不思議なレストランでのランチ
「これは一体どういう仕組みなんですか?」
私は戸惑いながらも、少し興奮気味に魔女に尋ねた。
だって、魔女に促されて席に着くと、突然目の前にお料理が現れたのだ。音はなかったけれど、敢えて表現するなら、パッ! って感じ。
何もなかったはずなのに、どうしてスープとサラダが、魔女と私のそれぞれの前に現れたんだろう。料理の出現に驚いていると、続け様に水が入ったグラス、ナイフとフォークとスプーン、紙ナプキン、それから名刺サイズの白いカードが目の前にセッティングされ、私はさらに驚かされた。
名刺サイズの紙のちょうど真ん中には『かぼちゃのポタージュ』『シェフの気まぐれサラダ』と、細くて綺麗なボールペンの字で書かれている。そして、ポタージュの字のすぐ下に、小さく『自信作です!』と書かれているのがなんだかかわいい。うん、かわいい。かわいいけれど、そんなんじゃ私は誤魔化されない。誤魔化すというか、ここは何なのか、料理はどうやって出てきたのかが気になって仕方がない。
「仕組みも何も、ここはそういうお店なの。お料理が魔法でパッと出てくるお店よ。因みに、使われている野菜は全てシェフの家庭菜園で作られたものなんだって」
困惑する私を他所に、魔女はマイペースに「すごく美味しそう!」なんて言いながらスプーンを手に取り、ポタージュを一口飲む。そして小さな声で「あー、これは美味しいやつだ」と呟く。そうか、美味しいやつなのか。それはわかったけれど、お店の存在についての理解が追いつかない。
「ほら、そんな顔してないで食べてみな。美味しいよ」
固まっている私に、魔女は優しく微笑みかける。白くてシンプルな陶器の器に注がれた、黄色いかぼちゃのポタージュには、薄く切って焼いた小さめのバゲットを浮かべてある。器を手の取るとひんやりとして、今更ながら冷たいポタージュだったことを認識した。
サラダはベビーリーフに半分にカットされたミニトマトと、輪切りにされたオクラが盛られていて、そこに生ハムが添えられている。シンプルだけど、なんだかお洒落な雰囲気がある。
恐る恐る手を伸ばし、ポタージュに浮かぶバゲットをかじってみる。すると、かぼちゃの甘みがパンと一緒に口の中にぶわーっと広がった。あまりの美味しさに「あ、すごく美味しい……」と言葉が勝手にこぼれ落ちる。
「でしょう? 前に美味しい店があるって聞いてからずっと気になってたの。今日来ることができてよかったー!」
嬉しそうに魔女が笑うので、私もなんだか嬉しくなった。ポタージュとサラダを食べ終えると、お皿は出てきた時と同じように、パッと消えた。そして、一分も経たないうちに、今度はパスタが現れた。もちろん二人分。
トマトとオクラとタマネギ、それからタラコとイカの冷製パスタは、少し酸味を感じるあっさりと味付けで、とっても食べやすかった。添えられた『本日の冷製パスタ』と書かれた白いカードには、小さな字で『お好みでブラックペッパーをどうぞ』と書いてあったけれど、ブラックペッパーをかけなくても、しっかりと味を感じることができた。
魔女も私もあまりの美味しさに、一口目に「美味しい」と言ってからは、ただただ黙々とパスタを食べ続けた。
パスタを食べ終えると、また食器は一人でに消えた。流石に二度目は食器が消えても、もう私は驚かなかった。
でも、食後のコーヒーも出てきたらいいな。そんなことを考えながら食器が消えた場所を眺めていると、本当にコーヒーが出てきたので、私は少し驚き「え!」っと声を上げてしまった。
コーヒーに驚いていると、ホットコーヒーが入ったマグカップだけでなく、小さくてかわいいミルクピッチャー、それからシュガーポット。さらに、少し時間差で瑞々しいマスカットがたくさん乗ったタルトまで出てきた。
「本当にすごいわね、このお店。これは金曜日がハマるわけよ」
魔女はそう言って、お誕生日ケーキを前にした子どものように嬉しそうに笑っている。『金曜日』、まだ会ったことがないけれど、たぶん魔女の名前だと思う。私の目の前にいる魔女も、初めて会った時に、笑顔で私に「私は水曜日っていうの」と名乗っていた。
魔女の名前がどうして水曜日だったり金曜日だったりするのかはわからないけれど、そういうものらしい。どうして? と聞いても、そのうちわかるからと、ひらひらとはぐらかされている。魔女って一体何者なんだろう。
「そう言えば魔女見習いになって半年が経つけど、どう? 少しはこの生活に慣れた?」
甘さ控えめでサクサクのタルト生地と、甘いマスカットが相性抜群のタルトを食べつつ、少し苦味のある温かいコーヒーに舌鼓を打つ私に、魔女は突然思い出したかのように聞いてきた。
「慣れてません。毎日毎日、今までの常識では考えられないことばかり起こるんですよ? 慣れるわけないじゃないですか。それと、あの、私って魔女見習いなんですか?」
「そりゃあ、魔女の私と一緒にいるから魔女見習いよ」
「そうなんですか? 魔法を何も習ってないのに?」
「習ってなくてもそうなのよ」
魔女は「魔法を習ったとか習ってないとか、そんなこと関係ないのよー」、と言ってタルトの最後の一切れを頬張っている。相変わらず美味しそうに食べる魔女だ。とっても美味しそうに食べるので、魔女を見ているとついつい手間暇かけてお料理を作ってあげたくなる。それに、魔女が食べる姿はいつ見ても飽きを感じない。
「そう言えば、ハルってなんで私のところに来たんだっけ?」
この味、再現できないかなあと考えながら、タルトの最後の一切れを食べた時、突然魔女から思いがけない質問が飛んできた。そんなこと聞かれると思っていなかったので、びっくりして私は思わず口の中のタルトを飲み込んでしまい、咽そうになる。
「ああ、ごめんごめん。私が声をかけたのは覚えているんだけど、なんで声をかけたんだっけなーと思って」
ちょっと申し訳そうな顔をする魔女を見て、私は急に疲れを感じた。なんでって、いきなり声をかけてきたのあなたでしょうが。我慢しきれず、私は大きなため息をついた。