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呪いの始まり

 結局その後二人に輸血した。

 三人分の輸血量は全血液量の半分に相当する、人の血液量は四から五リットル、一リットルを失えば命の危険がある。

 その限界はとっくに越えていたが魔族の身体が失った分を取り戻すため奔走する、代謝を加速させて骨肉を血に変える。

 輸血分を自身の身体を削り創り出した。

 

 「呪いの・・・影響は・・・?」

 「ない!三人とも無事だ、助けた!お前の血が助けた」

 「そうか・・・」


 乾いた唇と落ちくぼんだ目のフェイリーが確かに笑った、微笑ではあったが安堵の笑顔。 

 「よかった・・・よかった」

 笑ったまま目を閉じる。

 「フェイリー!!」

 ステラとリンダが慌てて手を取った。

 「大丈夫、寝ただけだ」

 「えっ、そうなの!?」

 「点滴するぞ、水分が足りないんだ」

 

 フェイリーの消えた記憶、呪いの始まり。

 感情を取り戻すことはその記憶を呼び起こすこと。

 その白すぎる肌と背中の虹色の鱗、その血は傷を直し、その肉を食した者は不治を授かる狂信的な宗教がある。

 魔呪術信仰、遥か古代に絶滅した魔人族の血を取り込み、永遠の命を得る。

 鱗を持つ子は竜の化身、その中でも白き肌を持つ者は最上の生け贄とされる。

 

 竜子狩り、魔呪術師たちに取って白の竜子は垂涎の的、闇の市場価格は莫大な金額になる、需要があれば供給する者が現れる。

 文化未開の地ならではの迷信、先進国ではあり得ないが実際に市場があり組織がある。

 その組織は文化未開の国ではなく先進国の中にあった。


 「本当にこんなとこに居るって言うのか」

 「情報屋の話じゃ上物らしい、向こうも売値と紹介料は比例するからな、いい加減な情報はよこさない」

 「この辺境で竜子の話は聞いたことないぜ、見間違いじゃないか」

 「最近越してきたって話だ、信憑性は高いと見たね」

 「両親は一緒にいるのか」

 「親に商品価値はねえよ、見られたら確実に殺す」

 サイレンサー付の拳銃を手にしている。

 「おっかないねぇ、マンハンターさんは」

 「一攫千金、商売繁盛ってね」


 錆びれた集落の端、山陰に人目を忍ぶように一軒だけ小さなあばら家が建っている。

 庭先の畑は耕さてはいるが、撒かれた植物の芽は小さい、最近撒いたばかりなのが伺える。

 フェイリルの両親は竜子狩りを恐れて一年と定住せずに南の文明国、リーベン共和国を目指して借家を転々としていた。

 母は持病があり、夏と冬の厳しい季節の旅は出来なかった。

 二人とも元をたどれば今は没落して影もないが由緒あるフォン・バーデミリオン家、貴族の末裔。


 「良い物件が見つかって良かったな」

 「ごめんなさい、あなた、私がこんな風でなければ・・・」

 「なあに、各地を見て回れた方が旅行としても楽しいだろ」

 父親は大きく強く、古いが単発銃の扱いにも長けていて害獣駆除や護衛、用心棒と仕事は見つけられていた。

 フェイリルは三歳になったばかり、臆病で大人しく母の傍を離れない子供だった。

 普段は偽装のため白金の髪も黒く染め、白すぎる肌もブラウンのファンデーシンで塗りつぶしている。

 旅先では帽子を欠かさず人目に触れぬように注意をはらっていたが、庭先で遊ぶ姿や、母親の往診に来た医師、近所付き合いの中で、なかなか姿も見せない口も利くことの無い少女に目聡く違和感を覚える者もいた。


 その日マンハンターは父親が仕事で出かけるのを待って、昼食で村の畑からも人が消える正午を狙い行動を起こした。

 小さなトラックに偽装した檻付きの四輪駆動車、あばら家近くの森までやって来ると狩猟者を装い粗末な玄関を叩いた。


 その手には殺意に満ちたハンマーと銃が握られていた。


 夕刻、仕事から帰った父親が見たのは鈍器で頭部を殴られて血の床に倒れていた妻の姿、既に息は無かった。

 フェイリーもいない。

 何があったのか直ぐに察しはついた、竜子であるフェイリーをマンハンターが攫って行ったに違いない。

 最愛の妻を床からベッドへ運び、両手を組ませて血で濡れた顔を拭いてシーツを被せる。

 泣いている暇はない、妻が愛した娘が攫われた。


 復讐の鬼と化した男はマンハンターの痕跡を辿り、山を越え街を越え、国を越えた。

 闇に潜む組織を一つずつ襲い、情報を集め、関係者を嬲り殺した。

 数十人を殺し、最後に買ったマフィアを突き止めるまでに三年を要した。

 三歳だったフェイリーは七歳になろうとしてた、魔呪術では生贄の血肉を食べる、人肉食、カニバリズムのために小さいと商品価値が下がる、幽閉して成長を待つのも常套だった。

 

 単身でマフィアの城に乗り込んだ父親は中にいたボスと、その家族、手下も含めて百人以上を惨殺した。

 その中には女子供含まれている、復讐の鬼と化した父親は非情の魔人に変貌しその人生を閉じた。


 リーベン国内閣情報調査室が人身売買の情報を確定させ、城に強硬突入を実施したときには既に城は死者の山が出来上がっていた。

 地下にある檻には複数の竜子が囚われていた、一塊に身を寄せ合っていた竜子たちの真ん中に、子供たちを抱く様にして父親は死んでいた。

 複数の銃弾を受け、体中の血を流しつくし項垂れた男の顔には、以外にもはっきりと笑みが浮かんでいた。


 竜子として囚われていた子供は五人、内女子は三人、皆白金の髪を持っている、実子のフェアリーの顔は分かっただろうか。

 子供たちはマフィアによって逃げられないようにベータロインまで打たれていた様子があったが中毒にはなっていない、耐性があるのかもしれない。

 竜子の五人は命を捨てて助けに来てくれた魔人の男となかなか離れようとはしなかった。

 最後の別れの時、五人全員が男の頬を寄せて囁いた。


 「ありがとう、お父さん」

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