1.11
運転手さんに駅まで、とお願いして、わたしたちは後ろに横並びで座った。
「学生なのにタクシーに乗っちゃうなんて、なんか悪いことしてるみたい」
「そ、そうだね……」
ゆずのテンションは低いわけではない。
だけれど、気恥ずかしさのようなものが感じられた。
「ね、ねえ、さくちゃ」
「どした?」
「土曜日さ、一緒に遊びに行かない?」
「え! いいの! 行きたい!!」
喜びのあまり、わたしはゆずの手を握って賛成する。
これだよ、これ!
やっぱり青春を謳歌するのが一番なんですわあ。
ベッドに横たわりながらソシャゲや動画で時間を溶かすなんて学生としてはだめだめ!
かわいいを摂取すると、わたしまでかわいくなったように錯覚しちゃうけどね。
わたしの手のなかにあるゆずの手は、ほんのりと熱を帯びていた。
ゆずの体温を感じて、わたしは幸福感に満たされてゆく。
柔らかくてすべすべで、あたたかいゆずの手。
ふにふにと、その手を触っていると。
「ちょっと、いつまで触ってるの……!」
怒られてしまった。
「さくちゃはさ、どんな人が好きなの?」
「んー、特に思い浮かばないけど……、一緒にいて、隣にいるだけで、ふたりでしあわせに感じあえる人がいいなあ」
「隣にいてしあわせな人かあ」
その反応を見て、邪念が芽生えたわたしは、からかい半分で言う。
「ゆずと一緒のとき、わたしはすっごくしあわせだよー?」
「ば、ばか……! からかわないでよお!」
やかんから蒸気が出るみたいに、真っ赤になったゆずがわたしをつつく。
あれ、効きすぎた!?
嘘はついてないんだよな、ゆずといると心が満たされるのは、ほんと。
わたしたちがばかをやっているうちに、駅はすぐそこまで近づいてきたようだった。