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神殿跡

 迷路の洞窟内に残された轍を辿る、奥に進むにつれて轍の数は減り、かつブラシで消されている。

 さすがに敵も用心している、しかし、轍がブラシの跡になっただけで隠蔽としては効果が薄い、屋外なら雨や風により風化していくが洞窟には雨は降らない。

 深淵の闇かと思っていたが壁面に散らばる青い鉱石がぼんやりと光を放っている、リリィ少佐直伝のエコーロケーションと合わせて迷宮を進むことに苦はなかった。

 カツーン、カツーン チヒロがクリッカーを噛む音が洞窟内を反響してくる、チヒロの耳が音を捉えて、その情報を脳内で画像に変換していく。

 「いったい何の穴なんだ、これは?」

 岩を肉壁のように削った穴は直系五メートル近い、人為的なものとは思えなかったが、自然現象とも見えない。

 曲がり交差し昇降している、しかし縦穴はない、全ては斜路となっている。

 迷宮は太古の昔よりサガル神山に存在する謎の穴、過去にはその正体を知る者たちもいたが既に遺物となっている。


 何時間彷徨ったのか、ラッキーガールの時計が無ければ感覚を失うところだ、半日以上を歩き始めて空気の流れを感じた。

 洞窟内の空気とは違う冷気を伴った風が流れていく。

 「!!」

 硝煙の匂い、血の匂いも混じっている。

 慎重に進むと外光が体育館ほどの空間に射している、天井の半分ほどが崩れた場所は砂地のようだ。

 「血の匂いの正体はあれか!?」

 砂地にナジレス兵の死体が無残に転がり打ち捨てられている。

 「誰と戦ったのだ?いや違う、何と戦ったのだ?」

ナジリス兵の身体は損傷が酷い、銃で撃たれたわけではない。

 魔の黒鳥ディアボロスを疑ったが、どうも違うようだ、ディアボロスなら啄まれて損傷ではなく遺体はほとんど残らない。

 「我々も知らない危険生物が存在しているのか」

 岩陰から除くと高台の平場は高射砲の設置には好条件の場所のようだ、上空はもちろん、砲の仕様によっては低空を飛ぶカカポ機まで射程に捕えることが出来そうだ。

 事実、ナジリス軍もそう考えたのだろう、平場に向かって轍の跡が伸びている。

 「なんてこった!」

 轍の数は十本以上ある、単純に計算しても五台のユニモグ高射砲が入り込んでいる可能性がある。

 ナジリス軍はこの絶好の場所を何かの障害で遺体を回収することもなく諦めたのだ。

 チヒロは周囲の状況を並べて状況を再現するべく想像力を働かせる。

 遺体の位置は砂地半屋根の下、天井の抜けた部分にはない、血痕もない。

 ディアボロスが入り込んだ可能性はあるがナジリス軍がもつ機関銃の9mm弾は至近距離なら通用する、羽根やその他の遺留物がないのもおかしい。

 自分と同じような情報部、また軍部の介入、それはない、この山にいるのは自分だけのはずだ。

 山岳航空隊による地上攻撃、ナジリス軍内部の内紛、罠の可能性、どれも想像できない。


 「やはり未確認生物による襲撃の可能性が高いな」


 風に舞う砂だけがサラサラと薄く転がっている。

 生き物の気配は無い、チヒロは一人のナジリス兵士の遺体に注目していた、将校だ、背中にバックを背負ったまま倒れている。

 将校なら有益な情報を持っていた可能性がある、確認するべきだが、単独行動、援護無し、敵に気づかれる可能性、リスクを引いても実行することを決断する。


 ライフルの撃鉄を起こし、ストッパーのみを掛ける。

 ゆっくりと壁から身を乗り出すと死角となっていた奥が見えた、さらに多くのナジリス兵が倒れている。

 「採掘?いや発掘か?」

 崩れた壁を掘り返そうとした跡がある。

 静かに砂地に降りると大外を回りながら慎重に歩を進める。

 迷宮の穴の出口、崩れた天井の空、気配を見落とさないように五感の感度を最大限に開いておく。

 何事も起きないまま将校の元までたどり着く、後ろ向きに見ていた時は分からなかったが近づくと首から上が無くなっている。

 切られたというより嚙みちぎられている、相当口が大きいようだ。

 「鮫でもいるのか、この砂地は?」

 自分で言って気づいた、砂地だ、UMA(未確認生物)は砂の中にいる可能性が高い。

 そっと首無し将校のバッグを開く、書類の束が見えた、地図はあるか・・・分からない。


 ザワッ ザワワッ


 「!?」


 砂が蠢く、何かいる。

 「やっばい!」

 将校の死体からバッグを引っぺがし、元の穴に逃げようとするのを踏みとどまる。

 「違う、こっちじゃない、外だ!」

 反転して半屋根の崩れた外の平場へ向けてダッシュ。

 ボシューッ ザザザザッ

 巨大な蛇のような背が見えた。

 迎え撃つことは考えずに全力で走る、走る!走る!!

五十メートルを五秒台で走り切る、足元が砂ではなく岩に替わった。

 振り返ると砂地の終わりに赤い鱗を持った人の倍はある蛇のような生物が鎌口を持ち上げていた。

 やはり岩場の上には上がってこないようだ。

 「ふーっ、危機一髪だ」

 と安心は出来ない、身を低くして周囲を警戒、足を止めない、岩の影に身を潜める。

 ユラユラと赤蛇はこちらに鎌首を向けているが、出てくる気配はない、ライフルの銃撃では死なないのだろう、ナジリス兵の周りには複数の薬莢があった、もしくは複数以上生息しているに違いない。

 「まったくユニモグ高射砲の次はUMAか、どうなっているんだこの山は」

 「帰ったらニシの兄貴に言って給料を上げてもらわないと帳尻会わないぜ」

 

 半壊した屋根の遥か上、断崖絶壁の上空を影が奔った。

 「!!」

 気配を感じたチヒロが振り返った岩肌を黒い塊が落ちてきていた。

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