手には至っていないと判断した、赤鱗の蛇に阻まれて一時的に撤退したと考えられるが諦めはしないだろう。
新兵器となりえる遺物を易々と敵にくれてやるわけにはいかない、チヒロはジャックの協力を得て、まずは中腹の神殿を調査に着手したのだ。
「おっさん、付き合わせて悪いな」
「いやいや、私にとっても願ったりです、古代遺物の調査が私の仕事ですから」
「洞窟内にはまだ敵兵が残っているかもしれない、危険は覚悟してくれ」
「ご心配なく、私も一応予備役兵です、訓練は受けています」
「心配なのは敵兵よりも赤鱗の蛇の方かもしれません、ナジリス軍も機関銃等の装備はあったはず、でも多数の死者を出して諦めた」
「9mm弾では通用しない相手と想定しの装備がこれだ」
チヒロが背中に担いでいるのはM870ショットガン、弾は12番ゲージのスラッグ弾(単発弾)の鉛弾。
近距離が予想される、精密性、貫通力より打撃と内部破壊目的の選択だ。
拳銃も9mmではなく45ACP弾を使用するM1911ハンドキャノンを装備する、こちらも亜音速の重い弾丸でストッピングパワー重視の選択。
ジャックは腰にジャングルソードを下げている。
山脈の斜面をガンガラシバナへ向けて登っていく、見下ろす遥か下に渓谷が見える。
ウィングスーツだけで飛んだフェイリーに、この渓谷はどんな景色に映っていたのだろう。
高さだけで足が竦む、それどころか20mm機関砲に狙われていた状況で景色を見ている余裕などあるはずはない、なにが彼女にそこまでのことをさせるのだろう、表情のないその顔の奥にある感情を想う。
「フェイリー、お前は凄いな」
チヒロが見上げたガンガラシバナの突端は遥か高く天を突いていた。




