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疫病神

 バタバタバタッ 見上げたチヒロの真上から黒い塊が降ってくる。

 「ディアボロス!?」にしては小さすぎる。

 おまけに羽根はない、岩か。

 危険を感じて避けようとした時に岩から翼が生えた。

 バオッ 風を掴んだ音が聞こえた。


 ギュンッ 垂直落下から翼に揚力を得た物体は急激に確度を戻しチヒロの前を飛び下っていく。

 「!!」

 黒いライダースーツにムササビの幕があったように見えた、しかも印象的なプラチナの髪が靡いていた。

 「人!?しかもフェイリーじゃなかったか?」

 黒いムササビはガンガラシバナの断崖を猛スピードで舐めるように飛び下り、旋回して渓谷上流に消えていった。

 チヒロは飛び去ったフェイリーと思われる影を見送った後、再度ガンガラシバナの頂上に目をやる。

 「嘘だろ!?あそこから飛び降りたのか・・・」

 「フェイリー、いったいお前は何をしているんだ」

 呆気に取られたチヒロが見返したとき砂地から赤蛇は消えて静けさを取り戻していた。


 ガンガラシバナの頂上から一段目の岩場まで五百メートル、その身を空中に踊らせて自由落下、僅か三秒で時速百キロを超える、恐怖心の死んでいるフェイリルでも身体は総毛立ち手足が勝手に何かを掴もうとする。

 断崖が迫る、手を広げ翼を展開し風を掴む。

 垂直落下を水平滑空に近づける、ダンベルを下げたように腕が重い。

 山岳の吹き上げる風に煽られてグラグラとバランスを崩しそうになるのを堪えて飛行姿勢を保つ。

 通り過ぎた平場に人影が見えた気がする、錯覚だったろうか、今それどころではない。

 レゾリューへ向かう赤石沢へは右旋回で百八十度のヘアピンを飛ばなければならない、高度とスピードを失わないように最大限のバンク、渓谷に侵入する。

 動力無しのグライダー、身体をフラップとして上昇の揚力を作り出す。

 半日をかけて登った距離を数十秒で飛び去る。

 この飛行でエレナの撃墜地点に到達出来なければ、ローレル副長たちの緊急飛行に間に合わない。 


 (エレナが見た最後の景色を見て別離を伝えたい)

いまのままでは無残な骸のエレナの上を跨ぎ超えることになる、リンダが見る最後の姉の姿になってしまう。

 (私になら弔うことが出来るかも知れない、優しく綺麗な姉の思い出のまま別離をすることが正しいと思う、無残な死に様をエレナの記憶に刻ませない)

(チヒロ・・・いつか辿り着くために努力する、今もだ)

(ステラ・・・あの人の力になりたいの)

真っ直ぐな二人の言葉、彼等は澄んだ光りの世界に生きている。

 (死んでしまった感情の灰の中の燃えかすに火を灯せれば少しは同じ景色の端っこても見れるだろうか、私はいったい何がほしいのだろう、ほしいってなんだったのか、漠然として分からない、でも眩しい世界の片隅でいい、見てみたい)


 「見えた!」

 エレナのカカポ機の残骸、近くに安全に降りられそうな平地はない、前回のように木に衝突して降りることは出来ない、埋葬する任務が最優先任務だ、手足を折っては完遂出来なくなる。

 着陸の方法にあてはある。

 脇を見れば赤石沢が新緑を映して流れている、小さくとも淵がある。

 その淵に飛び込みスピードを殺すのだ、水深と長さのある淵がいい。

 「よし、今!」

 淵の手前で水平を凧のように手足を広げる、バフォッと風の壁がスピードを喰う。

 ドボォッンッ 淵の最上部に落ちる、ひとつ間違えば岩に叩きつけられていた。

 打ち上げられたように水から這い上がる。

 水に濡れたままエレナの元に向かった。


 「フェイ、フェイリルー、何処行っちゃったのよ」

 出撃前とうとうステラの前にもフェイリルは姿を表さない。

 日は傾いてくる、春の夕暮れは切なく頼りない太陽を早くも隠そうと青の時間を急ぐ。 

 「どう、ステラ、フェイリル曹長見つかった?」

 ローレル副長が長い銀髪を一つに纏めながらステラに声をかけた。

 「それが・・・あの教室での一件の後に備品室によったところまでは分かったのですが、、その後は基地の裏手に向かって走っていったの備品室長が見たきりその後は誰も・・・」

 「ふん、大方脱走でもしたんじゃないの?」

 リンダは特にフェイに対して否定的だったのが爆発している。

 「そんなことする子じゃないよ、なにか目的があっての事だと思う」

 「だからって実戦で勝手な行動は許されないわ、全員を危険に晒すことになる」

 ローレルがキツく口元を締めた。

 「疫病神!呪われているのよ」 

「隊の中にあんな奴がいるから、お姉ちゃんまで呪われたのよ!」

 「そんな・・・」

 「この任期が終わったら彼と結婚するって言っていたのに・・・」

 「私、彼になんて言えばいいの!あなたの婚約者は死んで野晒しになっているって、遺体を弔ってやることも出来ないなんて酷すぎる!」

 「リンダ・・・」

 「せめて遺品だけでも彼に返してあげたいけど・・・私たち貧乏だから何も持っていない・・・何でよ、不公平だよ」

 散々泣いたのだろうリンダの目はあかぎれのように腫れていた。

 ローレルはリンダの肩を何も言わずに抱いて共に涙を流して慰めた、こんな時役に立つ言葉はない、寄り添う気持ちだけが慰めになる。

 目の前で両親を殺され、自身も陵辱の限りを受けた地獄で覚醒したローレルは誰よりも人の心を受信する才能がある、身体を痛め本来の将来を諦めた姉に変わり戦う事を選んだローレル、遠くさかのぼればエルフ族の末裔、直系の先祖には武力と呼べるほど強力なエンパスの能力を発揮した者もいたいう。


 「さあ、かわいい男たちがママを待っているわ、私たちが助けるのよ」


 3機のカカポ機のエンジンが静かに咆哮する。

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