第94話 魔術武器
ゾンビを殺しまくるウィマが荷物を落とした。
隙を見て回収すると、それは武器を詰め込まれたバッグだった。
肩紐の部分が引き千切れている。
酷使の挙句、遠心力に耐え切れずに吹っ飛んでしまったらしい。
俺はジッパーを開けて中身を調べる。
バッグには近接武器が大量に入っていた。
未使用のものもあれば、べっとりと血が付着したものもある。
今回、ウィマがビル攻略に向けて用意した道具だ。
実際は早期に食い殺されてしまったため、使われる機会を失ったのだった。
バッグを捨てようとした俺はその寸前で気付く。
ガラクタみたいな武器に紛れて、奥底で何かが光っている。
「ん?」
俺は手を突っ込んで引っ張り出してみる。
出てきたのは白い短剣だ。
刃が淡く発光しており、柄にエメラルド色の水晶が埋め込まれている。
芸術的な美を感じさせる造形だが、砥がれた刃からして実用性も高さそうだった。
明らかに異世界の武器である。
ウィマが殺した騎士の遺品かもしれない。
俺は未だに暴れ狂うウィマを一瞥する。
彼女は室内に侵入するゾンビを滅多切りにしていた。
もはや供給が追い付かないペースで解体している。
おかげでこちらは何もやることがなかった。
(とりあえず俺が貰っておくか)
白い短剣は片手に持っておく。
"刺殺王"の俺にとっては使い勝手の良い武器だ。
それに光る刃には何らかの効果がありそうだった。
直感的にそう悟ったので頂戴することに決めた。
一応は持ち主のウィマは、上機嫌にチェーンソーを振るっている。
別に勝手に貰っても文句は言わないだろう。
(さて、これからどうする?)
何をするともなくゾンビとゾンビの対決を眺めていると、窓の外から屍王の首が戻ってきた。
ゾンビの一体が再び身体と繋げる。
その表情は露骨に不機嫌だった。
先ほどまでの余裕はすっかりなくなっている。
二度も外に飛ばされたことが我慢ならないようだ。
おそらく屍王にとっては大したダメージではないはずだが、扱いが酷いのでさすがに気分を悪くしたらしい。
魔術の糸で首を繋いだ屍王はむくりと起き上がると、暴れまくるウィマを見て愚痴る。
「なんだあの女は……我が制御できぬとは。術の解除も不能だ。相性が中途半端に悪い」
やはりウィマの殺戮はイレギュラーな事態みたいだ。
屍王が何度かウィマに向けて手をかざすが何も起きない。
ウィマは俺達を置き去りにして、大量のゾンビを抹殺し続ける。
室内に血と腐肉の臭いが充満していった。
床を死体が埋めていく中、俺達は屍王と対峙する。




