第72話 他勢力の動き
俺達がホテルの守りを固めている頃、他のエリアでも動きがあった。
西の娼婦街と賭博場が、中央のビルの管理地になったのだ。
すなわちギャングのボスが動き始めた。
勢力拡大を進める俺達に対抗した形だろうか。
さすがに無視できないと思ったらしい。
ちょうど西のエリアへ交渉に向かう計画を立てていたので、微妙に痛手を負った結果である。
中央と西の結託が判明した後、俺だけで偵察に向かった。
既に娼婦街と賭博場は統率が為されていた。
そして役に立たない人間は粛清していた。
貴重な食糧を食らうだけの役立たずは不要ということだろう。
物資の管理も徹底されており、常に武装したギャングがエリア内を巡回していた。
彼らはおかしなことが起きていないか目を光らせている。
非戦闘員は畑を耕したり、武器の製作に取りかかっていた。
サボっている者はいない。
怠慢は死に繋がるからだろう。
元の世界で地位のあった者だろうと関係ない。
異世界に転移した犯罪の巣においては、暴力こそが絶対正義だった。
(まったく、とんだ管理社会だな。息が詰まりそうだぜ)
偵察を終えた俺はホテルへの帰路に着く。
今回は一人だ。
誰も同行させていない。
偵察という特性上、人数が増えると発見されるリスクが高まるからだった。
俺の隠密能力を邪魔しない人間となるとウィマくらいだが、彼女は前提として殺人鬼である。
こんな光景を見たら、一目散に襲いかかるに決まっていた。
偵察が台無しになることが約束されているので、単独でやって来たのだった。
(西は中央に取られた。あとはボスがどう動くかだな……)
犯罪の巣は二大勢力が睨み合う構図になった。
俺達ホテル組とボスの支配する中央組だ。
ここに異世界人がちょっかいをかけている状況である。
元部下とも言えるホテル組のギャング達は、特に寝返る雰囲気はない。
緊急事態でも忠誠を優先できる奴は少ない。
何よりこちらには刺殺王と狂犬がいる。
他にも殺し屋だって何人も属しており、戦力的にどう転ぶか分からないので判断に迷っている面は大いにあった。
もし裏切るとしたら、ホテル組が露骨に不利になった時だろう。
まあ、それについては心配していない。
何があろうと敵対者は殺すだけだ。
その点についてはウィマとも見解が一致していることだろう。
ギャングのボスも同様だ。
何をするつもりか知らないが、俺達を害する気なら容赦はしない。




