ときめき☆ナイト・ウォーク
手を繋ぎ、踵を上げて口唇を重ねる。ちゅ、と触れ合うだけの、子供のようなキス。でもそれだけで全身が痺れるような幸福感に包まれた。
身体を離し、手は繋いだまま、
「じゃあ、また」
「うん」
名残惜しむように一本ずつ指を外し、そして最後に人指し指を離すと、わたしは彼に手を振ってマンションの部屋に入った。
そして、わたしは直ぐに服を脱ぎ捨てた。
フードに眼鏡にマスク。足元はスニーカーで、一見ウォーキングでもするような格好。
公園のトイレから出てきた彼は、そんなわたしと同じような格好をしていた。
夜の住宅街を歩く。その内、妙齢のOLらしい女性を見付ける。
付かず離れず、それを追う。夜に女性のヒールの音がカツカツと響き、ふと、それが止まる。
カカカッ、と早足になった。
女性は右に左に路地を駆け、自販機を見付けると、その明かりにすがり付くようにそこへ走り寄る。
振り返ると、そこには誰の姿も無く、ほぅ、と息を吐いた瞬間、
陰から彼の手が伸びた。
「んっ!?」
呻き声は一瞬だった。
女性の口を押さえ、首筋に一突き。女性の身体はカラクリ人形のようにパタパタと暴れ、そしてカクン、と力尽きた。
凶器を引き抜くと、ピッ、と彼の頬に返り血が跳ねた。自販機の明かりがそれを照らして、彼は恍惚に微笑む。
「素敵……」
思わず呟き、慌てて物陰に身を隠す。幸い彼は気付かなかったようで、そのままその場を後にする。
わたしもそこから立ち去ろうとして、
どすっ、とお腹に固くて冷たい物がねじ込まれた。目の前には、見知らぬ男。
「んぐっ!?」
ぐぢっ、とお腹を掻き回されて、ごぼっ、と口から血が溢れる。
男の顔がにたぁ、と嬉しそうに歪んだ。気持ち悪い、気持ち悪い!
彼を呼ぼうとしても、喉の奥に血が詰まって言葉が出ない。
さっきまで、あんなに幸せだったのに。こんなの酷い。急に、こんな。どうして平気でこんな真似、むしろあんなに嬉しそうに、なんて酷い……
ああ、せめてもう一度、彼に……
「はい……その日は付き合って三ヶ月目の記念日だったんです。デートして、家まで送って、それで……。心当たりなんてありませんよ! 彼女は誰かに恨まれるような子じゃない! ええ、お願いします、絶対に犯人を捕まえてください。僕は、彼女をこんな目に遭わせた相手を絶対に許さないっ!」
サイコな彼とそんな彼が好きな彼女。彼はバレている事に気付いていません。