第19話 招かれざる客
バリケード前に立つ俺は武装を確認する。
拳銃、ナイフ、手榴弾、短機関銃といった特殊部隊の標準装備は揃っている。
それらに加えて軍用ライフルを持っていた。
正確にはコピー品で、このフロアにあったギャングの私物である。
予備弾も含めて百二十発。
品質はそれほど悪くない。
各所が丁寧に改造されており、使い勝手が良いように工夫が凝らされていた。
持ち主はかなりのガンマニアだったのだろう。
さらにギャングの死体から貰った散弾銃を背中に吊るしていた。
二連式の銃身が切り詰めてあるタイプだ。
射程を犠牲に至近距離での威力に特化してある。
適切な間合いで使えば、どんな相手だろうと引き裂ける優れモノだった。
咄嗟の撃ち合いで便利だろう。
他にも自作の発煙筒を何本か持っていた。
フロア内の物資で拵えたものだ。
材料の関係で催涙効果もあるため、使うタイミングには気を付けなくてはならない。
「それじゃ、行ってくる。俺以外の奴はフロアに入れるなよ」
部下達に念押しをして、俺は一時的に外されたバリケードの向こうへと踏み出す。
バリケードはすぐに元通りに戻された。
それから俺は、ギャングのいる上階ではなく下階へと向かう。
軍用ライフルを携えて一段ずつ下っていく。
俺の作戦は単純明快だった。
アパート内のギャングとゴブリンをどちらも倒したい。
しかし、真っ向から殲滅するには骨が折れる。
だから奴らを潰し合わせることにした。
別に難しいことではない。
今からゴブリン達のもとへ向かって、連中を挑発してギャングの階層まで逃げるだけだ。
怒り狂ったゴブリンはきっと追いかけてくる。
そのまま両者を激突させて、殺し合いを再燃させる。
俺はどさくさに紛れて脱出するという寸法だ。
(きっと驚くだろうな……)
ガスマスクの内側で笑みを洩らす。
決して気を抜いているわけではない。
極限状態こそ楽しまねば損だ。
シリアスな思考の奴から狂っていく。
何事もエンジョイできる図太さこそが生存の秘訣だった。
俺はすぐに二階に到着する。
荒れ果てたフロア内には、ギャングとゴブリンの死体が散乱していた。
誰の気配もない。
ここは放置された階のようだ。
耳を澄ますと、一階から無数の物音がした。
ゴブリンらしき声も聞こえる。
俺が顔を出せば、大騒ぎで攻撃を仕掛けてくるだろう。
(さて、どうなることやら)
俺は軽い足取りで階段を下る。
数秒後、踊り場にいた見張り役らしきゴブリンに向けて発砲した。
軍用ライフルの銃撃を受けたそいつは、悲鳴を上げて階段を転げ落ちていく。
俺は数段飛ばしで踊り場に着地して、問題の一階を覗き込む。
そこでは数十匹のゴブリンが待っていた。




