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別離

 「私も一緒に行こうか?」

 ローレルがリンダに声をかけた、モリスに婚約者の死を告げなければならない。

 せめてもの救いはきちんと埋葬され、遺品としてマリッジリングが戻ってきたことだ。

 「いいえ、これは隊ではなく私たち姉妹の問題です、彼と一緒に泣くのが私の役目だと思います」

 強がってはいるが、リンダの顔は蒼白でいつ倒れてもおかしくはない。

 「行ってきます」

 重苦しい決断に軽々しく声をかけることは出来ない、黙って小さな背中を見送る。


 暫くして城壁の影から男の叫びと泣き声が響いた。

 痛々しい声は三人の心も抉った、愛する人を失った男の絶望と、それを伝え、目の前で壊れていくその姿を見ていなければならないリンダの辛さを想った。

 我が身を切られるよりも痛いだろう。

 誰も何も話せなかった、ジャックが差しいれたチョコレートが苦い。

 男の慟哭が聞こえる度にビクッと身体を震わせる。

 やがて男の叫びに基地の兵士たちが異常に気づいてモリスの元に駆け寄っていく、リンダは地獄から解放されたように納屋に走って戻ってきた。

 その顔が苦痛に歪んでいることは見るまでもない。

 納屋に走り込んできたリンダを、ローレルとステラが抱きとめた、声を上げて泣く彼女を補給基地を出発したときと同様に黙って抱きしめる。

 フェイレルは輪には加わらないが、コールスネークの擦過傷だらけの顔に涙は流れ続けている。

 ローレルがフェイを手招きする、首を横に振っていたが手を取って引き寄せた。

 リンダはもう一度フェイの胸で信頼と感謝の涙を流した。

 「ありがとうフェイ、この恩は忘れない」

 顔を埋めたままの呟きが暖かな海の水の様に心に注がれる。

 触ることを躊躇していたフェイの手を、ローレルの手が重ねてリンダの背を包んだ。

 声は出ない、ただ涙が、涙が流れる、心臓が重く締め付けるように胸を打つ。

 (不整脈だ・・・また脈が乱れている)

女たちは悲しみを分かち合い強くなる、男たちが分け合えば甘え朽ちる。

 それぞれの戦場に命を咲かせて、散っていく。

 「さよなら、姉さん、さよなら・・・」


 手足全てを使って四つのローターを操作するカカポ機の操縦難度は想像以上に難しく、真っ直ぐ飛ばすだけでもローターは四苦八苦していた、にも関わらず先行するリリィ少佐は右へ左へ自在に機を操り、付いていくのがやっとだ。

 補充機の運搬のために非番のところをかり出された、ローターが選ばれたのは操縦センスによるところはもちろんだが体重の軽さによるところが最も重要だった。

 リオ隊長が乗りたそうにしていたが高身長すぎて手足が機体に収まらなかった、体重問題は運ぶだけなら問題ないというのは嘘だ、今回の補充機についてのみリオの体重を浮き上がらせ性能を発揮させることは難しい。

 新型カカポ機の胴体下部に装備された回転銃座に7.7mm機銃一門が装備されていた。

 台座と機銃、旋回システムの総重量は四十キロを越え、それに銃弾の重さが加わると積載量の余裕はランチセットが限界だ。

 小柄なローター少尉なら機体への負担は最小限というわけだ。


 「今回の損失の二の舞はご免だ、これからはクーリエ(配達)任務に武装した護衛を付ける、前から考えてはいたことだ」

 ただでさえ手足全てを使うカカポ機において、更に操作を必要とする装備、左右の手に回転操作と上下動操作のレバーがあり、さらに右手の親指でトリガーを操作する。

 「なんて忙しい機体なんだ、これで戦えって言うのか」

 「私はカカポというネーミングは好きじゃないんだ、少なくとも機銃を積みエンジンの圧縮比を上げ最大出力を向上させたこいつは森のハンター、オウル、梟がふさわしいネーミングだと思うだろう、ローター」

 「ひとつ確かなのは、この機体の爪もまた猛禽の爪ってことっすね」

 「いい答えだぞ、ローター、基地についたら一杯奢ろう」

 「本当ですか少佐、約束ですよ」

 「もちろんだ、酒のつまみにこの機体のメカニズムについて話し合おう」

 「うひっ」

 男女関係なく機械工学や理系の覚醒者に取って自分の理論や実験結果の解説は最上の呑み友達だが、訳の分からない話を延々聞かされるのは地獄だ。

 「さあ、そろそろ本気でいこうか、ローター君」

 「さっきから全力でやってますよー」

 「いくぞ」

 「聞いてないし!」

 さらに速度を上げて渓谷の木々の葉を揺らして飛ぶ、ギュンッ、一瞬でバンクした機体が岩の影に消える、直角に近い運動性能は航空機には真似できない。

 「うおっ、鋭い!」

 「確かにこれは航空機というよりオートバイだ、ライダーと呼ぶ意味が分かったぜ」


 ブラインドコーナーを二つ三つ抜けると既にリリィ少佐の機影は見えなくなっていた。


 「出撃3機3名、現着4名?、どういうことだ?」

 105補給基地に到着したリリィ少佐はレゾリュー前線基地緊急支援飛行の報告に困惑していた。

 「機体のないフェイリルがなぜレゾリューにいる?」

 「それが・・・とても信じられないのですが、脱出用のウィングスーツで飛んできたと」

 報告する士官も困り顔だ。

 「ウイングスーツで飛ぶ?動力のないスーツでどうやって・・・」

 恐ろしい想像がリリィの頭に浮かぶ。

 「じゃあ、もっと高い所から飛び降りるしかないですねー」

 冗談のつもりで放った一言が確信を突いてしまった。

 「ガンガラシバナの断崖から飛び降りたのか!」

 「ガンガラシバナ?」

 リリィが基地の裏手を見上げる。

 「あそこだ・・・」

 黒い森から切り立つ断崖が槍のように突き出ている。

 「飛び降りたって、そのスーツだけでですか、冗談・・・」

 高度一万メートルで戦うファイター・パイロットが高さに恐怖を覚える。

 「カカポ機の運用高度は低空、パラシュートの展開は間に合わない、スーツはあくまで非常用の気休めにすぎない、高度二千五百メートルからのダイブなど想定の遥か外だ」

 「ローター、君なら命令されれば飛べるか?」

 「絶対嫌です!こんな布で飛べるわけがない、これで飛べるとすれば魔法使いだけです」

 「私も同じ意見だ、揚力を確保するためには肩を開き続ける必要がある、通常の人間であれば五分も維持できない」

 「通常の人間は?少佐は飛んだことがあるのですか?」

 「当然だ、部下に着装させるのに、その性能を把握していなくては指揮官は務まらん」

 「川の上の橋からな、安全を確保しての話だ」

 「時速百キロで飛行出来たとしてレゾリューまでおおよそ二時間!そんな筋力を持っているのはリオ大佐ぐらい、そんな怪物がこの隊にいる・・・いや、いらっしゃるのですか」

 「ローター・・・今お嬢様を怪物と言ったか?」

 「はっ!しまった!!」

 「不敬、不敬!断罪に値する、殺す!」

 「すいませんでしたー」

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