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時計合わせ

発着ポートに三人の女たちが勝負メイクで現れた。

 隻眼の蝙蝠リリィ少佐、黒髪を分けあえて見せる傷跡は勲章、あくまで凜々しく清楚。

 エンパスレーダー・ローレル少尉、光る銀髪、古のエルフは柔らかく優しい女神。

 コールスネーク・フェイリー曹長、白金の髪、隠された愛は強く美しい。

 「いい顔をしている、見違えた」

 「別人みたい、それが本当の貴方なのね」

 「ほとんどハンナたちが化粧をしてくれました」

 無表情だったコーンスネークにはにかんだ笑顔が浮かぶ。


 

 隠密作戦に特別な見送りはない、敵側の諜報員の目がないとは言えない。

 ステラたは宿舎の中で無事を祈っている。


 「時計合わせ!1,2,3,4,ゼロ、良し」

 チヒロの時計を合わせる。

 リリィやローレルにも緊張の色が見える、今回の任務は囮だ、ただ飛び去ってしまえばいいというわけにはいかない。

 「再確認、武装のないローレル機は敵の存在を確認したら、その位置から近い基地に向かって飛べ、戻るなよ」

 「了解です」

 「我々は機銃で牽制しながら敵を引き付ける、リオお嬢様たちの一次攻撃は上流レゾリュー側から始まる、爆弾は九七式六十キロ航空爆弾、全長一メートル、二センチの鋼板も打ち抜く、洞窟の岩は紙同然だ、着弾と爆発のタイミングがズレる、爆発に巻き込まれるな!」

 「留意します」

 「敵対空戦車が出てきたら洞窟側を伝い敵裏側、ガンガラシバナの崖中間付近にある平場で待機だ、以上質問あるか」

 「ありません」

 「同意」

 「良し、出撃する」

 既に整備員によりエンジンに火は入っている、ヘルメットや飛行帽を装着し騎乗、離陸シークエンス開始。

 傾き始めた夕日に向かい三機のVTOLドローンは静かに離陸していった。


 リリィたちよりも早くレゾリュー基地からチヒロと狙撃隊は洞窟と向き合う反対側の斜面を移動していた。

 攻撃目標は二十か所を超える、午後三時から五分ごとに二人一組の狙撃隊十組で発煙筒を銃撃して狼煙を上げる手筈だ。

 航空隊四機編隊三班が四十八発の精密爆撃を行う。

 

 爆撃開始十五分前、リリィ達カカポ隊による牽制飛行が始まる、敵が出てくれば一緒に殲滅する。

 この作戦で最もリスクが高いのは囮役のカカポ隊に間違いない、敵からの銃弾を惹き付けながら、味方爆弾の脅威にも晒されることになる。

 時計が重要だ、時間のずれが生死を分ける。


 「ここ何日か補給の小型機がこないな」

 「先日のレゾリュー要塞前の攻防で抜けられたのは痛かったな」

 「こちらの迫撃砲はとどかないし、撃ち降ろされるこっちの方が圧倒的に不利だからな」

 「そんなに速くはないですが小銃では当たる気がしません」

 「ケーリアン対空砲が戻るそうだ、だが・・・」

 「戦争とはいえ非武装の機体を撃つのは気が引けます、おまけに搭乗しているのは全員女らしいじゃないですか」

 「お前は甘いな、そんなことで遠慮していると早死にするぞ」

 「ですが、ケーリアンの高射砲は20mm、人間に向けて撃つようなものではありません」

 「死体に男も女も、大人も子供もない、命を失えば物になるだけだ」

 「私はそんな風には割り切れません」

 「慣れだよ、早く慣れないと精神を病むぞ」

 洞窟の中でナジリスの兵士たちも、それぞれの想いを胸に赤石沢の渓谷を眺めていた。

 「美しく明るい渓谷だな・・・山の表と裏でこうも違うものか」

 ナジリス川の山脈は日照時間が短く植物が育ち難い、鉱山開発により汚染された川は生物も住めず、飲用、農業用水にもならない。

 今は汚染に強い黒い笹が勢力を伸ばし地表を埋めていた。

 山の土を掘ると普通の砂に混じり赤や青の砂が見える、その場所では特に黒い笹の繁殖が激しい、他の植物には毒となるが黒い笹には肥料となるようだった。

 この笹が一度根を張ると除去するには大変な労力を要した、畑に進出をゆるせば作物を育てることは出来なくなる。

 悪循環が山の資源を減らし、汚れた水が国を殺す、飢えた政府は侵略を考えるようになる。

 「最近あの化け物共は出てきませんね」

 「ああ、それは救いだ、リーベンより奴らの方がよっぽど恐ろしい」

 「上の連中は分かっていないんだ、この山は手を出してはいけない場所なんだ」

 「早く帰りたいよ」


 ブオンッ ブオオオオッ

 洞窟の奥からディーゼルエンジンの音が響く。

 「ケーリアンの到着だな、この音は・・・随分上だな、レゾリューまで行くつもりか」

 補給分断により兵糧攻めの作戦は失敗した、カカポを仕留められず通してしまった、ケーリアンは攻撃力は高いが、戦闘車部分は所詮トラックだ、小銃弾でボディを貫かれる、まして迫撃砲やバズーカ砲の届く範囲へは行けない。

 「兵糧責めのやり直しか」

 「一台だけじゃ辛いな、こっちの存在はバレているんだ、リーベンは対策をとってくる」

 「そうだろうな、奴らの動きは早い」

 「専守防衛をしてくれているうちはいいが・・・」


 カアアアァァァアッ 渓谷にワンストロークエンジンの音が聞こえてくる。

 「!!」

 「来た、カカポが来たぞ!」

 「司令部に連絡!迎撃態勢!」

 洞窟内が一気に慌ただしくなる、兵士が行き交い、小銃にマガジンが押し込まれボルトアクションの操作音が鳴る。

 「今度は通すな、何が何でも落とすんだ!」


 喧騒に阻まれて高高度から迫る星形十八気筒の咆哮に気づいた者はいなかった。

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