2-5 ブルーム王国首都観光
◎視点 アルマ・ブルーム
ブルーム王城 女王の間
歌の月29日 朝
おはよー!!
といっても一人なは―――
「おはようございます、陛下」
えっ?またぁ?
起き上がり、話を聞こうとすると。
「デートとお聞きしまして参りました」
……………え?
…………………………は、え??
「あの、どっからそーゆー話入ってくるの?語弊がひどいし」
「あら?フォリック殿下が楽しそうにしてましたのでアテス殿がお聞きになったらあっさりとお答えになってましたが?」
ええー?ってかその名前久しぶりに聞いたぞ?
「アテスっておっちゃんどこで何やってたんだろ」
「王城でマリル様と仕事に明け暮れておりました」
マリルと居たのか。ってかマリルの方が仕事してるんですが。
「王の仕事は多いはずだけど、案外回さなくてもいいものなのね」
余計なことを言った。
「まぁ、たまに、働かない王もいたそうですし」
ブルームだからね、で済むすごさ。ひいおじいちゃん、お前のことだぞ働けよ。
地獄でも働きとうないとわめく姿が容易に想像できる。
会う余地があっただけで会ったことないんだけどね。
「さて、軽ーくおめかしでもしますか」
「軽く、ですか?」
えっとね。
「実際結構やるけど、あなたたちの基準じゃ軽く、ってはなるかなぁ」
まぁそんなもん。
「今日もやります」
「あ、ありがと…」
うれしいっちゃうれしいけど気まずいのよねぇ。
でも気持ちいい。
「(すごくうれしそうなんですもの、やりたくもなりますって)」
「何か言ったー?」
「いいえ、特に」
そっかー。
後で気づいて恥ずかしくなった。
◎視点 アテス・ディライト
どっか
今日のいつか
「殿下も楽しみにしておりましたが」
裏に意図があるのか?そこが問題なのだよ。
「いかがお考えで?」
…。
「あ?お前さぁ」
やはり口が悪いな、ゼクス・アローラ!
「いきなり、娘を利用してんのか、だぁ?ざけんな、俺の目的はリズを助けるだけだ。ぶっちゃけミラージュとの縁なんぞいらねぇ。ブルーム王国との縁も正直面倒くせぇよ」
知っているが、そこではない!!後そこまで言ってない!
「そもそも」
「うるせぇ!娘を道具としてみるようなクズと一緒にするのかよ、ああ?」
「違う、が!!」
譲れないことが一つ。
「お主、何のために、魔力を捨てている!あの時の力なら、何だってできるだろう!?娘の力を使わずとも!!」
己の力を使わないで、娘を危険にさらした男の台詞ではないだろうが!!何をしている!!
「ああ……それか。おそらく俺以上の戦力になるやつの治療中だ……それにアルマは、ある意味で最強だ」
「は?」
どういう意味だ?
「彼女の治療が済めば、俺の魔力も使えるようになるし、心配いらん」
その言い分だと、全力でも足らない相手を想定しているのか?
「そもそも、魔力が要る前提か」
少し頭が冷えた。そういえば、さほどの野心はないとのことだったな。何の意図もないとは思えないが。
それと愛情が本当にあるのかは別の話だが。
「まあな。奴らは知っているな?」
無論。
「知っているとも。なれば、私は足手まといですな」
私は奴らには無力だ。
「納得してくれたところで頼むぜ、ミラージュへの手配」
「………承知」
不承不承、うなづくのだった。
この悪魔め。縁など要らんなどとぬかしておきながら、それなしでことを進める気などないではないか。
◎視点 アルマ・ブルーム
3階 バルコニー
あー、見える見える!
「フォリック、あれ!」
「アルマさん……それは何ですか?」
「スクエア地区ののぼり!そしてあそこはここで一番の商店街!大体の人がここで買ってくから、私たちがいてもあまり騒ぎにならないんだ。王族いるなんていつものことだし」
あそこに来る人は貧しい人から富める人まで、みーんな来る!という触れ込み。ちなみに私が言い出した。
斜め上の広がり方に困惑したのも懐かしい。
ちょっと予測が足りてなかったよね。
「あそこへ行くのですね」
「うん!」
さ、行こう!
「ちょ、待ってぇー!?」
あっはっは。
「ごめーん」
「むむむ…。さて、行くんですね?」
「うん、もうそのつもり」
「そうですか」
さぁて、今日も楽しむぞー!
◎ブルーム王国首都メンタル スクエア地区
商店街東通り 西へ移動中
11:00
相変わらず賑やかな商店街。
ただ、今日はやけに賑やかだ。
何かが騒いでいるようで、とても不思議な感じだ。
「三公爵家、という単語が多いですね」
フォリックが言うには、三公爵家はフィロソフィア、イフリート、カウントの三家らしい。
イフリートはよく知らないなぁー。名前以外は断片的にしか知らない。まとめればわかるかもだけどどうでもよし。
フィロソフィアはジェーンにお世話になってるし。あの子のおしとやかなのに強引な印象が強い。後は伝説の人とか。
カウントはちょくちょくお世話になってる?感じ。フォリックは、あの三つ子に対するマリルの反応は楽しかった、ってさ。気になる。すごく。
ってえか、そのやりとりいつかは知らないけどさ、その時点でフォリックは城にいたんだよね。あーでもパインと少しいたらしいから多分指摘されてる。
それで目のことしか気にしてないあの発言なら大丈夫でしょう。
「フィロソフィアの伝説、ですか。なんか気になりますね」
「結構面白い話だよ?」
なんか白熱してる戦いと悲愛(?)の話。
「ざっくりでいいので今度教えてもらえます?」
「ああ、一語一句違わず覚えてるよ?」
あの魔法やっぱ究極便利。
「それどのぐらいの長さですか?」
「千ページくらい」
ざっくりだけど。一応史実なんだけどもね、やべぇ。
「……要約していただけません?」
だよねー。そりゃそうなるよ。
「うん、頑張る」
それはそのうち、かな?
「さて、と」
ジュースでも買うか。
あのモコフード少女がいたお店が、ちょうどそこにある。
何で路地の入り口にあるんだろう。
「ジュース飲もう?」
フォリックにたずねたが、別の方を彼は見ていた。
「どうしたの?」
「いえ、知り合いの気配がした、というか妖気が見えたような」
あらー、それはまた。
「その知り合いもたまたま来てたのね、どんな人かしら」
気になるわー。
ん?あ、それこそモコフード少女。
「それより、さっきの聞いてまして?」
…あれま、言葉づかいがおじょーさまになってるぞ私。
元々不慣れな言葉でもないからいいけど。今思うと頻度少なくはないんじゃないかと思えてくる。
「あー、ジュースですね」
キツネって果物だいじょうぶなのかな?
「キツネって果物大丈夫なのかな……?」
あ、いっちゃった。言ってもいいのと言った方がいいのは違うと思うんだけど何で?
「消化器は純人と同じから、私は問題ないです。飲みたいです」
あ、そう。それはよかった。
「ほかもキツネは大体食べるのではないかと。あ、油物と肉は好き、いわゆる油揚げは意外に好きでもないけどあると食べたがりはする」
細かっ!くもないか?油揚げねぇ…。
「メンチカツ屋にキツネの大群が来たときは大変だった」
「あー、肉に油に」
「はい、でもそれ以上に玉ねぎがあまりイヌ科の体によくないらしくて…」
へーそうなんだ、メンチにも玉ねぎあるからね。
ちなみにキツネはイヌ科。犬要素どこ?ついでにオオカミもイヌ科。それはわかる。
「いらっしゃいませ」
あーっと、私はー。
ふむ。果物オンリー。基本この場でしぼってる。質は高め。こだわりあるのはこの辺。コスパいいのはこっちら辺かな。となると。後は今の気分で、決めた。
「イチゴミルクジュース!」
「あと、ストロベリージュースも」
イチゴもストロベリーも同じなのに自然とこうなる不思議。
「かしこまりました。ところで犬はタマゴがだめだったような気がするのですが」
「卵白使ってなければいいそうで、いろいろ工夫してたそうです。そこの詳細までは知りません。そもそもキツネもだめなのか知らないですが」
イチゴが魔法の補助を受けつつジュースへと変わっていく。魔法で0から食べ物作りたいわー。
一応、魔法ってマナとかさえ足りれば何でもできるし。
今度考えてみよう。
「お待たせしました、710円になります」
あいよー。ぴったり。
「お買い上げありがとうございます」
「じゃーねー」
ふぅ……。うん、おいしい。
「ブルームは純人の他には、虫人と樹人の国でしたっけ」
えっと、それぞれなんだっけ?
「あぁ…っと、さっきの樹人の店員さんと城によくいる虫人だよね。そうそう。」
そもそもの話、一部除いてあんまり七種族の違いを気にすることはない。
ブルームに少しだけいるドワーフやエルフもさほど何か特別なことはない。
アントマンは皮膚を甲殻が覆ってるからちょっとあれだけど。野外の全裸ダメゼッタイの例外です。
そっちはおいておこう。
「ドライアドは器用だよね、さっきの魔法とかとても繊細」
「真似できそうにないです」
正直、私は相当に繊細な魔法使ってる気もする。まぁ全体での傾向がないのが純人。純人ともいうけどあんまり聞かない。ほぼ暗号。
また歩く。しばらくは人の往来を眺めていた。
人は右へ左へ流れていくように見える。
川の流れは決して絶えることはない。しかし元と同じではない。ってなんかあった気がする
人の流れも同じ。歩く全ての者は、生まれ、生きて、考え、学んできた命。
生まれ生きた命はそれだけではない。
足下にだって命はある。……足下?
うわっ、クモだぁ!!
びっくりしたぁ。
あ、足六本だ。イトハキアリかな。
こいつは正確にはクモじゃなくてありんこの一種だね。廻金のなぞその一。なんか名前が雑なのは大体白銀の種族に由来する。
後そこらに見える植物たちも生きてるし。
この甘さも命が生んでいると思うとステキ。そして悲しい。
命の意味にこだわり?っていうと違うな。まぁ大事にしないとね。
「ジュース飲み終えちゃった」
ゴミ箱へシュート!
「よっしゃ!」
「よっしゃ、って……」
まぁいいじゃないの。
いまだ中央へ歩いている。
「しっかし、さっきっからうるさいなぁ」
「あ、あれでは?」
指さした方を見ると、大きな馬車があった。
上には、黒に黄色と赤青ボーダーのでクロスが入り、中央にドクロのマークの旗がある、つまりはあれか。
「演劇団ね、そりゃあうるさくもなるわ」
さっきの三公爵うんぬんは、たぶんこれに関係してたんだな。
そっか。
「おー嬢ちゃん!昨日ぶりだな」
あ、たい焼き屋のおっちゃん!
「うん!またたい焼きちょーだい!」
「おう!そっちのにーちゃんも食べるか?」
「じゃあカスタードで」
!
「あいよー!」
………。
「カスタードは邪道」
「えっ」
「やっぱりあんこじゃないとーーー!」
だめだろーーーーーー!!!!
「強いこだわり………!」
「あったりめぇだぁ!」
「何やってんだおめぇら」
「てへっ」
「あははっ」
なぞのやりとりをツッコまれてごまかして。
実際自分で食べるならともかくって感じ。人に勧めるにもそんなこだわることもない。とはいえこだわられたときに対抗するとめんどくさいから避けてるってのが大きいけど…。めんどいよね。
「あいよー」
もらって、食べる。
「いや、お代」
あ。
「はいよ、250円」
「250え……あ、合ってる」
昨日来たから一応ね。
「昨日以前のことはきっちり思い出せるの。ここのメニューの値段まで、ね」
「その日に使えりゃあ便利なのにな」
「まぁ使えるけどもね…」
あの魔法、大事なことは教えてくれるから大丈夫なのだけど。それでもその日の操作はさすがに不完全なのよね。しょうがないけど困る。
「はむ」
それに、今のこれが大事ではないというわけでもないし。
「おいしいです」
…ま、いっか。
なーんか、イケメンがたい焼き食べてるシュールさがさ、笑えるよね。笑わないけど。
「しっかし、よそ者からしたらあやしい旗ですねぇ」
「まぁそうだね、あの演劇団、元々山賊らしいし」
「はっ?」
きょとん、としているフォリック。
いいね。
「この国でちょっと事件があって、裏社会の人間の大半は必要悪にとどまってるの。あれは、悪い奴らからいろいろ奪うための潜入工作から始まってなんかああなった。今では、立派な演劇団」
すっごく平和ボケと自衛戦力重視な国民性の結果。
守るための戦力は大事だと思っているけど、なんか中途半端にしてほかに全力を尽くす人たちの一例。
未だ戦力を持っていることは知れ渡っているけれど、王城の方ですらどうでもよさげ。
「あ、うわ。すごい国ですね、敵に回してる国からしたら、面倒なこと……」
全くよ。どこがどんな戦力を持ってるかブルーム王でも把握できてないもの。すごいよ?
後何か見えたのもかなりやばいんでしょうね。確認しようがないレベルで私側には驚異じゃないから気にしない方針で。
「バカの相手しづらいのと同じ。予測できないことほど面倒なこともない」
ま、私には概ね予測可能なんですけどね。概ね、ね?今わかんなかったのは気にしないでね??
それはそれとして、そんな集団すらお母さんは守る対象としてみていた。そのなかであの事件。つまりそれは、相手は大きな組織による権力やコネに頼った犯行ではない可能性の高さ。単純な実力でお母さんをさらっていった相手の力はこの世界で最強級。
ま、こういうことだね。
あ、食べ終わった。
「む、58番かー」
「なんです?」
あ、フォリック知らないのか。
「今日は29番が当たり。もう一個ゲット」
なんか雑だなおいこら私。
「38番ですね」
「そっちも外れかぁ」
やっぱ簡単には当たらないなぁ。当たりが本当にあることを知っているからなおさらそう感じる。
「ま、残念だったな」
ざんねんだわよ。
あ、演技が一週終わったかな?人の往来が加速した。
「見に行きませんか?」
「うん、行こう!」
「あー、またこいよ!」
「うん!」
さて、どんな劇かな?
と思ったら。
「これってもしかして」
ええええーー。
「うん。さっき話してたやつだ。劇としてもまぁ悪くないわね」
題名は、『フィロソフィア自衛団防衛戦』。
◎演劇
「時は神代にさかのぼる」
舞台に一人の男が立って言う。
腰に差しているサーベルと戦闘服とおぼしき服装が、元山賊であった名残をしめす。
新品だけど。後山でサーベルって使いずらそう。どうなんだろ。
「世界樹よりエルダーアースへと神獣たちが裁きに向かった中、そのうちの二匹は、ブルームへと別行動をしていた。」
その言葉を残し、舞台より去った。下へと。
ステージの中央にある昇降する仕掛けによって。
シーンチェンジ。
そしてあらわれたのは、黒い毛皮をまとった大男に肩車された茶色いコートの女の子。
女の子はりすの尻尾をつけている。
「さぁ、次なる脅威を落とすのです!」
堂々とした宣言に従い、舞台右より左へとたくさんの獣、に扮した人たちが走り抜けた。
「さぁいけ!ブルーム盟主国を追い詰めろ!」
そう言い終わる頃には二人、いや、二匹しか舞台上にいなかった。しかし、足音は大きいままだが。
「ゆくか?」
「ううん、また戦力を仕入れてくるよ」
その二匹は右へ去って行った。
シーンチェンジ。しかし、さすが王国一の演劇団。
白馬の王子を思わせる白い服装が似合っている美男子が右を見据えていた。左に多くの白い鎧の戦士がいて、右には先ほどの獣(に扮した人)がいた。
「愛する者のため、今日もまた駆け抜けろ!敵を討て!我に続け、フィロソフィア自衛団!!」
そして戦いが始まる。それぞれが敵と打ち合う。
自衛団の優勢のようだ。
「我らは神に屈しない!」
その言葉とともに決着した。
「決着、ですかね?団長?」
「ここはそうだ」
そばに来た男に美男子が答えた。
「まだ、来る。神は怒っているのだ。未だ、禁忌を犯した者を」
その背景に、赤い夕日が加わった。
シーンチェンジ。あれ?思ったよりシーン一個一個って短いのね。もっとたくさん台詞あるけど…まぁ関係ないか。
彼らは野営地に帰ったようだ。おのおのの手には捕まえられた獣がいた。こっちは小道具である。
「お帰りなさいませ、ルーファス様!」
「ああ、帰ってきたぞ、ローナ!」
美男子―――ルーファス・フィロソフィアとローナ・ブルームが抱き合って、帰れた喜びに浸る。
「ああ、帰ってきたー」
「ああ、帰ってきたさー」
ミュージカルではないが、史実として毎度アドリブで軽く歌っていたというこの二人。
また、ナレーターの男が右から出てきて、語り出す。
「この二人。ルーファスとローナは、片や騎士、片や姫。しかし、誰の目から見ても明らかに、二人は恋仲であった」
彼へのスポットライトが消え、演技が再び始まる。
「またー」「ふたりがー」
「しっかし仲いいなぁこの二人」
一人はそう言って笑い、
「「であえーたーことがー」」
「あの二人歌うのは上手いな」
「は、って何だよ!」
ある二人は、
「毎日」「訪れている」
「いいじゃねぇか」
「いいのか……?」
歌のセンスに疑問を持ちつつ、
「「幸せーなのーさー」」
でもやっぱり彼らは歌い踊るのだ。
またナレーターへとスポットライトが移る。
「ああ、しかしながら。その幸せが長く続かないのではという不安は消えなかった。しかしルーファスはけして不安をあらわにはしなかった。そう、あの時までは……」
気がつけば、兵士たちは外にいなかった。
シーンチェンジ。いつの間にか動き出していた。手際いい動き。
どこかの洞窟の中。水のしたたる音のするなか、
二匹はいた。
「イナバはなんて言ってたの」
「ああ、こう言っていたよ」
とある一角のみが照らされた。そこに居たのは白いコートの少女。うさ耳のカチューシャをつけて、そこに座り込んで居た。
「カリストーだけじゃなくて、ラタトスクもそっちに居るんだ?問題ない。失敗しても気にせず帰って来てね?でも一つだけ。死なないでね?二人とも、ね?」
あかりが戻り、会話のシーンへと戻る。
熊―――カリストーはこう加えた。
「というわけだから、死ぬリスクさえ避けてくれたら何してもいいってよ、ラタトスク」
それに栗鼠―――ラタトスクは応える。
「わかったわ。男を魅惑して惑わせればいい。それだけで落とせるだけ落として後帰ろう」
「ああ」
なんか弱気な話だが、彼はただ同意した。
「相変わらずでかい図体して弱気だね、でも荒事はほかの男に任せても大丈夫だからね、カリストー」
少女が微笑む。
シーンチェンジ。
ナレーターが出できて、後ろにあったカバーを開けると、日付入りの時計があった。
「今日は、詩の月(7月)25日。これからお見せする詩の月26日は言わずと知れたフィロソフィアの戦勝記念日。有名すぎて結果は知れ渡っていますが、そんなに話は単純ではないんです……」
時計を回し、閉じた。
「さぁ、続きをどうぞ。」
シーンチェンジ。朝に見せるから時間かかりそうね。
あー、よく考えたら。
ここの間のシーンは上手く省略したんだ。
いわゆる「事後」のシーンだから子供にはわかりにくいし見せない方がいいし無くても見事に話のほとんどがつながるし。
あ、私?私はもう手遅れよ?貴族たちは性教育なんてこの年で終わってるものだし、この世界ではそんなこともたまにあるよ。
「あの、アルマさん」
「なに?」
フォリックがふと聞いてきた。
「さっきのシーンで出た神獣って」
神獣なんていたっけかい?
「どういうことですかね?」
こっちが聞きたいよ?
「神獣なんていた?」
「ええ。熊神獣カリストー、栗鼠神獣ラタトスク、そして兎神獣因幡。神獣……私たち獣人の先祖です」
そうだったんだ。
「それはそれは」
いろいろ聞いて知っておきたいな。
えっ?神の使いってしか本にはなかったよ?
「うーん」
「そろそろ続き始まるよ」
さて。
やっぱり知ってるやつでも見てて楽しいよね。
明るい空の下、清々しい朝が来た。
例の野営地に、一人の少女がいた。
「全員!!」
そう大声で少女はさけぶ。
「誰だ?」
皆口々にそういって集まる。
「私は………東から逃げてきた」
全員がぎょっ、とする。
演劇らしいオーバーリアクションとそれを意に介さない点こそあれど、やはり名作のワンシーンらしくかすかに緊張感を感じる。
「ここにはラタトスクとカリストーが来ている!カリストーは足が速いから、守るべきところが襲撃されてしまうよ!」
手をあたふたさせながら、その少女はせかす。
皆が帰るべきではないかと、ルーファスの指示を待つ。
「まずなぜそれを知っている?」
「それは、私が狩人団の一員で、戦いに参戦していたからです」
それを聞いて、さらに彼は詰め寄った。
「ラタトスクの詳細は?」
「分からないわ。カリストーの背中に乗っていただけだったもの。会話から名前が分かっただけなのよ」
「嘘をついている」
「どこがよ!?」
「どこかは分からんよ。だが断じる。貴様の言葉は嘘が入っていた!!貴様、本当に人間か!?」
「人間よ!本当!」
「そうなのか?」
言い争いのようなかけ合いが始まった。
「私はあなたたちのために!!」
「そこは確かに嘘だな」
「えっ」
「お前は洗脳を受けている」
「どういうことだ!?」
「私はあなたに昔会っているが、そのときと行動が似つかない」
「そんな、私は正しく演じていたはず……」
「はっははは!!あっさり引っかかったな!うそだよ、間抜け」
「え」
「言葉だましでそう大人に勝てるとでも思うなよ?」
「な―――――そんな、そんなぁーーー!!!」
終わった。悲痛な叫び。
「団長!襲われる危険性につきては真ですか!?」
言葉遣いが軽くおかしいぞ?
「あっ、ああ、本当のことではあるようだ。奴らの拠点へと私たちは行く。お前らは町を守れ!」
どうもかんだらしく、少しだけ笑いが漏れてしまった。
それはそれ、これはこれ。
出発の指示を受け、本格的に準備が始まり慌ただしくなる。
「ルーファス様、私もお供します!」
「あ、ああ。だが気をつけろよ!」
「はい!」
その二人のまわりでは、
「行くぞーー!」
「せっかちになんなよ!面子わけるぞ!!」
メンバーの管理、
「食料は団長側に多めに!」
「てゆうか防衛組は必要なくないか?」
物資の管理、
「ご飯食べろー!」
「「「「もぐもぐむしゃむしゃごくごけむしゃしゃのもぐもぐごくっ」」」」
朝食作ったり食べたり。息の合った擬音たちがすごい。
「メンバーの選別は?」
ルーファスが問う。
「十分です!8名でよろしいですか?」
「もちろんさ!」
元気な答えが返ってくる。
「行くぜ!」
拳を高く上げ宣言する。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
皆で拳をあげる。
戦いの始まり。
出発の準備はもう整っていた。
「あっははははは!無駄だよ!!その準備」
その荷物たちを下ろし、武器を構える。
「ここであんたらを全滅させるんだから!!」
すとん!と、少女がどこかから落ちてきた。
元々つけてたコートのもふもふ感が減り、動きやすくなっているようだ。
「人に近いが、人ではない!さては、お前が……」
「そう!私こそが、法神の命令をうけた獣の一人!」
「獣なのか人なのかはっきりしろや!」
……え?
いつ、そこに来たの?
物語としてだけでなく、「演劇を見ていた観客」としての私から見てもいつからそこに居たのかのか分からなかった。
「な、なんだと?」
「俺はカリストー、こっちはラタトスク。その人間が言っていた奴らだ」
敵たちの登場ってやつね。敵であって悪役ではないのだけれど。現実にあった話である限りにおいて。
「そして、その人間、いや、そっちは…」
「危なかったよ、真実まではたどり着かれなかった」
あ、さっきの少女にしっぽがついてる。
「わたしはイチル。一本目のシッポ」
きつね。
「ばいばい」
逃げる少女をどうにかする手段はないようだ。
目の前の二人が戦う気だ。
「くっ、やるしかない!!My wisdom teach me how to use the mana.(私の知恵が私にマナの使い方を教える。)
in addition to it,(それに加えて、)
My instinct understand me how to use the life.(私の本能が私にライフの使い方を理解させる。)」
二匹?二人?がたじろぐ。
「I followthe wayof my soul.(私は私の魂のあり方に従う。)」
「止めるべきだな、行くぞ!」
「だめ!」
クマっちをリスが止める。
「今止めたら私死んじゃう!」
悲痛な叫び。
「何だと!?どういうことだ!?」
彼は混乱する。
「my wayis simple.(私のあり方は単純だ。)」
「私じゃあれの暴走には耐えられない!」
「暴走?もしかして、禁術が苦手なのか?」
「I amplotecter(私は守る者)!!」
「あれは禁術使いで、お前の力が通らない、そういうことか!?」
「そう!!」
「なら任せてしまえ!!」
なんか割り込みにくいなここ。
「majic time start now!(魔法の時間が今始まる!)」
「aura release(妖気の拡散)――私に従っていただけますか?」
「aura release(妖気の拡散)――俺は何よりも速いのだぞ?」
重そうな鎧の騎士が一人。
見るだけで何かにつき動かさせる存在が一匹。
もはや速すぎて音しか残さないのが一ぴ…き?
そして始まるバトルのシーンは……速すぎて追いつけないから!!!
「まずい!カリストー!適当にやって逃げるよ」
倒れて、騎士に護られている、いや護らせてる少女が言う。
ざっくりさっきの戦いを説明すると、ルーファス以外の男が一人のぞきみんなルーファスに突撃。ルーファスは回避防御とどさくさに紛れてきたカリストーを制圧。
本来見せ場はここだったからね。本の方から知ってることを解説に入れるのはしょうが無いよね。完全に物語に引き込まれるとこだったのに。
「ぐああああ!!!」
腹を押さえ込みうめく。
「カリストー?」
「逃げる……ぞ」
その言葉をもって二人は消えた。
「勝った……」
「皆様倒れておられます、ね………?」
そうして、ローナはルーファスの元に近づいた。
「えっ、つめた…」
ルーファスに抱きしめられたローナは、彼の冷たさに驚いた。
「少し、眠らせ…………」
そうして、彼は意識を落とした。
「どうして?どうしてなのよ!!」
彼女は死んだと思い泣き続けた。
「ぐー、ぐー」
いや死んでねぇよ?
シーンチェンジ。
お久しぶりなナレーター。
「この後、この締まりの無い一件の功績が認められ、爵位を授かる際にも問題があったのは別の話」
締まり無いよ本当に。
「締まり無いまま〆てしまいますが、そこは申し訳ありません。続きは日が沈んだ頃になりますが、先ほどの演技をキャストを変えまた演じさせていただきますゆえ、カーテンコールにはお応えできませんので、ご了承くださいませ。」
そうして、幕は下りた。
演劇が終わり、幕はすぐ上がった。
それを見つつ、呆れ混じりの余韻に浸る。
「どうにも引っかかるのですが、あれ話の一部ですよね?」
しばらくしてから、疑問をかけられた。
「うん。あれは後半の方」
後半。それすなわちあのリスのせいでエロス多めなやつ。
「そうなんで…っ」
フォリックのおなかがぐーっと鳴った。
「お昼、この先でいい店があるから、そこでとろうか」
「……はい」
顔赤くしてる。
「この先にあるんだけど、ちょっとわかりにくいんだよね」
◎スクエア地区 西央位5番目-北度2の区域の裏道
13:10
「ここ、危ないんじゃ?」
「大丈夫よ、ここはね」
ここはいわゆる闇市。
「というかここに?」
「うん。おいしいところがあるんだけど、私たちだと値は張るかな」
「私たちだと?」
そう。私たちは、ね。
「ここの人たちは悪人なのではない。ここは生活に困った人たちが共同で住む場所なの」
つまり。
「ここらの店自体が、そういう人のための店。だから本当は私たちは来れないんだけど、ちょっとあってね。まぁでも代わりにお金落としてってくれないかってこと」
たいした話でもないけどさ。
と、あったあった。
「大体分かりました」
「うん、ちょうどついたよ。こんにちはー!」
目の前の壁を押して開ける。
「おおー、アルマか!」
コルルのおじいちゃん!おひさだー!
「へぇ、大きくなったじゃあねぇか」
あ、ミリャのお父さん。
「まぁねー、ミリャ元気してる?」
「ああ、大分よくなった。しかし、おてんば少女に彼氏ができたとは……」
いやいや。
「そんな関係いつなったんだよ!」
「はっはっは、やっぱアルマはアルマか!」
「ひどくね!?」
皆笑いだす。うん、さほど変わりないようで。
「あ、あの、ついて行けないです」
「おう、すまんな。いらっしゃい。こっちどうぞ」
コルルのおじいちゃんが席を用意してくれた。
狭いから折りたたみ式のいすと机を使っているもんだから毎度毎度大変なのだそうな。
手伝ってから、席に着く。
「例のやつで良いんだろ?」
「うん、二人分よろしく」
「おうよ、だがその前に、だ。兄ちゃん、辛いのとか酸っぱいのいけるかい?」
ああ、それきついもんね。
「問題ないですよ」
「そうか、ならやるか。おーい、上客だぁ!いつもの!」
よっしゃこい!
「アルマか?」
「そーだよ、コルル。おひさー」
「ん、久しぶり。はいこれ、プディーシー」
「ありがとー」
裏からやってきてプディーシーをおいた浅黒い肌の白髪の少年。
久しぶりにコルルに会ったな。
うん、おいしい。
「はい、どうぞー。これはミント入りのヨーグルトジュースなんだ」
「へぇー」
「プディーナーラッシーっていうんだけど、長いから略してるの。おいしいよ」
長いかはさておき、ミリャが考えた略称は大受けで広まってったっけ。
「コルルは調子どう?」
「好調だな、プディーシーは完璧に出せるレベルまでいった」
それはそれは。
「あっ、じゃあこれ」
「おう、俺が作った」
「ほへー」
カリーは大変だぞー。知らないけど。
「おいしいです」
「よかった、口に合ったみたいだね」
そうみたいだね、安心。さて、フォリック?
「じゃ、仕事戻るね」
「うん、がんばれー」
さっきっからなんか気になってるようですね?
「仲いいんですね」
「うん、昔はよくここで遊んでたもの」
「そうだったんですか」
それだけだったのね。まぁ言いにくいことあるし…。
「それもこれもあいつがいなくなってなぁ」
おいこらじじい!
「余計なこと言わないで」
全くこっちの気にもなってよー!
「あーわりぃ」
「何か…」
あったのか、とでも言いたげな様子で見られてるけど、話すつもりもない。
「まぁ聞かないでくれると助かるかな、暗い話だし」
「ああ、はい」
「辛気くさい話し続けないで辛いもの食べて英気養え」
はいはいわかったわかったーー。普通わからんだろうが。それでぼけてるつもりなんだから全く。
「いただきまーす!」
「いただきます」
本格的に再現されたインドカリー。おいしいぞー。
ただしスプーンで食べるものとする!
パクッとな。
「リアクション欲しいなぁ」
「これ、すごい独特……」
いや、料理に対してじゃなくて無理のありすぎるオヤジギャグに対してだと思う。
それはそれ。料理に対する反応は知ってた。
「まぁそりゃあね」
独特なのはしょうが無いね。
「独特の辛さってやつだねー」
でもそれがおいしい。おいしさバツグン。
パクパク食べながら何を話すか考えていた。
「あ、プディーシーもう一杯ちょーだい!」
フォリックの顔赤すぎてやばそう。
「OKey!あいよー……って顔赤っ!?」
そう、赤いのよ。
「辛いなら無理しないでね……?」
無理するとろくなことにならないよ?
「あつい。すごく。ありがとう」
素が出てるとそんなしゃべり方するんだ。小さい子みたいな口調だね。
「あつつい。したが。さますべき。こうかい」
あ、辛かったわけじゃなくて熱かったのか。
「熱かったのね」
「うん」
しかしどんだけ猫舌なのよ?狐だけど。
ってゆうか熱いだけなんだったら水の方がよかったかな?
あの後治ったフォリックははずかしくて顔を赤くしてましたとさ。おしまい。ちゃんちゃん。
いやなにがおしまいだよ。本番はこれからだってのに。
◎16:25
……ん?
あれ、私?
「起きたかー」
「う、うん」
まーたぶっ倒れたのかよ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、だいじょうぶ、けっこうあるんだ、こういうこと」
心配かけちゃったなぁ。
「またかよなー、ったく、気をつけろよなー?魔法系の不調は王城の医師でもよく分からないんだから」
生命力暴走性低血圧症。ただの食後低血糖症より早く症状が出、症状の重さが予測しにくい。
また、原因が物理肉体ではなく生命力側にあるとどうにもならない。
ちなみに、マリルがこう言ってただけで私は意味を理解しようとはしてないです。
普通の低血糖症なら対処のしようもあるんだけど。しかもこれ、運命を変えるために引き起こされてる気がするし。
「そういや」
と、何かを続けようとして止まった。
「どしたの?」
と聞いたところで何も来るはずはないな、と思っていたのだが。
「がんばれよ、女王陛下として」
応援してくれるとは思ってなかったなぁ。
「うん、ありがと。がんばるから、私」
えへへ。
「でも何すればいいのやら」
「しらないよ」
だよねー。
「じゃ、いこうか」
「もう大丈夫なんです?」
「うん」
「なら、行きます」
さ、行こう。
◎センチョオシー地区 中央広場
19:00
大きな広場。
「休み休み来たからかなぁ」
予定より遅くついた。
そんななので道中で買ってきた焼きそば食べてる。
「そうですか、としか言いようがないですけれど」
「ああごめん、同意求めてたわけじゃないんだ」
まぁここらのこと知らないからね。
そういって、視線を前に戻したとき、一人の不自然極まりない少女がいた。
茶色い髪と赤い目の、犬の耳としっぽの生えた少女。
服装は、この都市にいるにしては貧しそう、っていうか古びたシャツとショートパンツで、しかも裸足。
その不自然なまでのみずぼらしさ。だってコルルたちだってこの都市でかなり貧しい方なのに、比較にすらなってない。ここで生活できているのか?
それ以上に、何かをにらみつけているその目が、憎悪に満ちている。
◎直感の域をこえたトランス状態へと
幻視する。彼女の前には幸せな人々。哀れみの視線。
苦しみあえぐ。
いつしか男に連れられていた。たくさん罪を犯した。
鉄のつばさで飛び立った。
そして落ちた。
自由という名の鎖を得た。
私は家族のような存在にとらわれた。
死ねない。
そして、私は彼のしもべとなる。
彼の意思でしか行動できない。まるで呪いのようだ。
どうして、どうして私は…!!!
◎視点 アルマ・ブルーム
20:00
え……?またぁ?
今度は未来予知的な何かみたいな感じ。
まぁ私にそんな力ないけど。
………あれ、フォリックの気が散ってる?
とりあえず起き上がる。
「いつの間にか始まってるし」
「そうですね。しかし、豪華な花火ですね」
そうね。
「ブルーム伝統の魔法花火だからね」
さーってと。
「たーまやー」
花火にあわせて言う。
「なんですかそれ」
「白銀の詩の月や葉の月の花火はこの合い言葉を言わないとね」
玉屋であって、タマやーってよんでるわけじゃないぞ?
「じゃあ次一緒に」
「そうだね」
せーの。
「「たーまやー」」
特大の花火が打ち上がった。
ふと、お母さんのことを思い出す。
花火を見てる私たちを見て、うれしそうにしていたお母さんの顔。
何のことはないし、はっきりともしていない。でも悲しい。
多少は愛情も感じるか、そりゃ。
「そろそろ終わりますかね?」
「ううん。でも、これから夜も更ける。酔いの回った人も多くなるし帰ろう?」
酔っ払いほど面倒なのもいない。いないのだ。
ああそれより。
「ごめんね、調子悪かったみたいでさ」
「大丈夫ですよ」
…ありがとね。
「それより、なぜ路地へ?」
「ん、分かってんでしょ?」
さっき「気が散ってた」のは誰かに見られていたからでしょう?
頼むよ?
「出てこい!女王の御前である、陰でこそこそいるのがお前らの作法か!」
現れたのは一人の女。
青いロングスカートに赤い服、黒のケープに白のロングコートという変な組み合わせ。髪の緑と目の金色が合わさりカラフルな違和感。
「まぁおかしい」
お前がだ。って反射的にツッコもうとしたがなんとか留めた。
やばそう。そう感じる何かがあった。
けど、まーた何か関係ないことでごまかされそう。
「貴方達に、私たちをどうにかする力があるの?」
意味が分からんよ。まぁでも答えとくか。
「力なんて今関係なくなぁい?」
さて、どのルートで帰ろうか?
まぁいいや、後のことより今。
ってか何ナチュラルにあおってんだよ。
「というか私のこと分かってる?」
「わからないわよ」
「あんたの姉」
「ふざけんなよ!?」
このやりとりで分かった。
だれか覚えてないけど知り合いだこの女!
「真面目な話フォリック王子帰って下さい」
「なんでです?」
ほっとかれたよぉ……しくしく。
ま、いいけどさ?
「あのねぇあんたらが一緒に居るのをシュレールとかに見られてみなよえらいことなるか「だまれごらぁ!!」らぁーーーー!!??」
なんか飛んできたー!?
「やっほーフォリック、ひさしぶりだネ」
あ、何日か前に見た子だ。
もふもふの茶色いロングコートはそのままに、フードを下ろしている。
その顔にある入れずみはかなり特徴的だ。しかしまぁ。
「こいつは気にしないでくれョナ、じょおーさま」
ジュース屋でのやりとりと同じように話す。
熊の獣人らしき耳の生えた彼女は、口調とは裏腹に淡々とした言葉を続ける。
「こいつの前ニフォリックに指摘をやるゾ。あんな、お前な、女の権威よりも、てめぇの権威でどうにかしろよな?あと髪色変わったりもろもろしてるたぁいえ知り合いの面ぐらいおぼえとケ」
え?あ、知り合いなの?
「で、次はおめぇだ」
矛先はカラフルに向かう。
「ねぇ、あの二人誰?」
ちょうどいいしとりあえず聞いてみる。
「あ、あっちの子はクアーロ・ミラージュス。クーは熊獣人族の族長の娘」
動揺してるらしい。どうよう、うーん、どうなのよう?
「だいたいおめぇョぉ」
……え、えっと、フォリックみたいな立場なのね。
「あちらは、えーとー……(ほんとにだれなの?)」
えっ。ちょ、そんな、ええーっ?
「何でここにイルんだよ?」
こっちが聞きたいよ?
「って、あなたも知ってるんじゃ…」
「(わかんないから聞いたのに…)」
やばい。
二人とも覚えてない。
どーしよう?
「船の依頼はどーしタ?」
「ふぁーあ、つかれ……げっ」
シャメルさんが唐突に現れて逃げた。
とーとつすぎだロ?
ってゆうか、なんかフランクな口調だね?シャメルさん?
「アルマちゃんには後で話すとして、今は逃げる!」
はぁ!?
この人こんなだっけ?
「任せてきちゃった」
「どーにもならんナ」
えっと?
「まぁ本当は注文の細かいとこ聞きに来ただけなのよ」
「あー…そっカ」
聞いてもいいのかな?
「船?って何?」
「「「………え?」」」
船って名前だけは聞いたことあるけど。
「船って言うのはね、海を渡る乗り物なのよ。ってゆうかフレア湖ぐらいは行ったことあるわよね?そこになかったっけ?」
「ないよ?多分」
「無かったですねぇ」
あ、フォリックも行ったことあるんだ?
「あー、となると説明めんどくさいから、また今度ね」
えー。そこで話切るのかー。
「まぁ、半月くらいたちそうだけど」
具体的に提示してきたよこの人!
「じゃ、行ってきまーす」
すったった、と行ってしまった。
「まーたこれかぁ」
「あっ、そうだ。My intention inform me how to use the aura.(私の意思が私にオーラの使い方を知らせる。)The eye of magical(魔法の瞳)majic time start now!」
おー?妖術ってやつか?
「演劇のオーラリリースみたいなやつですかね」
「はへー」
で、どうなの?
「やっぱり偽装してた」
「ぎそうダァ?……あ」
「い?」
「う」
「エ」
「お!……何これ」
「こっちが聞きたいョ」
えへへ。じゃなくて。
「どういうこと?」
「あの女、エルフ・シャロウワイルは感覚を乱す禁術を使う、ミラージュで最も危険な純人だ」
「それで視覚をごまかして色を変えてましたが、実際は黒一色の服でした」
ふぅん?
「……つかれた」
「相変わらずなんかキンチョー感ねぇナ?」
「今さら何を。…だから楽しい」
「(…あ、これ複雑な恋愛模様できるやつだわ、蚊帳の外にいられるかナァ)」
何かやばい心配しているクアーロちゃんだった。
……きゃっ///
………………。なにこれ。
「ほかに指摘することも忘れちまったし間抜けだな今日ハ」
なんか、ごめんね?原因の一端私だよね。
「thinking accelerate(思考は加速する)、memory checker(記憶確認)、memory editor(記憶の編集者)」
今日も今日とて編集する。
あー、今日は倒れてばっかだったなぁ。
気分的なものなのかなぁ。わかんないや。まぁ今更分かるとは思ってもないけどさ。
演劇…?




