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2-4 脱走と天眼

今回からは2の時点でそれなりに違ってきていると思います。

 ◎視点 シャメル・ラファエル

  ブルーム王国首都メンタル マル地区刑務所

   特別牢獄(ろうごく)フロア

  歌の月28日 10:67とシャメルの時計は言っている


「久方ぶりの女だぁ!」

「はっはは、ガキじゃあねぇか?」

「ああ?ガキのツラしてねぇだろ?その目ぇ機能してんのか?」

 ちっこいからってぐちぐちうぜぇ。睨んどこ。そんな顔老けてねーよ。…まだ。

 ってか犯罪者と勘違いされてない!?もっとやべぇじゃん!

 そんなことより。

「看守長、あの女の方は」

 この集団に女の人ぶち込むわけないのはわかる。

「ええ、脱走(だっそう)のそぶりを見せていますが、どうします?(できればどうにかしてくれないかな?)」

 ば、しょ、を、い、え。

「いいえ、どうにもならないわ、この件は、王族誘拐(ゆうかい)の実行犯が絡んでくるの」

「(じゃあ一体どうしてここに来たのよ)」

「それは、対処できる存在が各一人、この町にいるからよ」

 各一人。実行犯とここの女。

「それは?」

 あ、無視?それでもいいけど。

「実行犯はフォリック・ミラージュ殿下。そしてあの女は…」

 ほかでもない。

「アルマ・ブルーム陛下が対処できるでしょう」

 アルマに押しつけます。何とでもするだろ。

 ま、どーせこの女は釈放するんだけどさ。えん罪だろ?


 ◎視点 アルマ・ブルーム

  ブルーム王城 女王の間

  しばらく前の時刻


 

 朝だー、また寝癖がひどいぞー。

 あー、めんどい。と、ここで、こんこん、とトビラをたたく音。

「失礼いたします、起きていらっしゃいますでしょうか」

 あら?だれか来た。あまり人を入れないよう気を遣ってもらってる現状、特別理由があるようだ。

 ちなみにかなりおてんばなことしてるけど、ブルームにおいて王族の自由さはいつものことらしい。今日帰ってきたイフリート家の人は教えてくれる。

 それで()(げん)がなくなりかねないから、王城には貴族や王族、もしくはそれらに相当する者しか入れないらしい。

 なんか、ごめん。歴史になってるから今更なんだろうけど。

 ちなみにデミアントの兵士除く。デミアントの貴族も稀にいる。北端に住んでで軍の指揮を執りたがるのがほとんどだからここにあんまりいないけどねー。

「いいわよ」

 返答忘れてた。後付けの文多過ぎて忘れかけた。

「失礼いたします……あらまぁ、御髪(おぐし)が」

「ああ、起きたばかりでね」

 さすがに直さないとね。

「私がやりますわ。さ、こちらへ」

「自分でやるわよ」

「そう遠慮(えんりょ)なさらず。手持ち無沙汰(ぶたさ)のままお話するのも何なので」

 そっか、しょうがないかなぁ。しつこい子みたいだし。あんま同じぐらいの子に頼みたくないんだけど。

「じゃあお願い。ところで、あなたのお名前は?」

 椅子に座りながらたずねる。

「あっ……申し遅れました。私、ジェーン・フィロソフィアと申します」

 フィロソフィアはイフリートと同じ公爵家か。これはまた。最上位。

 と、髪を手際よくとかしてくれる。

 ん。手つきが気持ちいいわ。

「まぁ、いいですわね。この桃色の美しい御髪は、手触りもとてもお上品ですわ」

「ありがとう。ところで、お話って?」

 ところでも何もそんなこといってないけど本題を話してもらおう。

 そういえば、フィロソフィア家って、伝説にも出てるのよね。

 この子はそんな家系にいる。そんな子に髪をとかしてもらっている。なんだか、なんか。

 そういえばフィロソフィアの女の子の話聞いたことないな。

「前提として、王族殺害、誘拐の犯人グループを暫定(ざんてい)として、反王国組織と呼ばれていることをお伝えします」

 つまり、そのグループの話、と?

「本題ですが、その組織は、とある女の脱獄(だつごく)を試みています。その女は“破唱”。詠唱している魔法の破壊が可能だそうで」

 へぇ。すごい魔法だねそれ。

「対処できるのは事前の(わな)や、詠唱の省略くらい」

 ふむ。

「省略ができるのは少なく、しかも大半は北に出向いています。この町の者でできるのは陛下含めて数名ですね」

 長々と説明されるのも時間的にあれだからまとめといて。


 はいはい。暫定議長ゼクス(お父さん)は力の性質上町では被害が大きめだからフォローに回すぐらいじゃないとだめ。

 ジェーンの兄やフンフ・ウィスティリア(お父さんの友達だったはず、名前しか知らない)はデミアントたちとは少し異なる付与術により対処可能。

ただジェーンの兄は今生命力が()(かつ)しかけるし、フンフは町が全壊するからおとなしくさせる必要があるとか。

「“音速疾風(しっぷう)”の名の通り音の衝撃破((ソニックブーム))で町がボロボロに壊れてしまいますわ」

 とのこと。そりゃあだめだよね。

 はい以上!


 あれか。雪山一個平らげたっていうやつ。

 衝撃破散らしながら突っ込んで噴火起こしかけて全力で雪玉つくって投げたって。むしろ爆発したらしいけど。

 “音速疾風”フンフ・ウィスティリア。お父さんの友達。会ったことないな。会わない方がいいかもとは思う。

「彼女の処刑を、直々にお願いしたく」

 ……?なんですと?とりあえず頷く。それ以外の選択肢はない。

 それより。

「長々説明お疲れ様」

「いえいえとんでもございません」

 はいはい。謙遜(けんそん)するんだから。

 ところで久しぶりに通り名を聞いたけど、あれの文字数、多いほど高評価なそうで。それって、その女、私と同じぐらいってことかな?そもそもだれの評価なのかもなぞだけど?

 あ、そうだ。一応聞いとこう。

「お父さんどこ?」

 居場所知ってるといいなぁ。

「下にいらっしゃるかと」

「そっか、後で家から持ってこないと」

 後で思ったけど、ここは口に出さない方がよかった。

「お帰りになるのですか?」

「そうよ」

 ちょっとね、取りに行かなくちゃ。


 ◎ブルーム王城 裏口


 さて、近道していきますか。

「アルマおねえちゃん、てんげんってしってる?」

「うん?何……あー、うん、そゆことね」

「うん、よくわかってなくてごめんね」

「大丈夫だよ、ありがと」

 ……ノインさんを見つけるフォリックの目、か。ふぅん?


 ◎ブルーム王国首都メンタル ペンタゴン地区

   7丁目の路地の大きめの家(アローラ(たく)

  シャメル視点と同時刻


 久しぶりのおうち。ちょっと物を取りに行きたかったので来たのだ。

 入りたくもあるけどちょっとアレだし、鍵持ってきてない。

cycle (さいくる)apport(あぽーと)

 ちなみにcycle (さいくる)は循環するという意味とか。お父さんが言うには、輪廻を管理するとかそんな感じとのこと。ようは抽象的なわけわけらんなんかだと思っている。

 ともかく、魔法で家から取り出したのは魔法言語((英語))の本、金属製のお守り((タリスマン))、そしてお父さんの研究書。パラパラとめくってみる

…なんか死者蘇生(そせい)とか物騒(ぶっそう)な事書いてあるらしいですね。後でこれ追求しとこう。これないと、多分だめだよね。まったく…。

 ちなみにお守りはないと、落ち着かないときがある。今とかな!

 トラウマとでも言うのかしら。

 ユリウスを守れなかった記憶。たくさんの人を殺した記憶。

 誰だって生きるために生かし、殺す。とはいえさー、人間殺すのはためらわれるよねー……って話よ。変に理性で揺らいで、命に過保護になるのもよくはないけど。皆にとっての意味がある限り、戦い殺すことに遠慮も容(しゃ)も許されてはいない。

 それが、殺すのを基本的に許容しない白銀との大きな(りん)()観の違いなのかな。私たちは大のため小を捨てる。死はそばにある。しかし自由で、美しい。そして果てが無い。代わりに正しくない死も多いけども。

 ああ、そうそう。果てだ。そう。白銀には有限なものがある。魔法がないから、エネルギー生産の面で圧倒的に弱く、資材もつきる。それでも、彼らは生きることに忠実で、ついには、母星の終わりが迫ったとき、母星から離れてでも生きることを選んだ。

 そんな彼らも、いつか滅びてしまうのだろうか?

 話がずれたね。

 たくさんの、戦うつもりのない人の命をうばうこと。

 それは、私にとって許せないの。

 あいつらは戦う気だ。なら、私たちもすることは決まってる。

 強いていうなら、マリルがなぁ…?ま、いっか。


 ◎視点 ウィッチ?

  ??? 書斎

  究極超絶ハイパーウルトラアルティメットめちゃくちゃすっっっっっっっっっっごく未来



「いやよくないにゃよ」

 ねぇ!?

 マリルにゃーん!!


 そう呆れる僕の前にある本。

 その本の題名は「廻金世界日記」

 そのほんの一部。僕のための、僕の日記。

 また会ったところで悪いけど、詳しくは後でね。


 ◎視点 アルマ・ブルーム

  ブルーム王国首都メンタル スクエア地区

   商店街東通り 東方向へ移動中

  日付は元通り。


 正午まで少しひまだからふらつこう。

 そう思って町を歩いていた。

「たい焼きはいらんかねー」

 おー!たい焼きー!

「おっちゃーん、ひとつちょーだーい!」

「あいよー!」

 百円!

「……百二十円です」

 あれま。違った?

 二十円追加で渡す。値上がり方すげぇな。無茶してたんかな。

「ちと、つぶあん高くてなぁ…」

 ああ、オド小豆不作だったんだっけ?

 ブドウ並みの紫の小豆。

「ミラージュの安かったのにね」

 はむ。うん、おいしい。

 外はサクサク、中はホクホクなこの感じがいい。

 あんこは少し甘みが少ない方が好きです。

「それはそうと、一人で外出るたぁめずらしいな?なんだ?親父さん忙しいのか?」

「うん、いそがしいんだ、お父さんはすごく大変そう」

 はむはむ。ここで食べきるのには理由があって――

「あー、はずれだー」

 たい焼きをくるんだ紙に番号があって、今日の日付とあってれば当たりで半額クーポンもらえるの。

 23番だったわ。28……。

 で、割とすぐ焼く癖あるからここで確認して……あ。そろそろ飛ばそう。

「ま、期待するなって、たまにしかあたり入ってないし」

 ま、そりゃそうか。

「ごちそうさまでした」

「おう、おそまつさまだ」

 ありがとね。すたたーっと歩きながら私のお得意の魔法、ラーブァを空の彼方に吹き飛ばしておく。いってらっしゃーい。

 後は走る。


 ◎ブルーム王国地域間道 首都メンタル

  あと半時間で正午


 お父さんまち。

 暇だしお父さんの英語の本読むか。むしろそのための急ぎ足。

 本ってゆうか研究メモやね。

 あ、フォリックの天眼(てんげん)について書いてある。エーデ語で。

 えっと…妖気((オーラ))が自分や他者体などに影響を与える先祖返りの力のうち、最も副作用の無い力。マナ、オーラ、ライフ全てを観測できる。そのため、ごく一部の例外をのぞきいかなる魔術も見抜かれる、か。

 なるほど?ほかの力はさわりしかないのに、これだけ妙に細かいね。ノインさんの弱点だからかな?

 ―――ノインのような、魔術に対しての隠蔽(いんぺい)は、完全には見抜けない様子だが、気配が多少漏れるのが見えるようだ。ちなみにもともと天眼を持っていた兎神獣は見抜けたらしいことから、完全再現はできてないと言うことだろう。

 うん、わかんない。ってかこれ昨日のことなのでは?あれ?

 ま、意味なんて後で考えるよ後で。それより最後。

「本来の力は今はないだろう、詳細も不明。ではないけどアルマに見られないように書かないで置く……か」

 うわぁ。対策されてるぅー。

 どーせだし細かくは夜に考えよう。

「アルマ」

「お父さん」

 来た!じゃ。

「行こうか!」

「おう……ってそれおれが言うことじゃね?」

 あっはっは。

 ま、いいじゃないか!

 不安は(ぬぐ)えないけどさ。

 しかし、フォリックの力、か。パインが言ってたのはこれのことだな。

 これ踏まえて聞いてもなぁ…。

 ところでこれいつ書いた?なんかおかしくね?


 ◎視点 アルマ・ブルーム

  ブルーム王国首都メンタル マル地区

   特別牢獄前

  太陽は真上にある


 さて、疑問がありすぎるので解消しようか。

 さっき作戦を聞いたが、雑なくせにわかりにくかったので以下略。おかげで質問たっぷり。

「出てきたあいつを足止めするふりして、時間をかせぐ。まずここだけでも変なところが一つ。なぜ脱獄が前提条件なのか」

 シャメルは居ないけど、お父さんは居るからね。

「質問にはまとめて答えた方がいいから、とりあえず全部言え」

 まとめて、か。あと5個ぐらいかな。

「うん。次に脱獄を補助したやつはすぐ逃げる。ここで、なぜ断言できるのか」

「そして、一人になったところで仕留める。なぜ待つ必要があるのか」

「あと、ここにマリルがいたけど、妖術によるバリアはっつけて帰ってったのはなんで」

「ついでに、シャメルどこ?」

「最後に、アインスさんが候補にいたらしいけど、お父さん居場所知ってるでしょ?どこ?」

 お父さんは質問が意外に多かったのか頭を抱えている。

「まず補助役は認識できないが、攻撃できる。この認識できないってのはせいぜいノイン並だから、まぁあの少年に任せていいだろう。ノイン並ってやばいやつだけどまぁいいよ」

 なんか結構あの男の子信頼してるね。なんかで知ってたのだろうか?

 別にそんなこともない、らしい。じゃあなんでよ?

「で、マリルは戦力外だからここに居ない方がいい。それと、わざわざ待つのは協力者の逃走ルートまで変えられるとどうにもならないからで、シャメルは王城、アインスはポセイドンにでも居るんじゃね?」

 旅行中なの?“一幻魔界”は所在が知れず、って聞いたけど。

「ってえか、よく考えれば、不意打ちでやれるなら脱出させる必要なくねぇ?」

 え?

「フィーアならできるだろうに、何でそうなるやら」

 んー?あ!お父さんもわかってないんじゃねーの!?

「あれでしょ?その協力者、補助役の方が本命なんでしょ?」

「ああ、そっか」

 そっかじゃないよ。お父さん威厳保とう?

()が痛い」

 いえんじゃなくていげん!ってシャメルじゃないんだし誰にも聞こえてないか。ってゆうか、胃炎(いえん)だったらまずいよね。

「押しつけやがって」

 ん?お父さんから殺気が?

「ってか………この先要るか?」

「えーっと、いらない」

 何のことだか分からないから、いらない。

 っと、来たね?来たね?

 出てきた女とナニカ。

 わからないけど、近くにはいる。勘でしか判断つかないけれども、そこには確かに人が居る。とてつもない(きょう)気のかたまりが。

 さぁ!

「やろうよ!」

「―――あ、あー」

 覚悟(かくご)決めてあおったら、なんか変な答えが返ってきた。

(りょう)奇的な子もいたものね」

 ごもっともです………。

 さっきのは、声の調子確かめてたのかな?

「まぁ、うん……いいじゃん」

「で?逃がしてもいいの?追いかけるのはもう大変よ?」

 あら?いるの分かってたのは分かられてる?

「お父さん、いいよね、もう」

「ああ、フォローは任せろ!!」

「うん!」

「いやだから血気盛んすぎぃやだぁー」

 さぁ!始まりよ!

 燃えろ、その命!燃やせ、その魂!情熱の炎で焼いてやる!!

laevateinn(らーぶぁていん)

 さっきも使った炎の魔法。

 禁術の炎が、赤黒く燃えさかりその女に向かう!

「くっ、油断した!あれでも……!」

earthlance(あーすらんす)(大地の(やり))」

 ()けられたか。でもこれはただの炎じゃない。

 ラーブァテインは、炎にして武器。一回きりとは限らない!

 反転、突撃(とつげき)ー!

「あー、breaker(ぶれいかー)破壊(はかい)者)」

 魔法に抵抗されたが、そのまま突撃する。

 それも当たらない。

 まぁいいわ。

 さっきの槍で爆音が上がり、ラーブァはまた彼女をおそう。

earthcard(あーすかーど)(大地の札)」

breaker(ぶれいかー)

 あれ、さっきのお父さんの魔法には効いてない。気づいてないのね?

「うわっ!?」

laevateinn(らーぶぁていん)

 さて槍はギリギリよけた。

 今度はラーブァ二発だよ!

「いつの間っ」

 当たんないか。

「さて、ここからどうなることやら」

 気を引き()めていこう。

 彼女は、こんなあっさりやられるのかしら?

「なら、mana shot(まなしょっと)!こちらから、かな?」

 shot(しょっと)()つってことかな?

 なんかが飛んできてる。

shine roar(しゃいんろあ)(光の咆哮(ほうこう))」

 あ、お父さんがかき消した?チャンス!行け、ラーブァ。

「はぇ?あぶっ」

 またラーブァ避けるか。すごいなぁ。

 あんだけスピード出せても私には避けられないよ。

 というかあのスピード。

「100メートル何秒で走れるんだろ」

 気になるわー。はいまたどーぞ。

「10秒台切ったことない」

「いやはえーべ?それでも?earthlance(あーすらんす)

 知らんけど。

「これ無理でしょ」

 はいはい避けたところにまた二発どーぞ?あーでも。

laevateinn(らーぶぁていん)

 もー一発行けるよね?

(おに)が居る」

 鬼か。鬼と言えば。

「わりごはいねがー」

 これだよね?

「ちげぇよ!それはなまはげだ」

 あっやべ。

「西にミカンを食べに行くのだ?」

 なにそれ?

「何の話してんだそれ」

「あなたがそう言ったような」

「空耳ひどい」

 この会話中何回かラーブァ避けられてる。やばいな。

 ってか、町に被害が少し出てる。早くしないと!人は居ないはずだけど、それでもはやく!!

「だぁーもぉー!!breaker(ぶれいかー)!!」

「あっ!?」

 壊された!?ラーブァを!?

「ついにかー」

 ああ、まぁ、そうか。

 何回もやられたらまずいんだ。事前情報と違うんだが?

manaimpact(まないんぱくと)(魔力の衝撃(しょうげき))」

 周りを吹き飛ばす魔法の中、それを見た。

 男の子。いる。

 女の子。かばって。

 その近く。がれき。落ちた。

 ……大丈夫、最後まで無事。それに男の子の目は、爆発の元をじっと見ている。

 ―――つまり、今なら使える!けど、当たるか?

 いや、当てる。

 あの子の思うがままに!

bloodmagic(ぶらっどまじっく)(血統魔法)」

 王家の血、というか、それを持つ者が出る何らかの特徴による適性を使う宣言。わざわざ言ったのはただの気分。

 でも魔法において、気分も大事。

「咲け!bloodyrose(ぶらってぃろーず) nova(のぶぁ)(血の薔薇の新星)」

 死の星を表すように、漆黒(しっこく)の炎が生命力を焼く。

earthwall(あーすうぉーる)!!」

 やばっ!ムキになってやったけど火力やばっ。

 お父さんのフォロー無かったらやばかったわ…。

 町も、私たちも危なかった。

 あの禁術は一切制御してないからなぁ。

 ま、あの子の意識がほとんどに反映してる以上、あの子たちが傷つくことはなかったと思うけど。

「はぁ……」

 助かったみたいだね。あの子はこの人のこと明確に分かっていても(うら)まなかったんだね。すごいや。

「あの男の子の慈悲(じひ)にこそ感謝しなさい」

「あの子?」

 でも、でもね。

「でも、ごめんなさい。私だって仕事なの。あなたは殺さないとならない」

 やるべきことはする。

 それが、悲しい。

 彼女は何を考えているのか。私がそれを考えることには、大きな意味があるのだろう。

「やめていいの」

 ………?

 最初、意味が分からなかった。

「私を殺しても、私の力は奴らに利用される」

「どういう意味?」

 殺さなくても、あなた達の不利益にはならないの、と言いたいらしかった。

「使い魔は知っている?」

「ええ」

 ウィッチ居るし。

「生命力には(たましい)もふくまれる」

 ウィッチ言ってたね。

「魂ごとまとめて一つの禁術に使えるの」

 あー、禁術のダメージでとられるだけじゃないのね。

 あれ?さっきの決意どこ行ったの?でもいっか。なんか穏便(おんびん)に済みそうだし。おいこら、未来の私、なんでだましているんだ!

「その禁術で使い魔を創れば、とてつもない生命力を持つ使い魔ができる」

 命かけてない?それ?

 何で死にながら魔法使うの?(のろ)いたいの?

 あ、呪いの魔法って聞いたことないな。ありそうなのに。

「それは、昔々の(きん)()に使われた」

 …ワケわかんなくなってきた。

 そもそも禁忌って何だっけ?なーんかあった気はする。

「私が死ねば、私はあいつの使い魔になる」

 あいつってだれ?

 というか、これ、私じゃなくてお父さんに言ってない?

「だから、やめておきなさいな」

 私はわかった。

「お父さん……」

 お父さんの方を見…、って、どこ?

「時間稼ぎということなら、これで十分のはずだ。だからやめてはやるんだが……」

 声がした方、つまりさっきの子たちの方を見る。

「んなことよりこの子たちどうにかしてくれ」

「うわあわー」

「く、くるなーー!!わーーーー!!!」

 なんかお父さんの腕の中で悲鳴上げてる。

 ありゃ、こわがられてるな?

「若い強面男、それと髪色が不気味(ぶきみ)。だからしょうがない」

「不気味言うな!つーか!ぱっと見灰色だろ?」

「くすんだ黄色にも見えるわ、ピンクっぽかったり水色っぽかったりするわ、こわいわよ」

 どーもおとーちゃんこわがられてます。

 ってふざけてないでおこう。後それ、そのままその通りの色です。

「だいじょうぶだよ」

 話しかけなきゃ。

「ひゃう~」

 あう。手強いー。

 お父さん、そんなにこわいかな?

「はじめまして、あなたのなまえは?」

 何を話そうかなやんでいると、どっからか来たパインが相手してくれそうなので私は別の心配をすることにした。

 フォリック大丈夫かなぁ…。間違いなく駆り出されてるよなぁ。

「いた……。アルマ・ブルーム」

 あー、パインはこの人が連れてきたんだね。

「フィーア校長」

 学園長は少し長ったらしいので、校長と呼ぼうそうしよう。

 頭の中では学園長だけど。

 この人はフィーア・クィーンヘッジ。性格にやや難あり。

「フォリック王子の元へ転移します」

 りょーかい!そっちの心配もしてたのよ。

 別の心配、はこのこと。

「行くわよ」

「あえ?おれもか?」

 お父さんも行くの?

「あー、いや、子守頼むわ」

 あー、3人ほどいるわ。

 そこに私も入れろー!なんて?

「この子は、任せなさいな」

 おわー。かっけーセリフじゃな。

 さ、どうするか。


 ◎スクエア地区


 さて来たけれど。

「そこっ、右だ!」

 なんか速いのが動いてる。

 いや、フォリックがね?見えない敵に追いすがってきってるの。

 動きは少し悪いかも。町への被害に対して慎重過ぎる。なんか、手慣れてないっていうの?町の地形を分かってないのが原因?

 そして私たちが近くの家の中にいるのは気づいて居るみたい。

「う~、じれったい~~!」

 で、となりにはだれか女の人が居るんだけど。……でっか。

 フィーアさんが舌打ちしたのは、これへの嫉妬(しっと)かとおもったけど。

「やらかした」

 どうも違ったみたいね。……というか、そんな余裕出す人じゃないな。

 フォリックが止まった。

 見失ったらしい。

「あれ、あの子も行っちゃったよー」

 あれ、私も見失った。

「後ろだっ!!!」

 どこに居るのかわかんないけどお父さんがそう言ったのを聞いた私は、後ろを向いた。

 (のち)の私が言っている。見てみなよ、と。

 後ろには、何もない。そう、無いはず。なのに、命の危険を感じる。何で?

 あ!()()()()()か!超スピードじゃなくて、透明化!…はい、素の私の知能はこの程度です。割と馬鹿…。

 ―――ガキン!

 と、金属同士の衝突音。

「守る…!」

 フォリック!

 弾いて、そのまま、突き出す。当たってんのか当たってないのか分かんないわぁ。とりあえず、魔法を使う心構えをとろう。

「な、見えな……っ!」

 見失ったらしく、勘でかかろうじて防いだものの、刀が吹き飛んだ。相手も刀を飛ばしたらしく、もう一本刀が見える。

 しかし、なぐられたらしく、マリルのと思われるバリアが壊れる音。壊れるまでバリアの存在に全く気づかなかったけども。

 まずいな、追撃はまずいよ?なら、助けてくれたお返ししようか。

 私はフォリックに抱きつき魔法を使う。

heat (ひーと)serpent(さーぺんと)(火の蛇)」

 炎で私とフォリックを(つつ)みこむ。

 ただし、ここで忘れてはいけないことがあった。

「フィーアさん、刀!」

 炎で包んだところで、切られる危険は変わらない。

 とってくださいな。

「一本しか取れないわ」

 え。やばい?

「ダーッシュ!!!」

 バーンとはじけた。

「ちょ、フンフ!!ばか!?」

 多分刀はとった。

 でも、壁をぶち壊したらしき音がした。

「どうしたらこうなるのさ」

 まじで。

「逃げましたね」

「逃げたの?」

「はい、違和感がなくなったので」

 気配隠されてるのは違和感としても感じているらしい。

「でしょうね、フンフがいるのは想定外でしょうし」

 学園長の同意。

 なぜか急に、フォリックがビクッと反応した。

「どうしたー?」

 問いかけてみる。

「い、いえ。別に」

 あ、そう。

「……しっぽさわられた。くすぐったい」

「なんか言った?」

「何も言ってないですよ?」

「そっか。さっきからごめんね?」

 なーんかいったような。

 後で理解して焦ったことは余談。

「このあとどうしよ」

「私は追うことにします。ほっときたくないですし。確実に切り捨てる」

 むむむ。

「なんかさ、私が言うのもだけど考え方血(なまぐさ)いよ?もーちょいちょっとリラックスしよう?」

 そーゆーのよくないの。

 後で思ったけどさっきからいろいろ言い過ぎてるような。

 ま、この調子で突撃してとあれだし、何よりまだこの町から逃がさないでいられるから。多分3日はここにいる。

「明日町歩こうよ、さっきの動きからして、町のこと全く知らないみたいだし」

 誘い方雑だなーって、自分で思った。

「そうですね、観光しますか」

 わーい!

 ん?私、なんか喜びすぎてない?

 ま、いっか。好みの見た目のイケメンだし眼福だもの。


 ◎夜


 まずやるべきことは、お母さんの居場所の特定。猶予は一月だけだからね?

 とりあえず妨害の成果として、商店街で撃ちはなった一撃と今回の脱獄した人との戦いで食料以外の荷物は概ね潰した。さすがに調達するでしょう。


 パインと、あの女の人が私の部屋にいた。

「なぜここに」

 まぁ、パインが入れたのは確定で。それより理由。

「なんとなく」

「特に意味は。あ、自己紹介しますか。私はクリス。クリス・タルトと申します」

 無かったわ。

「あ、そうだ。私はしばらく、ここで働きますね。一応貴族だったので資格はありますし」

 ああ、どうぞどうぞ。

「じゃーねー、お話ししよう!」

 いや、さっきっから話してたでしょ……。

 いいけどさ?

 さ?

「さてさて、ぼくは帰るね」

 あ、ウィッチがいた。

「あんた部屋どこよ」

「てきとー」

 迷惑かけてない?

「はなそーよー!!」

 パインには勝てなかったー。


 ◎その後、二人が各自の部屋に戻ってから


 「thinking (しんきんぐ)accelerate(いくせられー)(思考は加速する)、memory (めもりー)checker(ちぇっかー)記憶(きおく)確認(かくにん))、memory(めもりー) editor(えでぃたー)(記憶の編集(へんしゅう)者)」

 今日も編集する。これはもうするべくしてすることなの。

 運命みたいなもの。過去に干渉(かんしょう)することができる割には大したしがらみではないね。

 さて、明日どうしよ?

 毎日怖いわー。

 ユリウスのことを思い出しながら、今日も今日とて星を見る。やっぱりないなぁ。

 そうしながら、ゆったりと火をともす。

「これぐらいなら、詠唱せずともできるようになったか……」

 大分なれたが、油断は禁物。

 あまり更新期間を伸ばすと負荷が激しいから、毎日するのが基本だけど。

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