第23話 落ちる二人
「マジかよ」
俺は思わず苦笑いする。
ベッキーに抱き付かれたまま、大地を目指して一直線に落下を始めた。
四階を通過する瞬間、懸命に腕を伸ばす。
指先がなんとか鉄格子を掴んだので、即座に身体全体を引き寄せた。
二人分の重みが片腕にかかって筋肉が悲鳴を上げる。
それでも決して手を離さず、それ以上の落下を免れた。
「ふう、危ねぇな」
俺は鉄格子にぶら下がりながら呟く。
ぶら下がった状態から両脚を振って勢いを付けて跳んだ。
そこから三階にあったベランダに着地する。
ところが落下点が脆くなっていたのか、衝撃で床が抜けてしまった。
俺達はさらに落下する。
「うおっ」
そうして落ちた先は、高く積み上げられたゴミ捨て場だった。
パンパンに詰まった袋を吹き飛ばしながら、俺達は転がっていく。
結構な勢いだったが怪我はない。
ゴミがクッションになって無事に生還することができた。
気の狂いそうな悪臭がなければ完璧だった。
「ったく、やってられねぇな」
俺は立ち上がる。
ベッキーは鼻をつまみながら微笑していた。
「でも無傷で済んだでしょ。私がラッキーだからよ」
「よく言うぜ。ここにゴミが無けりゃ、君を下敷きにして助かるつもりだったんだからな」
「でもそれを実行しなかった。あなたが良い人ってことよ」
「……ハッ、自分のナイスバディに感謝しときな」
俺は鼻を鳴らしながら周囲を見やる。
ここはアパートの外のだが死ぬ感じはない。
足元はアスファルトで、少し先に異世界の草原があった。
ギャング達はあそこまで到達した者から急死した。
やはり敷地内にいる限りは問題ないらしい。
(とにかく三階に戻らないとな)
きっと隊員達が待っている。
見える範囲にはいないが、付近をゴブリン達が徘徊しているかもしれない。
草原と地続きなので、他にも異世界のモンスターが紛れ込んでいることだって考えられる。
さっさと味方と合流するべきだろう。
ゴブリンの占拠する一階を突破するのは大変なので、壁伝いにパルクールで戻るのが最短ルートだ。
ベッキーもいるが、別にいけないことはない。
身勝手な真似をされてピンチになったものの、俺は彼女を同行させる気だった。
こうして一緒に来てしまったのだ。
何かの縁だと思っている。
彼女にはガッツもある。
生き残ろうとする意志が好印象だった。
まあ、いくつか理由を挙げたが、一番大切なのは美女であることだと断言できる。
同じ状況でも野郎なら助けなかったのは間違いない。
落下したらクッションにするし、それでも生きていたら鉛玉をぶち込む。
基本的に差別はしない主義であるものの、こればかりは仕方のない話だろう。
ベッドシーツをドレスのように結ぶベッキーを見ていると、上から銃声が聞こえてきた。
位置からして三階だ。
さらに窓ガラスが割れて、隊員の一人が飛び出してきた。
悲鳴を上げるそいつは、アスファルトの地面に激突する。
何度か転がってからうつ伏せに倒れる。
そこに血が広がり始めた。




