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ep1,汝の道筋を示せ

ギブレイは勇者になりたかった。

 聖ブリジット修道院に保護されたギブレイは奇妙な赤ん坊であった。幼きギブレイにとってそれは実に不思議な事で、自分が知らない筈の事を沢山知っていた。それを遠慮無く口に出す物だから、ギブレイはこの修道院における、否、この街において異物であった。修道女や修道士は皆ギブレイを薄気味悪く思っていたし、街の人々も誰一人ギブレイを受け入れる者はいなかった。しかしながら、彼等にとってそれは当然の事だとギブレイは気付いた。あの日、修道女イヴェットが彼を落とした時から……。赤子のギブレイは彼女の腕から落ちた際、頭を強打してしまったのだ。頭を強打してしまったからと言って、運が良ければ何とも無い事もあるだろう。

 しかし、ギブレイは違った。とある盟約によって超常の者が介入し、なんとギブレイの脳は異常な発達を見せた。

 そして、ギブレイは全てを思い出した。

 そう、ギブレイは前世の記憶がある。

 これだけ聞くと、ギブレイは非常に幸運だ。

 だが、ギブレイは全くそうは思っていなかった。ギブレイにとって、前世の記憶なんて物は邪魔でしかなく、常に足に重りがついている様な物であった。

 例えば、食事だ。生活水準を一度上げるとなかなか下げられないなんていう言葉の正しさをギブレイは痛感した。何せ、食べる物の大抵は不味い。植物も動物もまず、素材から不味い。話にならなかった。前世の記憶ではありふれていた食べ物が、今は勇者が食べる物の様に思えた。

 勿論、食事だけではない。衛生環境も酷いから、空気も悪い。大人達の話を聞くには、娯楽もろくに無く、正しく現代っ子であったギブレイの前世の記憶は、ギブレイにとって叶わぬ夢を見せるのみであった。

 勿論、ギブレイとて初めからこの様に悲観的な訳では無かった。自分の知識で金持ちになって幸せになろうと夢を見た。自分に隠された力がありやしないかと色々な可能性を探った。だが打ち砕かれた。俗に言うチート能力なんてものは無かった。魔術があると知って歓喜した。そもそも魔術書がなくて絶望した。

 記憶が蘇って2年間、自分も勇者みたいになれるのではと、ひたすら色々やってみた。

 そう、勇者。前世の怠け癖等の悪癖も引き継いだギブレイが2年も自分に見切りを付けずに頑張ったのは、ひとえに勇者の存在が影響していた。何故なら、勇者とギブレイの前世は、おそらく同じ世界から来ていたからだ。だが、だからこそギブレイは妬ましかった。羨ましかった。神に選ばれ、才能を与えられ、勇者は様々な伝説を作り、世界を変えていった。

 言葉を変え、国を興し、学校を作ったり、冒険者ギルドなんて物を作ったりもした。

 人々は勇者を崇め、神の使者として祈りや銅像を建てたりした。

 皆が恩恵を受け、勇者に感謝した。実際、ギブレイもその恩恵を受けている。ギブレイが新たに言葉を勉強せずとも大人達の会話を盗み聞き出来るのも、国が一時的とはいえ平和なのも全て勇者のおかげである。

 だがだからこそ、ギブレイは諦めた。

 自分と勇者を比べてしまった。

 そうして僅か三才にして、夢の無い少年が生まれた。

 その産声は唯一言、

「勇者、凄すぎ」

 と呟くのみであった。

 

 ――ウィローは魔術師になりたかった。――

 ウィローは生まれてこの方、父の顔を知らなかった。しかし、ウィローにとってはそれは特別悲しむ事では無かった。

 何故ならウィローにとって、母親が全てであったからだ。父の愛や素晴らしさをウィローは知らなかったが、その分母の愛を知っていた。ウィローの母は魔術師であった。魔術師としては特別才能があったわけでは無かったが、魔術師の希少性とその勉強熱心な真面目な性格のおかげで、一人娘を養いつつもそれなりの生活が出来ていた。その日も何時もの様に、真面目な母は日がまだ出る前に家を出た。しかしその日、ウィローの母は帰らなかった。そうして、ウィローは母を失い、修道院へとやってきた。


 ――エリオットは英雄になりたかった。――

 エリオットにとって、肉親等どうでも良かった。ある冒険者の夫婦が、エリオットにとっての両親だったからだ。二人にとって、その子供は初めはただ鬱陶しいだけだった。冒険者にとって、子供なんて物は仕事の邪魔でしか無かったからだ。しかし、親戚に「少しの間でいいから」といい包められた二人は、始めは嫌嫌ではあったものの徐々にエリオットを受け入れて言った。二人は名のしれた冒険者で、エリオットは二人の話す冒険話や英雄譚が大好きだった。二人と冒険するのが、エリオットの夢だった。二人の様に立派で強い冒険者になる、とエリオットは良く言っていた。エリオットの両親はそれを快く思ってエリオットに色々な技術を教えたし、エリオットの肉体はそれに応えた。エリオットは才能があったのだ。その内エリオットは、二人と共に冒険すると言い出す様になった。しかし、両親は反対した。エリオットは確かに子供にしては体格がいいし、才能もある。しかし、エリオットはまだ子供であった。

 良くある話だった。しかし、エリオットの頑固さとしつこさが両親の手を焼かせた。来る日も来る日もエリオットにせがまれた彼らはついに愛想をつかせた。彼らは冒険者であった。名誉の為、利益の為、己の欲望の為であれば、どの様な障害があれ突き進む者であった。そしてそれは、血の繋がらぬ子供であったとしても、否、仮に血が繋がっていたとしても変わらぬ道理であった。それ故、彼らは親戚の反対を振り切り、エリオットを修道院へと預けた。エリオットの父は暴れるエリオットを取り押さえ、最後にこう教えた。

「エリオット、お前にはお前の俺等には俺等の道がある。その道を進みたかったら、力をつけろ。俺は敵だ。お前の道を阻む敵だ。お前も冒険者なら、敵を倒せ。だが気を付けろよ。お前の敵は強大だそ?」

 エリオットはもはや暴れてなかった。唯、決意していた。

「強くなる。父さんや母さんよりずっと。英雄になって父さん達を助けてやる。」

 その日から、エリオットは両親を見ていない。

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