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墓標

  ローレル率いる三機のカカポ機は弾薬をその腹に満載して夕暮れの基地を飛び立った。

 先頭にローレル、その後ろにリンダとステラが並ぶ三角編隊。

 リリィ発想によるカカポ隊の編成において副長にローリエが抜擢されたのは縁故が理由ではない、カカポ機の操縦技能は特質したものはないが、ローリエは敵の感情からその位置を把握する能力を持っていた。

 敵意を探り回避することが出来るローリエもまたリリィ以上の人間電探に他ならない。


 「大丈夫、周囲に敵意なし、このまま進むわ」

 「了解!」

 トランアングル・フォーメーションを保ったまま森の木を掠めるように飛行する、高度を上げ過ぎると高射機銃に射角を与えることになる、カカポ機には人間が持つ小銃でさえ脅威になる、出来るだけ低空、出来るだけ高速、難易度と戦術的安全は比例する。

 カアアアァァァッ ワンストロークエンジンが甲高い排気音が森に木霊していく、入り組んだ谷を抜け、徐々に高度を上げる。

 積載重量いっぱいの機体は動きが緩慢になる、一度落ちた速度を取り戻すのは容易ではない。

 「まもなく要注意ポイント、前回カタツムリの出現ポイントよ、二人とも対地警戒を厳となせ!」

 「了!!」

 大きな崖を回り込むと、三機が餌食となった森、崖際の洞穴付近からの銃撃で三機は被弾撃墜された。

 「どこかに隠れているの!」

 緊張感と焦燥感が冷や汗となって伝う、恐怖が視界を狭くする。

 

 「まって!各機減速」


 ローリエが右手を上げて崖の中腹にある尾根を指さした、敵ではない意識をローリエは掴んでいた。

 尾根の上で夕日に照らされた黒いスーツの人形が手を振っている。

 「なに!?」

 「フェイリルじゃないの!!なんでここにいるの!?」

 「あの子・・・!まさか」

 手を振っていたフェイが崖の下にある少しだけ開けた平場を指さした、視線の先には丸太を組み合わせた墓標が二つ、その先端にヘルメットが置いてあるのが見える。

 エレナともう一人の殉職したライダーたちの墓標。

 「お姉ちゃん!!」

 リンダは機体から乗り出し過ぎて落ちそうになる。

 「埋葬してくれたの?でも一人でどうやって・・・」

 二つの墓標は綺麗な竜骨石と呼ばれる白い石を組み合わせて造られ、花も添えられているのが見える。

 「あああっ・・・」

 涙で滲むリンダの視界に映っただろうか。

 尾根で手を振るコーンスネークの表情は分からない、意図が伝わったと感じたのか尾根を頂上に向けて走り始める。

 「なんで上に向かうの・・・?」

 

 

 いつまでも空中に留まるわけにはいかない、リンダは歯を食いしばった。

 「副長、お時間を頂きありがとうございました、もう大丈夫です、行きましょう」

 「ええ、それにしてもフェイ曹長はどうして?いろいろ聞かないとね」

 「はい、そのためには無事レゾリューに降りましょう」

 三機は再び水平飛行に戻るとエレナの墓標に見送られながら夕青が落ちてくるレゾリューに向けてアクセルを開けた。


 レゾリュー基地では散発的だった敵からの銃撃が本格的になっていた。

 薄闇が迫る中、20mm機関砲の連射音が響く、5.56mm弾のライフル弾ではない、その運動エネルギーは二十倍近いものになる。

 ナジリス軍は迷宮をユニモグ高射砲で進み、レゾリュー基地近くまでその射程を確保していた。

 5.56mmでは要塞の壁は石榑を僅かに躍らせる程度だったが、20mm機関砲になると石垣は破壊と言っていい形で粉砕される。

 砕かれた石が地表に積もっている。


 「やつらどうやってあんなものを運んできたんだ?」

 パンッ パンッ

 撃ち返すレゾリューからの反撃は拳銃のみとなっていた、百メートル以上離れては拳銃の有効射程の遥か先になる、通常の9mm拳銃弾は三十センチ以上も重力に引っ張られる、さらに谷の風にも流され、的に当たるわけはない、撃ち降ろしでは届かない事も多い。

 撃ち返される発射音からレゾリュー基地からの反撃が拳銃だけなのが分かっているナジリス軍は隠れる事もなく行動が大胆になっている。

 堂々と渓谷にライフルを構えて立射で撃ってくる。

 山側に空いた洞穴から20mm機関砲が火をふく、ユニモグの走破力を持ってしてもそこからは出られないのが救いだ、射角は斜めからの一方向に限られる。

 「隊長ーっ!105補給基地より入電!カカポ隊三機が一時間前に離陸、もうじきこちらにやってきます」

 「来たか!野郎ども、カカポ隊の姉さん方の到着だ、残った5.56mm弾の遣い時だ、何が何でも無事に迎え入れるぞ!」

 僅かに温存していた狙撃銃が銃座に並ぶ、拳銃による応射はフェイク、この時のために残してあった。

  

 銃座の一つについていた男がモリス曹長、リンダの婚約者だ。

 「まさか、来ていないよなエレナ、今はダメだ、ここには来るなよ」

 銃眼の十字に敵兵の姿を合わせながら信仰もない神に祈った。

 二人はこの地で知り合い、街と戦場を行き来するなかでも愛を育んできた、いつ死ぬかもわからない中、覚悟の志願は除隊後に二人で船を買うための資金を稼ぐためだった。

 故郷の街で漁師で生計を立てていく、海を見て暮らしたい、言い出したのはエレナだった、硝煙と血の匂い、戦場はいつも山、死に付きまとわれている。

 離れたかった、貧しくとも二人なら楽しく暮らせる。

 (エレナごめんな、俺が覚醒者なら、君を戦場に送らなくても済むのに)

(いいのよ、ここには私が望んで来たんだもの、それに知ってる?覚醒した人たちの結婚率は極端少ないのよ)

(ああ、聞いたことがあるよ、記憶が新たな恋愛を邪魔するんだってな)

(そう、自分の記憶かも分からないものに縛られるなんて辛いわ)

(過去に遠慮して生きなきゃならないのか)

(まるで呪いだと思わない?今私はあなたを愛している、それだけが真実よ)

(君と出会ってから四年が俺にとっての真実だ、君を愛している)

(覚醒なんていらない、あなたがいればいい)

先週、仲間たちの目を盗んで倉庫の裏でモリスはエレナの前に膝をついた。

 (結婚しよう)

指輪を渡した、世界の全ての幸福を集めたエレナの笑顔の涙を忘れない。

 (もうすぐだ、海に行こう、エレナ)


レゾリュー山岳基地は青い帳が落ちて、何も知らないモリスの影を飲み込んでいく。

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