-9 騎士の伝説の残香
申し訳ない。(詳細は10分前に投稿した前回参照)
◎花の月1日
どこにあるのか、見当もつかない。自動車。あるいはヘリコプター。
それらに乗って、奴らは移動するのだろう。
お母さん、大丈夫かな?、ユーク伯父さん、メランちゃん、あとは……アイオライト。ライト君だ。あとローズさんもなのか。そうか。
その重大さは問うまでもない。
◎女王の間
朝
夢なら夢っぽくしてろよ。寝てたのかよ。
「ふぁ…」
「ふぁあぁうわ、あら、おはようございます」
寝てるし。ジェーンまでそのベッド使って怒られないのか…?
「ささ、髪をとかす…前に着替えですね」
「ん」
パパッと着替える。
「それにしても細い腕だこと」
「ふぁえっ、と……びっくりした」
なぜか腕を触られた。それは別に問題でもなんでもないのだけれど、こういうタイプでもないのにどうして触ったのだろう…?
「ん?」
「えっ…と?」
???????
「な、何があったの…?」
「……?」
わけわかんねーな?
後々思い返すと、この子実は恋愛的に女の子のこと好きだったのでは。最後まで自覚なしで…。
「とりあえず、お願いね。今日の予定考えないと…thinking accelerate」
魔法を展開する。あ、できるだけ目立たないように。
「花弁の火の傷……そういえば、はっきり出ているのでしたね」
「うん、私は見た目に出てるし、パインも使える」
マリルは多分使えない。マリルは魔法関連でもなんか隠してるっぽさげだから確信はないけど。
「私も一応扱えますね。代々続く公爵なので、それなりに王家の血は引いてるようです」
なんかこう、箔みたいなのがあるらしい。そりゃあるだろうけど。建国割りとすぐから続いてる家系だ……よね。うん。
髪が引っかかる。くせっ毛じゃないけど長いからそうなるよねー。いてて。
「あー、またマリルに伝言渡しとくか。なんか今日はあからさますぎる」
私の頭には、はっきりと移動可能範囲が定まっているという情報がある。シグマオメガにまた行くつもりだったけど、そのあたりにすらに行くことができない。
なぜか生きては帰れないのだ。もしくは帰ってからが問題なのか。
何でもいいか。行かないんだから。
「はい、できましたよ。行ってらっしゃいませー」
「うん、行ってくる」
◎ブルーム王城 王家寝室7号室
「おはよう、どうしたの?」
昨日より、眠たくなさそうに見える。慣れてきた?
「なんかものすごい圧で遠出するの止められててさ、もしかしたらクリスの脱獄を手助けしたやつが近くにいるのかも」
話はこれだけでいいかなー。
「なるほどね、わかった。多少意識しておくよ」
「どこ行こう…」
「地下はどう?またあの人のところに…」
「それもありかなぁ…」
避けられない悲劇ではないのだから、案ずることはない。
◎移動中は、シャメルが誰かと取り繕うことなく話してるぐらいしか変わったことはなかった。
◎スター地区(ペンタゴン地区の地下)
ユリウスの墓に向かおうかと思ったが、そんな訳にはいかなかった。
「柱から離れらんねぇ…」
スター地区には6本の太い柱がある。柱の中に螺旋階段がついていて、そこからペンタゴン地区と行き来できる。正直上り下りはつらい。
どれでもいいからその近く、って感じ。地下を通って別の柱のそばに向かおうにも、その過程でアウトゾーンに入る。まぁそれができるなら全域が大丈夫になってそうだけどね。
あーもー、ふざけんなよ!どこからでも大して時間かからず上に戻れんぞ!?
ん、というか領域の範囲が変だな。どこかに一定時間以内に向かえる距離じゃない。
「今も監視されてるなぁ…?おい」
返答はない。そりゃそうか。
とりあえずいられる範囲にいよう。面白いものないかなー?
ふらついてしばらく、何もない。
ふらついてしばらく、路地まできっちり回り出した。暇なんだよ!あ、大型犬との接触は避けます。ちょっと怖いんだよ!
かなり奥まったところ、妙にクモが多い路地の奥に、なんかあった。
それは、やたら豪華な一本の剣。
「名前のない墓に供えられている理由がわからないけど」
なんとなく、このお墓には祈らないとなと思う。
「頑張るよ、私たち」
応援してくれるかは知らないけれど。
「ベリル、か」
お父さんは知っている。でも話すつもりはないみたい。
そう思い出せば、なぜかこの剣も見覚えがある気がしてきた。
「お父さんの秘密、思ったより多いな」
長く生きてればそうもなるのか。私にもすでに関係ない人には話せない秘密はいくつかあるし。
お父さんへの秘密となると、あれだ。マリルがもうお前の秘密を特定してるぞ、だ。ああそれと、あなたたち。
…。
「My instinct understandme how to use the life.(私の本能が私にライフの使い方を理解させる。)」
なんとなく、やっておくべきな気がした。
「my mother informed me the soul shape(私のお母さんは私に魂の形を知らせてくれた).》,I forget you,but…(私はあなたを忘れてる。でも…)」
でも、何だ?それは私が記憶を使い、過去という名の未来を変え始めるその前に、この墓の主を知っているということだろう。
「I love you,Beryl(大好きだよ、ベリル).majic time start now!(魔法の時間が今始まる!)」
私の生命力を注がれて、剣が輝く。
「ん?」
昔私が使っていた使い魔とのつながりを感じた。唐突だな。
必要なときでいいや。あの使い魔とべリルに関係があるのか。じっくり思い出すか。
ぐぅ~。
大きな音がおなかから鳴る。やめてほしいなぁ…。
「そろそろお昼食べに行こう」
腹ごしらえしてから。
この地区で行ける範囲内にお店があるし。酒場だけど。
「いらっしゃいませー……ん?」
「えへ」
「……まぁいいか。お一人ですか?」
「はい、一人です」
「こちらへどうぞー」
カウンターの端っこをもらった。
「ふむ」
今後ろにいる人、お金持ってないね。
「あなた財布持ってないんじゃない?」
「!?」
とりあえず今回は倒れる心配はなさそうなので、いろいろ食べよう。
◎一方その頃
視点 フォリック・ミラージュス
フレア湖畔南
廃棄された墓場
そういえば。魔法は意思の力で強くなるんだったか。
いや、それは今はいい。特に出力求めるような使い方する予定無いし。
建物の屋上は、風が心地よいものです。
「田舎根性抜けませんねぇ」
「そもそも田舎根性って何ですか」
ああ、アテスか。
「なんとなくそう表現したい何かがあったんです。さて、と。そろそろ」
いつも通り、端っこに立って、今日は持ってる刀を肩に乗せ、空へとつぶやいた。
「頑張りますよ」
今回ここに来た理由を説明しよう。一つはただ湖で魚食べたかっただけ。本当にそれだけ。
それともう一つ。そもそもこの国に来た最初の目的。
「アンデットの処理、か」
いわゆるファンタジーと呼ばれる世界の定番、らしいアンデット。
「とりあえず首を落とせばいいのです」
「だがこの量は……」
その量は確かに異常。そこには死体から生まれた者だけでなく、はじめからアンデットとして生み出された者もあるはずだ。どちらも魂を削り取るか、思考器官などを破壊、まぁなんかする必要がある。
それは困難なものだが、獣人には、純人にはない物もあるのだ。それを生かすまで。
「アテス、少し制御を」
「御意」
さて、始めようか。
私たち獣人は、妖気があまりにも多いことがある。そういった者は、一人でその全てを制御することは決して不可能。それは大体が生物の、ひいては魂の限界であるために、努力で完全に制御可能にはならないとみていい。
例外もある。私もそうなのだけど、いかんせん妖気が多すぎて難しい。
今この言葉も妖気を通じ流れ込んでいるのだろう?アテス?
「それより始めて下さい」
ああ。確かめてみよう。さて、これなら力を制御できるはずだし、妖術一つは試してもいいか?
「構いませんが、本当に1回だけですよ?二回目は無理ですからね?」
まぁ、そりゃあそうか。
「My 《まい》intention inform me how to use the aura.(私の意思が私にオーラの使い方を知らせる。)My aura converged.(私の妖気は収束された。)」
僕はいつだって、あの日のために。
「I can’t forget that I sawthat day(私はあの日見たそれを忘れることができない。)」
あの日見た。
「I want to become her shine.(私は彼女の光になりたい。)」
何かのために。
「for her who I saw that day!(あの日見た彼女のために!)」
まだ僕は止まっていない。
その思いのままに標準を敵の中心に置く。
「放てっ!もう限界だ!」
その声とともに、閃光が走る。
「majic time start now!」
そして誓いの光は、ほとんどすべてのアンデットを焼き尽くした。
「終わり、ですね」
「はぁ、もう、それ、やめてくれ…」
息も絶え絶えなアテス。
はぁー疲れたー。半分以上使ったからなぁー。
ん?後ろにまだいる?……あと三か。
任せてもいいよね。
「っちくしょう!My wisdom teach me how to use the mana.(俺の知恵が俺にマナの使い方を教える。)」
あれた声だが、その割には高い、男の声。それが白一つない青空に響く。
「firefirefirefirefirefirefirefirefirefirefirefire and fire!」
雑に単語だけで魔法を作るあたり、相当雑な性格をしているのだろう。
「hey,let’s go!(さぁ、(お前らも)行くぜぇ!!)」
それは情熱の炎でないと気づいたのは完全に偶然であった。
アルマさんのように、炎の力ではない。彼はあくまで、熱の力だ。彼にとって熱は情熱の形ではないらしいのが見て取れた。
「どうかいたしましたか?」
「いいや、彼の力の源は情熱などではないらしいな」
彼は、こちらには見てよく分からないそれを起動した。
「majic time start now!(魔法の時間が今始まる!)」
見えない。
「あ、目が焼けたぁ…」
「あー、殺意高すぎたか?」
殺意高いってもんじゃないよ。
マナを観測したら太陽見たみたいにダメージを食らった。
「あっ」
鼓膜とんだ。
うーん…。
とりあえず空を眺めましょう。
青ーい。雲が多めだけど青い。雲すら青い。どういうこっちゃ。さっきまで晴天だと思ってたよ。
ん?さっきの男に紙を出された。こっちにも話しかけられるとはもう思ってなかったから少しびっくりした。
青天の霹靂、とある。
せいてんのへきれき。さぁこれどんな天気?
それ、天気じゃないんですけど。
「ぶっ飛んだ天気」
これでいいや。
◎視点 アインス・サンクック
「いやいやいや!?間違っちゃねぇけど!?」
一応言葉の意味そのままだと、晴天、雲一つない空に、霹靂、とても大きく響く雷、ってえ意味だな。慣用句なのはわかってるんだろうが。
無駄に青い空を指さす。きこえてないだろうが問いかける。
「どうなると思う?」
青い雲の魔力を注意深く眺めればわかるだろう。よく見ると、多い。オーラが、だ。人が使い続ける妖気としてではなく、ただの空気としてでもなく、生物のようにオーラの中には生命力がある。
「ああ、そうか。あれ、東の聖女か」
正解。
たくさんの魔法使いを調べ上げ、名高い者、優秀な者に名前を授ける。それを担うのが、東の聖女。ちなみにみんな東というが、正確に言えばブルーム王国の東、世界樹の森の中にあるとある場所のことを指している。確か東都…何とか。忘れた。ゼクスに聞け。
とにかく最近、更新頻度が上がっているという。何かはあるのだろう。
警戒はしてもらおう。
「こっちに影響ないといいのですけど」
「あると思うぜ、それ言っちまったら」
鼓膜どうするかな。治療は…っと。
「何をしてくれているんだ、全く!フォリック殿下の治療に当たらせてもらおう」
ああ、ちょうどミラージュスの従者が来た。
「ホロフか、なるほど?」
「アテス殿、ご協力のほどよろしくお願いします」
「うむ、よかろ」
儀式用のドラゴンの血、あと2種ですむからにはなんてことはない。
……ん?
「あれ、そういや従者はアテスだけなのか?」
獣人は確か、異性を従者にする慣例があったはずだ。異性の方が守る本能を発揮しやすい、となんとか。
「そうですね。今回はミェラ女史が身の回りの世話を一部執り行っております」
「あぁ、“魅惑”の姫様の従者か、っつーことは女好きか?」
魅惑は異性を絶対的に堕とす。対策しつつさっきのを満たせるように、同性愛者を中心に構成される。
「いえ、そうではないからこそここにいるのです。彼女もそろそろ到着するでしょうが」
「おい、先祖返りの半分近くがこっち来る気かよ」
というか同性愛者であれば戦闘能力なくても従者になれるレベルのなかそれか。相当有能だろうな。
護衛多数つける有力な獣人ってこいつらの世代だと天耳持ちのフェルマータ、“酔狂姫”のシェラメトン、強すぎる“魅惑”のシュレールか。うーん……?あ、変化持ちの兎少年リングボートもいるか。
とはいえ、外に出せないリングボート、男としても女としても立ち振る舞うフェルマータ、直球女の子のシェラメトンとシュレール……。
純粋女、この世代相手だと持て余すか…。
上の世代につけるぐらいならフォリックにつけるか。こいつ強すぎて護衛が不要だが。生きた爆弾ともいう。
「実際、何回悪党の前で爆発させた?」
「4回ほど?」
「少なっ…」
狂国ゲリラ、こいつを攻撃するだけ無駄だと悟ったな?
血が使われた後、俺がすることは、なんと呼ぶべきなんだろうな。こいつらのためだと思いはしてるが、俺はそれを誇って言えるのか?
少なくとも残党狩りがこいつのためにといえないことだけは確かだな、こりゃ。
◎視点 アルマ・ブルーム
スター地区(ペンタゴン地区の地下)
カフェ・オ・コーヒーダ
たくさん食べた。大盛りオムライスとケーキとコーヒー。ブラックで飲むの初めてだけど案外いけた。いけたから飲んだとも言う。
「にしても、そこまではドジを踏む、か」
ベリルという、多分墓に眠る人の名前だけは聞き出せるけど、それだけ。それを言ってしまった失敗からそれ以上はだまっちゃうし、その言葉がもれないほど警戒させては意味がない。
「そろそろ帰ろうか」
上で寄っていく場所がある。
階段を上りながら、道中のクモの一匹にこう話す。
「今からそっち行きますね」
さて、この柱を上ればペンタゴン地区。スクエア地区に大分近いけど…。
深く追求してもしょうがないけど、ほかにやることもないからね。
◎スクエア地区北東 バー「スターリ」
開店時間前だけど、気にせずその戸を開ける。
「お久しぶりです~」
「ああ、久しぶりだな、アルマ」
薄ぼんやりとした茶髪の男。
お父さんの親友、二人が言うには「最大の悪友」だそうだけど。
ドライ・スターリバー。
「紅蝶の悪魔、とでも呼ぶべきか?」
「何でもいいけど、いくつか確認」
無理難題っぽいのを押しつけるからって悪魔呼びはどうなんでしょうか。
「仕方がないな。言ってみろ、アルマ」
「私は封印した記憶、もしかして二つある?」
「いや、一つは素で忘れてるだけじゃないのか?その魔法がないのだから、あの情報を入手する余地もないだろう」
「どうあがいても聞けないのはしょうがない、か」
「当然だ。が、そのうち話してくれるだろうよ」
さすがに無理。一番聞き出せる質問がこれだもの。
じゃー、次。
「犯人の情報どこまで持ってる?どうせすでにお父さんに迫られて渡してるんだろうけど、私にもちょうだい」
「あいつどう思われてるんだよ」
そりゃ、そういう人だよ。
この人にとってそんな無茶振りでもないんだからやるに決まってる。
「犯人はアスモデウス・ギルティネスト。冒険者という定義にギリギリ当てはまらない、放浪者だな。獣人では珍しくないが、奴はどうやら永人の生き残りらしいな」
バンパイアか。確か昔に滅ぼされたんだっけ。神獣の怒りの矛先が永人に向けられてると勘違いした虫人に滅ぼされたって歴史にあるね。
「森人、樹人、鉱人、魚人、海人……それらに純人と虫人が、主要な種族だな……ああ、あと鳥人がいたか。森人に駆逐されたとかいう」
「そこまでの確認必要ないが?」
馬鹿にされてる気がしてくる。してないのは間違いないけど。
「ってか獣人は?」
「獣人は生物学的には神獣の血が流れた純人だ。簡単に言うと、特殊な純人だ。純粋じゃない純人だ」
「最後のはおかしいと思うけど」
とりあえずハーピーはともかく、バンパイアはどっちかと言えば返り討ち、そのまま殲滅の構図だから生き残りがいてもおかしくないか。エルフ越えのやばい長寿だから当時の人かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
「魔法については知っての通りだ」
「そうだね」
「ちなみにミラージュ国籍で、いまいち証拠がない、という状況だからあっちの強権で裁く予定だそうだ。ゼクスによると、だが」
「えぇ…」
お父さんめちゃくちゃさせてない?酷くない?そもそも直接スパーンしてよくない?
「ま、狐の族長に話を持ち込めるからこそだろうさ。世界樹の真理を伝えた男としてミラージュでは悪評を覆して称賛されてたぞ」
「何の悪評だよ」
「エルフ・シャロウワイルという名の女がいてだな」
「あー……」
いたなぁ。変なやつ。
「バンパイアよりたち悪い女だ」
「ミラージュで最も危険な純人、だったかな。クアーロちゃんが言ってた」
「そりゃ、熊族の娘からはそうなるだろうな」
危険な気配。
「よ、帰る前に来てやった……ん?」
「噂してたら来やがったか」
来ちゃった。
「うーん、監視をくぐり抜けたのは失敗だったね」
「とりあえず今入れてやる」
「助かるよ、つーかせっかくだ。アルマちゃんにもサイダーをやれ」
「だな、はいこれ。世界樹の森のリンゴのサイダーだ」
あら、いただきます。うん、おいしい。
……抵抗しないで。
えっ、あっ、なんか頭が、思考が、いじくられてるんだけど!?
耐えたー。とりあえずにらんでおく。
「……はぁ。少女は、助けを求める声のために悪い大人を殴ってしまった」
ん?ドライさん?
「もちろん怒られた、それだけなら心から反省して終わりだったのだが、助けられた姫は感謝の言葉を伝えた、伝えてしまった」
あ、これフンフさんの話か。
「正義感あふれる少女は、人を助けるために悪事を犯すことが必要と学んでしまった。そして、俺の提案を受け入れてしまったんだ。それでも、あのとき破綻しなければの話だが、最後にはお前と彼女は離反しただろうことは確かなんだよ。その正義感では、俺たちの計画のすべてに賛成できないからな」
「この人は?」
「馬鹿な野望持ってるからな」
「それについてはちょっと、秘密で。もうちょっとだけ親睦を深めてからにしましょう。送るのは慣れが必要よ」
うなづき、残りを飲み干す。
どうやらこの人、相当な悪人であるらしかった。悪友と言っていたからには、お父さんも加担してそうではあるな。
それとエルフさんは、記憶をのぞいてドライさんに渡したね?その過程を今夜、今の記憶から学習して、送られる日に備えておこう。
「じゃ、またそのうち」
「そうだな、ではな」
もう王城へ戻ろう。あのとき破綻しなければ、については何があったのやら。
聞いても無駄だった。
そんな気がしたよ。とりあえず、ベリルについてお父さんに聞いておこう。そうしよう。
◎センチョオシー地区とスクエア地区の境界
ぼへー……。
あ、シャメルだ。
「おいシャメル」
「アルマか、どうした?」
とりあえずいつも通りでいいか。
「調子どう?」
「リズが心配でしょうがねぇよ」
「そりゃそうだわ」
にしても今日は極端に行動範囲が狭かったな。
「ほう?」
どうも私の存在そのものがストッパーになってたみたいでスター地区の柱からあまり離れられなかったんだよね。監視付きで間違いないよ。
「………はぁ、伝令っと」
「大変だね」
「おかげさまでな」
さて、読心をどう利用しようか。
「ゼクスと違ってそこら辺器用だよなぁ…」
「まーそりゃあね」
私の魔法は完璧ですから。全能ではないけども。
「それだけあってもだもんな」
「そうだね、確かにそう」
聞かせるための会話はこの辺にしよう。
「そういえば2週間前さー…」
雑談でもしようぜ。
◎ブルーム王城 王族の間1(元ユークレースの部屋)
ノックする。
「入るよ」
といいつつ、すぐ扉を開く。
「お疲れ様、アルマ」
「そっちもね」
お父さんが事務作業をしていた。地方からの税金の報告書っぽい。
平民上がり……とは何か違うようだったけども、貴族の相手してこれもこなすのは間違いなく大変だ。
そもそも元が平民だとしたら権力者との接触が異様に多いぐらいはあるし、多少慣れてるかもだけど。
「狐の族長について、聞いてもいい?」
「……アルマが生まれる、何年前だったかな?まぁいいや、世界樹の真理、魔術の全てを手に入れて、最初に取引した相手だ」
……未来からのアドバイス以上に、疑問が解けた。
「取引、ねぇ?」
「あんまり詳しく説明する気はないよ、いろいろと醜いやりとりだったし。でも結果的に得たのは族長、フェネック・ミラージュスとの友情だった」
「一般人とはほど遠いような気はしてたけどさぁ」
「はっはっは、とはいえ一国の姫様もらうような男じゃねぇはずなんだけどな」
「それは経緯が何の関係もないんでしょ、それだけは知ってる」
「これまた説明したくない話だな、でも多分後でするだろうよ」
するのか。お父さんは苦笑して、書類仕事の手を止める。
「あと、ベリルの名前を見たよ」
無言でうつむいた。
「聞くだけ無駄だろうからそれだけ」
「さすがに、察するにとどめておけ。俺はともかくノインには聞くな」
非常に真剣な目で見つめてくる。ノインには聞くな、か。
「記録前に見るか?」
「うんにゃ、でも見れるだけの時間はとるよ」
「そうか、おやすみなさい」
「おやすみ」
お父さんはもう寝るのか。見送って、少し考え込む。
「thinking accelerate(思考は加速する)」
ベリルの件はノインさんが重大な問題を抱える内容でお父さんが絡んでる。いや、あの剣は……。
そうだ、昔にお父さんが持ってた。魔力オーロラの時だ!
「memory checker(記憶確認)」
具体的に照合しようにも、近づくのが割と危険だったから記録してない。
そもそもあの時は、今と違って大分病弱なマリルのフォローを重視してた。
memory editor(記憶の編集者)」
――お母さん、安心して。私が守るよ、お母さんも、マリルも。すーっごい隠すからマリルがどうしてこれで守られてるのかわからないけど。
今の記憶は、確かマリルが生まれてすぐの頃の記憶?
何でこれが?マリルも何か関与してるの?




