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第5話 悪と呼ばれる者達のレジスタンス




 俺達はアーセルレイ公国の周壁前で下ろしてもらった。

 御者のおじさんは、さっきの盗賊達の報告をしてくるそうだ。


「さて、どっから入るか」


「うむ、迷うところだな」


 2人は高くそびえる周壁を眺めてそう言った。

 普通に門から入るんじゃないの?

 と思ったが、それは無理だと気が付いた。


 この壁の高さからして、公国の規模が大きいということは明らかだ。

 ならば、身分証明書みたいなのが必要になってくると思う。


 2人は魔族。ましてや、その大元である魔王と幹部だ。

 身分証明書を持ってるか知らないが、しっかり見せたとしても入れてくれるわけがない。

 なので、忍び込もうとしているということだ。


「ちょっと1周してみるか」


「その方が良さそうだな」


 門がある場所以外は、周壁を囲むように木々が生い茂っている。

 そのちょっとした森に、人目がつかないようにコッソリと侵入した。


「お、この虫持っていこ。ねぇスカーレット、コイツかっこよくね?」


「そうか? 私はアルステイの方が好きだ」


 魔王はいつの間にか首からぶら下げてた虫かごに、虫を拉致しまくっていた。

 あれは多分俺のエサ用。 

 何気にスカーレットは嬉しいことを言ってくれるぜ。


 採取を繰り返しながら周壁沿いを回っていると、1箇所壁が綻びている場所を発見した。


「人気ひとけはないようだな。ここにしよう」


「よーし、下がってろ」


 魔王が壁に手のひらを当てる。

 グググッ、とゆっくり力を入れると、綻びている場所から不自然に朽ちて崩れていく。 

 あれも魔法なのかな。

 同じことを人間にやったらどうなるんだろう······。


 人が入れる大きさになったところで、壁を潜っていく。

 潜った先は本当に人気がなく、至るところにゴミが散らばっている裏路地だった。


「ここからはさらに慎重に行こう」


「わーってるよ」


 2人は深くフードをかぶり直し、裏路地を抜けた。

 人の多い通りに出ると、寂しげな裏路地と違って喧騒に満ちていた。

 建造物は石材や木材で作られたの2、3階建てが多く立ち並んでいる。


 地面は一応舗装されているが、日本のと比べると大分チープな印象だ。

 人々は色合いの地味な服を多用しているが、たまにゴテゴテした装飾を纏っている奴がいる。

 多分あれは貴族だ。

 あとカラス避けも任されてるんだと思う。


 人混みを縫うようにして進んでいくと、1軒の屋敷前を通り過ぎる。

 魔王とスカーレットの目線は、その屋敷に向けられていたのが分かった。

 まさに貴族なんかが住みそうな屋敷だが、何があるんだろう。


 通り過ぎた2人はそのまま近くの裏路地に入った。

 やはり人気はなく、寂しい場所と思ったが──フードを目深に被った1つの人影が待ち受けていた。

 わかる、わかるぞ。コイツは多分まずいっ! 絶対強いやつだ!


「お待ちしておりました」


 そう宣いながら、その人物はフードを脱いだ。

 白とも灰色とも呼べる色に染まった髪は薄くなるということを知らず、モノクルから覗く瞳は血のように赤い。

 歳を感じさせないその引き締まった体は、着用している執事服の上からでもわかる。


 かっこつけて説明してみたけど、ただの爺やです。


「どうだ、セバス。なにか進展はあったか?」


「いいえ、今のところは起きてませんね」


 スカーレットは「ふむ······」と言って考え込んでしまった。

 ここに爺やまで加わるなんて、何が起こるんだ?



 それから魔王が持参していたトランプに似たカードで遊び、時間を潰していた。

 3人とも地面で正座になって必死にやってた。

 負けたら殺されるんじゃないかってくらい本気だった。

 結局負けたのは爺やで「キェェェェ!」って叫んでて、くそビビりました。


 そんなこんなで、現在は夜中になった。


 祭囃子のような活気ある声も聞こえなくなり、耳が痛くなるほどの静寂が訪れている。

 たまに2人1組で衛兵が、ランタン片手に歩き回っているが、裏路地までは見に来ないようだ。


「セバス、もう一度確認だ。回るのはここの屋敷と西側の屋敷だな?」


「ええ、そうです。魔王様とスカーレットさんペアと私で二手に別れて効率的に進めましょう」


「分かった。魔王もそれでいいな?」


「ふぁぁあ······俺もう眠いんだけどー」 


 小さい子供のように目をグシグシと擦っている魔王。

 なんだか母性本能くすぐられてキュンとなった。


「では、始めましょう。スカーレットさん、魔王様のことをよろしくお願いします」 


「ああ、任せておけ。集合場所は周壁の外でいいな?」


「了解しました」


 爺やは西側へ、魔王の手を引くスカーレットは近くの屋敷へ向かう。

 なにも知らないで任務開始とか俺エージェントすぎる。


 建物の陰から屋敷を見ると、デカイ門の前に3人の門番がいる。

 屋敷の壁と同じ家紋が入った鎧を着ているので、おそらく私兵だと思う。 

 裏から回って侵入するのが得策だな。


 と、思っていたのだが、魔王とスカーレットは私兵目掛けて走り出した。

 突然の足音に身体を一度震わせた私兵はバッとこちらを向いた。


 スカーレットは姿を見られる前に一瞬で私兵の真後ろに回る。

 両手で首裏をトンッとやり、2人の私兵を気絶させた。


 魔王も同じことをやろうと、首トン──ではなく、首ドーーンになって私兵は吹き飛ばされていく。

 ちょうど俺達がいた裏路地に吸い込まれるようにゴールイン。


 《スキル:身体強化Lv1を獲得しました》


「やっべ、眠くて力加減わかんねぇ!」


「このバカ! バレてしまう前に行くぞ!」


 2人は身軽に門を飛び越えて敷地に侵入した。

 一番手前の窓に近付き、人がいないということを確認すると魔王が窓に手を触れた。

 周壁を壊した時と同じように、窓は音もなくボロボロに朽ちていく。


 サッ、と中に入り、2人は気配を探るように目を瞑った。


「こっちだな」


「···············」


「魔王?」


「···············ZZZ」


 立ちながら眠りこける魔王に、スカーレットは無言で肘鉄を食らわす。

 魔王の鳩尾に直撃し、ドグッという生々しい音がした。


「······ごべんなざい」


「次やったらもっと痛いの食らわすぞ」


「······はい」


 うん、今のは魔王が悪い。

 涙目の魔王は鳩尾を摩りながら、スカーレットについていく。


 しばらく進むと、地下に続く階段を発見した。

 2人は目を合わせて頷くと、階段を降りていく。


 体感で地下2階くらいまで来たところで階段が終わった。

 辺りは真っ暗で何も見えないが、複数のすすり泣く声が聞こえる。

 ちょっとしたホラーである。


「人族はいないようだが······亜人はかなりいるな」


「関係ねぇ。全員救出しよーぜ」


 2人はまず、一番近くの泣き声が聞こえるところに向かう。


 すると、鉄格子に囲まれた牢屋を発見した。

 中にはまだ5、6歳と思われる子供が閉じ込められていた。

 汚い布を体に巻いた、犬耳を生やした子だった。

 ペタンと耳を垂れさせながら、目元を拭っている。

 近づく足音に気が付いたのか、こちらを向いた。


「だ、誰ですか?」


「俺は魔王だ。でも、怖くな──」


「お願いします! 助けてください魔王様!」


 相手が魔王であるにも関わらず、助けを求めてきた亜人族の子供。

 それほど切羽詰まっていると言える。


「わかったぜ、ちょっと下がってろ」


「は、はい!」


 子供を下がらせた魔王は鉄格子に触れ、ただの力のみで破壊した。

 すると緊張の糸がほぐれたのか、子供は泣きじゃくりながら魔王の腰元にがっちりと抱きついた。


「ご、ごわかっだよぉ!」


「もう大丈夫だ。ここのみんな助けてやるからそこで座っとけ」


「ほら、お腹空いてるだろう? これでも食べるんだ」


 スカーレットは懐から取り出したパンと水を子供に与えた。

 その間に魔王が次々に牢屋を破壊して回った。


 すべて破壊し終わる頃には、合計20人ほどの亜人族、魔族の子供達を開放した。


 3人の目的はこれか。

 多分、子供達はこの屋敷の奴隷として売り飛ばされたんだろう。

 魔王は領地を回って、魔族の人たちに困ったことがないか聞いて回っていた。


 そこで子供が奴隷として、このレイル大陸にいると分かったから助けに来たということか。

 この人達は、本当に魔王とその幹部なのかと疑いたくなる。


「子供達はここにいるので全員か?」


「「はい!」」


「よし、ならば早く出よう。そろそろ門番が倒れていることに気が──」



「いたぞっ! 地下で奴隷を開放してる!!」



 やっべ、もうバレてんじゃん!

 降りてきた私兵が上の方に大声をあげた。

 そのせいで、ダダダッと数人の私兵がなだれ込んできて、円形に俺達を囲んできた。


 それぞれ槍と剣を構えながら、円を狭めるようにジリジリと近づいてきている。

 子供達は怯えるように魔王とスカーレットに寄り添う。


「奴隷を開放して何をするつもりだっ!」


 1人の私兵が大声で問い質す。


「······お前らは、子供達にこんな真似して平気なのかよ?」


 言葉を返した魔王は、前髪が垂れていてその表情が伺えない。


「はっ! そんな汚らわしいガキ共になんの情も湧かないわ!」


 不服そうに鼻を鳴らす私兵。

 その時だった──魔王の雰囲気が変わった。


 フードを脱ぎ、顔をあらわにした魔王の眼は爛々と赤く光り、瞳孔がキュッと窄まった。


「そうか。じゃあ、お前らは俺の敵ってことでいいんだよな──〈死を誘う恐怖フィアー〉」


 そう呟いた瞬間、囲んでいた私兵達は膝をついた。


 目は血走り、喉元を掻きむしり始める。

 首から血が吹き出してもやめず、爪が剥がれてもその手を止めない。

 次第に首を突き破ってしまい、私兵達はそのまま静かに死んでいった。

 なんなんだよこれ! 魔王怖すぎるだろ······


 《スキル:剣術Lv2を獲得しました》

 《スキル:剣術Lv1を獲得しました》

 《剣術Lv2と剣術Lv1を統一します······成功しました。剣術Lv3へと昇格しました》 

 《スキル:槍術Lv2を獲得しました》

 《スキル:毒耐性Lv1を獲得しました》


 ···············


 ·········


 未だに謎の声が鳴り止まず、この声の主も誰かわからない。

 けど、わかったこともある。


 盗賊の首がもげた時も、門番を吹き飛ばした時も聞こえた。

 魔王が誰かを殺めた時に、この声が聞こえてくるのだ。

 その度にスキルを獲得したということを伝えてくる。

 ということは、魔王が殺した者のスキルを俺が貰い受けているということになる。


 未だに憶測から出ない話だが、次に魔王が誰かを殺せば分かると思う。 


「魔王様かっけぇ!」


「素敵ですぅー!」


「お、おい、そんなに褒めんなって······照れちゃうだろーが!」


 魔族と亜人族の子供達から賛辞を贈られて、魔王は顔を真っ赤にしている。

 よかった、いつもの魔王に戻ったみたいだ。

 それからスカーレットの掛け声により、全員で階段を上がる。


「おい、貴様ら! まだ終わらん······のか?」


 階段を上がりきったところに。禿げた頭が眩しい恰幅の良い男が立っていた。

 見た目からして、この屋敷の持ち主である貴族だと伺える。


 この様子だと、私兵に声をかけたつもりだったんだろうな。

 とてつもなく焦った表情を浮かべた男は、いそいそとどこかへ走って行った。

 魔王も逃げる者は追わないのか、放っておくことにしたようだ。


「入ってきた窓は······無理そうだな」


「いいよ、俺が集合場所までゲート開くから」


 魔王はゲートを作り出すと、子供たちを先に先に進ませていく。

 子供たちの移動が終わり、魔王とスカーレットもゲートを潜ろうとしたのだが、男が槍を片手に戻ってきた。


「ま、待て! 奴隷のガキどもをどうするつもりだ! あれはワシのだぞ!」


 スカーレットはそんな男を見て、頭痛がするかのようにこめかみを抑えて溜息を吐いた。

 俺もスカーレットと同じ気持ちだ。

 逃げていれば見逃していたものを······って感じだよな。


「どうするつもりって、心配してる家族に返すんだけど」


「家族に返すだぁ!? ふざけるなっ! アレらは死ぬまでこき使わせるために買ったんだ!」


「はぁ、話にならねぇ。ねぇスカーレット、コイツ殺ってもいいよね?」


「ここまでやってしまったんだ。一人増えても変わらんさ」


 どうやら、この男の死が決まったようだ。

 よし、それなら──スキル《鑑定Lv1》発動っ!


 《説明しよう! 《鑑定Lv1》とは他者のステータスを覗き見ることができる、とっても凄いスキルなのだ!

 見れる範囲はLvによって変わるぞ!》


 というのが、鑑定さんが自分を鑑定して言ってたことだ。

 さて、それでは覗き見まーす。



名前:ブーデル・ポルク

性別:男

年齢:39

レベル:1

種族:人族

スキル:〈黒魔法Lv1〉

特殊:

称号:"貴族" "奴隷の主"



 うわお。

 コイツ、黒魔法っての持ってやがる。

 それなのになんで槍持ってきたんや。

 ま、いいや。俺の目論見通りなら、この黒魔法は俺の物になる。


 さあ、殺っちゃってください魔王様!


 魔王はゆっくりとブーデルに近づいていく。

 プルプルと脂肪を揺らしながら怯えるブーデルは、奇声を上げながら槍を突き出す。

 躱さずに槍を手で受け止めると、穂先からどんどんと朽ちていった。

 ボロボロになった槍はブーデルの手で消滅し、魔王は拳を振り上げた。


 ドパンッ!

 破裂音が鳴り響き、赤い絨毯はさらに赤く染まった。


 《黒魔法Lv1を獲得しました》


 うおっしゃぁー! 盗ったどー!

 やはり、魔王が殺した者のスキルを俺が奪えるみたいだ。

 何もしないで強くなれる!

 この調子でじゃんじゃん殺しちゃってください!

 やだ、俺の思想が過激になってる······


 さっそく鑑定さんで《黒魔法Lv1》を調べてみよう。


 《〈黒魔法Lv1〉

 自身の魔力を消費し、頭の中で使用できる攻撃魔法の選択肢が出てくるよ。

 魔法の規模に応じてLvが必要になるよ》


 あれ、今回は「説明しよう!」って言わないんだ。

 ともあれ、これで俺も魔法を使えるようになったわけだ。

 魔法少年サキト☆ハナモリの爆誕!


 それから魔王とスカーレットはゲートを潜り抜けた。

 出た先は、親切なおじさんに降ろしてもらった周壁の外側だ。


 すでに、爺や側の奴隷奪還作戦は終わっており、子供達にお菓子を配っていた。

 あの爺やお手製のお菓子、俺も好きなんだよね。


 魔王側の子供達と爺や側の子供達はどうやら知り合いが多かったらしく、

 もう会えないと思っていたのか鼻水を垂らしながら抱き合っていた。


「お疲れ様です、魔王様」


「俺もう限界。眠すぎておかしくなりそう」 


「頑張れ、もうひと踏ん張りだぞ」


 しかし、これからが大変だった。

 子供達を家に送り返すことになった。

 魔族の子供達は親の名前を出せば、爺やとスカーレットが居場所を知っていたので、すんなりとうまくいった。


 問題は亜人族の子供達だ。

 家はどこかなのかと聞くと「わかんなーい」とか「多分、ここから右に行ったところ?」とか「あそこから左に行ったとこ!」と抽象的な答えしか出てこなかった。

 なので、一旦保留ということになり、魔王城で預かることになった。


 いつかは返すのだが、家がわからないんじゃどうしようもない。

 事情を知らない人からしたら誘拐に見えるだろう。

 これだから魔族の見聞が悪くなるんだろうな。


 ちょっぴり、そういう噂だけを信じる人が嫌いになった。





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