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第62話 励まし

 殺し屋は、いびきを立てるウィマを一瞥する。

 ちょっとした寝言やいびきにも反応しているので、よほどビビっているのだろう。

 そのせいで休憩になっていない気がする。

 まあ、殺人鬼に対する心構えとしては上々だ。


 不憫な殺し屋は、顔を撫でながら深くため息を吐く。


「俺は死にたくない……元の世界に妻を待たせているんだ」


「新婚かい?」


「ああ、二週間前に式を挙げたばかりだ」


「それなのに殺し屋稼業を続けているのか」


「世話になったファミリーを抜けるのは難しい。あんたなら分かるだろ」


「知らんね。組織には縛られない主義なんだ」


 俺は特殊部隊に所属している。

 しかし、任務中も含めて最低限のルールしか課されておらず、特に煩わしく思ったことはなかった。

 厳密には細かな規約があるものの、俺は特例的に無視している。

 これで許されているのは、望ましい結果を提供できているからだろう。

 どんな業界でも超一級のエリートは優遇されるということだ。


 そんな話をしてやると、殺し屋は微妙な表情になった。

 あまり参考にならなかったらしい。


 彼は気を取り直して決意表明をする。


「決めたんだ。元の世界に帰還できたら、殺し屋から足を洗う。そしてどこか遠い国で人生をやり直す」


「おいおい、フラグを立てるなよ。早死にしても知らないからな?」


 俺は煙草をくわえながら笑う。


 こういうセリフを吐く奴は、大抵どこかで死んでしまう。

 もしくは写真入りのペンダントが弾を阻んで救われるかの二択だ。

 隣の殺し屋がどういった運命を辿るかは知らないが、今のところは前者の可能性が高いのではないか。

 あとでベッキーと賭けをしてもいいかもしれない。


 不謹慎なことを考えていると、殺し屋が疑問を口にする。


「あんたは死ぬのが怖くないのか?」


「ああ、別に。どちらかと言うとあっち側だからな」


 俺は気持ちよさそうに眠るウィマを指差した。


 途端に殺し屋は緊張を滲ませる。

 彼はこちらの顔色を窺いながら言った。


「刺殺王だったな。噂だけは聞いたことがある。ナイフと手榴弾で殺しまくるサイコキラーとか……」


「おいおい、俺はただの傭兵だ。殺しは躊躇しないが、プライベートでやるほどじゃない」


 精々が殺人鬼予備軍といったところだろう。

 連中に匹敵する戦闘能力はあるが、必要以上に命を奪いたいわけじゃない。

 ただ趣味と実益と職業適性を加味した結果、今の仕事に就いているだけだった。


「安心しな。ウィマが暴走したら俺が殺してやる」


「……頼む」


「あまり情けない顔をするなよ。ヒットマンの名が泣くぜ」


 俺は殺し屋の背中を叩いてやる。

 彼は憔悴気味の顔で無理に笑った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 優しいのか仲間を仲間と思わないけクズなのかわからん
[良い点] 表題と本文の絶妙なマッチ。 ……励まされたヒットマンは禿げ増されている様な気がします。w [一言] 続きも楽しみにしています!
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