第29話 ブラックマーケット
俺とベッキーはブラックマーケットを目指して移動を続ける。
慎重に動いているのでペースは遅いものの、そこまで離れているわけではない。
間もなく到着するだろう。
増築まみれのアパートから脇へずれていくと、金網の乱立する道に入った。
ゴブリンの死体が何匹か引っかかって死んでいる。
銃創の他にも刺し傷や撲殺の痕跡がある。
おそらくはギャングどもが始末したのだろう。
この辺りにもゴブリンはやってきたようだ。
金網の間を進みながら、俺はベッキーに注意する。
「そろそろブラックマーケットだ。銃口は下ろしておけ。合図するまで上げるなよ」
「どうして?」
「敵と見なされて撃たれるからだ」
誰もが神経質になっている。
生存者はあらゆる不安と脅威に晒された状態だ。
かなりナーバスになっており、少しでも敵対的な行動は避けるべきだろう。
俺達は武器を補充したいだけなのだ。
余計な戦闘で弾を使っては本末転倒と言える。
金網地帯を抜けると、アパートのそばに建つ倉庫が見えた。
進路にコンクリートの塀が立ちふさがり、トタンと鉄板の門は固く閉ざされている。
壁の先からは無数の人間の声が聞こえてくる。
「たくさんの人がいるみたい」
「ひとまず秩序は保たれているらしい。誰かが取り仕切っているようだ」
話しながら近付いていく。
木製の高台から、銃を持ったギャングが俺達を注意していた。
銃口はこちらを向いている。
俺は両手を上げて敵意がないことを示した。
「おい、撃つなよ。俺達は敵じゃない」
「……何者だ」
「仲良しカップルさ」
俺はベッキーの肩を抱いてはにかむ。
彼女も同じようにスマイルを見せた。
見張りのギャングはため息を吐いて脱力すると、ゆっくりと銃を下ろす。
ひとまず攻撃する必要はないと判断されたらしい。
俺は続けてギャングに事情を伝える。
「モンスターに追われてブラックマーケットに来たんだ。入れてくれるかい?」
「その場で待機していろ。手荷物検査をする」
「了解」
すぐに門が開いて、数人のギャングが登場した。
彼らは俺達の装備を順に調べ始める。
「意外としっかりしているのね」
「厳しいルールで秩序を保っているんだろうな。よくやっているぜ」
俺はギャング達を見ながら呟く。
彼らからは精神的に若干の疲労が見られた。
ただ、それでも発狂しないだけの余裕があるようだった。
ブラックマーケット内は上手く統率できているらしい。




