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第5話
不可視のものが可視化された感動、というと大げさかもしれない。
そもそも細胞の継代作業なんて、ウイルス研究を続けていく上では、毎週二回のルーチンワーク。むしろ面倒で鬱陶しい作業、という認識になっていくのだが……。
それでも。
これが私の研究生活における、初めての感動だった。
私は常々、研究者というものは、子供じみた好奇心を心に宿した大人なのだろう、と考えている。小さな子供が「なぜ、何、どうして」と聞いて回る、あの精神を持ち続ける人種を研究者と呼ぶ、と思うのだ。
些細な物事に大きな感動を覚える、というのも、それと似た子供っぽさなのかもしれない。幼き日の理科の自由研究において、大人になってみれば当然のことでも子供の目には新鮮に映る場合があったが、それと同じなのではないか、と。
その意味で。
バターのように溶ける細胞に感動を覚えたあの一瞬は、私にとっては、研究生活の原点だったのではないか、と今でも思うのだ。
(「細胞がバターのように溶けていく」完)