第49話 依頼
仮眠後、俺とベッキーはアパート一階にある部屋へと向かう。
そこでは現在、尋問室として使われていた。
基本的に立ち入り禁止だが、俺を止められる者はいない。
ノックせずに入ると、そこにはウェンと数人のギャングがいた。
奥では拘束されたエルフが横たわっている。
虚ろな表情だった彼女は、俺を目にした途端にビビりまくっていた。
親愛を込めた挨拶が効いたらしい。
大人しくなってくれたようで何よりである。
俺はエルフの反応に満足しつつ、ウェンに話しかける。
「どうだ。進展はあったのかい?」
「多少だがな」
そう言ってウェンは、数枚の資料を俺に見せてくれた。
彼は一つひとつを指差しながら説明する。
「翻訳作業の成果だ。いくつかの単語のすり合わせができた。発音練習をすれば伝わりそうだ」
「マジかよ。さすがだな」
「しかし日常会話のレベルとは程遠い。情報を吐き出させるには時間がかかるだろう」
いくつかのやり方を併用し、エルフへの質問や反応で解析を進めているらしい。
主に視覚的な判別ができる単語から集中的に翻訳しているそうだ。
いずれは発展させて会話が可能なレベルにしたいという。
文法的な部分はまだ手探りらしいが、これだけでも十分すぎる成果だろう。
(思ったより優秀だな。まだ拘束して一日も経っていないんだが……)
俺は素直に感心する。
もっと難航するものかと思っていたが、ウェンは熱心に取り込んで結果を出している。
ブラックマーケットの運営をしつつ実験しているのだから、かなり多忙なはずだ。
そんな姿を見せずに彼は頑張っている。
ウェンの眼差しは本気だった。
なにがなんでも生き残ってみせるという目である。
彼は異世界人との意思疎通が活路になると確信していた。
だから部下に任せず、自分も一緒になって翻訳作業に参加している。
俺は資料に記載された分の異世界言語を記憶してウェンに返した。
ウェンはそれから何度か躊躇を見せた後、言いづらそうに話を切り出す。
「頼みがある」
「内容によるな」
「検討はしてくれるのか」
「あんたはブラックマーケットのトップだぜ? 恩は売っておくに限るだろうが」
犯罪の巣において、このアパートのエリアは貴重な安全地帯だ。
ギャングの中でも俺は英雄視されている。
元々は敵対関係だったが、現在では畏敬の念を込めて接してくる始末だった。
俺の味方でいることが何よりも重要なのだと気付いたのだろう。
おかげでここは居心地が良い。
当然、ブラックマーケットを取り仕切るウェンとも仲良くしたいと思っていた。




