神の声
ローレルを先頭に三角編隊で渓谷を縫うように飛ぶ。
速いだけでは進路を予測される、上下左右、速度を不規則に変える、打合せなどない、先頭に合わせる後方の技量が重要だ。
先頭を飛ぶローレルには敵の殺意が放たれた曳光弾のように伸びているのが分る。
自分に向けられた殺意に悪寒が奔る。
そのカーブを抜けた先から殺意が始まっている。
「少佐!その先の右コーナーにいます!」
「ケーリアンか!?」
「いえ、歩兵だけだと思います」
「やはりケーリアンはレゾリュー下に配置したか、一台だけなら良いのだが」
「フェイリー、今の時間は?」
チヒロの時計に視線を送る。
「航空爆撃十五分前!牽制作戦開始定刻です」
「生き残れ!取っておきを開けてやる」
「それは楽しみです、一本では済みませんよ」
「破産は覚悟しておこう!」
「行くぞ!!」
「はい!」「了解!」
カァァアアアアアアァァァアッ 三機の全開音が木霊する。
バアオオオオオッ 銃を構えるナジリス兵の正面をローレル機が全開で加速しながら通過する。
(逃げなさい!!そこにいると死ぬわよ!)
(なっ、なんだ?頭の中に声が?)
(俺にも聞こえたぞ!?)
ローレルの最終兵器、エンパスの出力、相手の頭に自分の声を直接聞かせる。
直後に飛来したリリィとフェイリーのオウルゼロワンから7.7mm機銃掃射が放たれた。
ガガガガガッ キュキュッキューッン 洞窟手前に着弾した弾丸が砂利を飛ばして派手に跳弾音を残す。
反撃など予想していなかったナジリス兵たちは意表を付かれて慌てた。
「あの機体は機銃を積んでいるぞ、やばい、後退だ、さがれ!」
「さっきの声はこれのことか!」
「伝達しろ!今度のオウムは銃を持っている、洞窟から出るな、機銃の餌食になるぞ、ケーリアンに任せろ!」
(もっと、もっと奥へ逃げなさい!次は天空から天罰が降る、巻き込まれるわよ)
「くそっ、まただ、なんだこの声は!?」
「どうでもいい、俺は逃げる!こんなとこで死んでたまるか!」
多くの兵士が持ち場を捨てて洞窟の奥へと逃げ出した。
「逃げるな、貴様ら!敵前逃亡だぞ!」
「勝手に言ってろ、神の声が聞こえたろ、俺は逃げる!」
(逃げなさい、出来ることなら殺したくない、奥へ、ナジリスまで帰りなさい)
ローレルのエンパスとオウルゼロワンの機銃は洞窟内の歩兵を震え上がらせ、隊列を崩壊させた、これで対岸に潜む狙撃隊を守ることが出来る。
「チヒロもここにいるの!?」
感じる、あの真っ直ぐな視線を感じる。
上着の外へ白金の髪を靡かせる、私はここにいる、些細なアピール。
コァッ コオオオオオォォォッ ブンッ ガガガガガッ
三機の個性がコラボする、渓谷の空を自在に泳ぎ回る。
パパンッ 洞窟反対側斜面の狙撃銃の発砲音。
バンッ シュバアァァァァッ
消化器のごとき煙が洞窟の上から吹き上がる。
「良し、当たった、離脱急げ!爆撃に巻き込まれるぞ!」
「ラプトル1、爆撃を開始する、行くぞ!」
一番機はもちろんリオ・アイゼン大佐、豪快に、そして繊細に震電を操り山脈を舐めるように急降下していく、右に緩く旋回しながら機体を左へバンク、渓谷と水平を作る。
「目標確認、投下!」
切り離された六十キロ爆弾が発煙筒の煙に吸い込まれていく。
バヒュンッ ガァオオオオオッ
リオの震電は速度を落とさず爆発の前に洞窟前を猛然と飛び去る。
岩を突き破った洞窟の中で高性能炸薬三十キロが炸裂する。
ズガァァァァッ スドォゴォガアッンッ ガラガラガラッ ドオオォォォオンッ
洞窟の天井と壁が崩れ落ち穴を塞ぐ。
「航空爆撃!?なんてこった、あのままあそこにいたら・・・」
「なんでこんな精密爆撃が出来るんだ、化け物か」
「ここもやばいぞ、これ以上崩れたら生き埋めだ!」
「もっと奥だ、撤退しろ!」
ドオオッンッ ドオオォォンッ ガラガラガラッ
チーム・ラプトルの航空爆撃が連続で洞窟を塞ぐ、低空での飛行は苦手な震電だが標高の高いこの場所では星形十八気筒の出力低下は少ない。
チヒロ率いるレゾリュー狙撃隊が発煙筒を慌ただしく発火させる、チーム・ラプトルの技量が高い、隙間なく繰り返される波状攻撃に味方でさえ追いつかない。
「さすがリオ姉さんのチーム、とんでもない化け物揃いだ」
呆れるほどの命中精度、山岳地での対地攻撃は想定内、普段から訓練は十分すぎるほど積んでいる。
四機編隊三班の十二機は一巡目を無失策で終える、渓谷の破壊も最小限だ、火災も起きていない。
後半二巡目に突入していく。
「そろそろ対空機銃が来るぞ、そのつもりで行け、曳光弾が見えたら無理して突っ込むな、爆撃は中止して渓谷下流へ全開で飛べ」
「了解!」
リオから各機へ伝達が飛ぶ。
後半上流部の牽制攻撃を続けていたリリィたちにも通信は届く、第二派攻撃の前に退避しなければならない。
「少佐!右下にケーリアンがいます」
「了解だ、リオお嬢様が来る前にエレナたちの仇は私たちで取る!」
「私が囮になります、援護お願いします!」
ローレルが先頭で向かいの斜面を上下に飛ぶ、射角を確保するためにケーリアンが前進してくる、カタツムリの目を水平にローレ機を狙っている。
リリィがケーリアンの真上を通過しながら、7.7mm機銃を洞窟とケーリアンの間に掃射する、後退して隠れる余地を消されたケーリアンは戻ることが出来ずに更に前進してきた。
銃口の狙いがローレルからリリィに向く、歩兵の援護射撃はない、ローレルのエンパスの声と爆撃の衝撃で洞窟の奥に逃げ出していた。
高射機銃ケーリアンに乗るゲイル少尉は自分達がまんまと誘き出されたと今になって気が付いた、カカポ機に機銃が装備されている伝達は下流域から今だ届いてはいない、電信より早く山の神からの声が兵士の心を挫いた。
「やばい!ゲイル少尉、俺ら詰んでる!」
「なにを言うか!急造の機銃など恐れることはない、撃ち落とせ!」
「ふざけるな、ボディは戦車じゃないんだ、飛行機銃なんかで撃たれたら俺達みんなハチの巣だぞ」
「ビビるな!貴様らそれでもナジリス軍人か!」
(中の人、今ならまだ間に合う、それから降りなさい、三秒だけ猶予を与えます )
再び神の声が頭に響いた。




