2-10 抗争の幕開け
◎視点 アルマ・ブルーム
ブルーム王城 更衣室
花の月(4月)2日
唐突に王立魔法学園に行くことになりました。確かにテストはやったけども。
まぁたやっかいなこともある。
「ちょっと自信ないわぁ」
王立の魔法学園はかなり優秀な子たちがたっぷり。王立は国立と違ってめちゃんこ優秀な人しか入れない、らしい。大体の貴族は優秀な家庭教師に学んでいるが、いけるのは一部だけ。行けなかった貴族はだいたい国立に通うかな。
ちなみに一般的には区立の学校に行く。私も区立だね。
「イヤー久しぶりだわー」
「一年もないでしょ」
「年のyearじゃ無いでしょ」
三人組もいた。馬鹿っぽいやりとりしてるけど頭いいということだね。
「ありがとうね、シャメル様」
「お気になさらず」
ジェーンとシャメルもいた。シャメルがジェーンの着替えをしていた。従者の正しい遣い方ってやつ?シャメルにやらせる気にならねぇなー。
とりあえず、王立にいきなり「入ることになった」と言われて試験を受けたけど、下手すれば今までの学年より下の学年になるんじゃないかな?一応記憶ごり押しで高得点採ったけど。
「あのさ、お姉ちゃん」
「なに?」
制服に着替えるのに苦戦しているところに、マリルに話しかけられた。
「本気で違和感ないの?」
なにがよ?
「わからない」
いやパインはそりゃあね?話関係ないはずだし。
「わたしも」
こう答えたらマリルは頭を抱えた。
◎視点 マリル・ブルーム
「本気で違和感ないの?」
本当なら貴族の礼儀作法とかは、一般人は学んでるはず無い。なら私たちはなぜ王城でも通用するそれを覚えているのか、考えてみた?
それは、お母さんは王家の人、だからなんだよ、多分だけど。
同じこと、学力でもいえるんだよ。お母さんは王立を卒業してる天才(ただし天然ぼけ)し、お父さんは全く知らないけど、結果としてお母さんより頭がいい(けど子供の扱いはだめだめ、子供のいうことじゃないけど)。この時点でおかしいの。ご都合主義なの(欠点はあるけど)。わかる?わかって?わかんないと悲しいな?わかんなかったら登校中この話を延々としよう。
だってそれでたくさん妬まれるんだもの。危ないのよ?
「わからない」
パインに言ってないよぉ…というか、パインより着替えるのに苦戦してたお姉ちゃんどうなの?ぶきっちょ?
って、シャメルさんも分かってらっしゃらないみたいですね!!!しっかりしてよ外交官!やっぱりおばかさんだよこの人。
「わたしも」
うおおぉぉぉぉおぉぉおおい!!??!?お姉ちゃんもぉ!?よし話し続けるね。妥協しません!
「着替え終わったから、行こうか」
うわぁあ、話そらされた。逃げられると思うなよ!
ん?待てよ?
お姉ちゃんなら関係なくなんとかなるのでは?
◎視点 アルマ・ブルーム
通学路
追求されるかと思ったら黙り込まれてしまったのですが、理由がわからないまま学校に着きました。聞いたとしてもなんかお姉ちゃんはすごいとかしか返ってこない。どういうことやねん。
さて、ここで別の問題です。
校門前に水のたっぷり入ったバケツを持った女の子がいます。この子は次にどうしますか?
制限時間は今ゼロになった。
答えは、中身を人にぶちまける、でした。
直後、水かけられたマリルにつかまったけど。
わーぷげーととろーぷのこんぼは、はんそくだー。
はぁ。ふざけてないで乾かそう。ってかマリル本当に容赦ないよね。
「heat dry(熱乾き)」
魔法便利。雨の日とかバケツの時とか。
で、このいたずらっ子どうしよう?
「マリル、この子どうするおつもり?」
一応外なのでしっかりした言葉づかいで話……したい。
「ラピス・マリア!貴様を処刑する!!」
乱心してやがる!おお落ち着くのののののぉよまりり。
「「「あれ、前にも見たよねこんな状態」」」
何があったし。
「さすがゼクスの子だわ、常識ないジョークが」
じょじよ、ジョークかよ。んで後ろから突如現れたあなたはなんのつもり?
「しゅーかんいどー?」
「―――あの子は」
しゅんかんいどう。パインよく分かるね、初見なのに。
「あちらも私の妹ですわよ、フィーア・クィーンヘッジ学園長」
テレポート使う学園長はちょー有名。ついでにお父さんの友達だしね。
っても、この前あったばかりだけどさ。
「ああ、っと、失礼」
っと、そんなことより何のよう?
「それより、要件を聞きましょう」
「では。一つ、アルマ様、あなたは中等3学年への編入となるので、明日からでよろしいのですが?」
は?
今、ぽっかーん、て顔をしてるに違いない。
「私初等6年生になるはずなんだけど……後お父さん高等にいくことにっていってたような」
私11才。
ここ大事だよ?
「飛び級といわれるものですよ」
はあ?
「まず、あなたは、一般の中等3年相当を学ばれていますので。ここでは、中等3年生は高等1年レベルの学習が主となるので、このようにさせていただきました」
前提がおかしい。あれか?いつの間にか英才教育うけてたっていうの?
「………あの回答ならついて行けるでしょう。あなたを教育した人は、よほど教育慣れしてるのか、または」
いったん切る。こういうときって、大体この後に言うやつが合ってる。
「よほど説明が下手なんでしょうね。勝手に理解力が伸びるほどに」
へー、そんなおかしな人もいるもんだ。
ねぇ、お父さん?
って言っても、ここには居ないだろうけど。
私に話してる体で、主にマリルに向けて語ってる気がするのは気のせいではないな。
私は例外だから、それだけで片付ける方が楽。
あ、そうだ。
「それでは、ラピスの処遇、お任せいたしますわ」
マリルにはさっさと離してもらおうか、こわいし。
つか、こいつも中等部だよな。
「気を張るのはつかれる」
「そうねぇ」
「あなたは怒ってないの?」
「まぁそりゃあ、あの程度のことは」
「あの程度って…」
まぁ肉体的に傷つく程度。
「人間を否定されるよりかはまし」
人の持つもの、性質、環境、行動。それらを否定する本当に本当の屑とは違うもの。
「それに、私も人を傷つける」
そういう人間は、私が許さない。理不尽は理不尽で打ち砕く。ま、私の方が理不尽なんで、基本。
「そう、か。まぁそうね」
それでは。
さ、帰ろう。
ってゆーか、5才のパインが入学できるってただの才能でもおかしいよね。
まぁつまりはほんとに実力主義ってこ…いや、やっぱ前提がおかしい。
おい、だれかヤラセしてねぇよなぁ!?
◎この時ゼクスの方では
「くしゅん…あー?うわさでもされてるのか?……気のせいだろう」
「お前、二度目だぞ…」
今更だよ、シャメル。
「頑張れよ、アルマ」
その声届くか…?
「さぁな」
おいおい…。
◎視点 フィーア・クィーンヘッジ
とある町
ラピスをしかった後
また、ここに来るとはね。
「ここは、夢の世界」
「ごたくはいいわ、はやくとおして」
ここに来ると、なぜか舌っ足らずになる理由はなんとなく分かった。
「ああいいよ、でも禄斗はいないよ?」
「いい、ようはあなたにあるの」
主人に用はないのよ、使い魔さん?
「ななしのゆりかごさん」
「名無しじゃなくなったんだ、僕はウィッチ」
名前をつけられた?ってことは、人前で話したの?
「ウィッチ?だれがつけたの?」
「パインちゃんだよ」
えっ?あいつの娘に?
「あなた、あいつにあったの?」
「今更話すこともないかな?とは僕も思うけど」
何かありそうね?
「桃ちゃんに会ってきて、枝納ちゃんと合流させて?あの子だけ17年前から会っていないし」
うわぁ、あのホームレス機械ガールに会ってこいって?探すの面倒なんだけど。
「しょうがないですね、ならがくえんはまかせますよ?」
「はいはい。あ、枝納ちゃんには」
「さいきんあったばかりよ。それにちゅうもんのつごうであわせたし」
この体だるい。帰ろう。
「ばいばい」
もうここに来ることはない。きっと、必要が無い。
「じゃあね、フィーア」
うん。
最後にの景色を目に焼きつけた。
再現とはいえ、帰れぬ故郷に思うところはあるのだ。
◎視点 アルマ・ブルーム
王立魔法学園 儀礼室(中等始業式)
花の月3日
「ッ!!」
蹴り上げた。
欠けてるところを言うなら、私が、後ろの少女を。
ムッツリどもがわたしのパンツをチラチラと見てた。
こういうのの一部が、将来女を手籠めにするヤツになるとは思えないが、なるんだろうね。こわいこわい。
んー?手籠めって何だっけ?忘れたなぁ。
どっかでその言葉聞いたけど、今夜の時点で忘れてるや。しかしまぁ、こうやって、今夜時点でどう、とかいえるの本当にすごい変なの。
…確認する気にならないパターンって、珍しいね。辞書に載ってるだろうに。
で?何だったっけ?あ、いいや。
「あんた、何のつもり?」
そこの少女、ラピスに問う。
……ん?あれ?
「アルマおねーさま、おなまえ」
パインはなぜここに居る?いやそこじゃない。何の違和感?
「パイン様なぜこちらに!?も、戻りますわよ」
先生があわててやってきた方を見ると、初等1年生とおぼしき子たちがいた。この後入学式か。
「1つだけ。そのかた、きのうおみえになったかたじゃない」
昨日お見えになった方じゃない。
じゃあ、だれよ?
「もどらなきゃ。しちれいいたしました、みなさまがた」
失礼、ね?別にいわなくていいか。パインそんなに舌足らずじゃないからわざとだろうし。
あ、お名前?名前を当ててみろとでも?あ、でも双子だし名前の由来同じなんじゃ……後は私の勘のままに。
「ラズリ・マリア」
ねぇ?わざわざ昨日からだますために仕掛けやがった双子ちゃん?
「どういうこっちゃ?こんアマ」
あ、割と口悪い。
「どういうことって、何に対して言ってるのかしら?」
はて、こんなでいいかな?何を伝えるかはとにかく、言葉づかいは分かりにくいなぁ。
ここまで1take。やったね。
「なぜ違うと分かった?」
「勘」
なぜかって?知ったことじゃないよ。当てずっぽう、そして同時にわかって当然のこと。
とにかく、そういうだまし方ってなんとなく読めただけ。まぁ、パインにいわれてわかったことだけど。
まぁ相手はどこをどう説明しようと「はぁ~?」って感じだけどね。そりゃそうだわなぁ。
「名前も知らなかったし」
「いやそれはおかしい」
ラピスラズリ、ってことだろうし。って理屈はあるんだよ?
「勘なんてものは、そういうものよ」
みんな「そんな訳あるか」って顔をしていた。
説明面倒くさかったんだよ。
しかし、これらがいわゆる「いじめ」であることに気づいてなかった。それが失敗。
それがなければ……どうなったろうね?
まぁ悪いことがこの後起こるのだけれど、それがなかったからっていいことが起こるとも限らないし。
ついでだし。どうやらスケジュールはこんな感じだった。
4/1初等始業式 初等2から6年
4/2初等入学式
中等始業式 中等2、3年のみ
以下省略。
だからパインがいたのね。
◎王立魔法学園 中等3年 クラス心(第2クラス)
(3時間目 白銀言語の授業、いきなり始まった)
はて、白銀言語の授業だが。
「locateは場所などを、突き止める、という意味の動詞です」
私、知ってるのばっかなんだけど。暇。
初等の校舎が少し遠い。休み時間中に行けないんだよなぁ。今授業なんだからどうでもいいけど。
「探知系の魔法、特に建物系はこの単語だと神もわかりやすいでしょう」
ヒマすぎるからなんか考えとこう。
神様は、いい加減な表現を理解してそれを現象で返すのってすごく大変なんだろうなぁ。しかもそれが世界中でだよ?
ああ、私、どこまでも傲慢だわ。神すら倒せるか考えてしまう。でもその考え方が力になってしまえる。あはは!っと、授業中。
「organizeは」
はぁーあ、ひーまーなーのー。
「operateは……アルマ・ブルーム、話を聞いていますか」
「ふぇ?」
「はぁ。何考えてたんです?純粋に気になります。あ、ついでにoperateの意味」
あー、ぼーっとしてたら注意された。次は気をつけよー。
ってかついでがそっちかよ。
「操作する、手術を行う、など。動詞。後考えてたのは神殺しってできるのかなぁって」
「えっ」
そりゃそうなるよねー。
「……後半はもう聞かなかったことにします。とりあえずその単語集わたしたの今日ですよね?」
ああ、それ?今日覚えたとかでも思ってたの?
「お父さんに教わってただけよ」
「え、えー?」
それからは?マークを頭に浮かべた先生がいたという。
ついでじゃなくない?
◎授業後
「アルマさん」
ふぇ?
「あなたは、えっと」
だれだっけこの面、とはなる。知ってる振る舞いをしたところで感あるのでこの対応である。
「トロワ・スターリバーです。実際の所、お久しぶり、と言うべきところですが」
「えっ」
ノインさんの子供ね。
あれ、というか今は同じ年、じゃないか。1つ上。そっちも飛び級だな…?
「ちなみにカンニングで成績確保してます」
「おい」
言い切るなよ。私も大して変わらないけどさ。
「それより、マリルちゃんの方でなんかさわぎがあって」
「何でそれを知ってんの?」
マリルまで中等なの?
「マリルさんは初等6年の星のクラス」
えっと星って第1クラスだね。
月のこよみと同じの使うあたり面白い。
……ん?マリルは6年?おーい、7歳やーい?初等2年予定からがっつり上がってるぞ!ってあれ、よく考えてみろ。
私11じゃん。中等3年、まぁみんな14じゃん。
7つのマリルの周りは11じゃん。
うーん、私と大差ないんじゃね?
で?何だっけ?いやわかってるけども話かそれすぎた。
「そこに忍ばせた使い魔より発覚した犯行です」
ないメガネをクイってする幻影が見えた。うわ何この残念美人ならぬ残念イケメン感。やな育ち方したなお前。とは言っても前に会ったときは例の魔法使ってないから、いまいち思い出せないんだけどね。
「マリルちゃんの体育着切り刻まれてました」
………………は?
「忍ばせたって言うかのぞきじゃない?」
「犯人がイーグル・イージス。男ですね」
話そらすんじゃねぇ。おめぇナニ見たか次第では許さねぇぞ?
ってか、気になることがいくつか。
「あのさ、体育着ってどんなの?」
「いわゆる魔女の服をうごきやすくしたの」
うん。わかんないや。
「後で買っておいてください」
いや、マリルも自分で買ったわけじゃないと思うよ?
「多分だれか買ってくれてるよ」
「確かに」
って、そんなことはどうでもいいだろうが。
「マリルの方体育あったんだ」
「そうみたいです。体育の後のことでした」
ふーん?へー?
「ってかどうやって?」
ここは聞かなくても説明してくれそうだけど。
「2時間目の後の休み時間に盗んでたようで」
「いや気づいてよ。あと更衣中をのぞいてないでしょうね?」
「初等の校舎に入ったの今さっきなので気づくも何も。そして一度も着替えはのぞいてないです」
あ、そうなのね。犯人が分かってるってことは、この件の真相は大体分かってるのね。そしてほんとにのぞいてないのか、お前?
前者は後で聞きに行くか。お昼休みとかならいいかな。
後者は分からんが、まぁ信じてやるか。
「ふぅん……ま、ありがとね」
返答はなく、考え込む彼。さて、と。お手洗いはどこかしらー?
教室を出て、たくさんの人が歩く中ですれ違った1人の男の子。
「はっ」
お腹を思いっきり殴ってきたその子は、とても不思議な人間であったことを、後に知る。
ガスッて、ガスッて!乙女のおなか!
いったーい。でもこらえてそのまま去って行った。無かったことにしてしまおうかと。周りに迷惑かかるのもあれだ。
馬鹿どもがつけあがりそうだけどな。
パインにも何かしそうだが、手ぇ出したら私たちがぶちのめすのは確定事項。
しっかし何でこう自己中なのかね、私。
そこの方が切実。
あ、この発言がすでに間違ってる自覚はあるからね。そう言ってる時点で手遅れ。あ、この発言(以下略
◎視点 ゲータ・フィロソフィア
王立魔法学園
昼食休み
アルマ・アローラ。
俺より天才肌な少女で、東の聖女に通り名をもらう。
パイン・アローラなど彼女の妹たちも幼くしてもらっているものの、その意味が違う。
あちらの方は将来への期待を含めてのそれだ。
しかし、あの少女は去年通り名をもらった時点で、それ相応に強かったのだ。
具体的には、そう、去年。
あの教師、っつーか学園長、フィーアですら殺しきれなかった組織のボスを瞬殺した一件。あのとき幼なじみを殺されて、キレたのか使い慣れているはずのない凶悪な禁術で焼き尽くした。
不意打ちしたらまだしも、なのだ。魔法無くして炎にそうそう耐えられるわけもない。だが、パインの雷を無効化してすぐのことだった。魔法が切れたわけでもない。禁術ではあれば少し論点が変わるが、な。
あの少女の、ブルーム王国の血統魔法は、本人がその場の周囲から思われてる何かの感情などによって魔法の効果を大きく書き換える。そして同時に制御しにくくになる。場合によってはやばい。
その力だけでなく、パインほどで無くても勘はきくし、マリルほどで無くても頭は切れる。
そんな確かな実力と実績を持つあの子なら、フィロソフィア公爵家の呪縛を払えないか?
さっき殴った感じだと、殺しあってももいいな。
俺にそうそう負けないだろう。一応、ハンデ?つけとくし?
「誇りで人を殺せる国だ、わざわざ逆撫でしてやりゃ死ねるだろ」
さぁ、見せてくれよ。
外には、磔にされた幼子がいた。
でも全裸はやり過ぎじゃねーか?くっそ、呪いってのはマジでたち悪いな。
こんなんでも楽しいんだ。興奮が収まらん。
◎視点 アルマ・ブルーム
王立魔法学園 中庭
同時刻
やりやがった。手が離せないうちに。
「パイン!」
あいつら!やり過ぎだろ!?
「ある、まおねーさ、まぁ」
パインを宙づりにしているのは、今にも切れそうなロープのみ。下には、口を開けて獲物をまつなぞの植物。口のある植物って何?
さて、助けるには?
「アルマにゃーん!」
と、どこからか声が。と思ったら宙づりのパインのうしろだった。ウィッチはなぜここに?
あ、でもそもそもどんな感じで飼われてるのか私知らない。
「何なのよ急に?」
「うわ、冷たっ。パインは任せろにゃ。下のを任せたにゃ」
「了解」
なら簡単。
「mana fire(魔力の火)」
一番使いやすいので焼き尽くすだけ。
あーもー、唱えるのいちいちしなくなってつまんないんだけど。便利だけどさ?
今はいいかそんなこと。
「cloud girl(雲娘)」
ロープを爪で切り、魔法でゆっくりと下ろす。
ところで、雲だとむしろ上行きそうなんですけど。なぜその名前にした?
「うわぁーーー私のーーローちゃんがぁーー」
なんか来た。ローちゃんて何や。
「焼いたなこの赤女」
赤女って何よ?
「アルマにゃんが鯛だそーだにゃ」
タイが赤女?へー。ま、今のは私が赤いからなのはふつーに分かるけど。
「あなたも焼いてもいいけど、どうする?」
同じ末路をたどりたいタイプの変人かな?
「お前を食べる!」
違った。
いや合ってた?でもそうはならねぇだろ普通。じゃ、えーと?とりあえずこの、変人?いや待てこれ!
「knock out」
「びひゃ」
あっ。
パインが魔法で気絶させた。させてしまった。あくまで証拠のない子に対して。
実際違う人の使い魔なことが判明することはわかってたのに。もちろん、実際は彼女の使い魔ですけどね?
賢く悪い貴族たちがやってくるパターンになるわー。
「にゃ、犯人制圧ありがとにゃ」
「はーい」
ウィッチのフォローはどこまで意味があるのやら。
多少はあるだろうけれど、なぁ。
「言っちゃあなんだけど、ピーキーな社会で生きのびてる人の集まりにゃ。苦労が伴うわけで。わかりやすくて相手しやすいにゃ。それでも分が悪いけどにゃ」
えっ?考えてることばれてばかりね。
「私、そんな顔に出てる?」
「なんとなくでわかるだけにゃ」
なんとなくでばれてちゃどうにもならん。
「そんにゃことより、運んでくれにゃ」
ああ、ネコには人は運べないか。
「はこびましょー」
「パインはやめなさい」
絶対引きずる。………ん!?
「ちょ、服!」
「えっ、あーそっか」
「あーそっかじゃないわ隠せぇ!!」
とりま上着を放り投げる。
「うえにあるよ?」
そうじゃねぇ!見ろ周りを!!気まずい空気じゃねぇか!ついでに興奮してるのが居るんだよ!!あいつはもうどうしよ。
あ、去ってった。
私は羞恥心っていつ着いたかな?マリルはえっと、4才。でもお父さんはいいって言う。まぁ、今はそれでいいでしょうね。今は、な?
私?今?んー、お父さんについては気になるならどうぞかな?どこまで成長したかは親として気になるでしょうし。
そもそも性的な意味でも見せるくらい減るもんでもない。減るもんでも使い方次第で使ってやるわい。ハニトラは無理よ?
他の人でも見せるくらい交渉の種に使ってもいいかなって思って、検討してみたことがあるけど、大体ほかの手の方が効く。子供だからかな?
え?そこまで聞いてない?ついでに面白くもない?
でしょうね。でも知ったこっちゃない!
「つか、何で気絶させたし」
「すごいこと言いそうだったから」
後で検証してみたけど、ひたすらめんどくせぇ奴だった。
まじかー。手を出すのかぁー。
◎視点 トロワ・スターリバー
「思ったよりつえぇな、おい」
やべぇよな。それはこちらも思うよ。
「そうねぇ」
やっぱそうか……。お前もいるのか!
「どうおもう?リール」
リングドール・ルージュ!
「さぁ、私は知らないわ」
「はぁ」
「ティルフィ、この作戦の必要事項を」
「はっ、えらそうなことで、まぁいいけど?」
ティルフィ・フェイルか?彼女は侯爵家の長女。伯爵家の次女に過ぎないリールがぱしるのはおかしくないか?
さすがに序列気にしないほど親しくないでしょ、あんたら。違う?
別の場所にこいつ向かわせた方がいいかな…?
「あたしらはただのかませ犬よ」
ん、かませ?
「本命はこいつ、ただそれだけ」
本命はゲータ?いや、ちがう、か…?
「はぁ、結局やるの?」
「それしかないでしょ?」
リンクアウト。
「ふぅ、とりあえず報告しようか」
はぁ、あっつい。てゆうか、その、熱い。
「やめてくれない?エニカ」
「エニでいいじゃないのー!」
ったく、もう…なつきすぎだよ。
「で?あの子の裸見て満足?」
「エニ、仕事をしてきて」
「反応しろよ」
だれがするか。…はぁ。あれに興奮してたのも居たな。あいつどうしよう。
後真面目に答えると角度悪くて見えなかった。
別に見たかったわけじゃないよ?ないからね?
「頼んできてよ」
「はーいはい、りょうかいだよー!し合用の結界ね!」
そ、試合するのは確定事項だからさ。後そのし、試合のつもりなのか死合のつもりなのか。
「おやすみ」
「いってきます」
つかれたからねる。
………なにが「パイン様の足で私の者を踏んで欲しい」だよキモいなぁ。まぁあいつのことを考えれば、まだゲータの意図もわかるけど。
それにしてもゲータは、その、なんだ?それほどジェーンを信頼していると?
◎視点 アルマ・ブルーム
王立魔法学園 多目的室2
放課後
大陸西側の地図を機械で表示する部屋。
一部の生徒だけで少し秘匿されがちな情報の講義。
「国ごとの血統魔法についての確認ですね」
「血統魔法…ですか?」
セーカが質問する。
「はい、王家の血を引くものに現れることのある特殊な魔法技術ですね」
「アルマ様はもってるの?」
「うん、持ってる」
逆に講義する羽目になった感じがする。視線が集まる。
「そうだな……beginning flare(始まりの燃焼)」
とりあえず火の玉を出す。
「そしてbloodmagic(血統魔法)からのbeginning flare(始まりの燃焼)」
次は一回り大きいもの出た。唐突に火を出した割にはびびらないんですねぇ…。
「ブルーム王国の血統魔法は魔法の出力が上がるね」
「向けられる感情に含まれる妖気に依存するらしいので、他者の特定の感情か自身の精神状態で出力が大幅に変化します。ただ、この手の傾向は、ゼロスサンで一度例外がありますね」
あー、そうだね。というかみんなそうなんだ。私とパインしか知らなかった。
「例えばパインは感情をなくせばなくすほど威力が増加してるね。私は特定感情タイプだから秘密で」
「アルマおねえちゃんずるいよ」
すまんな。
最大限活用するために憎悪を煽ることがあるから、あんまり話したくない。
知られてると効果落ちるのは変えられないこと多いもの。だからどうあがいても家族からは引き出せない。
「一定以上強いと、花弁の火の傷と呼ばれる花の模様が、魔法の詠唱中に現れますね」
「別に魔力を集中させるだけで出るけどね、こんな風に」
右目に現れたものを見せつける。
「そういう工夫は普通できませんよ。では次です。ゼロスサンは魔力と生命力の消費がほぼ皆無になります。こちらは向けられる忠誠心に依存して変化します。紫紺の瞳が証ですね」
では次、ということでブルームの西を指し示す。
「忠誠心、ねぇ。近場に集める必要あるのか」
「いえ、ブルームのものと違って大分広範囲から集めますね」
「あ~…」
「限界はあるので、今の土地の広さはそれを考慮した限界までで止め、防戦に徹していた歴史があります」
それでもブルーム、ミラージュに次ぐ広さしてますが?
「あと、さらに西、ポセイドンでは魔法の複製なんですよね。海の記憶や知識の多さに応じて出力を上げます」
さすが海の国。国がもう海岸線に沿って伸びてるぐらいだしね。戦争後、国境線は本当にそれでよかったのかおまえら、と神獣が疑問視したという伝説すらある。
「これを扱える人は皆、蒼海の一房を証として持っていますね。これは上二つと違って強さとか関係なく問答無用で現れます。というか個人差がないです」
あ、今気がついたが全員ノートとってた。
いいか、別に。私ノートいらないし。
「獣人はそれそのものが祖先の、神獣の子孫の証なので、一応どの家からも発現する、先祖返りというものがあります」
「先生、今気がついたけど二人足りません」
「ああ、家の都合で欠席です」
ちなみにこれ、ゲータとジェーンだった。
「先祖返りは各神獣の授けられた力を所有します。ちなみに狼神獣の他心だけは一度も現れてませんね。あと、兎神獣の、そうだ。これも一部問題が」
ん?
「兎神獣の天眼なのですが、権能の一部が未来の認識なので、その部分は一度に一人しか現れないのですが、その部分の権能をアルマ女王が奪ってます」
「え、まじ?」
「はい。ちなみに他は栗鼠神獣の魅惑、犬神獣の天耳、猫神獣の気斬、狐神獣の離体、熊神獣の神足。これらは別に秘匿されてないので普通に授業で説明がありますね。受ける前の人も半分ぐらいいますが」
長い。というか私のこの力、フォリックから奪ってた?
いや、単に未来を知る力がないだけかもだけど。と思ったら、質問しても帰ってくるのが無言、あるいは秘密。えっ……なん、だと?
と勝手に動揺してるのを隠し通しているので普通に授業は続く。
「ちなみにエルダーアースにはありません。だからこそ国として認められません、というのが表向きの見解です。実態は神が敵に回ってるから、あるいはその理由に同意したからですかね?」
疑問形。誰が知るか、という視線を向けておくのがいい。
「……エーデは今は規模が小さく、長年現れておりませんが、昔は半陽の岩肌と呼ばれる、全ての禁術を完全相殺する力があったとか。おそらく多少は誇張されているものと思われますが、事実強力だったのは間違いないです」
岩肌って。どんな皮膚ですか。
「というのは建前で、実際は他も無力化できたのですが。つまり、魔法のほとんど完全な相殺ですね」
え?あ、そっか!エルダーアースに一番先に対抗したのがエーデだった!エルダーアースはゼロスサンの前身でもあるし、禁術特化の国の側面があるのか、な。禁術がどうというより、最も濃い生命力である、魂を支配する国。
魔術特化のブルームとエーデ、妖術中心のミラージュ。
「魂がなくなれば全ては…」
「そうですね、よくご存じで」
「禁術使うからね、ちゃんと危険性は学んでるよ」
「それもそうですね」
この後も詳しい話が続いていく。エーデの話はまるで知らないから面白い。
今更だけど、ここじゃなくても学園に忍び込む検証しておけば、知識が多く手に入ったんだね。
それを実行してみた記憶を早くに用意できれば、ユリウスを救えたり、お母さんを守り切れたりしたのかなぁ。
お母さんの方は、これからが肝心だね。
さて、講義も終わり。帰ろうか。
◎センチョオシー地区 ブルーム城門前
よく考えると、帰りがけに馬車に乗ることも転移運送にも頼ることもないぐらい近いんだよな、帰る場所。
「マリル、何があったかは聞いてるよ」
「お姉ちゃんも何かしらはあったんでしょ?明確な動機のある集団の行動だし」
大したことはなさそうにぱっと答えを返してくるけど、何も気にしてないはずはなく。
「まぁ直接殴られた程度だよ。あれが主犯だとは思うよ、公爵家のやつだし」
「イフリート…?」
「フィロソフィア。ジェーンのお兄ちゃんだろうね。彼女に聞く限り、何かしらは知ってるっぽいけど謝る以外はしなさそうな」
何かクリティカルなことを言えば答えてくれるだろうけど、それをチェックするのは手間が過ぎる。何か隠してる要素は確実にあるから、何日かかけていいなら暴けるけども。
「私たちにとっても利益があるの?」
「いや、迷惑を被るだけだけど、断り切れないというか、こっちも迷惑をかけてる気がしてならないというか。それでも暴こうか?」
「やめておこう?暴くのに成功した時点で破綻して、代案を用意する仕事ができると思うから」
だよね、そりゃそうなる。私もあまりやりたくはない。
結果論、やっても間に合わない上かなり滅茶苦茶な作戦を放棄する代償も乗っかってできるかどうか不明なミッションという感じになると思われるから、そういう意味ではここでやらない選択は正解なのだけれど。
「次のステージに移る前に、確認をしよう」
「出たよ、いつもの…」
「まず、今の最優先目標はお母さんの救出、保護」
「異論なし。後多分犯人は超大規模、ぜんぶ終わらせる予定みたいだね」
「くにをほろぼせー、だね」
なるほど、狂国そのものがやってやがったか。だからお父さんもここにいる他ない。どれぐらいかはともかく強いみたいだけど、さすがに数がやばい。
「じゃあ、次。今まだここにいる理由、目的」
「人を待ってるみたいだね。一度ゼロスサンに向かう予定だけど、その前に済ませたいみたいで延期した」
「かえったらすぐべつのばしょにいくってこと?」
「正解だよ、パイン。えらい!」
甘やかしてるなぁ…。そんなに調子乗る子じゃないから別にいいけど。
あ、延期の方はミラージュ側にも理由があるよ。まだ誰か来るみたい。
「まだミラージュから人来るってのもあるみたい」
「えぇ!?だって今……いや、そっか。多分待ち人は白銀人だね」
この話、マリルからしか一切を聞き出せないのが気になる。とりあえず立ち回りとしては追及する方針でいいかな。
そろそろ門前につく。既にあいてるんだけど…?
「今の世代にいるんだっけ?」
「17年前、この廻金世界に2度目の召喚がなされた、ってさ」
「近いなー」
召喚するのはこの世界の公用語、エーデ語と全く同じ日本語を話す人に限定するようにしてたんだったかな。だからゼロスサンみたいな黒髪黒目が多い。
後白銀には純人しかいない。幻銅には変な種族がたくさんいるんだけど、白銀から見たここも同じようなものだろう。
「近いといえば、そろそろ犯人は国境付近に着く頃なのはわかったんだよね」
「結構早いね?」
「うん、白銀人の名前を全ては把握できてないみたいだから、あの人たち。急ぎすぎ」
召喚しといてそれはどうなんだとは思うが。
「なるほどね、私もあまり把握してないけど、日本人らしい名前以外を名乗ってるみたいなんだよね」
「そうなの?」
「そうそう」
ふぅん。あまり聞いてもしょうがないか。会えばわかるだろう。私相手に隠しきれるわけないし。
隠すという次元ではないことをこのときの私が知ったらどう思うかと考えたのだけど……こんな時期で知ったならその瞬間殴り込みにいくよね、間違いなく。オメーのせいじゃねぇか!?って。
私がいないからと話した時になんとか聞きに行けた結果知ったのなら少し話は変わる、かな。
「ところでパイン、授業はどうだった?」
「じゅぎょうのまえにするせつめいしかなかったよ」
「初日だし普通そんなものか」
一応最初の学校だしな、今日。
「おねーちゃんたちとうけたのはむずかしかったし。じゅーじんのはたしかにまえもきいたなーってだけ」
「あれはしょうがないな」
マリルは聞かなくていいか。パインに質問させとけ。
「おねーちゃんは?」
「私は授業あったよ~、いろんな話を聞いたんだ、結構楽しかったよ」
そういえばマリルだけ昨日も学校か。昨日の行動的に帰りに会う余地なかったな。
「そろそろかな、私は仕事するね」
「部屋に荷物運んどくよ、貸して」
「ありがと、お姉ちゃん……あ、そこに入ってる物もついでに渡しておいて」
とりあえず私も仕事というか……話をしておいた方がいい人がいるのかね。
「えっと……?」
ふむ、北か。
「わかれる?」
「いや、城の中経由していくから途中まで一緒で」
「アルマおねーちゃん、手をつなご?」
「うん、いいよ」
とりあえず、この子はメイドさんに任せます。
◎ブルーム王城壁北角 2階 裁判長室
ドアをノックする。
「どうした?」
「ん?あぁ、私です!アルマです!」
「おや失礼。どうぞ」
そりゃ用件言わなきゃいけないに決まってる。でも今回、無言から始めた方がいい感じになるのである。
「失礼しまーす、こちら届けに来ました」
「ふむ、なるほど。国賊は抹殺か、そのほかに打つ手もないだろうな、よし」
彼、イフリート公爵はハンコを押す。
「許可した。君たちの裁量で、犯人を暗殺、あるいは処刑してかまわないと王国の司法は認めよう」
お、あっさり降りた。そりゃそうなのだが。そうしてでも仕留めないと誰にどんな被害が発生するか見当もつかない。
「妖術使いでミラージュスの人間である可能性もある。だが、彼の国でも犯人だと納得させられるなら文句も出ないさ、“天眼”殿と行動しているだろうしな」
そういえばフォリックは今どこにいるのだろうか。
マリルのところ。
なるほど、マリルと仕事中か。
「これが来るのはわかっていたから、彼には先に伝えてある」
「えっと、どうなのそれ?」
「別によかろう」
と、すでにコップに入っていた酒をあおりだした。おい、お前それはどうなんだ?
「寝るかな。では、お疲れ様」
「おつかれ。ところであなたの名前聞いてもいい?」
「……公爵でよかろう」
「それもそうか。じゃあ、おつかれ」
寝るな、と言う気にはならなかった。さて、あんなでも軍師らしいから、私とは別の場所で活躍してくれるのでしょう。ありがとね。
とりあえず残りの荷物さっさと部屋に届けて、ジェーンあたりと話そうかな。
「と思ったけど部屋にいないな?ねぇねぇ」
とりあえずそこら辺のメイドに尋ねる。
「ジェーンはどこ?」
「フィロソフィアのご令嬢ですか?おそらくはお屋敷に戻られたかと」
そういえばフィロソフィア、北西のマル地区を管理してたっけ。
「結構遠いなぁ…」
「おそらく接触はままならないでしょう」
「うん、諦めるよ」
人払いしてるっぽい感じだし、次男がやばい、私を殴ってきた三男よりやばい。さすがにあれはパインが危ない。
「そもそも明日に何が起こるか大体予想つけられる感じがする」
だってなんかもう天候が荒れ気味なんだもの。
「マリルには悪影響ないでしょうけれど、何かあったら伝えて。寝てても起こして、布団で寝てる方が私ね」
「えっと、はい、わかりました…?」
さて、戻ろうか。
見覚えのある人とちらほらすれ違いながら、私の部屋に戻る。
一人でこの部屋にいるのも珍しい気がしてきた。慣れちゃったなぁ…。
「thinking accelerate(思考は加速する)、memory checker(記憶確認)」
とりあえず、今の情報で明日に何が起こるかを考察しておく。
魔力オーロラに備えないと。うん、どうあがいても城から動けないね。
あと、マリルは多分大丈夫だな。警告が活きることもないといいけど。
「memory editor(記憶の編集者)」
何か、面倒な気配がする…。
とりあえず寝よう。頭痛を警戒しつつ。




