2-6 おまけ 余裕がない二人
◎視点 マリル・ブルーム
ブルーム王城壁南東角 B3階 行政区執務室
大体正午ぐらいから
何故こうなった?
「thinking accelerate(加速される思考)」
業務をこなしている途中で見つけたこれら。
ガブリエル伯爵から届いた大量の苦情から、要点をなんとかむしり取る作業が終わった。から言わせてもらおう!
「お父さんをばかにするなー!!」
まるでぜーんぶお父さんが悪いみたいに言うー!
ふぅー。まだむかつく!
「お家潰してやろうか」
「おねーちゃんこわいよぉ」
後ろにパイン居たの?あわわ涙目だぁ。誰だ泣かしたの、絶対許さ……あ、私だ。私許さん、はい反省しなさい。
「ごめんね、ちょっと疲れてるかな」
ぎゅーってして頭なでなで。こういうスキンシップ大事だよね!
「はぁ…こいつはまたひどい内容だな」
ああ、カウント公爵。
「公爵、それをどう思います?」
「王国を支配だの、姫を奪っただのは言いがかりに過ぎない。というか姫についてはむしろなつかれて仕方なくと言う側面すらあるのにな…。それもどうか、っんん!まぁ、すぐに仲睦まじくなって何よりだが」
そこは断言できる。ついでに、娘の前でイチャイチャしないでよ、っても言いたい。
なんか、どこか家来の扱いみたいなところあるけど。ほとんどお父さんの性分、だと思いたいなぁ。
途中まで言いかけたのには触れないでおこう。あんま否定できないって言っちゃってもいいかもだけど。
「しかしフィロソフィアの名誉を傷つけたというのは肯定も否定もしにくい。姫の婚約の件に加え、私を君の補佐にし、端から見れば行政の実権を私は得たのに、かの公爵は国政議会の暫定副議長に過ぎないのだから」
「普通、十にも満たない子にできることなんてそうそう無いからね。」
「…私の言葉の意味も理解し、自力で聞くべき点が分かる程度まで把握している君にとって、私は正しく補佐なのだがな」
「あはは…。ありがとうございます」
「かまわんよ」
しかし、お父さんは大丈夫かねぇ?そいつともめてそう。
あ、いや、無いな。
「問題は、これだよ」
「長女ジェーンが女王に仕えることの許可を正式に出せ、か」
最大の問題か。
「これを正式に認めればまずいことにもなりかねないが」
「実質側についてるからなぁ」
「あの女王には気迫が無い。甘く見られているのだろう。あとはあの妙に強引な気遣いをするジェーン殿自身の問題か」
あー、お姉ちゃん真面目にやってないからね、今のところ。
ってだけじゃ×。わかりやすく言う。
「危険なことに気づいてないだけ。危険であることを自覚すればちゃんとやるわ。奴らにはせいぜい踊ってもらいましょうよ」
危険な少女の言葉はきついなぁ。
「少しいいか?」
「はい?」
何ですか?
「マリル殿は…」
「モノス、昼メシ持ってきたぞ」
「む?おお、レントか、ありがとな」
「モノス?レント?っておじさんたちのなまえ?」
ちょ、パーイーンー!?まーたー!?
「あぁ、こいつはモノス・カウントで俺はレント・マラカッタだ」
「へぇー」
「まぁ今まで通り食堂のおじさんでいいぜ」
「うん!」
「………」
すっごい。無邪気ってすっごい。
「念のため四人分持っといてよかったぜ」
「わざわざありがとうございます」
「いいってもんよ」
「む?四人分と言うことはお前もここで食うのか?」
「いいだろ別に?ってゆうか、なんか食べながら仕事続けそうだし休ませねぇとな」
うぐ。昨日そうしてたわ……。
「それはしな……いやなんでもない」
「おいおい、やってたのかよ、教育に悪いぜ」
「……そういうことにしておこう」
ごめんなさい……。
言い出せない。私だけやってました。
「さ、食うぜ」
「はい」
準備の手際いいなぁー。
「いただきます」
「いただきまーす!」
ぱくぱく?って感じで食べてくパインには注意しないと。
「よくかんで食べなさい」
「んー」
ほっぺたぷっくりでかわゆい。って、だめだめ!
「そんなに口に詰め込まない」
(ごくんっ)「はーい!」
まったくもー。
「で、だ。マリル殿はどうして女王に対して何も言わない?」
「どういう意味?」
「正直に言おう。あの少女も大概賢いのだから、動かない理由が分からない」
「そんなの単純よ?私たちの目的はお母さんを探すこと。この国の政治は二の次。お姉ちゃんは多分今日で準備は整う」
「準備、か。あの嬢ちゃん、狡猾な上に用心深いな」
ああ。
「ついでに言うとアルマ・アローラはあなたたちが思っている以上に強い。お姉ちゃんの全力を見たことがないもの」
「なぜ名前を強調する?」
「お父さんの子だしってこと」
それだけ。四文字の通り名もらってるからね、お父さん。確か…“大陸神星”だっかかな。
お姉ちゃんに対して過去を隠したいらしく、ほとんど話を聞けてないけど。
「ごちそうさまでしたーしょくどーのおじさん!」
「ういよ、お粗末さん」
「ごちそうさま」
「おう」
私は強くない。
「さ、続き…ってかもうおわしちゃおう!」
「何を」
「おねーちゃんあれつかうんだ?」
こっそり左腕に針を指して…いくよ、血統魔法!
「endlessgallery」(終わりなき回廊)
知識の全てを拾い出せ!
「さ、一気に行くよ!!thinking accelerate!」
「デスクワークって張り切ってやるもんだったか?」
「気のせいだ」
「はい終わりー!!」
「「はぁっ!?」」
「今日までの緊急のは終わったよー!」
「おねーちゃんすごーい!はやかったー!まえよりすっごくはやかったー!」
「いぇい!」
「さて、余裕ができたことですし、私にご命令を」
「りょーかい!このリストの通りによろ☆しく!」
「なんだあのテンション」
「おねーちゃんあれやるとすっごくつかれるの。それでおおばかになって、もともとかんがえてあったことしかできないの」
「おおばか、って容赦ねぇな」
あ、そうだ。怪我直してからお昼寝しよう。てぇい!
◎一方その頃
◎視点 ゼクス・アローラ
ブルーム王城壁南西角 B1階 立法区国政会議室
さて、シャメル。
お前はもう帰れ。仲裁するだけ無駄だ。
「私はこの場で失礼させていただきます」
「じゃあ、私もいつもの仕事へ回らせていただきます」
む?もう一人帰った?まぁいいや。
「少しよいかな?ラファエル伯爵令嬢様」
「何なりと」
「父上はお元気でいらっしゃるかな?」
「存じ上げません。何分、父上はお会いになることを望んでおられないのであれ以来ご尊顔を拝見しておりませんゆえ」
「それはまた。……まぁがんばってくれたまえ」
「お言葉、感謝いたします」
……もう一人マラカッタさんだった。
まぁいいや。
「気兼ねなくなったな」
「ええ、私もそう思います」
「で、どういたすので」
ガブリエルめんどくせぇ。
もう主張ぶった切っちゃえ。
「1点を除き、俺、暫定議長ゼクス・アローラの名の元意見を棄却する」
「なっ―――なんだと!!」
「残一点、ジェーン・フィロソフィアの件は女王の個人判断に委ねることとする、まぁそこはいいな?」
「父親だろうが!」
「俺にゃ娘は制御できねぇよ。出来るなら俺が王だろーが馬鹿」
アルマには少し教えてみただけで魔法の実力めっちゃくちゃ上がってなんか凶悪なのつくるし。
マリルはなんかいつの間にか俺の書庫の本5千冊、しかも2千くらいは白銀の知識まである書物を内容丸暗記して理解しようとし続けてるせいか賢すぎるし。
パインはパインでよくわかんね。勘が利くせいかやたら聞き分けいいのと何気に速唱が少しできるくらい、なのか?
多分、その原因の予想は間違いないんだろうけれど。
「(あれ、うちの娘たち完全に暴走してないか?)」
「こいつ大丈夫かよ」
「なんかぐだってきたな」
「うるさい!こんなものは認めんぞ!」
というかイシュタル……子爵だっけ。しつこいなこいつ。
「あー、もー、それでいいからもう解散しようか?」
「イフリート公爵!?なぜここに?」
「議会について司法部より。早急に解散し暫定議長、確定副議長以外を解散し、しかるべき手法で議会員を決定せよ」
「「委細承知!」」
いさいしょうち!じゃねぇ!?
「(めんどくせぇことになったな)」
「(はぁ、まともにもめることすらないのはさすがブルーム。不本意ですがこれからも頼みますぜ、ゼクス殿)」
「(あいわかった、こちらもたのんますぜ)」
やっぱりこの国平和ぼけしすぎだろ。
外交ガンバレ、シャメル、バレット!
「失礼いたします」
「は?フィーア?」
「フィーだけじゃないんだなぁ」
「げ、エルフ」
「げってなんだよ」
げってなるだろ。
「何のようだ?」
「船の依頼の件だけど、何人乗せる気?」
「20人乗れたら十分かな。船の管理はお前一人で行けるだろ?」
「まぁ、ね」
「……はぁ」
「フィー?何?またちっちゃいからってねたんでるの?」
「別にそれはない。っていうか大きいのは大きいのでなぁ」
「おいゼクス、何があった?」
「あー」
多分あれだよな。
「全力発揮変身とかって名付けてたっけお前?あれこいつも使えたんだけどな?」
「なに?おっぱいぼいんぼいんにでもなった?」
「なった」
「マジで!?」
「アホ助がエロっ、とかぬかしたから一回分死んだ」
「一回分て何や」
「三回半殺し」
「一回多くね!?」
多いね。ってかもっとやる気だったんだろうけどしゃれにならないことがあったらしいからな。
「一つよいかな、そこな船乗りの総領殿」
「どういたしました?公爵殿」
「お主、たしか我らの呪縛について知っておられるじゃろ」
「一応は」
「うちの孫が少しあばれておる。奴は呪縛を断ち切らんとしている。しかし奴にも呪いはしかとある。さて、アルマ、マリル、パイン……」
「おまっ―――」
「どなたがやつを殺す役を任されるかのぅ」
「私にそれをどうしろと?」
「決まっておろう?そなたの領分じゃよ?」
「なぜ言い切れる?ってかそこの学園長の領分では?」
「それはそうじゃが、時の流れはそう言っておろう?視野を広げてみれば、わしの視点からじゃ容易に分かる」
「はぁ」
………あいつらのことだ。
死にはしないだろうが、大丈夫だろうか?特に、マリルはねぇ。
「ねぇ、そういやさ、アルマちゃんもうそろ中等通うんだよね?」
「あー、まぁな?」
「お祝いして欲しいなーとかないの?あの子は」
あー。
「ない。ってか、そのうち王立魔法学園へ編入させるけど」
「まじか」
「高等部に」
「「は?」」
「そういうことだろ?」
「うむ、すまんがそういうことになるな」
「知識不足ぐらいならあいつはごまかせるってもんよ。後は素の頭でなんとかするさ」
「ほかもずらすのか……鳶が鷹を生む」
「俺そんな馬鹿じゃないけどそれは自覚してる」
「え、違うの」
「馬鹿はお前だけだよ、ファンタジーでそんな名前名乗るな」
「「いや、それ…」」
「……」
いわゆるエルフって種族がいるんだよ!森人がいるんだよ!
「そういえば自らで名乗っていたか」
「必要かなーとは思ったが」
命名パターンあんまりないから合わせた方がやりやすいってドライの判断で名付けただけ。
さて、と。
「じゃあね」
「どーもな、フィーア」
そうして帰って行った。
「アインスはどうせ大丈夫。フンフもコンタクトとった。ドライにはそのうち会いに行くし、そうで無くともノインに頼めばいい。フィーアにエルフ、ゼクスがここにいて、あとはどっかふらついてるアハトとズィーベン、カンペキに行方の知れないツェーンとも合流したいが、ああ、後、二人も回収せんとな」
「あのゆりかごは?」
「ここにいるからいい」
「なぁんとまぁ。なら海であそこから塩水晶の聖域の中入ってゴール、か」
「ああ、あえて言おう!犯人は分かっている!」
リズを誘拐したのは!
「エルダーアース狂国そのものだ!!!」
「あ、ゼロスサンにも行くんだっけ?」
流された。別にいいけど。
「いや、延期した。パインへこんでた」
「それはまた」
残念だわ。
さてさて、仕事するか。マリルは任せたぜ、カウントさん。
アルマのぶっ飛んだ魔法の詠唱したことあったか思い出せない程度の記憶力。アルマの魔法の一部がほしくなる。
次回は間に合うはずですがその次もどうにか間に合わせたいです。