第24話 窓からの景色
俺はすぐさま隊員に駆け寄ると、身体を反転させた。
ガスマスクが大きく陥没して、隙間から絶え間なく血を流している。
(これは致命傷だな)
詳しく調べるまでもない。
何か強烈な打撃を受けて陥没したのだろう。
金属バットで殴ってもこうはならないが、一体何者がやったのか。
割れたレンズの奥に、潰れた目が見えた。
俺は瀕死の隊員を揺り動かして声をかける。
「どうした。何があった?」
「お、大型のゴブリンが現れて……三階に、攻撃を……」
隊員は息も絶え絶えに答えると、そのまま力を抜いて死んだ。
それ以降は何の反応も示さない。
苦悶のままに命を落としたのだった。
俺は隊員を置いて立ち上がる。
三階からは銃声と何かの咆哮が聞こえた。
(大型のゴブリン……ホブゴブリンのことか?)
俺は隊員の言葉を反芻する。
ファンタジー知識で考えると、そう解釈するのが自然ではないか。
ゴブリンの大型であると分かったのだから、サイズ以外は似通っているのだろう。
すなわち変異種や強化種であると予測できる。
流れから考えるに、ゴブリンの巣には推定ホブゴブリンがいたのだろう。
そして、俺の誘導に合わせて現れたものの、隊員達の待つ三階で止まってしまった。
さらにそこからバリケードを破られて戦闘に発展したに違いない。
(面倒だな。誘導作戦は失敗していたのか)
俺は腰に手を当ててため息を吐く。
即席にしては上々かと思ったが、認識できないところで致命的なミスが発生していたらしい。
ゴブリンに上位種がいたとは予想できなかった。
そいつが三階で止まることもイレギュラーだ。
言い訳できることでもないが、仕方のない部分とも言える。
この状況は誰だって完璧に行動できるわけではない。
現実逃避をしている場合ではなく、結果を受けて行動しなければならなかった。
俺は気持ちを切り替えると、青い顔のベッキーの肩に手を置いて指示する。
「ちょっと様子を見てくる。ここで待っててくれ」
「すぐ戻ってきてね」
「もちろんさ」
気軽に応じた俺は、するすると壁を登って三階へ到達する。
割れた窓から室内を窺うと、ちょうど廊下に当たる位置だった。
フロアの奥まで確かめることができる。
そこでは、天井を擦るほどの巨躯を持つゴブリンが、特殊部隊を相手に筋肉無双を展開していた。




