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V-1ロケット弾

定刻どおりにフローラ隊3機4名はレゾリュー基地を離陸、第105補給基地へ駆け降りる。

 離陸には陥落の危機を救ってくれた女神を送るため全員が手を振った。

 その中には目を腫らしたリンダの婚約者、モリスの姿もあった。

 要塞の銃眼の全てから、銃口が山脈の洞窟に向けられた、予め出ていた斥候からは敵の活動なしとの報告が来ていたが、命がけで緊急支援配達を実行してくれた女神たちを目の前で銃弾の一発でも向けさせたくはない、全員が目を見開き対狙撃を厳とした。

 ローレルのエンパスレーダーにも敵意の感はない、昨日の戦闘でナジリス軍にも何らかの損害が出ているのかも知れない。

 静寂の中に鳥の囀りと木々を揺らす風の音、沢を流れる水音が本来の谷の音楽を奏でている。

 上下左右、立体的に蛇行を繰り返し、甲高いワンサイクルエンジンの音と共に帰投していった。


 ウーゥウゥーゥー R293陸軍航空隊基地にサイレンが鳴り響く。

 その瞬間から駐機バンカーが忙しく動き始めた、スクランブル要員が自機に向けて装備を担いで走り出していく。

 

(指令室より発令!ラライ山脈北東上空にV1ロケット弾と思われる機影を高度一万メートルで探知、迎撃機出動要請、迎撃機出動要請)


ナジリス帝国軍の高高度爆撃からの空中発射式自立飛行ロケット、V1ロケット弾、通称ドゥードルバグ。

射程は二百五十キロにも及び単純計算ではリーベンの首都まで届く計算になる。

その腹には四千キロもの爆薬を抱え着弾すれば大きなビルが丸ごと吹き飛ぶ威力がある。

 事実、その初期には街中に着弾を許し多数の一般市民の犠牲者を出した。

 この兵器に精密誘導の機能はなくどこに落ちるかは分からない打ちっぱなしの兵器であり、全ての国民を対象にした非人道的な物だ。

 

 一際長い手足で疾走してきたのは部隊長のリオ・アイゼン大佐とチーム・ラプトルのカンダ少尉。

 本来なら大佐は基地司令の階級、しかしリオは現場を離れ翼を畳むことはしない、この日も当直の一人としてハンガー待機をしていた。


 ハンガーにあるのは機体番号J7W1、震電、実用高度一万二千メートル、最高速度七百五十キロ、星形十八気筒、ハ43型は二千百馬力を発生する。

 一万メートルを超えて飛来するV1ロケット迎撃のために開発された局地戦闘機。

 リオは高い搭乗席までのステップを駆け上がると狭いコクピットに身体を捻じ込む。


 「エンジン回すぞー、4、3、2、1、点火!」

 ボスンッ 軸のスターターカートリッジ爆薬が発火、十八気筒が目覚める。

 ガオンッ、ガオンッ、ガアロロロロッ カカポ機の小排気量とは異質の爆音が吠える。

 「燃料コック良し、ピッチコンロール良し、ブレーキ開放!出るぞ!!」

 二羽の猛禽は滑走路に翼を揃え、並列したまま離陸滑走五百メートルを走り大空に舞い上がる。


 「カンダ少尉、ドゥードルロケットの数は聞いたか?」

 「はい、姉御、その数四発、今ラライダムの高射砲が迎撃しています」

 「新型の五式百五十ミリか、落とせると思うか」

 「新型五式は一発の爆発半径が二百メートルはある聞いています、それに今日は天気がいいです、有視界でも狙い安いでしょう」

 「我々の出番はないか」

 

 離陸して七分、高度五千メートルに達する、コクピット裏の六枚プロペラが空気を切り毎分七百五十メートルで上昇を続ける。


 (R293コントロールよりラプトル1・2、ラライ高射隊より撃ち漏らし2、対処頼む、繰り返す、2発すり抜けた!」

 (ラプトル1・2 受電した、迎撃する、後ろから撃つなと伝えてくれ!」

 「姉御、二発来ます!」

「仕事が出来たな、カンダ少尉」

 「せっかくここまで羽根を伸ばしたんですから、人暴れさせて頂きましょう」


 射出されたV1ロケットの運用高度は四千メートル、巡行速度は三百五十キロと手ごろな相手だ。

 航跡を曳いてリーベンに向かい飛行していくのが見えた。

 「居ました!左下二千メートル」

震電には30mm機関砲2門と7.7mm機銃2門を装備していた、ロケット迎撃には装弾数の多い7.7mmの方が有効だ。

 「お先にやらせていただきます、姉御」

 「いいわ、お手並み拝見よ」


 「行きます!アタック!!」

 バオッ カンダ機は身を翻し、楕円を描いて左航空からV1ロケットに近づくと射程千メートル付近から銃撃開始、数秒ごとに弾着を確認しながら機体を操る。

 ダダダダダッ カッ ドォオオオッン

 六百メートルで着弾、V1ロケットが爆炎に包まれる、同時にカンダ少尉は楕円降下を一気に上昇に転じる、四千キロの爆薬による爆発範囲に突っ込めば機体は紙屑のように切り裂かれる。

 カンダ機は余力を持って爆発範囲を避けていく。

 「見事だ、カンダ少尉!」

 チーム・ラプトルはいずれもアグレッサー部隊(模擬敵)で鍛えられた精鋭、逃げることの無いV1ロケットは鴨打ち同然だ。

 「次は私だな!」

 ギュンッ 機動の悪い震電が急角度で降下、V1ロケットに近づいていく。

 「姉御、近すぎる!いくら精密射撃でも無理だ」

 制止するカンダの声にも耳を貸さずに更に距離をつめると、真横に並び速度を合わせる。

 「何をする気なんですか?」

 「女神のキスさ!」

 震電の翼をV1ロケットの下に潜り込ませるとチョンと翼で翼を持ち上げた。

 V1ロケットは勢いでグルンッと回転するとバランスを崩してキリモミ状態で落下していき、山脈の岩肌に激突して爆発した。。


 「すげえ、弾を撃たずに撃墜するなんて!」

 「どうだい、弾の節約になっただろう?」

昔のリオなら力任せに叩いていただろう、年月を重ねて練られた技は機体に傷さえも残さずに柔らかくV1ロケットの翼に触れた。

 尊敬する姉、ローズの操機。

 今月になって何機目の撃墜だろうか、多分に実験の要素も含まれている、今は自立して山脈を越えることはできないが、ロケットエンジンの開発が進み、地対地でリーベンまでの飛翔能力を備えると夜間爆撃が可能になってしまう。

 夜間は迎撃の方法がほとんどない。


 二機の猛禽は翼を揃えて巣に帰投していった。

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