第18話 騒音トラブル
ギャングの煙草で一服していると、隊員が報告にやってきた。
なんでも上階が騒がしいらしい。
仲間が戻ってこないと気付き、ギャングどもが不審がっているのだろう。
「どうしますか……?」
隊員が指示を求めてきたので俺は考える。
このままだとギャングどもが押し寄せてくるかもしれない。
そうなれば乱戦は必至。
こちらの被害も避けられない。
隊員はその展開を危惧しているのだろう。
もちろん下階のゴブリンも無視できない。
規模は不明だが、少なくとも俺達よりは数が多い。
一匹の強さはそれほどでもないものの、この狭いアパート内で何十匹も雪崩れ込んでくれば相当な脅威だ。
銃撃で止められない勢いで襲撃されたら終わりである。
上も下も厄介者揃いだった。
さらには東西南北と中央の他エリアにもトラブルの種が残っている。
どこもかしこも犯罪者だらけだ。
そんな連中が異世界でドンパチやっている。
隣人トラブルも甚だしい。
大家にクレームを飛ばしたいところだが、残念ながらここの持ち主はギャングのボスである。
返答は鉛玉になるのだろう。
(異世界転移は、もっと夢があるもんだと思ってたんだがな……)
俺の知る作品では、主人公が強大なパワーを獲得して、美人を侍らせて大活躍していた。
周りに肯定されながら楽に生きていけるはずなのだ。
ところが現実は甘くない。
俺は特殊能力に目覚めなかったし、異世界の登場人物は今のところゴブリンのみである。
拠点に押しかけてくるのはむさ苦しいギャングどもで、広大な異世界を観光することもできない。
アパートの敷地外に出た時点で俺達は即死する。
(まったく、最高の環境だな)
今後に関する計画を脳内で練る。
それがまとまったところで、俺は短くなった煙草を血溜まりに捨てた。
ガスマスクを着けて立ち上がる。
「……仕方ねぇな。俺がやるか」
この状況は動くべきだ。
事態は悪化する一方なので、どうにか食い止めるしかない。
元の世界に帰るのなら、多少のリスクは承知で行動しなければならなかった。
ギャングもゴブリンも目障りなのだ。
俺の邪魔をするならここで殺す。
シンプルかつ絶対的な方針だろう。
「フロア内の防衛は任せた。連中は俺が始末する」
俺は部下に告げて行動の準備を始める。
作戦は既に考えてあった。
どんな状況でも知恵と勇気さえあれば突破できる。
アクションヒーローになる時がやってきたのだ。




