第96話 フォーリンデッド
俺とベッキーは、爆風に煽られながら空中に躍り出る。
浮遊感を味わう中、視線を下に向けた。
積み重なったゾンビがビルの壁面を埋めている。
ほとんどのエリアが侵蝕されており、生き残っていた黒服ギャングも全滅しているだろう。
屍王はなりふり構わず俺達の排除に利用したらしい。
そして、生きた配下を不要として切り捨ててしまった。
(冷酷な奴だな。ああいう悪役ほど長生きしないんだ)
そんなことを考えているうちに落下が始まる。
叫ぶベッキーを強引に背負うと、壁面にしがみ付くゾンビの頭部に着地した。
腐敗した首を踏み折りながら別のゾンビに跳び移り、それを繰り返しながら地上を目指す。
バランスを崩さないように気を付けながらどんどん加速した。
最終的にはノンストップで駆け下りていくような形となる。
滑って転ばないようにしつつ、俺は騒がしい地上に注目した。
そこでは異世界の騎士団がゾンビを燃やしていた。
彼らはこの地を支配しに来たわけだが、まずは眼前の脅威をどうにかしようと決めたようだ。
きっと屍王の存在は知らない。
とりあえず、ゾンビの大群を見て只事でないと悟ったのだろう。
(この数のゾンビを相手に怯まないなんてさすがだな。死亡フラグな気もするが)
俺は彼らの無謀な判断を笑いながら下っていく。
やがて騎士団は俺達に気付くと、矢を放とうとしてきた。
迎撃すべきだと考えたらしい。
しかし、対応があまりにも遅い。
俺は矢が飛んでくる前に爆弾を投げ付ける。
爆弾は騎士団の前で炸裂し、濛々と黒煙が漂い始めたそこに俺は飛び込んだ。
混乱する騎士を押し退けながら駆け抜ける。
ここで殺戮を始めるのは簡単だ。
ただ、今はその時間すら惜しかった。
生憎と遊んでやるほどの余裕がないのだ。
俺は騎士団の目を掻い潜りながら陣形の外へと脱する。
飛来する矢を躱しながらアパート方面へと逃亡した。
向こうから死角となった物陰に入ったところでベッキーを降ろす。
そっと振り返って状況を確かめる。
ビルが最上階から崩落を開始していた。
置き土産の爆弾が機能したのだ。
手持ちの中でも高威力の物を選んだが、それだけの効果はあったらしい。
破損したビルの瓦礫とゾンビが混ざりながら大地に降り注ぐ。
近くにいた騎士団が騒然としながら退避する。
彼らもさすがに俺達の追跡どころではない。
あそこには屍王とゾンビ化した殺人鬼ウィマもいる。
きっと散々な被害が出ることだろう。
どちらの怪物もさらなる獲物と求めているに違いない。
カオスな戦闘は、第三勢力をも巻き込んでエスカレートしていくのだった。




