1.7
かえでが嘘みたいな早さでボウリング場に着いたことには正直驚いた。いくら信号も多いとはいえ、こんなに早いものなのか。走るのを趣味にしているだけはある。
秋瀬楓、と申請用紙に記名して。
息も乱れない様子のかえでは、手際よく受付を済ませていた。
超人かなにかか……? 申し訳なさが振り切れてしまうな。
平日のこの時間はがらりと空いているようで。
ご厚意に預かって、一人一レーン使えることになった。
ガチ感がすごい……。
「さて、勝負だけれど」
皆がレーンにたどり着き、荷物を置いた頃合いでかえでは切り出す。
「練習二回、本番一発勝負でいいかな?」
「うん……!」
「おっけー!」
「いいよ」
「わくわくするねっ」(かわいい)
三者三様の返答。
このワンフレーズでも、あおいにときめいてしまうな。だめだめ。気を確かに持たねば、猛者たちについていけない!
そして、戦いの幕がゆるやかに、しかし確かに上がってゆく。
その第一ゲーム。
最初からフルスロットルなのは、りんだ。
いやもうめちゃくちゃ似合うなその姿。
スペアを連発、スコアは120点に至る。
りん、ほんとにさっきまで部活やってたんだよね……?
わたしは投げ方を思い出すように、一投一投を丁寧に投げていった。
スコアは78。
ま、まあスロースターターだし? 5ゲームは様子見だし?
ってそれじゃあ間に合わないけどお!
脳内寸劇してる場合じゃなかった。
あおいはどうだろう。
見ると、ストライクとガーターの二色だった。
なにそれこわい。やみをかんじる。
てかそれ、スコアはわたしより低いけど、調子戻したら無双するやつじゃんね!?
けれど、この先の光景こそが、絶望なのだとわたしは知ることになる──。
◇登場人物
春原さくら:わたし。凪高校一年生。
夏松ゆず :わたしの友達。笑顔がかわいい。
秋瀬かえで:わたしの友達。きつめに見えて実は優しい。
冬村りん :わたしの友達。体力はないが天性の運動神経。
風祭あおい:わたしの友達。救世の天使。